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第194話「叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。」

 全員がミコトの傍に転移できるように仕込むという大胆な策。大地神を解放するために協力を約束した神以外も、いざというとき……ミコトが負けそうになったときには助力する手筈になっていた。

 それ故に、私はさらに勢いづく。周囲の敵の排除に動く神も、私の足場になる神も、たくさんいる。それだけでなく、一度踏み台になった者も倒れぬ限りは何度も転移して私の道を作ろうとする。

 大地神に連なる位をもつ神々は特にその傾向が顕著で、マジム自体に忠誠を誓っている者はほとんど居なくても、大地神という神位に立ちその力を十全に扱うことのできる実力者であるという点と、大地神を愚弄しているともとれる女神フレイズの行いに怒っている者が多い。

 大地神の眷属には植物に関連する神や地形の名を持つ神がいて、それらは皆空中戦に長けているわけではないが、神に上り詰めるほどの力をもつため、足場となり、踏み台となり、道となることに問題は無かった。

「『どうか……死なないで』!!」

 私は不完全な固有技能を発動させて、せめて少しでも彼らの力になれないかと能力強化をはかる。それはセルカの本物(オリジナル)には届かないが発動条件の緩さらは想像もつかないような支援効果を発揮する。

 天使の声。翼もなく、飛行魔術では速度が足りず、その結果跳躍という選択をとった私には似合わないが……その固有技能は(わたしたち)だけが扱える(わたしたち)のための力。

「『大丈夫、マジムはかえってくる』!!」

 私は自身を鼓舞するように叫んだ。支援対象を深く考えずに響かせた天使の声は、私の身体にあたたかな祝福を……そしてずっと遠くに煌めく、白に囚われたマジムを包む。

 その白に負けない光が道標のように、私にゴールを示した。絶対に迷わない。

 そしてその魔力高は仲間にとっても敵にとっても感知しやすいものだったようで、敵はマジムの存在を知らなかったかのように動揺し、味方は私の道を確保しようと前に出た。

 その一瞬の差が、神同士の争いでは大きな差となる。


 花道をつくるように並んだ神々は、私とマジムまでの道となる。元々私をマークしていた味方たちは迷いなく転移して、一斉に動くことが出来たのだ。地上にて武器を振るっていたトーマたちもこれを機に転移してきたようで、私は奥歯を噛み締めてさらに一歩踏み込んだ。

 私が通り過ぎた直後に防御が崩れて、背後に敵が雪崩込む。それでも前に突き進み、追いつかれないように意識も前だけに向ける。

 敵対者だけを狙って撃ち落とされる巨大な水塊は、スイと大海神の眷属たちの力。それで体勢を僅かにでも崩した神がいれば、今度は膂力に自信のある岩石神や渦潮神などがそれらを地面に向かって叩き落とし、少しでも長く地上に縛りつけようとして植物魔法が荒れ狂う。

 地上にほど近い空で味方に向けて剣舞を舞うのはアンネ。彼女の炎魔法の強化に特化した支援は、彼女頭上に並ぶ炎属性をもつベルや神々の砲撃を更に凶悪な威力へと昇華させる。

 明らかにヒトとかけ離れた外見の神々が道を作る区域にて敵の猛攻を防ぐリリアは、小さな身体と剛竜王の守護を使いこなし、手の届く範囲の味方を護衛する。彼女が対処しきれない範囲攻撃には鉱石の名を冠する神々が一斉に動いていた。

 半ば乱戦のようになったその区画では、リリア以外にも小さい身体を持つものが大量にいて……それらを指揮する少年(ライライ)はリーチの短さから乱戦に混ざっているが、無限に生み出される粘液に塗れた触手は神々の協力で強化され、強固な壁となり私の道を保護する。

 大部分が水に包まれた場所は、それこそ海を切り取ってその場に喚び出したかのように範囲が広く、またその水は淡水でない。水中は大海神ウィーゼルや荒波神アルフレッド、深海神アルステラを筆頭とする神々によって形成され、その水面は総て侵入者を排除しようと蠢く。空色の獣が幾つも飛び込むが、肝心の天空神は別の場所にいるようで大海神の力の及ぶこの場では海に喰らわれるのみ。

