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第58話「待ち伏せおじさま」

 軽く食事を終えた私たちは、早速話し合いをしていた。内容は勿論盗賊たちの扱いについてだ。一番近い、暫定的目的地であった町までは少し距離があり、しかも森の中なので盗賊たちを歩かせるのはやめた方がいい。下手したら魔物にやられて報酬が減るし、いい気分でもない。

 馬車に乗れる人数は限られていて、それにあまり清潔とも言えない者を載せるのはあまり気が進まない。もういっそ置いていこうかと思ったが、危険を冒したのに見返りがないのは嫌だ。お金はいくらあっても困らないし。

 そうして話し合った結果、誰かがライライの蟻の馬に乗って知らせに行きギルドで馬車を借りる……という案に決定したのだが、いくら遠目に見て馬だとか虫は平気な方だとか言っていても馬を形取る程の数え切れないような数の蟻の集合体には、あまり乗りたがらない。私だって乗りたくないし、結局はライライが知らせに行くことになった。

 私たちはライライを見送って、それから縛り上げた盗賊団の見張りを順番につとめながら、就寝。やっと話し合いが終わったのも真夜中で、見張りもあるのであまり眠れないだろうが、少しでも寝ておくべきだ。私は見張りを終えると目を瞑り、深い眠りについた。




 翌朝、目を擦り起き上がる。設備があまり整っていないので水魔法で顔を洗い、一応全員分の桶と水を用意してからトーマを起こしに行った。

 髪の毛を整えてもらって、それからはひたすらライライの帰還を待った。するとそのうちに多数の気配とともにライライが現れる。森の中の道は狭いので縦一列に並んでいるようだが、ライライの後に続く馬車は二、三台ほどだろうか。

 馬車は小さな格子の嵌められた窓の他には装飾も何もなく、犯罪者や家畜用魔物などを運送するためのものだと推測できた。これなら安心。

 御者として付いてきたギルド職員二人は私たちを見るなり怪訝そうにしていたが、盗賊の人相書きと実物とを比べて確認し終えると、少し視線が柔らかくなった。子供だけにしか見えないし、まだ有名なクランという訳でもないので当たり前かあ。水中遊路(めいきゅう)攻略の件で多少は……と思ったのだが。

 私は少し腑に落ちないような気持ちになりながら、何も忘れていないことを確認する。この集落にあった食料などは既に回収済みでほかにすることもないので、ギルドの馬車に便乗して町に向かうことになっていた。

 異空間収納から馬車を取り出したときには職員も目を剥いていたが、これ、努力次第だからどうとでもなるからね。慣れた反応に苦笑しつつ、馬車に乗り込んだ。




「盗賊団の捕縛、素晴らしい功績ではないか」

 町に着いた私とアンネは、なんとその地周辺の冒険者ギルド支部を統轄するギルド支部長に呼びつけられ、応接室で話を伺っていた。

 なんとも珍しいことにそのギルド支部長の種族は人族だ。知識より実力が重視される冒険者稼業、それを治めるギルド支部長という立場の者は総じて戦闘能力が高いという。それは竜人族や獣人族、エルフなどの魔族にとっては成り上がり易いものなのだが、まさか人間がこの地位に就くとは。

 それだけ強い者なのかと尊敬の眼差しを向けていると、彼はにっこりと柔和な笑みを張り付けたまま話を続けた。

 彼の名はアーム。話によれば魔法等の才能は無いに等しいそうだが、しかしその逆境を諸共せずに純粋な努力により手に入れた筋力をもってして、巨大な竜種(ドラゴン)ですら殴り殺すという。年齢的にはおじいさんなのに見た目はまだまだ若いという時点で恐ろしいが、強さを追い求める私の目には、彼はとても素晴らしい人物のように映るのだ。

 アーム支部長の武勇伝を聞き終えた私は、ようやく「……で、どのような方法で捕らえたのですかな」という調子で問いを投げ掛けた彼に、苦笑しながら言葉を返した。

「では、実際に使用した魔法を交えて説明いたしましょう」

 硬い口調を崩さない私に再三タメ口を求めようとするアーム支部長を無視して、説明を始めた。


 説明後、アーム支部長は戸惑いを隠せないながらも私の話を信じてくれたようで、私とアンネを褒めちぎっていた。出回っていない秘伝ともいえる氷魔法は、やはり実演しなければ信じてもらえなかっただろうと思っていたが、その通りであったようだ。

 特にアンネは魔法でなく自身の剣舞で応戦したというので、その話を聞いたアーム支部長は嬉しそうに何度も頭を撫でていた。

 魔法国家であるルーンでは魔法の才を持つものは多く生まれるがそれゆえに剣術等は細々と続くのみ。武勲を挙げて爵位を手にしたエルヘイムの娘というだけで気に入られた私はもちろん、アンネはものすごく甘やかされていた。

 戸惑うアンネだが好意を無下にすることはできないようで、恥ずかしそうにしながらも差し出されるままに茶菓子を受け取り頭を撫でられていた。まるで孫を甘やかすおじいちゃんのようだ、と私は微笑ましく思った。

