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第21話「学院ってなんだっけ」

投稿予約を忘れてました…!

 いつも通りの朝。しかしこの部屋で朝を迎えることは今日を境に殆ど無くなるだろう。始まったばかりの一日だが、新しい事が沢山の楽しい一日になりそうな予感がしていた。

「いってきまーす!!」

 元気な声とともに私は家を出た。外ではおにい様と、そしてトーマたちがそれぞれの馴れた馬の手綱を持って待っていた。おにい様はちょうど学院近くの魔境に用事があるからだと何度も念を押して言っていたが、私のことを待ってくれていたようだ。

 くすりと笑いながら、私はバウの元へ向かう。一番一緒に居る事が多く私以外で唯一の女性なので、私は密かに同乗することを決めていたのだ。

 迷いなくバウを選んだ私を見ておにい様は目を逸らしトーマは悔しそうに……怨念のこもっていそうな視線をバウに向けていた。一緒がよかったのかなぁ。

 そんなこともありつつ、私達は国立総合学院ルーンに向けて出発した。




「おにい様、まだかな?」

「あぁ」

 私は早くも疲れていた。王都ではなくもう少し離れた場所にあるなんて聞いてない。いや、聞かなかった自分が悪いけれど……国立総合学院なんて言われたら王都にありそうなイメージだから。

 実のところ、学院は一般階級の人も貴族もほぼ全員が寮に入る理由としてそれがあるらしい。まだ王都に近いとはいえ、毎日歩いたり馬車で行くには辛い道のりだ。

 王都から南に位置するエルヘイム領、そこから王都を挟んで反対側にある国立総合学院ルーン。

 王都は迂回するので遠回りになるし長いこと乗馬してるとお尻が痛くなるしで体力の消耗が激しい。森を駆け回ることには慣れているから平気だけれど、慣れていないことだとすぐ限界になる。

 ……実はまだ十分も経ってないけど。


 それから休憩を交えながら三時間弱。王都の外周の広さにうんざりしながらも着いた国立総合学院ルーン!……そのはずだが、その外観は私の予想だにしないものだった。

「街?」

「セルカ、これが国立総合学院ルーンなんだよ」

「……意味わかんない……」

 外壁に囲まれた様子は王都の縮小版のよう。見たところ、王城よりも大きい建物とその周りに空間があって、それらを包み込むように壁が造られているようだ。

 しかしその空間に何があるかは見てからのお楽しみだろう。私は馬から降りるとバウとトーマを連れて門に近付く。するとおにい様が言った。

「俺も一応保護者枠で受け付けるからなー」

 私は彼に適当な返事をして、そのまま歩いた。なんだか初めての面子だけど、それよりもトーマの足音が無くて居るか不安になる。こんな奴だったっけ。

 そのまま無事に受け付けを終えた私達は外壁の内側に入り、私はまた気の抜けるような声を上げた。

「街……?」

「いや、だから……」

 律儀にもう一度教えてくれるおにい様だが、信じられなかった。どう見ても街だ。学院の建物を王城に見立てるとここはさながら城下町。

 私は周りを歩く人々を見て驚き、それから露天商を見て驚き、今度は冒険者を見て驚く。街じゃん。ただの街じゃん。

 来る場所を間違えてはいないかと不安になりながらも、私は兄と従者を引き連れて学院へ続く一本道を進んだ。バウは物珍しそうにあちこちに視線を注ぎ、卒業者であるおにい様は懐かしそうにして、トーマは……あ、いたんだ……。

 学院に着けば、玄関に入ってすぐのところに受付があった。六ヶ所並んだ受付には、それぞれ二、三人程が並んでいて、混んでいる時間に来ちゃったかなぁと苦笑い。

 玄関といってもここにあるのは汚れ落としの魔法陣だけ。私達はそのままそっと一番人が少ない列に並んで順番を待つことにした。

「セルカ、預かってた物があるんだ」

「なーに?」

 その中で、おにい様は私に話しかける。彼は私に笑顔を向けると異空間収納からソレを取り出した。それはキラキラと輝く宝石のような盾。なんだか見覚えが……。

「あっ」

  私は考え込み、それから答えを導き出すと思わず声を出す。それは修行を始める前にりぼんおねえさんに頼んでいた竜種の鱗の加工品ではないか、と。

「ありがとう」

 と告げて受け取ると、それはやはり自分の為に作られたのだとわかる。ピッタリとフィットするし、何故か重さをあまり感じない。持ちやすく、私でも扱える……何より神秘的で素敵な盾だった。

