表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/212

第43話「ある日の昼下がり」★

挿し絵マークつけましたが、今回はあとがきに表紙風イラストをつけました。

 めでたく新メンバーを迎えた幼女守護団は、新しい二人を迎えた数日後にクランメンバー全員でフレーゲルを訪れ、大樹魔林に挑んでいた。現在は第三階層。皆初めてではないので敵の対処にも慣れ、私の魔法での援護とアンネの補助で難無く進んでいた。

 特にトーマは炎刀の技能があるため炎補助に力を入れているアンネとは相性が良く、絶好調。彼の魔剣イヴァもいつも以上にギラギラと凶悪に黒光りしていた。

 前を見れば距離はあるが道の一直線上に階層を降りるための階段があり、その前の魔物がほとんど出ない空間で数人の冒険者が休憩している様子が見られた。

 彼らは恐らくここまでの魔物の素材を集めていたのだろう。四階層からは厄介な性質の魔物が増えて依頼外の魔物とも戦わなければならなくなるので冒険者の層が変わってくる。第一の関門、ここを越えるのは実力のある者のみ。私は……私たちのクランは迷わずに階段を降りていった。そしてこの地点で休んでいる冒険者たちはそれを見て心配するでもなく、ただその背を見送るだけだった。

 階段を下りきると、そこは三階層までとは打って変わって道の無い『大樹魔林』の名に相応しい場所となっていた。ここまでは大小様々な道があり、迷うこともなく、道を逸れなければあまり森を歩いているという気分にもならない。だから軽く森に入って魔物素材を集めるのに適しているのは三階層までなのだ。

 ここから先は迷宮踏破を目的とした者以外は立ち入らない、凶暴だったり報酬に見合わぬ素材の価値や素材の取れぬ魔物が蔓延る魔の森だ。

「ここからは初めてだよ……油断しないようにしてね」

 私は集中し、バウが先頭を歩きだす。同時にライライが隠していた虫の魔物たちを呼び出して、そのままその従魔を後衛組の周囲に付けた。アンネは気にしていないがベルはどうにも虫が好きになれないようであったが、眉をぴくりと動かすのみで我慢するようだ。

 ……たしかに、あんなに沢山の虫は慣れていても見るに堪えないものがある。私は餌やりのときに慣れてしまったが、その点では共感出来ると思った。

「ここからは森に深部も何も境目がないから、エルダートレントがどこででも現れる。セルカ様、先に補助魔法を」

「うん。……『私がいるから大丈夫』」

 イヴァの先を地面にとんとんと当てながらトーマが提案すると、私は即座に全員に聞こえるボリュームで天使の声を発動する。この技能についてわかっていることは殆どの能力が上がること。かけて損は無い。

 次に無詠唱で、立ち止まることなく補助魔法をかけていった。身体が軽くなったトーマは少し楽しそうに足を進める。後衛組は『歩きながら』『無詠唱で』『数種の魔法を』使ったことに驚きながらもそれを受け入れる。

 驚いた理由はわかる。実際トーマもベルも無詠唱と同時行使が可能なのだが、私の場合はセルカの体が魔力に同調しやすいせいか魔法の行使に集中力をそこまで必要としないのだ。当初はそれを見た周囲の驚いているリアクションをみた私が一番驚いていたが、学ぶにつれて常識がわかってきた。

 そうしてそのまま警戒を怠らずに歩みを進める。すると突然に周囲の木々が私たちを避けるように移動し、あっという間に円形の広間に閉じ込められた。

 早速面倒な相手だなぁと嘆息するが、もう遅いとばかりに襲い来るトレントのしなる枝が余計な行動を許さない。

 女神の短剣を構える私だったが、その前に紅い魔力が通り抜けた。代わりに枝の一撃を受け止め、むしろその枝を切り落としたトーマはイヴァに魔力を纏わせながら呟いた。

「纏雷……」

 同時に魔剣イヴァは紫電を纏い始め、その剣速が一段階上昇する。二度目三度目に振り下ろされた枝もなす術なく打ち砕かれ、一度動きを止めたトレントはその顔に怒りをはっきりと浮かべた。

 その魔物はトレントリーダーと呼ばれる、トレントと何ら変わらない素材の癖に木々を操る能力持ちの厄介な魔物。つまりこの階層から出現する嫌われものだった。

「ライライたちは運が悪いのです」

 ライライは虫を一気に放出しながら呟いた。だが、いくら厄介だと言えどもこのメンバーなら余裕がある。なので私はトーマとライライに任せることとして残りのメンバーの周囲に魔法で防壁を張った。

 そしてその安全なステージ上でアンネが細い剣を持って祈りを込めると、トーマとライライの身体に赤い光が灯った。剣舞の『鼓舞』系統のものだが、これがまたここまでの攻略で役立ってきたもので、トーマは重ねがけされた補助魔法のおかげで難無くトレントを葬っていく。

 ライライは枯れ木を餌にする虫をトレントにけしかけて、地味かつ効果的な妨害をしていた。

 そして呆気なく切り倒されたトレントを素材も必要ないので消し炭にしてもらうと、また私たちは歩き始めた。

 そこからはまた、半ば作業のような魔物討伐が繰り返される。メンバーがメンバーなのだ。オーバーキルにも程があるとは思ったが、手を抜いて死ぬよりは全然良いので私は咎めずに見守る姿勢を貫いた。それに一番やらかした経験があるのは私なので。

