第23話「クラスの特色」
転送された先は少し近未来的な雰囲気のある教室。魔法技術の発達により生まれた様々な物品があった。
私はその教室の一つの席に座っていた。見れば他の生徒も気付けば座っていたようで不思議そうにしている。トーマとバウを探してみると、彼等は私の両脇の席にそれぞれ腰掛けていた。右にトーマ、左にバウ、だ。私達の席は教室の左端の一番前に位置するみたい。
「よく来たな、生徒諸君。担任のナハト、人間だ」
教壇に気だるそうに立っているのは二十代くらいのこれといって特徴のない茶髪の男だった。少し偉そうな感じがするが、なんとなく警戒してしまうような雰囲気だった。彼は毛先が上に向いた短髪を一度撫で付けると言う。
「ここは一のAクラス……一つでも飛び抜けたステータスがあればここに集められる……一応年次代表クラスだ。一つ以外平凡な奴は苦労するから覚悟しておけー」
その言葉を聞いても私はどうとも思わなかったが、一部の生徒は心当たりがあるのか息を呑む。私は視線を巡らせ生徒の顔をちらりと見る。……そのせいで嫌なものを見てしまった。
離れた席にティルベルさんが座っていた。やっぱり従者はいないようで独りだが、ここにいるということはステータスが高いのだろう。厄介過ぎる。
先生はざわつく教室を見渡して満足気に頷くと手前の生徒を立たせる。
「自己紹介たーいむ」
気だるげに告げられたその言葉に、指名された男子生徒は慌てて言葉を紡ぎ出した。ナハト先生は許可を得てからその生徒のギルド証を黒板のようなボードに映し出す。生徒は急だったので緊張しているのか、度々言葉に詰まる。どうやら貴族ではないようで、知力に秀でた者らしい。
そのまま始まった自己紹介タイムは、それからはテンポよく進んだ。従者がいるものは従者も続けて紹介していた。席の位置の関係でティルベルさんより先に私たち三人の番がきた。私はトーマたちにも聞いてから、ナハト先生にギルド証を映すようにと頼んだ。
そのまま私は席を立ち後ろを向く。最前列なのだからこれくらいしないとね。
セルカ・エルヘイム
Lv:15
ランク:D
年齢:17歳 (+16)
種族:クォーターエルフ(銀の氏族)
職業:魔弓士(主人:トーマ)
HP:108/110
MP:392/392
筋力:56
魔力:179
体力:72
知力:80(+20)
敏捷力:74
運:113(+10)
《技》
初級魔法(炎:3、水:5、植物:5、風:5、光:5、
闇:4、無:6)
中級魔法(水:3、植物:3、風:4、光:4、闇:3、
無:4)
上級魔法(地面:10)
特殊魔法(空間:7)
弓術(魔弓:8、曲射:5)
短剣技(護身:8、対人:4、対魔:5)
《固有》
使い魔(知力:+20)
加護(運:+10)
親和
トーマ
Lv:14
ランク:D
年齢:17
種族:鬼人族(紅蓮)
職業:なし(奴隷:セルカ)
HP:230/230
MP:80/82
筋力:125(+140)
魔力:34
体力:76
知力:57
敏捷力:67
運:49
《技》
初級魔法(炎:3、光:5、闇:3、無:3)
暗殺技(魔刃:3、隠密:3)
剣技(護身:8、炎刀:5、纏雷:6)
解体:4
従者:10
《固有》
紅蓮の血(筋力:+Lv×10)
剣の才
バウ・フィスィフィサー
Lv:25
ランク:B
年齢:18
種族:獣人族(赤狼)
職業:狩人、治療士
HP:420/427
MP:250/250
筋力:90
体力:134
魔力:10
知力:82
敏捷力:103
運:147
《技》
弓術:10
短剣技:10
解体:10
特殊魔法(空間:2、魅了:4)
《固有》
教育者
虚弱
弱体(能力値半減)
忌目(能力値減少、魔力感知+10)
「私はセルカ・エルヘイム、今年で十八歳になります。クォーターエルフだということもあり魔力に自信があります。適性は……炎、水、植物、光、闇、無で、地面属性の魔法はクエイクに特化しています。よろしくお願いします」
「俺はセルカ様に仕えている奴隷……トーマです。見た通り鬼人族で、種族特性によって筋力値が高くなっています」
