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第33話「私たちのクラン!!」

 解体員をおいて室内に戻った私たちは、トーマだけは傍で直立していたが、他は皆グラードの向かいに座っていた。

 ここはギルド内にある応接室…普通なら私たちは入ることがないであろう場所だった。やたらと座り心地の良い革張りのソファに艶のある木材のローテーブル、高そうな茶菓子。香りの良い紅茶まで出されたが、今から行われるのはただのクラン名決めだ。

「それにしても、クラン結成前にこのような偉業を成し遂げるとは…」

 口を開いたグラードに、私は照れ笑いを返す。褒めても何も出ないのになぁ…と思ったその直後に一番常識的な女の子リリアがソファから立ち上がって言った。

「セルカはわかってないんです、照れるだけなんて!」

 私は目を輝かせたリリアにビビりながらも、彼女の言葉に耳を傾ける。ふんわりカールの髪の毛がふわふわ、彼女の身振り手振りに合わせて揺れた。

「常識的なことなのにわからないんですか!?」

 首を傾げる私と、真剣な表情で頷く他メンバー。私は常識的なこと、というものが何を指すのか見当も付かずに「えーと」と茶を濁す。急な支部長さんの登場で驚いていたのでわすれちゃったのかも。

 そんな誤魔化すような態度の私にリリアは顔を近付けて目を合わせる。私はやや見上げる姿勢になって、蒼い瞳を見つめ返した。

「わかってないって顔してますよ!今から話すこと、ちゃんと聞いてくださいね!!」

「ライライからもちょい話したいことがあるのですよ」

 いつも通りに光のないライライの目が私を射抜いた。リリアはいつになく強気で、ライライを押しのけて私の前に出た。

「まずあたしから…新規エリアボス討伐、それがあたし達が成し遂げたことです。本来ならエリアボスはSランクは例外だけど、その他は大体六つから十つのクランでの討伐が推奨されています。亜種ならば十つのクランが集められるはずです」

 頷くと、リリアは「成し遂げた内容はSランク並です」と告げてから困り顔になる。するとライライが私の両頬を引っ張りながら言った。

「それに、通常は分配される素材が一クランの…一人のもとに集まったのです。見た目は幼いし全員が子供の金持ちクラン……セルカが悪人ならどう思うのです?」

「…こいつら襲って金品奪おうぜ!とか」

「「その通り」」

 むにむにほっぺをつねられる。しかし怒られている(?)私の頭の中にはくだらない内容が浮かんでは消える。ライライは母親でリリアは父親…なんて言ったら怒られるだろうか。など。

 脅されれば実力を示し、襲われても返り討ち…それでいいと思うのだが、何か問題あるのだろうか。ギルドは外でのいざこざには関与しないはずで、諍いも決闘も、はたまた盗みすら『実力で抑えろ』というような方針である。

 私が守るのになぁと思いながら甘んじて罰を受けていると、グラードがふっと息を吐くように笑った。

「いやいや、本当に仲がいいんだな…」

 目を細めながら呟いた彼は、すぐに表情を切り替える。

「大丈夫だ、安心していい。こちらから『実力の裏付け』となる何かを起こせばいいんだよ。今から用意する予定だ」

「へぇ、どんなことなのです?」

 挑発的な視線を向けるライライにヒヤッとしながら、私たちはグラードの次の台詞を待った。自信に満ちた表情の彼は、悪巧みをする子供のように口元を歪めて告げた。

「クランのAランク昇格試験…Aランク中堅ギルドとのクラン戦を客席を開放して行う」




 詳細を確認すれば、意外と単純なものだった。

 ①この日のうちに告知

 ②『賭け』を同時に行い、一攫千金を狙う冒険者を集める

 ③学院の休日、入場無料で客席を開放して、クラン戦

 という計画らしい。

 勝っても負けても私たちのクランは『実力を認められて』晴れてAランクになるという話だが、それにまず私が噛み付いた。

「私たちの実力がAランク相当だってことが前提になってるの?まだリーダーの私もBランクにもなってないし、クランもまだ結成されてないのに」

 正論を言ったつもりだった。Aランククランとクラン戦だなんて、作ったばかりのクランには荷が重いだろう。実力不足だ、と私は訴えた。

 しかしこれには仲間の賛同もなく、むしろ「あちゃー」とか「あたし以上に混乱してますね」とか聞こえてきた。同意してもらえると思っていたぶん衝撃が大きい。

 するとグラードがガハハと笑う。

「おいおいリーダーさん、そこまで謙遜しなくていいんだぞ」

「け、謙遜なんて…」

「エリアボスの単独討伐ができるのは、Sの実力があるクランでもないと難しいっていうのが常識だぜ?」

 私ははっとした。言葉が出なかった。確かにそう教わった事がある。トレント亜種がエリアボスだということを失念していた。リリアたちに説明してもらったばかりなのに。…一旦落ち着こう…………。

 ……つまり実力は問題ないはずなので、全力で闘えば勝てるということか。注意すべきはやはり『馴れ』だろう。長年培われた先達の勘や洗練された連携が実力の差にどう影響するか、だ。

 グラードは私の思考の邪魔をしないようにと口を閉ざし、私は黙々と考える。それから首を傾げて問いかけた。

「でも、クラン戦までの間、私たちは危険じゃないの?」

「それは……こちらからすぐに対応するが、学院に居る限りは安全だろう。次の休みまでに外出の予定があれば、護衛する。実力を知らしめるために、クラン戦終了直後にこちらから『エリアボス討伐』の功績とともにAランク昇格を宣言しよう」

