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第52話「合流」

また更新予約忘れました

申し訳ございませんm(*_ _)m

 従魔にしたクリオネ擬きがナメクジになり消えた直後……なのだが、ライライは再びその魔物を喚び出すと観察し始めた。

「ふーむ、ここ固有の魔物なのですねぇ」

 大型犬ほどもある大きさのクリオネを抱きかかえて観察する彼は、魔物の鑑定をしてしきりに頷き呟く。クリオネはぱたぱたヒレ(?)を動かして楽しそうに鳴き声をあげた。きゅーい、きゅい。そんな感じの鳴き声で、少し可愛く思えてきた。

「パラサイトミミックという名前ですかぁ……ミミックかぁ」

 ライライは次々と情報を口にする。寄生型のミミックということだろうか、私は改めてその魔物に視線を注いだ。

 むっちりモチモチとした体、ヌメリはなくツルツルしていて、たまに身体の至る所から触手を生やす。スライムに近いが内臓がしっかりあり、透けて見えている。

 これがあの二枚貝の形をした宝箱に寄生して、油断した冒険者を襲う魔物。出会うのが宝箱の下でなくてよかったと心底思った。

 それから私は再度魔力を練るとヴァイセンたちの方に飛ばし、新たな情報としてパラサイトミミックの存在を伝えた。彼らの距離はなかなか遠くなっていて魔力操作が難しく、ちゃんと伝えられたかは不安だ。

 嬉しそうにミミックに抱きつき頬擦りしているライライを今一度見た後、私は手を数度叩いた。そろそろ進まねば、蜜に引き寄せられて魔物が集まるだろう。立ち止まっていてはマッピングも進まないし、夜空妖蝶も少し暇そうにしている。出発してからもライライはミミックの虜で、満面の笑みだった。……ミミックが守っているようなのでまだ良いのだが。

 そのまま警戒して進んでいると、私はトーマに腕を掴まれて足を止めた。何事かと思えば、彼は少し唸ってから口を開く。

「これ……この迷宮はきっと階層に分かれてない。さっきから急に気温と明度が下がったから……」

 その言葉に、私は周囲を見渡し、確かに暗くなっていると確認してから頷いた。魔物の襲撃はほぼ無に等しかったが、ここからはそうもいかないだろう。マジムの神気にあてられて近寄れもしないだけだったのか、これまでミミック以外は見ていないが、だからこそ気を引き締めなくてはならない。

 強ばる身体に気付いた私はそっと女神の天弓を抱き締めて自身を安心させる。

 新迷宮の初探索だから宝は見つかるかもしれないが、もとは危険だからと少数精鋭に任せられた任務だ。予期しないことが無数に起こり得るのだ、ライライだってヴァイセンの助けが無ければ……。でも、もう油断はしない。

 短く息を吐いて、私は改めて天使の声で全員を鼓舞する。薄暗くなった水中の通路は「深層」と言うべきだろうか。遂に魔力も感知できなくなったヴァイセンたちの無事を祈りつつ、私たちは足を進める。


「よっ、と」

 アンネが剣で一突きすると、サメのような魔物はビクリと跳ねて動きを止めた。踊るようにして攻撃するアンネは隙が多いが知能の低い魔物には難なく勝てる。今だってベルの前に立って護衛していた。

 迷宮深層に入り込んでから数分も経っていないが、もう会敵した。触手に比べれば少ない、たった二体のサメだったが、ある程度魔法をレジストする硬い肌は気が緩んでいたベルの炎を諸共せずに突っ込んだ。そこをアンネが刺し殺したというわけだ。

 こちらの側に来ていた一体はトーマに真っ二つにされ、すぐに戦闘は終了した。私の出る幕も無かった。

「魔物はチューブ内側からでも素通り出来るのね」

 私は眉をひそめ、魔物に嫉妬しながら呟いた。魔物にとってはこのチューブは優位なステージ、最初は魚型の魔物はチューブ内に引きずり込んで弱体化を狙えると踏んでいたが、なかなかうまくいかないようだ。

