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第50話「アズマの新生迷宮」

少し短めです。

 拍手喝采の中、私は演出として自身の周囲に氷の結晶を浮かべながら、ほかの魔法を解いていく。氷結した地面が溶けてもなお、Bクランのメンバーは地面に膝を付いて微動だにしなかった。

 遅れて人混みを掻き分けてやって来たトーマたちは、ドヤ顔で立っている私とひれ伏すむさい男達を見て全てを察したのか、一瞬目を見開くだけのリアクションだった。幼女の配下と思われる奇抜なメンバーの登場に、冒険者たちは面食らっていた。

「セルカ様、氷は目立つから控えるって言ってたくせにもう使ったのかよ」

 トーマが呆れ半分に言うと、冒険者の視線が彼に移る。嫌でも目立つ赤い肌だが、いま発言をしたことでようやく冒険者たちはトーマに気付いたのだろう。

 視線の集中砲火が鬱陶しいのか彼は目を細めているが、私はそんなことお構い無しに彼に近付く。そして演技を辞めて、

「今回は目立つ目的で使ったんだよ?」

 と素の自分で言った。私の変わりように眼を剥く冒険者たち。その中にいるAランククラン見つけると、そのメンバーの顔を眺めていく。そして誰がリーダーなのか大体の予想をしてからそっと、その男の目の前に立った。

 大柄で、ギルド王都支部支部長グラードと同じ竜人で、この男の方が幾らかスリムで若々しい印象を受けるが雰囲気は似ている。まるで親戚のおじ……おにいさんのような、しかし纏う空気が他とは違う。

 あからさまに警戒している竜人の男は私へ真っ直ぐに視線を向けているが、私は彼の悪い期待を裏切るように笑顔になる。

「よろしくね」

 口にした後に敬語にすればよかったと後悔したが、男は吹っ切れたように笑い出し「演技派のお嬢さんだ」と手を叩く。そのタイミングで上空を舞っていた夜空妖蝶も戻ってきて、男がさらに口を開く。

「よろしく。俺はヴァイセンだ。クラン・老竜の継承者のリーダーをしている。……君のジョブは調教師かい?」

 私は彼の話した内容をしっかりと心にメモすると、それから応えた。

「私はセルカ。幼女守護団(ロリータガーディアン)のリーダーだよ。……あとこの蝶は私のじゃないし、調教師でもない」

 笑顔で答えると、ヴァイセンはふむ、と顎に手を当てた。私は説明するより先にライライを引っ張り出して彼を紹介した。そのまま流れで全員紹介した後に、私は種明かしをした。

「……で、私は魔弓士だよ。さっきの腕は使い魔のマジム」

 そう告げるとそれを合図にマジムが現れた。鋭い神気に気が付いたのか、ヴァイセンは引きつった笑みを浮かべて会釈した。神だとは思っていないだろうけど、それに近い存在だとは思われたようだ。

 ヴァイセン側のメンバーの紹介もサラッと終える。全員が竜人族で、バランスのとれた編成。チームの要となる盾職をヴァイセンが担当している。一番大柄なので、安心感は絶大だろう。

 私は彼らに一礼すると、ふと口を開いた。

「そうそう、Bランククランの話」

 すると座り込んでいた冒険者(該当者)たちはびくりと肩を震わせた。何故かって、恐らく彼らは襲いかかったことに対する制裁が下ることを想像したのだろう。

 だが私はあまり気にしていないし強さの証明も出来たので、お咎め無しのつもりだ。そのまま続けた。

「この人達、対人戦より対魔物の方が強いと思うよ。だからこの二クランにも入ってもらおう」

 そう言って座り込む彼らに笑顔を向けると、不思議なことに熱い眼差しを向けられていた。冒険者は基本的には自己責任、襲われたのも襲った側が負けたのも自己責任。私は良いことも悪いこともしていないのに。

 ヴァイセンは私の提案を快く受け入れてくれて、二クランは抱き合って喜びを分かちあった。本当に似た者同士のクラン。


 そうして決まった探索クラン。探索は第一階層と二階層の入口付近までの探索で、宝は山分け、しかし潜る者は好きなものを数個とっても咎めないということになった。

 それは危険を冒して情報を収集するのだから当たり前らしい。以前にBクランが生まれたばかりの迷宮に足を踏み入れて探索した結果、戻ったのは斥候職が一人だけ……なんて例があるらしい。

 二クランはそれぞれ金剛、ブレイブエレメンツという名前で、全身を鈍く光る鎧に守られた肉弾戦型のクランと攻撃魔法とそれの効果を高める数々のアイテムに身を包んだ高火力魔術師クラン。彼らは相性がいいので共に行動させることになった。

 Aランククランは、自信もある程度あり実力も認められているので別々に探索となった。

「いってきます」

 私は迷宮の情報を待つ残留組に手を振って、池の中心にポッカリと空いた穴……迷宮に飛び込んだ。




 飛び込んだ先は意外にも水中でなく、私は準備していた水中呼吸の魔法を待機状態に留めた。そこは水中を縦横無尽にはしる半透明のチューブ状の道の始点だった。この迷宮はどうやら迷路のような構造をしているようで、チューブは水草や岩の向こうにまで続き、それらは幾つにも分岐していた。

