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第57話「舞姫の見た救い」

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 私はいやらしい笑みを浮かべる集落の大人たち……もとい盗賊たちを睨み付けて、魔力を高める。一対多数の状況で、しかも守るべき存在がいるなんて不利極まりないが、やるしかない。ベルが意識を失っていては殆ど意味が無い、補助用の剣舞に力を入れていたことに少しの後悔を残しつつ、私は剣を握る手に力を込めた。

 私の剣は実戦での強さよりも剣舞の効果を高めることが要求されて造られた舞用の宝飾剣。どうかこれでも撃退できますように、と神フレイズに祈った。

 一閃、振るう宝剣は一番近付いていた悪人顔に命中した。ひ弱で剣を扱わないように見え、また手に持つ剣が飾り物のようだったので油断していたのだろう、筋力任せの一撃は鼻の折れる感覚を伝えてくる。

 喜んだのも束の間、戦意ありとみた盗賊たちは一斉に押し寄せる。私は瞬時に自身へと補助魔法の類を重ねがけすると、覚悟を決めて宝剣を抜いた。

 それからは、技より力の戦法だった。剣技は習得はしているが殆どは剣舞、残りはクオリティの低い戦闘全般。剣舞は攻撃のものでもあるが、私は師匠との一対一の舞い方しかわからない。そのため自身で底上げした筋力、五感、磨いてきた戦闘勘をもって敵と対峙した。

 力任せにナイフの刃を弾き、突き刺し、刃を引っこ抜いてまた振るう。剣のリーチが長いぶん攻撃範囲も広まり、ベルに寄る敵は最優先で斬った。

 しかし数が多く、いくら底上げされた化物級の能力であっても手数が足りない。仕方なく鞘を空いた手に持ち鈍器として振り回せば、なかなかさまになっている気がした。

 ここまで騒いでいるのに助けは来ない。そこから推測されるのはやはり私以外は眠り薬か何かの効能で全員が眠っているのだろう。私は昼に振る舞われたご飯を一口食べて、口に合わなかったからと保存食を食べていた。だから私だけ……それなら私が戦うしかない。

 だが広い集会場内には数多くの盗賊。派手な戦闘音に皆が集まったに違いない。そしてその中には仲間は居らず、絶望的状況。

「う、あ、ああああぁっ」

 私は魔力を使い切る勢いでその身に補助魔法をかけた。補助魔法の効果を引き上げる固有技能のおかげで、その効果は通常のものよりも高く、体に負荷をかける。過度に重ねがけした代償に骨が軋み筋肉は悲鳴を上げる。

 馬鹿力で剣を振るう。剣舞を舞う。鞘も舞に織り込んで、即席の舞。鞘と剣とで双剣に見立てた双剣舞擬きを躍った。身体中を奔る痛みとは裏腹に、心は心地良い感覚に包まれていた。

 そして、その舞は長くはもたなかった。


 唐突に身体から力が抜け、全能感が途絶える。あまりに突然だった脱力に抗えずに剣と鞘を取り落としてしまった。それは致命的な隙を生み、私の無防備な体は男の棍棒の一撃を受けて吹き飛んだ。

 思いきり壁にぶつかり息が詰まる。霞む視界にはベルが映り、彼女の死んだように動かないさまに私の心は揺さぶられた。救わなくては、私は彼女を守るために来たのだから。でも、私の手には武器は無く、剣舞も剣技も使えない。ちらりと確認すれば、MPがすっからかんだった。補助魔法の重ねがけと剣舞の組み合わせは、燃費が悪いらしい。

 もっと考えて使えばよかった。焦って重ねることもなかっただろうに、冷静さを欠いてしまったせいで希望は潰えた。魔力回復薬は異空間収納にあるが、それを取り出すには集中力が足りない。

 力無く項垂れると、集会場内は再び喧騒に包まれた。歓喜か?怒号か?諦めの思考の中、手放そうとした意識を少しだけ集会場の入口に向けた。ぼやけて見えないけれど、光の中に救いが見えた気がした。




 アンネの動きが止まったのを確認し、私は集会場に飛び込んだ。見れば壁に背をつけて意識を失ったアンネと、その前に横たわるベル、そしてそれらを取り囲む男達が目に入る。半数程は血を流し倒れているようだが、それはつまりまだ集落の半分の人数は残っているということ。私は感情と共に昂る魔力を押さえつけ、氷魔法を行使した。

