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第3話「この世界のこと」

今回は少し説明などが多くなっています。

読みにくいかもしれません(⌒-⌒; )

 ご飯を食べて満腹になった私は、自室に戻って記憶通りに勉強の準備をした。とはいっても、復習のために目を通す以外はただ教科書代わりの本と質の悪い紙、羽ペンを机に出すだけだが。

 準備ができた私はそわそわと先生を待つ。数学や理科は前世の知識とそう変わらないので問題無いが、地理歴史や魔法学などといったこの世界のことは私にとっては未知のこと。今日は先生にたくさん質問してたくさん知りたい。

「セルカ、入ってもいいかい」

 とんとん、と扉を叩く音がして、私は自ら迎えに行く。扉を開けて出迎えると、そこには少し驚いた表情(かお)の先生がいた。

 先生とはいったものの、彼は雇われた者ではない。

「おじい様、待ってたよ!今日はなんだかやる気があるから、待ち遠しかった」

 私は先生として部屋に来たエルフ……おじい様に抱きついて言った。

 彼は私の頭をぎこちなく撫でるが、正直セルカの記憶からするとあまり仲が良いとはいえないはず。驚かせてしまったかと見上げれば、彼は穏やかな表情で瞳を潤ませていた。

「セルカがいつになく笑顔で……」

 感激しているところ申し訳ないけれど、今はそれより勉強だ。笑顔くらい、これからいくらでも見せてあげるから。


 この日、おじい様はなんと私の為に今日の勉強予定を変えてまで質問タイムを設けてくれた。

 おじい様おじい様言ってるけれど彼の見た目は三十代後半くらい。だけど実際は百歳を超えていて、それでもエルフの中では若造だと言うのだから恐ろしい。

「貴族の階級は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、そして騎士爵がある。……それで合ってる?」

 私はまず、一番自信のある部分を訊いた。

 これは知ってなきゃこの世界の一部の国では生きていけないと思うし、前世でも少しは聞いたことがあったので。

 それに対しおじい様は笑顔で頷く。

「あっているよ」

 私はその言葉に心の中でほっとため息をついて、次の質問をした。

「私たちの国は魔法技術に特化した先進三国のひとつ、アズマ。そして残りの先進三国は商業のサーズ、武力と軍事力のノウスで合ってる?」

 また彼は首肯する。

 私はそこで一旦質問を止めて、正誤の確認出来た情報を頭の中で整理する。セルカの記憶ではこの周囲が曖昧で、魔法とある程度の体術、主神教の知識ばかりが明瞭だった。

 一応貴族であるのに地理に弱いとは。それが自分だと思えば至極残念な気持ちになるのは仕方ないことだろう。

 セルカの知識の偏りに違和感をおぼえ若干眉をひそめた私は、再び質問を始めた。

「魔法は詠唱が必要だけど、熟練者は無詠唱での発動が可能?それから……」


 私はそのまま数時間、勉強の時間が過ぎて自由時間になってからも質問を続けた。

 結果九割九分が正解で、色々なことがわかった。

 この世界には死界と人界があり、人間を中心とする種族は人界に住まうこと。そして死界にも人界にも迷宮(ダンジョン)があること。

 宗教はフレイズを信仰する主神教以外はあまり無いが、日本のように八百万(やおよろず)の神が全てにだのといった思想が浸透していること。ここら辺に関してはもっと深くまで知識があるように思う。

 魔法は生活魔法と補助魔法、通常魔法、そして通常魔法のうちの強力なものは伝説や絵物語に(ちな)んで戦術魔法とか古代魔法などと呼ばれることがある。

 おかあ様が使っていた料理を温める魔法はおとう様が改良して燃費の悪さが少し改善されてはいるようで、顔色が悪くなるのは得意属性ではないため。また皿などが熱くならないのは、魔法によって対象範囲が決められているから。

 エルフの平均寿命は千年程度だということ。

 この世界にはエルフ以外にも獣人や魔人、魔物が存在するが、一部の種族は他国では迫害されているものもいること。

 異世界系ラノベのテンプレートである、ギルドがあること。ギルドは冒険者ギルド、商業ギルドの二つがあり、殆どの人界の住民は冒険者ギルドに所属しているという。

 私はこの世界で生きていくのに必要な情報を大体取得し終えたあと、おじい様にお礼を言った。それですごく嬉しそうに顔をくしゃっとさせて笑うおじい様を見て、私はとても勉強にやり甲斐を感じた。

