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第42話「囲い形成」

 翌朝、二人の関係がどのように変化したのかドキドキしながらの登校。わざわざアンネローズのために悪い人たちに立ち向かったティルベルは当たり前にアンネを大切に思っているが、アンネは曖昧な部分が多い。最後に見たときは二人並んで笑顔だったので、大丈夫だとは……思う。

 いつも以上に近くで待機しているトーマは、昨日のことをまだ気にしているのだろう。いつもは席が近いからそこに座っていてもいいと考えていたようだが、今は席を立って私の後ろにいた。

 心配かけてしまったようだが、結果オーライではないか。

 そうしていつもと少し違う空気の中、渦中の人物が教室に現れた。彼女……ティルベルは昨日までと違う、しかし以前の彼女とも違う、強い自信という輝きを瞳に宿していた。

 ハリボテのような強がりや悪役令嬢のような雰囲気も無く、今はただ上に立つ者の風格を宿す。

 一晩でここまで変わるものなのかと、ティルベルの悪口を言っていた者達がザワつく。かくいう私も注目していた。

 すると彼女を追うように赤茶色の三つ編みが揺れた。瞬間、二人の喧嘩を目撃していたメンバーに僅かに緊張が走るが、それはすぐに杞憂だと判明する。

「ベル!」

 ティルベルを呼びながら、笑顔でティルベルの隣に並ぶアンネローズ。仲直り、したみたいだね。

「あ、おはようアンネ」

 二人はすっかり仲良しさんのようで、まるで身分の違いが無いかのように接していた。そのうえに愛称で呼び合っている。

 その様子を少し羨ましく思いながら見ていると、不意に彼女達視線と私の視線が交錯する。戸惑う私の元に二人は立ち止まり、私がなんとなくといった風に笑ってみせるとティルベルが口を開いた。

「セルカ、放課後は空いているか?」




 そのまま授業を終え、お昼も食べて、実技の授業も終えて……私は少し疲れを感じながら幼女守護団のメンバーを連れて待ち合わせの場所に向かって歩いていた。

 昨日の魔力の消費の影響は、ここまで続いていた。魔力が多いぶん満タンになるまでも長く時間がかかり、寝て覚めても少しだるかった。

 そして着いたのはティルベルの部屋だ。帰りのホームルームが終わってからまっすぐ来たのでまだ人気の無い寮内は、私たちの音だけが響く。

 そうして少し待っていると慌てながらティルベルとアンネローズがやってきた。思わず嫉妬してしまう仲の良さ。

「セルカ!待たせたか!?」

 手を振りながら言うティルベルに、私は「大丈夫」と笑う。表情が活き活きしている彼女はとっても魅力的だった。

 それにその後ろを付いてくるアンネローズは以前見た挑発するような雰囲気も無く、優しい顔をしていた。元々二人とも造形が美しいため、……というかこの世界には美形が多いな。

 私が一人関係ないことを考えていると、ティルベルが私の手を掴む。彼女は良い意味で貴族らしくない、太陽のような笑顔で言った。

「大事な話をするから、来て欲しいんだ」

 そんなこと言われたら断れるはずもない!私は嬉々としてついて行った。他のメンバーは一応ついて行ってもいいか聞いてから、少し後を歩いていた。


「ここだよ。ここは私が小さい頃から来ていたから……色々と都合が良いんだよ」

 ティルベルが案内してくれたのは学院街にある所謂穴場カフェ。混んでいないけれど雰囲気が良く、いい香り。

 私たちはそのまま奥の個室に通されて、それぞれ好きなものを注文すると話し始めた。先に口を開いたのはティルベルだ。

「私は……ティルベルじゃないんだ」

 一言。しんと静まる空間。その一言が彼女の伝えたかったことなのだろう。でもそれだとおかしい。ギルドカードには魔法で偽装する以外に虚偽の情報を映し出すことができないはずなのだ。そして、私たちは既に初日の自己紹介で彼女のステータスを見ているのだ。

 それを指摘すると、ティルベルは頷いた。そして穏やかに言葉を紡いでいった。

「ベルーガ……私の名前だ」

 そう言って取り出したのは、傷のついたギルドカードだった。表示されたステータス欄にはベルーガという文字が浮かび、その下に記憶よりも少し高くなった能力値が映されていた。

 ベルーガ。それだけなのだ。

「……じゃあ、私もアンネローズと同じようにベルって呼んでいい?」

 出かけたある言葉を飲み込んで、私は笑顔で質問する。するとアンネがいち早く「アンネって呼んで」と告げ、それに合わせてティルベルが……ベルが「私も、それがいい」とはにかんだ。

 無言で微笑み合う私たちを見てしびれを切らした様子のアンネが何かを言おうとしたとき、丁度そのタイミングで個室の扉が叩かれた。

 入っていいかと聞かれたので許可すると、出来たての料理を運ぶ店員さんが入ってきた。真ん中の大きいテーブルに次々と料理を置いて、話を中断して料理に釘付けになる私たちを一瞥した。

「これで全部です。ごゆっくりどうぞ」

 そう言うと店員さんは個室から出て行って、同時に鍵と防音魔法をかけられた。どうやらベルの言っていた都合が良いという言葉は本当だったようだ。

 感心していると、口を開けたまま固まっていたアンネがため息混じりに言う。

「もう……後でいいわ、先に食事よ」

 その言葉にバウが尻尾をちぎれんばかりに振って反応し、少し早口で食前の祈りを済ませた私たちは早めの夕食にありついた。夕食には時間は早いけど、沢山食べれば朝までもつはず!