 出る幕のなかったリリアとバウ、ライライ、そして私はそれぞれ対策を考えて、それからまた迷宮探索を進める。そのうちに、私たちは二つ目の宝箱に相見えた。

 警戒していると、ライライが一歩前に出た。なんだなんだと注目すると、彼はパラサイトミミックに何やら小声で命令を下すとミミックを手放した。

 一行が見守る中パラサイトミミックはふよふよ空中を泳ぎながら宝箱に接近し、それからきゅっきゅと鳴いて二枚貝の隙間に触手を差し込んだ。勢い良く挿入された触手をつたい緑色の液体が溢れ、全員が察した。

 ミミックはひと仕事終えて嬉しそうにヒレを震わせると、宝箱に侵入して中でごそごそ動く。数秒後には緑の液体が消え、ライライが宝箱を開くとそこには敵対ミミックの死体も無く、彼の従魔ミミックのみが綺麗な状態で浮かんでいた。

 共喰いか……と遠い目をする私だがこの世界ではよくあることなのだろう、ライライを筆頭に誰も不思議そうな顔をしていなかった。それから宝箱の中身を確認すると、やはりミミックが寄生していたと言えども宝箱は宝箱、そこには現代のものでない金貨銀貨が詰まっていた。

 宝らしい宝の出現に一行は歓声を上げ、私はそれら硬貨を収納してから魔力を拡げた。クランメンバーも気付いているとは思うが、そこそこ暗くなっている。これはきっと、引き際なのだろう。

 その確証を得るためにチューブの先へと伸ばした魔力。何体かの魔物を横切り少し進んだ時に、それはあった。

「……ここまででいい、引き上げよう」

 私はその広間の存在を確認すると眉根を寄せて、皆に言った。その言葉にトーマは「確認したのか?」と訊き、それから察して頷いた。私が魔力を拡げたのを感知していた他のメンバーは、私の表情から何を想像したか、不安そうに頷く。

 唯一ミミックだけは、ふよふよと楽しそうに空中遊泳していた。




 その後少し寄り道をして新たに宝を見つけたりしながら帰った私たち。既に帰還していた冒険者たちと待機していた残留組は欠員のいない私たちのクランを見てほっと息をついたり、または尊敬の目を向けたり、反応は様々。

 とりあえず、全員怪我無しとはいかなかったけれど生還したことを喜ぼう。私が怪我の程度の重い順に魔法で治療する旨を告げると、大小様々な傷を負った負傷者が集まった。中にはクラン内に回復役がいるのに来た人も居たが、みんな疲れているだろうし私がちゃちゃっと終わらせよう。

 魔力を練り、範囲指定。細かい調整が面倒なので、既成の魔法陣を流用して怪我人全員をカバーできる大きさに魔法を構築した。それくらいの魔力は残っている。

 そのまま魔法陣が安定しているうちに術式を起動させると、光が溢れ、少しずつだが光を浴びた冒険者の怪我が治っていった。回復には本人の体力が必要だが、まだまだみんな元気なので微調整は必要無さそう。

「よし、たぶんこれでいいよね」

 私は腰に手を当ててエッヘン、胸を張った。水中呼吸の魔法より全然簡単だから、魔力を消費した怠さも気にならない。今日は良く眠れそうだなぁと思ってから、あることに気付く。

 既に空のてっぺんを通り過ぎた太陽と、くぅ、と小さく鳴いた腹の虫が今の時間を教えてくれた。


 ぐつぐつ。そのまま異空間収納に入れていた簡易料理セット、その前に立つのは私とトーマだった。執事教育中にある程度は料理を教わってきたというトーマは、いつも私の世話や手伝いをしてくれる。奴隷ではあるが友達の感覚なので、なんだかムズ痒いが。

 突然料理セットを取り出した……つまり異空間収納に持ち歩いていたのを理解した冒険者たちは、その贅沢な使い方に唸る。今回は特別に、そんな彼らのぶんも作る予定だ。

 水の入った大きな鍋を火にかけて、出発の朝に貰った沢山の野菜を切っていく。そろそろ使い切ろうと思っていたので丁度いい。特に多かったトマトをベースに具沢山スープを作ろう。

 トーマと分担して具材を切るうち、私は物足りないかとか旨みは足りているかと考え、それから調味料や旨味たっぷり燻製肉などを足していき、だんだんと具材のボリュームが増していく。