 ……神様が同じなので動植物や時間も地球とそう変わらず、ウサギとか人参とかあるし、一日は二十四時間、他も大体同じみたい。なんというか……地球に魔法(ファンタジー)要素を足して科学の発展を遅らせた感じ。

 この世界でも勉強は頑張ろう。


 少し遅れて自由時間にはいった私は、日が暮れるまで庭で遊んで良いと言われた為、庭に出ていた。しかし遊ぶつもりなど毛頭なく()()に適した場所を求めて庭である林を散策する。

 背には白に限りなく近いウサギのぬいぐるみ……にしか見えないリュックを背負って、服も動きやすいようにキュロットスカートに着替えた。私は鼻歌を歌いながら獣道を進む。

 花が咲き乱れ、色とりどりの果実が実り、様々な動植物の楽園となっているその林は、エルフの血が流れるエルヘイム騎士爵家によって完全に管理されている。

 繁殖し放題に見える草木も、リスやウサギのような小動物まで、全てが統治下にある。それはエルフの血ゆえの森林との親和性の高さのおかげである。

「リスさん……」

 私は木の細い枝の上を縦横無尽に動き回る軽業師(リス)を見て呟いた。かわいい。とてつもなくかわいい。

 かわいいものに目がない私は、ポーッと見惚れるようにリスを目で追った。

 リスはそんな私を全く警戒しないで、目の前にやってきた。

 背伸びして枝の近くに腕を伸ばすと、リスは小さく跳んで私の細い腕に飛び移った。恐る恐る撫でてみると、さらさらというよりはちょっとふわふわというかもさもさというか、そんな感触がした。

 もっと動物と触れ合いたい。

 私は欲望に逆らわず、腕にリスを乗せたまま林を進んだ。エルフの血に感謝。かわいい動物達と触れ合うことを想像すると、心が浮ついて足取りが軽くなった。


 私はぞろぞろと小動物を連れて林を歩いていた。度々警戒心の強い個体にも遭遇したが、元々よく来ていたこともあり、リュックから取り出したドライフルーツを与えればついてくるようになった。

 そろそろ目的地である「セルカの遊び場」に着くはずだった。少し開けた林の中の秘密の場所である。管理下に置かれているのでどうせみんな知っているだろうけど、秘密の場所だと思っておいた方が楽しいからそこは訂正しない。

「……ここ?ここかな?」

 私は綺麗な赤い果実の実る低木を掻き分けて、その広場に辿り着いた。

 キラキラと木漏れ日が照らす地面は万華鏡のように美しい。広場の中心は木の枝や葉の影になっておらず、陽光が暖かく降り注いでいる。私の後について来ていた動物達は広場を見るなり駆け出して、ふかふかの草花のベッドに寝転んで気持ち良さそうに目を細めた。

「私もちょっと……」

 私はリスと子鹿の間に寝転んだ。

 この「遊び場」はセルカの記憶より、もっともーっと綺麗な場所だった。妖精が住んでいそうな、幻想的で神秘的な場所だった。

 しかしセルカの記憶と変わらない部分もある。それは私が求めていたものだった。

 たくさんの花に紛れて呑気に風に揺られている、ギルドとエルフの一部が主に管理している花だ。名前は、「千変万花」という、まるでダジャレのような名前の花だった。名前はそんな巫山戯たようなものだが、その花自体は発見当初に滅茶苦茶騒がれて独占した国家が滅びたほどの代物だ。

 見た目はただの白いスズランで、自然に開花することはない。しかし手折って魔力を注げば開花する。その時の花弁の数は適合性を表し、色は魔力に秘められた属性を表す。その花の変化の種類は魔力を込めた者の才能によって千にも万にも及ぶ。

 つまりは、(ほのお)(みず)空色(かぜ)(しょくぶつ)茶色(じめん)(やみ)黄色(ひかり)()の全ての色の花が咲き、尚且つ花弁がマリーゴールドのように豊かならば、最高の魔法使いの才能があるということだ。

