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第5話「私も今日から冒険者!」

 沢山の屈強な男。しなやかな筋肉を身につけた女性。山のような体躯の鎧男。そして、カウンターの向こう側でいそいそと事務作業などをしている受付嬢。

 私の目には、当然だが初めて見る光景が飛び込んできていた。

 人が集まっているからか熱気がこもっていて、その建物内の活気は朝市といい勝負だ。

 ギルド内にも食堂があるのか、いくつかのテーブルで食事をしている冒険者がいる。自らの武器を磨いている冒険者がいる。依頼の掲示板を見て吟味している冒険者がいる。朝からお酒を飲んで大笑いしている冒険者がいる。

 そこはとても心躍る場所だった。私の知らないことだらけで、これから私はここに加わるのだと思うと、とっっても楽しみだった。

「ほら、行くぞ」

 おにい様は私の背中を押す。私は建物の中に足を踏み入れた。


「すごい……」

 私は興奮から頰を赤らめて吐息とともに言った。

 何度か読んだことのあるライトノベルの内容から想像してはいたが、実際にその場所に来てみると全然違う。もっと、迫力がある。

 私は物珍しさに周りをキョロキョロ見ながらおにい様にされるがままに、誰も並んでいない、離れた場所にある受付へと歩いた。

 おにい様によれば、

「ここは新規登録者用の受付だ。俺は依頼を受けてくるから、一人で行ってこい」

 とのことなので、私は離れていくおにい様を一度見てから頭にクロワッサンをつけたような髪型の受付嬢に話しかけた。

「すみません、新規登録したいのですが!」

 話しかけられた受付嬢は私の姿を見るとキョトンとして、それから笑い始めた。それを見てこちらがキョトンとすれば、クロワッサン嬢は笑いを堪えながら言った。

「ふふっ……どう見てもお子様じゃない!……十五歳以上じゃないと冒険者にはなれませんのよ。勉強して、大人になってから出直しなさい!」

 クロワッサン嬢はそれから手を振って、邪魔者を追い払うように「お家に帰りなさい」と私に言った。私もそこまで馬鹿にするような態度を取られては気分を悪くする。

「私は十六歳で大人です。エルフの血が流れているのは見ればわかると思います」

 私は仏頂面になってクロワッサン嬢に詰め寄った。詰め寄ったといっても身長が低いので何の威圧にもなっていないだろうが。

 自慢の銀髪……銀の氏族の象徴である髪をなびかせて、私はクロワッサン嬢を見つめる。

 すると彼女は顔を顰めて、至極面倒臭そうに告げた。

「髪は染めたのか知らないけど、その耳でエルフだとか言い張るの?耳長族?長耳族とかって言われてるエルフに対して、アンタは先っちょが尖ってるだけ。どぉこがエルフですの?」

 そして彼女は私の耳をつまんで、力を込めて引っ張った。

「ふぅん、作り物ではないのですわね……?」

 彼女は悪びる様子もなく、痛みで眉間に皺を寄せる私を見る。

 所作や態度からして貴族だろうが……こんな人間が受付嬢だなんて。せめてもう少し話を聞いてくれて、こんな酷い人間じゃなかったらよかったのに。

 私の耳から手を離して欠伸をするクロワッサン嬢。私はそれを見た途端に途轍もない脱力感に見舞われた。だって、どう見たってこの人は私を冒険者に登録させる気がない。

 私は諦めて帰ろうとして、踵を返した。すると、目の前におにい様がいて、またぶつかってしまう。

「わぷ……おにい様、またぶつかっちゃった……」

 私は顔を上げて、おにい様の顔を見た。いつもの優しい笑顔で頭を撫でてくれるのかな、なんて思いながら見た。

 だけどおにい様は無表情で、でも雰囲気から怒っていることが感じられて、なんか滅茶苦茶怒っている。

 私は初めて見たおにい様の無表情に心臓が止まりそうなほど驚き、それから自分のせいかと焦って口をぱくぱくさせた。でも、私が言葉を発するより先におにい様が声を出した。

「なんでセルカが耳を掴まれて、ギルドカードを貰った様子もなく帰ろうとしているんだ?」

 怒気をはらんだその声は、私のために怒っていたことの証明。

「…………はぁ?誰ですの?関係ない冒険者さんは下がっ」

 怠そうに言ったクロワッサン嬢は、顔を上げておにい様を見ると固まった。半端ないイケメンなのだから仕方ない。

 私はその場だけ時が止まったかのような錯覚に陥りながら、二人の間で唾を飲み込んだ。

 その静寂は、すぐにクロワッサン嬢によって打ち破られた。

「はあ!?どうして魔剣士(スラント)がその子に加勢するのです!?貴方はクオーターエルフだけど、この子はどう見ても仮装ですわよ!」

 まくしたてるように早口で告げるクロワッサン嬢は、明らかに焦っていた。どうやら固まっていた理由はイケメンだからではなくおにい様の知名度やら実力に関係がありそうだけど、今は聞く余裕はない。