 そうして買った地図通りに進んでいくと、少しズレた場所にさらに下へと下る階段があった。そこを降りて、そのまま三階層下り、ようやく辿り着いたのは『罠のある階層』だ。

 ここが今日の目的地、第八階層。大樹魔林は十つの階層から成る迷宮のため、八階層はAランククランの適正階層。私たちは気を引き締めた。




「来たみたいねー!」

 バウの嗅覚に、魔物が引っかかった。即座に体勢を整えるが、まずは補助魔法なしの実力で通用するとされているので、それを確かめる。もし実力が見合っていなかった場合は帰るつもりだ。

 するとバウの横の茂みからヌルヌルとした植物の触手が飛び出してきて、すんでのところで彼女は避ける。今までのトレントや小型の魔物とは比べ物にならない速さで、私の背中を冷たい汗が流れた。

 立て続けに振るわれる触手に触れた地面は抉れ、粘液が酸かなにかを含んでいるのか草が溶ける。用心しよう。

 そしてそれら触手の根本には、巨大なラフレシアのような花がある。匂いは臭くないがその見た目は凶悪で醜悪、毒々しい生肉のような模様の花弁とその中心にある牙の生え揃った口は生理的な恐怖を植え付ける。早くもリリアの腰が引けていた。

 それでも盾役は敵の前に出なければならないので、リリアは剛竜王の賜盾をしっかりと構えながら前に出た。同時に展開される不可視の防壁がリリアとその周囲にまで拡がり、溶かされても酸が溶かし切るよりも早く修復する。

 それに焦ってかリリアの技能『挑発』によってか何度も振り下ろされる触手だったが、その間に横から近寄っていたトーマが剣を振りかぶった。

 振り下ろされた刃は触手を根元から切り離し、そして酸に溶かされることもない。リリアはその手数が減ったタイミングに合わせて触手を『反発』させることで自由となり、そのまま盾を振り回す。鋭い竜鱗の先がラフレシアの花弁を貫いた。

 直後に彼女が退いたので、私はその傷に魔法で追い打ちをかける。水と植物は効果が薄いので、闇の矢を放った。ラフレシアは肉厚な花弁から体液を撒き散らして暴れる。無防備になった反対側にもトーマの一撃が当たり、ラフレシアはその修復よりも触手の再生を優先して行い、攻勢に出る。

 細い触手が空を切る音が幾つも響く中、一段と太い触手がユラユラ揺れる。不気味だが放っていると、突然にその極太触手が脈打った。

 ビィギイィイ、と耳障りな鳴き声をあげて、ラフレシアはその極太触手の先を私たちに向ける。咄嗟に私が自分を防壁で覆うと、その上に酸の雨が降り注いだ。それは後衛にまでも届くものだったので速度の遅いベルは回避も防壁も間に合わず、服と足に酸を浴びる。

 幸いすべきはその酸がかかった部位に使われている素材が良質なものだったことだろう。彼女は痛みに呻きながらもその手に持った杖を落とさずに反撃した。弱点の炎に巻かれて、再度鳴き声が。

 すかさずベルに回復魔法をかけると、私は追い打ちとばかりに食用油を取り出し、その瓶を投げる。いつかも同じ手を使ったが、有効であることには変わりない。

 そのまま距離を離したままでいると、心身共に燃え尽きたラフレシアは黒くカスになって残る。素材が勿体なかったけれど、慣れてから素材優先にすれば良い。

 そうして進もうとした時に、騒ぎを聞きつけてか不気味な気配が四方八方から感じられ始めた。先頭を歩くバウは常に武器を構えた状態。

 すると彼女は立ち止まり、控えめな声で言った。

「ここね、よぉくみてね……この不自然なツル、足を引っ掛けたら罠が発動するね」

 指差したところに目を向ければ、言われてみれば確かに違和感はあるが……初見でこれに気付けるかと問われれば無理だと答えるだろう。

 私は感心しながらも罠を注意深く観察し、そしてバウがその罠に太めの枝を引っ掛けた。その瞬間に枝はツルでぐるぐる巻きにされると、その上から蜜が降りかかる。バウはそれに身体が触れない位置にいた。

 その蜜は特異臭を持ち、なんだか気分が悪くなる。この罠には嫌がらせ程度の役割しかないのだろうか。

 そう疑問に思っていると、ライライが私を押し退けて蜜に近寄った。その瞬間彼のローブから小型の魔物が数匹出てきて蜜に群がる。

「魔物寄せ……縛られて行動を制限された状態で囲まれたら、危険なのです」

 なるほど、その説明に納得した。そしてそれを確認したライライは何を思ってか空の瓶にその蜜液を流し込んでいく。それからしっかり封をしたのちに、満足気に言った。

「これを使えば従魔増やせそうなのです」

 そういえばそういう職業だったな、と考えて、瓶から匂いが漏れていないことを確認する。とはいっても、異空間収納のスペースに入れてしまえば匂い漏れも無いのだが。


 それからしばらくバウの罠講座が続き、必死に観察した結果、なんとライライとアンネはある程度の精度で罠を発見することができるようになった。ライライは虫を活用して細かい罠の解除までできるようになり、バウがものすごく褒めていた。

 ……羨ましかったけれど、私もすぐにコツを掴むんだから。絶対だよ!

挿絵(By みてみん)


(セルカ&トーマ)

こちら、幼女転生の表紙風イラストです。

ついつい楽しくなって挿し絵じゃないものを描いてしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