 きょろきょろと見回す冒険者(チャレンジャー)たち。私はしゃがみこんで、恐る恐る半透明の地面に触れた。ひんやりと冷たくてぷにぷにした感触が伝わる。

 チューブは直径四メートルほどの広さだが、それがすべて同じ材質のもので形成されていた。

「道が分かれたらそれぞれマッピングを始めるぞ」

 ヴァイセンの言葉にマッピング係の夜空妖蝶が頷いた。彼女を見た他クランのマッピング係は羨ましそうに唸った。なんたって彼女はマッピングを技能として習得しているのだ。フェアリーに近い魔物は強い特殊技能持ちが多いので野生の魔物にとってマッピングはハズレだが、従魔としてはとても優秀である。

 それぞれの班が準備を終えると、とうとう一行は歩き出す。魔物の気配を一つとして感じない不気味なチューブの中を、私たちは警戒しながら進んだ。

 するとそのとき、私たちに影が差す。突然暗くなった視界に驚きながらも身構えると、なんとチューブの外側の水中に巨大な魚影……というか魔物の姿が見えた。

 何故ここまで近い距離に来るまで気が付かなかったのかと思い索敵魔法を展開すると、その答えはすぐに出た。いくら魔力を込めようと、いくら魔法陣を組み替えても、チューブの向こう側に魔法が届きにくい。

 魔力が霧散しているわけではなさそうなので、きっと吸収か相殺の効果を持っているのだろう。しかし問題はそれだけでない。チューブは存外に分厚く魔法も通さないので、先制攻撃がほぼ不可能なのだ。魔物の攻撃も通らないとも考えにくい。

 こちらに気付き生気のない目をギョロリと向けた魚魔物に、私はひやりと背中が冷たくなるのを感じた。そして私が全神経を集中させて魔物の攻撃を待っている時、後方から悲鳴が上がった。

「上じゃない、下だ!」

 その叫びに思わず下を向いた私たちは、いつの間にか水底を埋めつくしていた触手の塊に息を呑む。

 それらは海藻に紛れるつもりなのか色は深緑で、ゆらゆら揺れていた。一本一本が魔物の個体なのかごちゃごちゃした塊でひとつの魔物なのか、皆目見当のつかない不気味な外見は、初見の私たちの不安を煽る。

 そして危惧した通りに、容易に破ることのできなさそうなチューブの壁はたった一本の触手にすら貫かれ、一人、水中に引き摺り込まれた。

「水中呼吸!!!」

 私は焦って広範囲に魔法を拡散するが、チューブの穴は瞬きのうちに掻き消え、その向こうに引き込まれた冒険者には届かない。トーマはどうにか魔法の通り道を作ろうとしてイヴァでチューブを斬りつけるが、その刃は数センチという浅い傷をつけるのみ。

 アンネは激しい舞を舞い触手を寄せ付けず、ベルは残りのメンバーに向かうものも含め多くの触手を炎で焼き尽くしていた。ゼリー状の見た目をしているが焼けた触手からは焦げた血と肉のような匂いが立ち、私は思わず顔を顰めた。

 幼女守護団メンバーはなんとか触手を退け倒しているが、他のクランは半々といったところか。半数は対処しきれずにチューブの外に出され、闘いにくい水中で四苦八苦。すると見るに耐えかねたヴァイセンが触手に自ら絡まった。

「水竜じゃないが泳ぎは得意だ!解決策を探るぞ!」

 彼はそう言うとそのまま触手に引かれるがままにチューブの外へと投げ出され、全身が水に包まれたのを確認したヴァイセンは触手を力任せに引き千切る。そして盾の代わりに己の爪を得物とし、仲間を助けに向かった。

 それを見届けた私は気が逸れていたのだろう、ヴァイセンの大きな背中を見ているうちに足首に冷たいものが絡みついた。息が詰まる。触手は魔法を放つよりも早く、私の体勢を崩し、そのままチューブの外へ放り出した。

「あっぶほ、ごぼ」

 自身に水中呼吸の魔法をかけ忘れていたせいで水を大量に飲んでしまったが、すぐに魔法をかけた。魔法は難なく発動したので、最悪チューブの外の水が魔法妨害の効果を持つと思っていたがその心配はないようだ。

 足下を見れば、私に向かってくる無数の触手。だが攻撃の当たる範囲に来てしまえば、最早恐怖も何も感じない。私はまず足首に絡んだ一本を魔力の矢で射抜き引き剥がすと、続けて風魔法を展開した。その場に空気が無くても問題無いのか、突如眼前に現れた空気のつぶが刃を形取り触手を切り刻んでいった。

 それを見た私ははじめの頃に水中に引き込まれた冒険者たちに急いで空気を送り、大半の者が息継ぎを終え一部の者の意識が戻ったところで水中呼吸をまとめてかけて、ようやく事態は好転する。

 水中での言語による意思疎通が難しい現状、指示も何も無いが冒険者たちは勇猛果敢に立ち向かう。流石に実戦に慣れているのか、即席でも連携が取れ始めていた。

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