 おにい様は焦りを隠せないクロワッサン嬢を見て、ため息をついて言った。

「この子は俺の妹で、正真正銘クオーターエルフ。年齢も十六だから大人だ」

 おにい様は落ち着いた声でそう言ったが、怒りで声は少し震えていた。彼の大きな手は、赤くなった私の耳を包んでいた。

 私はそこで、クロワッサン嬢の叫びで騒ぎに気付いた冒険者たちの注意が向いていることに気付いた。あまりの居心地の悪さにおにい様に帰るように促すが、彼はお怒りの様子でクロワッサン嬢を睨みつけていた。


 その時、ようやくベテラン臭のする受付嬢が、受付奥から現れた。黒髪にポニーテールの彼女が現れたことで、それからはもう、一方的な説教に切り替わる。

「見た目で判断してはいけないと言ったのに、それに見学だけでまだ採用してもいないじゃない」

 ポニーテール嬢は、クロワッサン嬢と新規登録者受付の担当者を一瞥する。

「職務放棄もいい加減になさい。二人とも、今後一切ここで仕事はさせないわ。何度も注意はしていたのだからね」

 冷え切った声で二人を叱り、ポニーテール嬢はこちらに向き直った。私は驚いて肩をビクリと震わせてしまうが、ポニーテール嬢はそんな私を安心させるためか微笑みを見せた。いい人だ。

「大変お待たせしました。では、登録しますので奥の部屋に来てください」

 私は大きく頷いて、ゆらゆら揺れるポニーテールの後について行った。その際におにい様が「さっきの二人に用事がある」などと言ってその場に残ったので彼とは別行動だ。

 奥の廊下を進む途中、沢山の部屋の前を通り過ぎた。洗面所もあったが、他に相談室や解体室、商談室、訓練場といった場所が設けられていた。


「ここです」

 ポニーテール嬢が示した部屋は、とても広くて一部地面がむき出しで、いくつかの魔道具が置かれた部屋だった。その中には千変万花を埋め込んだ水晶玉もある。

 私は緊張からか、ゴクリと息をのんだ。

 ……魔力関連の検査は自分でやったのであまり緊張はしないが、それより体術や職業(ジョブ)関連の検査だ。前世のように身体が動けばいいのだが、今の身体は完全に幼女。

「では、まず魔力の検査です。この水晶玉に手を触れて、魔力を込めてください」

 ポニーテー……ポニテ嬢は、私を水晶玉の前に立たせる。私は水晶玉に触れて、魔力を引き出した。

 途端に強い輝きを放つ水晶玉、ポニテ嬢は手元の書類に何やら書き込む。私はその間も魔力を込め続け、早く次にいきたいと切実に願った。

「魔力を弱めてください」

 私はその指示に従って魔力を抑えた。すると光が弱くなり、中の千変万花の輝きが見やすくなる。千変万花は水晶玉に埋められているにも関わらず花弁の数まで変動して、自分で調べた時と全く同じ結果を引き出した。

 驚き目を見開くポニテ嬢に、私は冷や汗をかきながら問う。

「……結果、おかしい?」

 どんな反応が返ってくるだろうと身構える私。ポニテ嬢は私の問いかけに対して、

「後ほどまとめて話させていただきます」

 と書類に書き込みながら答えて、こちらを一切見ない。私は頰をぷくーっと膨らませて、次の検査に移った。

 そこからは体力テストやら知能テストを何度かやって、時間が過ぎていった。実技のテストでは言われた通りの詠唱で魔法を発動させて、離れた場所にある的を狙った。血のおかげかセルカの記憶のおかげか魔力の操り方は理解していて、難なくクリアできた。他に剣技や槍技、拳技などの実技のテストがあったが、そのテストの方法はそれぞれの武器の基本的な形をした魔道具を素振りするというもの。それだけで相応しい武器がわかるらしい。

 私が一番才能があると言われたのは短剣技で、他に弓や剣技も才能があると褒められた。

 私はヘトヘトになりながら実技テストを終えた。

「次に……」

「まだあるの!?」

 私はポニテ嬢の言葉に愕然とする。実技はもううんざりだった。

 しかしポニテ嬢は私を見て微笑むと、部屋を出た。不思議に思いながらついていくと彼女はもと来た道を引き返していて、私は聞き間違いだったのかと首を捻った。

 そして受付が見えるほどのところまで戻って来た時に、ポニテ嬢は静かに足を止めた。ここが目的地なのだろう。扉には「転職部屋」と彫られていた。

「次に、こちらで職業(ジョブ)を選んでいただきます。こちらは新規登録時以外にも使われる部屋なので、受付の近くに設けられています」

 彼女の紹介に私は頷く。確かに、転職のための場所があんな奥にあったら面倒だ。検査の場所ももっと浅い場所に作るべきだと思うけど。

 私は扉を開き、中に入った。広さは先ほどの部屋と比べたら可哀想なほどに狭く、置いてあるものも全く違う。部屋の中心に置いてあるのはドアとほぼ同じくらいの大きさの石板で、限りなく漆黒に近い色をしていた。