 私の目の前にあるそれも、魔力を注げば……。

 私はそっと手を伸ばし、千変万花に触れた。

 優しく茎を折ると、ふわりと不思議な香りが鼻腔をくすぐる。私は花を両手でしっかりと持ち、魔力を込めた。

「…………っ!!」

 花が咲く。

 全ての色が、美しく咲いている。

 一瞬喜ぶ私だったが「才能」なら全て持っていてもおかしくないし、エルフの血もあるし……当然かもしれない。調子に乗るのはよくない。

 問題は、花弁だ。

 私は生唾を飲み込み、花弁の数に注目する。ぱっと見で多く感じられるのは(みず)空色(かぜ)(しょくぶつ)茶色(じめん)黄色(ひかり)の五色だ。エルフの特性なのか緑と茶色の花弁は恐ろしく多く、それに反して赤…炎の花弁は三枚しか見られない。残りは平均的。

 そう思えば、これって意外とチートなのではないか?

 私は胸を高鳴らせる。しかし、すぐにあることに気付き、それから目が離せなくなってしまった。

「……なに、これ」

 それは茶色の、地面の適合性を表す花弁。なんと、ぱらぱらと花弁が散ってしまい、最終的には花弁の半分しか残らない結果となった。それでも他の花弁より遥かに多いのだが。

「どういうことだろう……前例は……?」

 私は眉をひそめて呟いた。そしてウサギリュックを肩からおろして中から分厚い本を取り出した。これはおとう様から貸してもらった「魔法入門」といういかにもな題名の本。千変万花のこともこれに載っていたので、探しに来たのだ。

 私は目次から千変万花についてのページにとんで、特例の記述されたページを見つけた。私はその中に自分と同じ例があることに安心し、その文字を食い入るように見つめた。

「魔力……一極化……?」

 思わず口から呟きがもれる。そのまま読み進める。

「その属性の適合性によって使える魔法が一つに定められる……」

 それってつまり、

「その使える魔法がわかるまで地面属性の魔法は使えない……ってことなの……?」

 そう思い至った私は、先ほどまでの高揚感が少し鎮まった。選択された魔法によっては炎よりも使えないのだと思えば、残念度がぐんっと上がる。それでも全く使えないよりはいいかなぁ?

 私は千変万花を少し見つめて、小さな声で「折っちゃってごめんね」と呟いてから地面に置いた。私の魔力できらきらと輝いている千変万花の花弁は、静かに風に揺れていた。

 私はその後すぐに、なんとも言えないもやもやを頭の中に残して家に帰った。

 思ったより長居してしまっていたようで、家に着いた頃には空は真っ暗。夕食の時間までは余裕があるけれど、何をしよう?




「おぉ、やったぁ!」

 果てのない闇に、声が響き渡る。声の主は駆け出して、空間を引き裂き、裂け目の向こうに広がる白に飛び込んだ。

「フレイズ様!雪音さ……セルカ様に魔法の才を授けたのですねっ!ありがとうございます!!」

 白い空間で、緑の少年……マジムが嬉々として目の前の白い男性に突っ込みながら感謝を述べた。

 しかし白い男性……フレイズはつんとしたままで、碌に反応しない。それ故にマジムは何度も「フレイズ様ーフレイズ様ぁー」とフレイズの肩を叩き、体を揺する。とうとうフレイズは折れて、返答をした。

「家出から帰って来て直ぐにソレとは……。そして、我に礼を言うのはおかしいぞ」

 その言葉に、マジムは目を点にする。フレイズはため息を吐いて、マジムに告げた。

「我はあの者に才能なんて授けていない。あの者の才能は生まれ持ったものだ」

「!!」

 マジムは目を輝かせて何か言おうとするが、言葉に詰まる。そしてにまにまと幸福そうな表情を浮かべて、それから少し元気のない声で言った。

「じゃあやっぱりフレイズ様と仲直りはできませんね」

 緑の少年はそれだけ言うと、白い空間に溶け込んで消えた。

 残されたフレイズは深いため息をついたのちに、自らの仕事……世界の調整を再開した。

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