「ごめん!」

 倒れた仲間に謝りながら、床全てを凍りつかせる。ベルなどは頬が多少凍ってしまうだろうが、この戦法が確実なので使わせてもらうことにした。そして案の定、突然凍った床に驚きながらも大人達は動き出す。滑って思いの外動きにくそうにしているが、なかなか素早い。盗賊なんかに堕ちずに冒険者として働けばいいと思うくらいには素早い動作だった。

 だが思った通り魔法職はいないようで、そのうえ屋内なので遠距離攻撃の手段はない。わざわざ屋内に弓矢を持ち込む者はいないのだ。私はまずこちらに注意が向いているうちにとアンネとベルを防壁で包み込み、それから氷棘の檻に閉じ込めた。まだまだ意識は回復しないだろうから休んでもらおう。

 とりあえず毒にやられたベルはどうにも出来ないので、アンネに天使の声で声援を贈る。どうやらまだ意識があったようで、彼女はぴくりと反応した。余計なことをしたかなぁと思ったのも束の間、考える隙を与えないくらいに大量の盗賊たちが迫ってきた。

 魔法と女神の短剣とを併用して彼らの攻撃を掻い潜りつつ、反撃も織り交ぜる。練度はそこまで高くないが連携の取れた動きが厄介だ。一人一人捌くのは簡単だが、一人の隙を一人が埋めることを繰り返す彼らはどれほど長い間盗賊として共に暮らしたのか。慣れた手口から、犠牲者は大勢居ると予想はできた。

 しかし流石は魔法だ。攻撃範囲も射程も長いので、存外に簡単に倒せている。所詮は迷宮の魔物よりも弱い存在である、手こずることもないだろう。

 大振りな攻撃は素の身体能力でかわし、それ以外は防壁で威力を殺し短剣で武器を弾く。女性はそれだけで武器を取り落とす者もいるが、揃いも揃って諦めの悪い大人のようで、素手でも殴りかかってくる。

 年端もいかない少女がナイフを手に突進するが、容赦なく魔法を撃ち込み武器、そして腕を多少切り刻んだ。風魔法の威力は確かだが、私はそれを見て顔を顰めた。

 ()()()から引き継いだ戦闘勘は確かだが、幼い少女を傷付けるのは気が引けた。魔物なら子供でも殺す自信はあるが、先程まで外で無邪気に遊ぶ姿を見ていたぶん、残酷に思えた。

 戦っているうちにトーマが完全復活したのか入口が吹き飛んだ。剣鬼の参戦に、盗賊たちは瞬く間に倒されていった。




 無力化した盗賊全員を縛り上げた後に、私は仲間を守っていた檻と防壁を解いた。私はベルの赤くなった頬に回復魔法をかけ、それからアンネに魔力回復薬と回復薬を飲ませると、残りの仲間を求めて駆け出した。

 皆一箇所に集められていたために簡単に見つかったが、奴隷として売るつもりだったのか傷付けられてはいなかった。

 森を突っ切る時点である程度の強さは必要なのだが、それを鑑みても「子供ばかり」「妖精族」「ハイエルフ」「紅蓮の鬼人族」「いいところの嬢さん」という要素は大きかったのか、襲われてしまった。威嚇のために、そして仲間を守る自信があるということもあってハイエルフの姿のまま過ごしていたが、特に妖精族まで加わった今は……危険度よりも見返りの方が大きく思えるのだろう。

 小さくため息をついた私は、仲間の無事を確認し終えるとトーマの手を借りて全員を一箇所に集めた。その際に、戦闘で意識を失っていたアンネが一足早く目を覚まし、不思議そうに周りを見回した。

 そこには全員の無事な姿がある。耐性が強かったのかその次にはバウが起き上がり、私とトーマ、アンネ、そしてバウは顔を見合わせた。アンネが三つ編みを揺らし、口を開いた。

「……助けてくれて、ありがたかったわ」

 俯きがちに言う彼女は眉尻を下げながらも微笑みを浮かべ、ベルを見つめた。慈しむような視線は、いつもベルにだけ向けられる特別なものだ。

 ああ、この仲間たちを危険に晒してしまった。私は目を伏して、それからその手にイヤーカフスを取り出した。名称は『前種のカフス』。学院長(ハイエルフ)がくださった、ハイエルフならエルフの姿に戻ることの出来る魔道具だった。