 明らかに場違いなその石板に、私は自ら近付いていった。これの使い方はおにい様から聞いた覚えがあった。

 私はそっと石板に触れると、微量の魔力を込めた。すると石板に文字が浮かび上がる。

「魔術師、魔女、魔導士、ビーストテイマー、弓師、修道士、盗賊、シーカー……」

 私はズラーっと並ぶ職業の数々を読み上げる。エルフに多い魔法職や、エルフでもごく少数しか才能を持たないと言われるビーストテイマーが目立つ。ビーストテイマーは予想通りといえば予想通り、庭で動物達とあれだけ仲良くできたのだから、才能があるに決まってる!

 私はイマイチどれが良いのかわからずに視線を右往左往させる。剣士や魔術師などの有名な職業はわかるけれど、カタカナが多くなるとわかりにくい。基本的に英語だけど、英語は一番苦手だった。

 なかなか決断できない私を見て、ポニテ嬢はふふふ、と微笑。彼女は手に持っていた書類の一部を私に手渡した。

 見れば、初級職業一覧となっていた。

「ありがとうございます!」

 私は笑顔になって言う。ポニテ嬢は申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「後半は上級職や特殊職なので載っていません、聞いてくれれば私が口頭で説明しますわ」

 それでもわからないものがわかるのは嬉しい。私は気になった職業をいくつか絞って、目星をつける。

 あとはポニテ嬢さんに聞いて、オススメの職に決めるつもりだ。経験を積めばつける職業の数も増えるそうなので。


 結局私は職業(ジョブ)を魔弓士にした。

 体も小さいしリーチが短いとかで前衛職はやめたほうが良いと言われ、あとは優れた魔力と弓術から決めた。これに護身用……緊急時用の短剣でも装備すれば、ちゃんと闘えるらしい。

 私は次に気になっていた職業に早く就きたくて、ポニテ嬢に聞いた。

「どうやったら、二つ以上の職業(ジョブ)を選択できるようになるの?」

 返事を待つようにじーっと目を見つめる私に、彼女は慣れた説明だとでも言うようにさらさらと答えた。

「レベルを上げるのです。レベルは魔物を倒すことで得られる経験値を貯めることであげることができます。……レベルはこれから製作するギルド(カード)で随時確認できるので、お渡しの際に確認してみてください」

 私はなんだかゲームのようだと思いながら、首を縦に振った。



「えへへ」

 私はピカピカの、新品のギルド証を光に当ててにやけた。自分のができると嬉しい。今日冒険者になったばかりなのでまだ最低ランクだけど、それはこれから地道に頑張って上げて、いつかおにい様みたいな凄い冒険者になる。

 頰の緩みを抑えきれない私の様子を見て、ポニテ嬢は表情を少し動かした。それから、説明された。

「あなたのランクはE、最高SSランクまであるランクのうち、最低ランクです。掲示板の依頼をこなし、たくさんの魔物を狩ることで昇格できます。わからないことがあれば、いつでも聞きにきてください」

「はい!」

 私は元気よく返事をして、ギルド証を懐にしまった。

 ポニテ嬢はそれを見てから、付け足すように言った。

「最後に、あなたは地面属性は魔力一極化のせいでクエイクという魔法しか使えないことを、覚えておいてください」

 私はその言葉を聞いて一瞬理解ができなくて固まり、内容を理解した途端驚いて声をあげた。

「クエイク……使える魔法がわかるの!?」

 私は頷くポニテ嬢に感謝を伝えてから受付がある大部屋に戻り、ギルドカードを見せようと視線を巡らせた。すると周りの視線を集めながら長々とクロワッサン嬢に説教をしているおにい様を見つけて、「まだやってるのね……」と嬉しさ半分呆れ半分で近付いた。

「おにい様、思ったより時間かかっちゃったから、早く装備品を買いに行こうよ?」

 私がそう話しかければおにい様は優しげな笑みをたたえて振り向き、「そうだね」と同意して冒険者ギルドの出口に向かった。

 後に残されたのは泣きそうな表情で固まっているクロワッサン嬢。そのままポニテ嬢の説教へと引き継がれた様子を、もはや見飽きたとでもいうように冒険者たちは視線を外す。

 私たちはそんなことは気にせずに、お店を目指した。

シスコン兄を書きたかったんです。


精神年齢が高い筈なのに発言や行動が幼かったりするのは、もう我慢をしないと決めてはっちゃけているからです。

決して中身もロリにしたかったからではありません。

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