「僕はバウ・フィスィフィサー。赤狼族の獣人で、魔力感知が常に発動しているのね。少し前まではセルカちゃんの弓と短剣の師匠をしてたね〜。今は追い抜かれちゃったけどね」
バウだけ物凄い素で自己紹介をした。それはそれとして、トーマのステータス久しぶりに見たら気持ち悪いことになっているしバウは初めて見たけどレベル差が大きい。……そのはずなのに異常な程に能力が低い。固有欄にバッドステータスのようなものが目立っている。
眉をひそめながらボードに映されたステータスから視線を戻してクラスメイトを見ると、その殆どがボードに釘付けになっていた。
……魔力値は特に高いけど、知力と体力もレベル平均を大きく上回っているからだろうか。
「……ちょっといいかセルカ」
首を傾げる私に、ナハト先生が声をかける。私は振り向きながら「何ですか?」と言って、次の言葉を待った。
「使い魔って何だよ、見せてみろ」
「え、あ、いやぁ……いつの間にか……いたんですよ……」
マジムを喚べとのことらしい。私はあまり気は進まなかったが把握してもらうことも大切かと思い、それから喚ぶ方法がわからないことに気付き、取り敢えず名前を呼ぶことにする。
「マジム、来て」
するとその瞬間バウとトーマは私の両脇からサッと避けた。何故かと思い目を向けると、そこには既に巨大な手の手首から先が浮かんでいて、そのまま何かから私を守るように包み込んだ。来てくれたのはいいけど、この状態……手だけだと少し気味が悪いから人になってくれないかなぁと苦笑いをした。
マジムはそれをどうやら感じ取ったようで、キラキラと輝く粒子を撒き散らしながら形状を変えていき、すぐに緑髪の美少年が現れる。
「セルカ様、呼んでいただけて光栄です!」
マジムはそう言うと心底嬉しそうに破顔して、セルカを持ち上げて抱き締める。熱烈な抱擁に戸惑っていると、彼は私を床に下ろし、くるりと向きを変え、クラスメイトに顔を向ける。一瞬びくりと身体を震わせる生徒もいる程に魔力が濃い。
「はじめまして、セルカ様の使い魔……マジムと言います。種族は元はマンビースト、現在は未指定となっています」
マジムは美しい所作で礼をして、身体を数瞬だけ獣に寄せる。紹介を聞き終えたナハト先生は、マジムの体を三秒ほど見詰めてから頷く。私はマンビーストだと聞いたのは初めてだったので、覚えておこうと思った。
そんな中クラスメイトを見渡すと彼らの一部はマンビーストという言葉に聞き慣れないのか首を傾げていた。そこにすかさず先生が説明をする。
「えっと、マンビーストというのはなー、……あ、セルカたちはもう座ってくれよな……まぁ、獣人と何が違うのかって思うだろうけど、半人半獣の種族だ。獣人との違いは、姿を操作できるという点だ。先程のマジム……さんのを見てたからわかると思うが、獣に寄せるか人に寄せるか、はたまた獣や人になることも出来る」
マジムはその先生の説明に合わせて形状を変化させる。男子は憧れの目やちら見で済ませる者、女子では興味深そうに観察したり少し怖がっている様子の者もいた。
ナハト先生の言葉が途切れると、マジムは「用は済みましたね」と言って空気に溶け消え、私達は席に座ったまま次の人を待った。後ろの席の女の子は空気を察知して慌てて立ち上がり、自己紹介を始めた。
「私はティルベル・ベルリカ。魔力適性は炎が最適性であとは無属性と水属性以外は使える。魔力特化の魔導士型よ」
ティルベル・ベルリカ
Lv:13
ランク:A
年齢:17
種族:人族
職業:魔導士
HP:156/156
MP:290/302
筋力:40
体力:32
魔力:127
知力:83
敏捷力:59
運:94
《技》
初級魔法(炎:10、地面:4、植物:3、風:3、
光:5、闇:2)
中級魔法(炎:5、地面:2、風:1、光:3、闇:1)
上級魔法(炎:2)
特殊魔法(空間:1)
《固有》
獄炎(炎属性ダメージ上昇)
爆炎(炎属性魔法範囲×1.3)
トリックフレア(炎属性魔法操作×0.8)