 耳につけてみるが、違和感は感じない。しかし耳に触れようとするとそこにはエルフの長い耳ではなく、クオーターエルフの短く尖った耳がある。額に触れるとそこには一粒の宝石だけが残っていて、身体中に浮き上がっていた宝石や魔石は消えていた。

 魔力の抑えられる感覚は無く、わかる人にはハイエルフだとバレるだろうが……無いより全然良い。私は効果を確かめて安心して、顔を上げた。

 するとアンネと視線が交錯し、私は一瞬動きを止めた。私の顔に何かついているのかと思ったが、そういえば私の見た目は可愛いのだ。ナルシストなわけではないが、平均よりは、多分。私だってリリアやベル、アンネのような可愛い女の子は見てて飽きないので、同じ気持ちだろう。そう思うことにして微笑み返した。

 それにしても、どうしようか。全員生還はいい知らせだが、集落を作るほどの人数である盗賊団は、街まで運ぶにはいささか多すぎる。馬車は余裕を持って大きめのものを買ったから少しは載せれるだろうが、それにしたって盗賊を同じ空間に置くのは躊躇う。何より半数は置いていかなければならないことが決定しているので、あまり意味があるもと思えない。

 退屈そうにしながら携帯食料を貪るバウを横目に、私は深く息を吐いた。とりあえず、全員が起きるまでは待機だ。何をするにも全員の意見を聞いてから決めなきゃ、申し訳ないもんね。




 全員が揃うと、私はまずご飯を作り始めた。その頃にはもうすっかり夜も更け、目覚めた皆は安全確認の次に口を揃えて空腹を訴えていた。それならば応えるしかないじゃない?

 いつも通りにトーマに手伝ってもらいながら、今日は早く出来るものを作っていく。本当はチョシーを食べたい気分だけれど、昼から連続でこってり重めの揚げ物は憚られ、しかも昼のは毒薬入ということもあって却下された。

 お茶の淹れ方ではトーマに敵わない私は料理の方をメインに頑張る。トーマが一足先に下準備とお茶の提供を済ませると、私はその香りに首を傾げた。

 そういえば、私は何故、薬を盛られた料理を大量に食べたのに大丈夫なんだろうか。子供たちとの談笑休憩中にトーマがくれたお茶以外に原因は考えられなかった。

「あ、ねえライライ。このそのお茶鑑定してみて」

 咄嗟に言うと、トーマも同じ考えを持っていたのか「ライライ頼んだ」と同様に告げる。事情を知らないライライは渋々といった様子で仲間の淹れたお茶を鑑定した。

「えーと、魔鉱草のお茶。高級茶としてはメジャーなのです。レベルが低い鑑定なのでこれ以上は分からないのです」

 それは普通の結果だった。店頭で聞いた話と一致するし、魔鉱草は魔力を溜めるというくらいしか特色はない。これと解毒には何ら関係無いと言われれば納得だが……。

 私はあまり頼りきりは良くないと自覚しつつも、どうにも気になって仕方がないので、マジムを召喚した。彼はライライより鑑定の能力が高いので、きっと何かを発見できるだろうと思った。

「話は聞いてましたよ。鑑定ですね……」

 来るや否や鑑定し始めるマジム。すると彼は何度か頷いて、それから鑑定結果を口にした。

「すごいですね、これ。魔鉱草って鉱物に根を張る薬草ですけど、リリアの判定では鉱石となってるみたいです」

 それがどういうことか。

「つまり。妖精の加護の効果で、本来は感じられない程の強さである魔鉱草の薬効が高められてるってことです。あとは普通に加護で耐性上昇効果もありますね」

 その結果を聞いた私はちょっと混乱したけど、とりあえずリリアのおかげであるということはわかった。ライライはお茶を返してもらうとふぅふぅと息をかけてから慎重に口をつけた。みんなもまだ全快してはいないので、ありがたがって魔鉱草のお茶を飲み始めた。

 一杯で効果があれほど出るなんて、リリアがすごいのか、魔鉱草の秘めたる効能がすごかったのか。私はシンプルな野菜スープを作りながら、お茶をひと口含んだ。

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