 話を終え、そして応接室からでたアンネはぐったりしていたが、彼女は異空間収納に入るぎりぎりまでお菓子を与えられていて、少し嬉しそうな様子だ。平民出の彼女はお高い茶菓子にはあまり縁がなかったようだが、そのぶんこの贈り物が嬉しいのだろう。

 たくさんもてなされてほだされてしまった私とアンネは、まだ本調子と言えない仲間たちの元へ向かう。ギルドに隣接された酒場で待ってもらっていたのだが、扉を開けるとそこにはなんだか微妙な空気が流れていた。

 どうやら、ギルドに見ない顔が現れたと思いきや支部長室へ連れて行かれたので一体何があったのだろうかと気になっている現地の冒険者たちがトーマ達に注目し、しかしどう見ても貴族様であるベルがいたことでそわそわしても近寄れないという状況にあったらしい。

 私を見たベルは飼い主を見つけた犬かなにかのようで、嬉しそうに自ら出迎えてくれた。最初の頃と比べて相当やわらかくなり素直になった彼女だが、やはり服装だけでなく所作からも貴族とわかる。扱いにくいのかな。

 注目される中、現れたのが幼い少女だったことからか、酒場の空気は少し軽くなっていた。ベルの反応を見てそれが伝染したのかな、なんてことも考えられる。ともかく、空気が変わってよかった。

 私は用意されていた席に着くと、何点かの料理を注文した。茶菓子のおかげでお腹はかなり満たされているが、この地のご飯、食べてみたいでしょう。何が出るか、ワクワクしながらオススメ料理と日替わりメニューを選んだ。

 程なくして現れたのは果実と共に煮付けられたお魚だった。恐らく川魚だろう。近くに川でもあるのかなぁと考えつつ口に運べば、想像していたものを超える味。

「んまっ……」

 目を見開いて言った私に、店員さんが少し嬉しそうな表情を見せた。私の想像していたのは、一般的な酒場での川魚……少し泥臭くてでもくせになる味だった。ここの川魚は……泥臭さがない。

 目を見開いていると店員さんがこれまた嬉しそうににこにこ笑って口を開いた。

「お気付きになりましたか」

「はい!川魚特有の泥臭さがないです」

「でしょう!店長の指示でひと手間かけているんですよ」

「へぇ〜」

 私は感心しながらも二口三口と口に放り込む。

 しばらく経てば料理は出揃いそれらを食べ終えた私たちは、酒場にいる冒険者と酒を情報と交換してもらう。一杯やるから話そうぜ、みたいな感じだったが、金持ちそうな雰囲気を感じ取った冒険者たちはこぞって高い酒を注文し、私はそれを楽しそうに眺めていた。

 情報収集後、私はこの町には面白そうな依頼は無く長居は無用だと判断した。あまり高ランクのクランが依頼を受けまくって解決しまくると他のクランが困るのだ。私たちは一応明日に再び依頼の掲示を確認してから出発することとなった。

 しかし翌日、私たちを待っていたように宿屋の看板の下で待っている人物がいた。この町の力の象徴、アーム支部長だった。




 あくまでもやわらかい表情を崩さないアーム支部長は、貴族の茶会などの集まりに交ざっても違和感がないくらいに心情が読み取れない。そもそも支部長自ら一介の冒険者を待って一人宿屋に赴くというのが珍しく、嫌でも警戒してしまった。

「君たちは現在のランクには不相応だとは思わないか」

 にっこり笑みを固定して問いかけるアーム支部長は、何やら確信を持っている様子。

 クランのランクと個人のランクが離れていることが気になったのか、もしくは今回の盗賊団の件で行った説明から、そうだと判断したのか。

 どちらにせよ彼は譲る気は無さそうで、どうしてもYESを聞きたいようだった。仕方ない……私は彼を真似て顔に笑みを貼り付けて「ええ、不相応だと思います」と返した。特にトーマ辺りは個人でAランク冒険者に勝利していたのだから、間違ってはいない。

 だけど……もう宿は引き払ったし今日中に全員の査定が終わるものか。それだけは気になったので問いかけた。すると

「そのときは無駄に大きい俺の家に泊まってくだされ」

 と気前のいい返事が返ってきて、ああもうこれは昇格試験を受けるしかないな、と諦めたのだった。ランクが上がることはいい事づくめで、悪いことは羨望と嫉妬から何かしら注目を浴びてしまうというものがあるが、仕方ない。

 順番は感覚的にクラン内では自身が弱いと考えている者から、順番に広い草原で行う。つまりアーム支部長は最後にトーマか私と戦うというわけだ。私自身トーマに勝てるかはわからないけれど、他のメンバーには勝つ自信があった。

 時間が惜しいのだが、まだ早朝故に騒音のクレームがつくかもしれないので、私たちはとりあえず草原を整備して双方が戦いやすいフィールドを作ることにした。

 少し休めば体力も戻るし、アーム支部長も手伝ってくれたから整備作業は負けた言い訳にはならない。私はトーマと顔を見合わせると、似たような邪悪な笑みを浮かべて飛び級している未来を思い浮かべるのだった。

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