 おなかいっぱいご飯を食べたあと、私たちはデザートを少しずつ食べながら会話を再開した。

「……で、本題なのだけど」

 アンネがケーキの上に乗っていたさくらんぼを食べて言った。私は自身が選んだデザート、ストロベリーチーズケーキをしっかり味わって飲み込んでから相槌を打った。

 既にデザートも食べ終えたバウは暇そうにしていた。そんな中で私とベル、そしてアンネだけは真面目な顔をして(デザートを食べながらだが)いる。先程のかなり重大な発表ですら本題ではなかったのだ、どれほどの内容だろうと私は身構える。

 すると突然にアンネはフォークを置いて姿勢を正す。私もその空気感につられてぴしりと姿勢を整えるが、それを待たずに彼女は口を開いた。

「私とベルを、あなたのクランに入れてほしいの!」

 深々と頭を下げて、ほとんど同時にベルもお願い、と頭を垂れた。しかしあまりにも突然だったため、理由も聞かずに許可はできないなぁと思案する。まず、志望理由だけでも聞いてみよう。

「えっと、どうして?」

「……それは私から話す。私はセルカに負け、そして助けられ……強さを見た。……お前のもとなら強くなれると……そう思ったからだ」

 ベルの少し恥ずかしそうな声が耳に届き、なるほどと頷いた。互いに切磋琢磨して成長しようというわけだ。彼女に関しては私も炎魔法を教わりたいし、大歓迎。

 次に私がアンネに目を向けると、彼女は不敵な笑みを浮かべて綺麗事でない言葉を告げた。

「ベルを守るのよ」

 ほほぅ、と思わずにやけてしまう。嘘をつかない性格、大いに結構。だけれど私は彼女の強さも人柄も知らないので「守れる強さはあるのか」を問いたいと思った。

 私はクランリーダーとして全員を守り抜くために全力を尽くす。Aクラスでないということは突出したものがないということ。配慮はするけれどクラスも違ううえにあまりにも差があるとなれば一緒に活動するのは厳しい。それに口先だけかもしれない。

 思ったことが顔に出てしまっていたのだろうか、アンネが私の顔を見て強気な表情に一滴の不安を浮かべる。とりあえずこの件は、ベルは採用でアンネは……ギルドカードを見せてもらうのがいいかな。

 早速頼むと、彼女は即座にステータス全てを開示したギルドカードを差し出した。見ればそれにはスリーサイズまで表示されていたので、咄嗟に裏返しにして返却した。

 初めはダメだったのかと勘違いして眉尻が少し下がるアンネだったが、ギルドカードを見て返された理由を察したようだ。少し顔を赤くしながら再度ギルドカードを渡してきた。

 一応後ろを確認したけど、トーマもライライも離れてるから多分見えてない。




 アンネローズ

 Lv:10

 ランク:D

 年齢:17

 種族:人族

 職業:剣舞士

 HP:150/150

 MP:134/135

 筋力:76

 体力:62

 魔力:56

 知力:48

 敏捷力:60

 運:60


 《技》

 初級魔法(植物:2)

 特殊魔法(空間:2、補助:8)

 剣技(剣舞:4、戦闘全般:2)

 舞踊(炎華、水蓮、風蘭)


 《固有》

 チームワーク(補助)

 憧憬の火炎舞(火炎補助効果×1.6)




 私は改めてステータスを見て言った。

「うん、多分パワータイプだけどバランスがいいね。魔法は補助……それもベルのために覚えたみたい。炎補助ばっかり」

 愛すら感じる。このぶんだと固有技能欄にある『チームワーク』や『憧憬の火炎舞』というスキルもベルのために発現したのだろうなぁ。何よりベルという典型的な後衛タイプの人に合わせたような、近接戦闘と補助に長けた能力。特殊な職業だし、相当頑張ったのではないか。

 こんなステータスを見せられては、ベルだけを許可するなんてことはできない。私はくすりと笑って、少し偉そうに腰に手を当てて二人を見上げた。

「二人とも入っていいよ!よろしく!」

 その途端に互いを抱きしめ合って喜ぶベルとアンネを見てから、私はフォークを再び手に取りデザートを食べるのを再開した。良い気分だからか先程よりも美味しく感じられるチーズケーキを堪能しながら、新しい仲間との冒険を……未来を想像した。

 そうして視線がチーズケーキから外れた時、トーマが私のチーズケーキの一部をサッと奪い、食べてしまう。

「ちょっと、トーマぁー」

「ん、美味しいなこれ」

 そんな彼を非難するように声を上げるが、私の心の中は幸せでいっぱいだった。ぼっちじゃない、勉強以外にもたくさんの思い出が既にある。ふざけたやりとりほど大切に思える。

 しかしデザートは別だ。そう考えた私がトーマのデザートに狙いを定めていると、ふふふっと控えめに笑いながらリリアが皿を差し出してきた。

「セルカちゃん、あたしのひと口食べていいですよ」

 その言葉に甘えて、嬉々として彼女が頼んだクレープもどきを口にすると、様々なフルーツの味と多様な食感。

 その流れに乗ってか全員が私にデザートをわけてくれる。デザートを食べるのに忙しい!幸せ!

「ライライはこのまま幼女守護団新メンバー歓迎会でいいと思うのです」

 ライライが最後にそう呟くと、ベルが店員を呼びつけた。

「あと一時間使わせてもらうぞ!追加注文だが……」


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