 私は返答に、それなら問題ないかと思い頷く。結局ギルド側が全面的に協力してくれるということらしいので、頼ることになった。賭けなどのお金もギルド負担らしい。

 異論反論無く平穏に終わりを告げたグラードとの話し合いの後、私たちはさらに難航する話し合いを始めることとなった。


 幼女感を全面的に押し出すべきだというのは誰のセリフか、その話し合いは苛烈を極める舌戦と化していた。可愛いものがいいやらかっこいい、もっといえば中二病らしきクラン名がいいやら……それぞれの案の『いいところ』を連ねていく。

 特に幼女推しのトーマとマジムは女性二人(バウとリリア)に性癖を疑われてすらいた。それ程までに必死に良さを語っていた。グラードはリーダー愛が強いなと大口を開けて笑っていた。

「セルカ様は主力でありリーダーだ!いつか成長して大人の女性になるのは確実…だけど幼い容姿の頃から強かったということを……」

「そうです!よくわかってますねトーマさん!さすが従者!!」

 トーマは熱弁し、それを聞いたマジムが煽てる。次第に可愛い推しのリリア、かっこいい推しのライライ、中二病推しのバウも圧され始めた…。

 マジムが怖いというのも要因の一つである。どう考えても『この世界にある魔法と別物の力』を行使しているのだ。対処しようがない。神の使い魔なので当たり前であるが。

 と、いうことで。最終的には幼女感を全面的に押し出すべきだという意見が認められ、私の意見を完全無視したクラン名に決まった。

 因みに私の案は『種族関係無く仲良くするということを伝えやすいクラン名』だったが、考えつく気がしないとのことで全員に却下された。しかしグラードが「いい案だ」と頭を撫でながら褒めてくれて、私は大満足だった。


「では、これを承認する」

 記入を終えたクラン登録用紙を掲げたグラードがはっきりとした口調で告げた。竜人の言葉に呼応して光を放つ登録用紙は光となって消え、私たちそれぞれのギルドカードへと吸い込まれていった。

 確認すると、そこには新たに書き加えられた『クラン名』の欄が。私たちのクランが完成したのだ。

 その後私たちは解体された素材の半分ほどを換金し、貴重な部位や丈夫で汎用性の高い部位を手元に残した。

 軽く丈夫で珍しい素材は装備品以外にもたくさんの用途に溢れ、かつ魔物素材として随分と高い価値があるとかで、それを売った私たちのクランは大金持ちになったのであった。




 ギルドを後にすると、その私たちの後ろを気配を殺した存在が追尾していることに気が付いた。気になった私はバウに匂いで確認してもらったが、強くグラードの匂いが付いているとか。

 つまり彼が言っていた護衛なのだろう。早くも対応してくれたようである。匂いが強く付着しているのは私たちに危険じゃないとわからせるためだろう…。

 そのまま私たちは街を歩く。もう用事は済ませたしお腹も空いていないのであとは学院に帰るだけだったのだが。

「セルカさーん!」

 と叫びながら近寄ってくる影と、それに反応する護衛。私は護衛を制すように自ら声の主へ走り寄って声をかけた。

「良かった、新しい装備も買ったんだね」

 笑顔を向けられたその人物とは、トレント亜種に捕まっていた冒険者であった。新しく、そして以前の装備よりも上等とわかる装備品を身に纏い、生き生きとした表情を浮かべていた。

「セルカさんのおかげだよ。出処は聞かれたけど信じてもらえなさそうだったから、取り敢えず譲り受けた変異種のエルダートレント素材として買い取ってもらったんだけどさ、希少さから高値がついたんだよ……本当にありがとう」

 素直でまっすぐな感謝を受けて、私は気恥ずかしくも誇らしく感じた。仲間は宿屋にいるらしく彼ひとりだったが、皆感謝していたと伝えられて笑顔になった。予想以上の実入りに「いくらか返したい」と言う彼だが、私はそれを丁重にお断りした。

 様子を見ていた護衛も少し警戒を緩めたようだ。そうして人通りが少なめの商店街の隅で立ち止まり談笑しているうちに、私は一つ提案してみた。

「そうだ、恩返しかしたいなら…」

 そうして彼は仕事を与えられて笑顔で帰っていった。仕事内容は簡単だ。しかし私たちにとっては超重要!私たちのクラン戦の宣伝を頼んだのだった。私たちよりランクも高く古参らしき彼らの協力があれば、宣伝効果ばっちりだろう。

 報告のためかどこかに走り去った護衛を尻目に私たちは一息つく。やっと落ち着ける…。

 さあ帰ろう。明日からはまた勉強が忙しい。今日は授業が少なくて楽だったけれど、休日というわけでもない。

 がんばってもっと強くなろう。

 クラン『幼女守護団(ロリータガーディアン)』はこの日、主神フレイズの祝福を受けながら誕生したのだった。


 ちなみにルビはマジムの独断選考で、トーマが抱くものは幼女愛ではなく主人愛だと思われる。真実は彼等のみぞ知る…。

休日に更新して欲しいとの要望がいくつかあったため、更新を土曜日の零時に変更します。


ご意見・ご要望・誤字脱字報告など、気軽にしてください!

これからも楽しんで、そして楽しんでいただけるように執筆致しますので、『幼女転生』をよろしくお願いしますd('∀'*)

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[一言] 命名-幼女守護団••••マジ!!タイトルだけでも とある団体に強襲されそうなのに•••白兎さん逃げて〜
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