 私は盾を異空間収納に納めて、こみ上げてくる喜びに表情を弛緩させた。


「次の方は……」

 程なくして、自分たちの番が来る。受付の人は淡々と一人一人のギルド証を確認していって、用紙に丸を書き込んだ。最後にギルドカードの職業欄に(学生:国立総合学院ルーン)と上書きをして、私達は廊下を進むようにとジェスチャーで示される。次がつかえているので早く立ち去ろう。

 促されるままに進んだ廊下の先には生徒控室と保護者控室があり、私達はおにい様と分かれることになった。おにい様は優しい笑顔で手を振り、私はにっこりと笑みを深めた。

 そして私は緊張を一ミリも感じない中控室に入り、その中を見る。そこにはずらーっと椅子が並び、そこに座っているものも居れば立っている者もいた。十五、六歳の男女が、聞いていた通りに種族階級関係なく集まっていた。

 彼らは扉の音に一瞬こちらを見るとすぐに元の位置に視線を戻し、知り合いと居るものは談笑に戻る。しかし一部の人はこちらを二度見して、そのまま何も言わずに凝視するので少し居心地が悪い。

 言いたいことは大体わかる。年齢が基準に達していないお子様が入ってきたとでも思っているのだろう。もしくは私がトーマかバウの従者だと思っているのかも。どちらにせよ気にしたって意味の無い視線なので放置すると決め込んだ。

 すぐに見られている感覚も無くなり、生徒達は少しずつ交流を始めた。恐らく入学式の開式までのあと十数分程度はこれで潰れるのだろう。私は欠伸を噛み殺して近くにあった椅子に座る。

 私は何を話そうかと考えながら、右隣に腰を下ろしたトーマに声をかけた。

「トーマ、ちゃんと話すのって久しぶりだね」

 同時にチラリと顔色を伺えば、多少の緊張が感じ取れた。彼は頷くと口を開く。

「本当に久しぶりですね」

「」

 それを聞いた私は彼の口から敬語が出たことに驚いて言葉を失う。それから物凄い違和感に襲われてタメ口に戻すようにと指示した。

 私はこほんと咳払いをすると仕切り直し会話を続けた。

「それにしても、足音が全然聞こえなかったからビックリしたよ」

「だろ?でもな、ロウェン師匠は……」

 ロウェンを尊敬しているのか、トーマは目を輝かせながらロウェンの話をした。さり気なく自分が褒められたことなども交えて話していて、あんまり変わってないのかも、と安心した。

 そうして暫く話していると、不意に私の肩が叩かれた。思わず振り向くと、そこには貴族らしき女性が立っていた。ブロンドヘアーを頭の後ろで結わえ、前髪は横に流している。彼女は険しい表情のまま口を開いた。嫌な予感。

「奴隷が主人にタメ口を使うんだな」

 予感は的中し、貴族様は私を少し睨む。教育がなってないとでも言いたいのだろうか、彼女の視線に耐えているとトーマが口を開いた。

「それのどこが悪いのでしょうか?」

 一応貴族らしいということでの敬語だろう、彼はご機嫌を取るような微笑みを浮かべて貴族様に問う。声には少し怒気を孕んでいた。

 私はハラハラしながら事の顛末を見守る。貴族様はなかなか口を開かないが、発言したトーマの方をチラリと見るとすぐに私に視線を移す。つまりどうしても私に文句があるというわけだ。

 どうしようかと悩む。上の位だったらちょっと困るし、善意の発言なら申し訳ない。口論に発展しないようにどうにか収めなければならない。

 思案する私、静かに怒りを滾らせるトーマ、あまり心配していなさそうなバウ。私達は貴族様の行動を待った。その雰囲気を感じ取ったのか、貴族様は私を指差しながら声を高くして言った。