 私たちの、作戦通りの猛攻。

 相手方は、異物である私を殺すという目的ははっきりとしていたものの、マジムが寝返ったわけでもなく本当に囚われていることを全員が知ってはいなかったようで、ごく一部は動きが鈍っていた。

 ただ、私を殺すことに固執している……とは言い過ぎかもしれないが、私を殺したい神々は大地神がここにいることなど些末なことだと考えているのか、迷いがない。

 私はいくらか身体に刻まれた傷を、そこから溢れた血を、痛みまで置き去りにするように天を駆け続ける。不意に私を包む光が怪我を癒し、それと同時に私はライライとリリアがいる乱戦区画を超えて、水のトンネルに突入した。

 そこにいられるのはほんの少しの間だけ。それでも堅牢な守護に包まれた場所は私の心を落ち着かせるには十分な効果を発揮する。憔悴が遠ざかる。背後にいた敵の気配も一気に遠くなり、そして私はトンネルの半ばを過ぎた頃にウィーゼルとすれ違った。

「このまま、『海』ごと突っ込むよ」

 そう告げたウィーゼルはトンネルの出口を指差していた。真っ直ぐ降り注ぐ白光は、視界を僅かに歪めた。

 その先ににいるマジムの姿と気配に、私は歩みを早める。その足裏を押し上げるように水が動き、その水流に押し出され……私は水のトンネルを抜けた。

 まだ、遠い。でも、声は届く。

「『マジム!!セルカのことを忘れちゃったなんてこと、ないよねぇ!?』」

 私は腹の底から、天使の声で、叫んだ。

「『ご主人様がつらいときに遠くにいるとか、恥ずかしくないの!?!?』」

 私の姿で言うとなかなか滑稽だが……本心だ。

「『独り言やめて!ちゃんと目ぇ開けて!!』」

 叫びながら再度の跳躍。このとき、私はきっと、足場になってくれた神を過去最高の威力で蹴飛ばした。

「『こっち見て!!!!』」


 叫ぶ間にも縮まる距離。増える神の死体、退場者。私は全身全霊をかけて叫ぶ。絶叫する。『海』が追いすがり護衛のように私の周囲に展開されようとするが、とうとう天空神の領域に踏み込んだのか先程までと様子が違う。私は目の前に立ち塞がる者を斬り捨てる。海と(そら)が喰らい合う。私は速度を落としながら、本能的に触れてはならない空間を躱す。それでも空色の獣は服を裂き、肌を掠める。熱が零れる。

 いつの間にか道となるために転移してくる神の数も減り、私は段々と大海神が創造する足場頼りになっていった。

 そして私は次の足場に爪先をかけて、そのときの、ほんの一瞬停止しただけの間に、

「っぁ、」

 足首から下をもっていかれた。




 ……それでも動きは止められない。

 私の脚の断面は爪先をかけていた足場には届かなかったが、防御をすり抜けられたことに気付いたウィーゼルの海が背中を押し上げた。突き上げられるように上に跳び上がった私の身体は数瞬だけバランスを崩すが、追撃はない。私はまだ熱と体液を放出する断面で仲間の背中を踏み付けた。

 焼けるような痛みが意識を支配する。両陣営ともに脱落者が増えてきていて、脚の再生もこれまでの傷と比べると遅れているように感じられる。だが片脚……次に踏み出す脚を集中的に回復させたようで、次は全力で、足のバネを使って跳ぶ。

 当然裸足だが、強化された脚力に翳りはなかった。

「『マジム』」

 食いしばった歯、その奥。喉が鳴るような……そんな呼びかけ。近付けば近付くほどにマジムの虚ろな目がはっきりと視認されて心苦しい。記憶と違う姿。

 ぴくりとも反応しない彼に、私は、もう一度叫んだ。

「『使い魔が、今、寝てる場合か!!』」

 足掻く。

 背後で爆発するような神力のぶつかり合いがあり、体が傾く。ウィーゼルの余裕がなくなって、足場が歪む。天空神の猛攻も止む。自分の速度も落ちる。

 私が扱う『天使の声』は……

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