 街の外での冒険者の食事なんて、余程余裕が無い限りは干し肉・燻製肉に堅いパン、たまに乾燥野菜のスープだとか。近年は保存食品の質や種類も増え栄養問題は改善されつつあるそうだが、そもそも生の無加工食材を限りある異空間収納(手荷物)に含めるか?他の人々もクランごとに集まってご飯の用意をしているが、王都に近いため保存食品がそこそこ普及しているのか酷いものでは無い。でも生野菜、食べたくなるよね。

 完成を待つ贅沢なスープを前にして笑みを浮かべる私は、完全に魔女が鍋をかき混ぜている構図。身長が足りなくて台に乗っているのは少し格好つかないけれど。

 幾度か味見と調整を繰り返し、やっと完成したスープを口に含んだ私は、見せつけるつもりはなかったが頬が弛緩して表情が蕩ける。疲れていた身体に野菜の旨味が染み渡る……って感じ。

 そして私は魔の言葉を囁く。

「あーでも、作り過ぎちゃったなぁ」

 注目が集まっていた故に、冒険者たちの反応は早かった。実際はバウが無限の胃袋(仮)を持っているので食べきれないというわけでもないが、一応全員分、それに異空間収納には食材でなく調理済みのものも入っている。ここにいる全員にあげるとしても足りるだろう。

 私は視線を動かし一人の冒険者と目が合うと、今思いついたかのように「みんなに分ければいっか」とあざとく笑う。トマトスープの香りにやられた人々は即座にその提案に食い付いた。

 説明後、それぞれの皿を持参して並ぶ冒険者たち。私は身長が足りなくてちょっと面倒なので、配膳はリリア、アンネ、ベルの三人に頼んだ。スープ以外にも塩パンとかチョシーも近くに盛った。スープ以外はセルフサービス。三人は他に頼むより配分を考えてくれそうなので適役だろう。

 私は自分とクランメンバーの分を確保して早々に端に避難、大人しくご飯を食べることにした。

 具材豊富な「食べるスープ」に私は舌鼓を打つ。自分とトーマで作ったので自画自賛になるが、美味しい。とは言っても、味付けは整える程度にしかしてないので、きっと食材が良かったのだろうが。

 数人、スープを受け取ってからこちらに寄って礼をしていく冒険者もいて、気分が良くなる。みんなで食べると美味しいし楽しいしいい事づくめだ。


 昼食後、改めて全員集合した私たち冒険者、特にクランのリーダーは少しずつ最寄りの街に向けて歩みを進めながら相談していた。当初は報告と命名権の話だったが、既に次の話に移っていた。

「俺たちクラン・老竜の継承者は報告後にもう一度戻る予定だぜ」

 ヴァイセンは言い終えると私の方を向き、頭を下げる。彼には新迷宮探索の前に天使の声でのバフを依頼されている。本来の実力でも彼らなら平気だとは思うが、老竜の継承者は()()()()()()()()()探索二度目でのボス攻略を目指しているようで、そのための依頼だった。

「こっちも潜るよ」

 簡単に告げるとヴァイセンは頷き、それからちらほらと参加者が集まる。喧嘩していた二つのクランは今やごちゃ混ぜになって談笑していて、彼らは少し準備してから遅れて挑戦すると言っていた。

 ある程度決まった後は、それぞれの足で街を目指す。着いた頃には夜になりかけていたが、ヴァイセンと私のクランはギルド支部に直行し、夜空妖蝶の協力のもとで新迷宮の申告をした。ヴァイセンのクランはそこそこ名が知れているようで、ギルドの職員は疑いを抱く間も無く新迷宮の発生を祝い、それから迷宮名や魔物分布、攻略難度といった情報をまとめて後日の発表へ向けた準備をしていった。

 迷宮名は「水中遊路」と命名した。そのまんまだけどわかりやすいからいいよね。その後は再挑戦組は水中遊路に向かい、迷宮の目の前にテントを張って野営をした。

 翌朝、一番に起きた私はぐーっと伸びをして起き上がり、陽の光を全身に浴びて目を醒ます。魔力も満タン、気分は上々、筋肉痛も頭痛もない。さあ、一気に攻略するよ!

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