「どうせ中身は自分の方が歳上だからって侮っているのだろう。私は……この礼儀のなっていない年増奴隷にしっかりと躾をして欲しいと訴える!!」

 その声は存外に大きくて、控室にいたほぼ全員の視線が集まった。貴族様は余程地位が高いのか誰も何も言わないが、私は笑いを堪えるので精一杯になっていた。

 彼女は私が奴隷だと思っている。

 私は今すぐ訂正するのもつまらないと思い何を返そうかと迷ったが、そのとき丁度いいタイミングで入学式会場である大ホールへの入場アナウンスが流れた。

 そのまま私は自分の名前が書かれた場所に並び、すぐに私と貴族様の距離は離れ見えなくなる。「ど、奴隷っ、無視は良くない!!」とか言うのが聞こえたけれど……聞こえなーい。

 そんなことより入学式が始まる。日本と同じようにお偉いさんの祝辞とか長いのが入るのかな。それともささっと終わっちゃうのかな。用意された席に座りながら、考えた。


『開式、これより入学者の名簿を読み上げる』


 ……なんと司会によって挨拶もなく開式が告げられた。そのままノンストップで名簿読み上げが始まり、私はすぐ終わるやつなのかな、と身体の力を抜いた。

 聞いたことがあるような貴族の名前が多く、それから奴隷や従者の名前が読み上げられないことに気付いた私は「バレちゃうか」と思いながら自分が呼ばれるのを待った。順番に読まれているのでもうすぐだが……。

「セルカ・エルヘイム」

 おお、読まれた。

 私はちょっとした感動を味わい、しかし返事はしない。皆してないからする訳ないでしょ。そうしてそのまま全員の名前が読み上げられて、三秒ほどの静寂がホールを埋める。しかしすぐに司会が言葉を発した。

『生徒代表挨拶』

「はい」

 声の主は挨拶とともに立ち上がる。緊張を微塵も感じさせない力強く自信に満ち溢れたその声を聞いた私は、思わず耳を疑った。なんと、壇上に上がり姿勢よく礼をした者は先ほどの勘違い貴族様だったのだ。

 彼女はポニーテールをサラリと流し、拡声の魔法を掛けられた状態で挨拶を始めた。

『今日から私達は国立総合学院ルーンの生徒です。生徒である以上は皆平等。地位関係なく人々と接し、ここでしかできない経験を積みましょう。二年次生三年次生の皆様も、先輩として助言や指導を宜しくお願いします』

 ありきたりだが堂々とした様子は好印象だろう、と感じた。でもはっきり言って相手を知らずに奴隷扱いするのはどうかと思う。

 私は「関わりたくないなぁ」と思いながら小さく欠伸を洩らし、貴族様の後に行われる校長の挨拶に意識を向ける。校長は若々しいエルフで、しかし魔力の質が異常に良く、見ただけでやり手だと判る。まあ、おじい様よりは弱い。

『こんにちは、皆さん。もう姿勢を崩していいよ。ここまでで「真面目」なイメージを抱いた人もいるだろうけど、ここはそんなお堅い場所じゃないんだ』

 砕けた話し方の校長に数瞬ざわめきが起きたが、それはすぐに収まった。同時に話を再開する校長は、新入生を見て、微笑んだ。

『ここは学院という名の街!君たちは今日からルーンの住民さ!これをもって入学式は閉式として、これから歓迎パーティーを始めるよ』

 校長がホールの床に魔力を送ると隠れていた魔法陣が発動し、一瞬にして『幻惑』だった入学式会場が消し飛ばされる。同時にそこはたくさんのテーブルに食事が並べられたホールへと早変わり。

 ぽかーんと放心している新入生一同に、校長は一言添えた。

『先輩たちは、大食いだよ』

 その一言と同時に新入生は一斉に後ろを向く。もちろん私も振り向いたが、そこでは各々の好みの料理を取り分けて食べ始める先輩方が。料理を持って新入生に渡していく先輩も結構いる。

 私は既に行動を始めていた新入生に続いて席を立つ。料理も気になるけどおにい様と、別口で来ているはずのおじい様を見つけたかった。

 大魔法使いの称号を獲ているから、来賓席辺りにいるのかな……。

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