炎の巫女(炎属性成長率上昇)
ティルベルは堂々と礼をしてみせる。彼女は私よりレベルが低いがなかなか異常な能力値だった。何より目立つのは炎に関する固有技能。これほどまでに揃っているのは滅多にないだろうと思われる。生まれてからこれまで、天才と言われてきた故の堂々たる態度なのだろうか。
そして、やはり彼女は従者を連れていないようで紹介はそれだけで終了した。ザワつく教室に、本日二度目の先生の質問が投げかけられた。
「ちょっといいか、ティルベル。その炎に特化した固有技能は先天性か後天性かわかるかー?」
先天性なら炎に愛されし者、迷宮で発掘されたアイテムなどを使用した結果ならば、ありふれたものとして見られる。もしそうでもそこまで集めたのは素晴らしいとは思うが……。
「私が知っている限り、炎の巫女だけは迷宮産の装備に触れたときから。他は先天性だと記憶している」
彼女はそれだけ言うと椅子に座り直した。教室内はザワつき、ベルリカ家に天才が生まれたという噂があった、娘は優れた魔導士だと聞いていた、などと言葉が交わされる。
私は自分の話がなくなったことに密かに安堵し、それからティルベルさんに視線を向け、見なかったことにする。彼女が何だかこちらを怨念のこもったような目で見つめていたような気がしたのだ。そんなはずはないのだけれど。
そのまま次の生徒がステータス差に絶望した表情で自己紹介をし、自己紹介タイムはあっという間に終わった。
私はクラスメイトを一人一人忘れないようにと頭の中で名前と見た目の照合をした。記憶力には自信があったし、ちゃんと全員の名前と顔を憶えたはずだ。
「あーっと、今日は授業はない。院内案内図を配布するから、最低限チェックされた場所をまわってほしい。昼になったら食堂でうまい飯が安く食えるぞ〜。それまで院内を散策して迷子にならないようにしっかり覚えろよー」
ナハト先生はそれだけ告げると小さな使役虫を使って生徒全員に腕輪を配る。じーっと観察してから装着すると、魔力で構成されたウィンドウが目の前に浮かび上がった。感嘆の声をあげる生徒に、ナハト先生が腕を組んで言う。
「それは授業でも使うし通行証にもなるから常に持っておけ。学院生割引とかもこの腕輪があればしてもらえるぞー。色んな機能があるから見てくれよ」
それを聞いた私は早速機能一覧を開いた。ずらりと並ぶ機能の殆どはメモやら図書館内の課題用資料の案内、クラスLINEのようなチャットといった学校用の機能だった。それらが並ぶ下に、目覚ましや魔力貯蔵、持ち物一覧といった日常や探索に活用できそうなものが。
私はふと気になって持ち物一覧を開くが、そこは空欄で首を傾げる。するとすぐに小さなウィンドウが浮かんで『特殊魔法・空間・異空間収納と連携をとりますか?』と表示される。私は迷わず連携を選ぶ。
同時に質問ウィンドウは消え、持ち物一覧のウィンドウ内が文字に満たされる。武器、洗面用品、回復アイテムなどの異空間収納に入れてあるものが整頓されていた。
「便利……」
無意識にそう呟く。おかげでわからなかった飾り弓とそれのセットの短剣、りぼんおねえさんに作ってもらった盾の名称がわかった。
『女神の天弓』『女神の短剣』『剛竜王の賜盾』……なんとも言えない。そのままといえばそのままだが、剛竜王ということはあの時の優しい竜種は剛竜の王だったのだろうか。すごいなぁ。
私は持ち物を確認してからウィンドウを一つ前に戻し、他の機能を見ていく。……あった、院内案内図だ。
私は案内図を選択し、新しいウィンドウが構築されるのを眺める。すぐに現在位置が現れ、そこから地図が広がっていった。目的地を設定すればそこまでの案内もしてくれるようだ。現在は室内演習場、入学式が行われたホール、野外演習場、管理迷宮といった場所が目的地に設定されていた。
ここに行けばいいのか……私はさっと案内図を確認すると動き出した一部の生徒と同じように教室の前のドアから出ていった。幸い昼まではまだまだ時間がある。散策して、色々確認しよう。
ティルベルのランクに矛盾があったため、修正しました。