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第19.5話「鬼と人族とクォーター」★

ちょっと筆休め。

短めです。

 セルカ様の家族に快く迎えられた翌日の朝食後、俺はルームメイトとなったバウに連れられて不気味な執事ロウェンの元に辿り着いた。神出鬼没そのものである彼はいつの間にか眼前に現れていて心臓が口から飛び出しそうになったが、慣れるしかないと腹を括った。

「トーマくん、君はロウェン爺さんの下でセルカちゃんの立派な『執事』になれるように訓練をするんだね」

 さも当然のように言ったバウは俺の元を離れて、セルカ様との訓練に向かった。セルカ様の要望により自由時間は殆ど無くなり勉強と訓練に充てられたとのことだが、急に生活リズムを変えて体を壊してしまわないかと心配になった。……主人が死んだら路頭に迷うからな。

 それは兎も角、俺はロウェンと二人きりで部屋に立っている。この状況は理解し難い。俺はむしろ執事の仕事なんかよりもセルカ様と共に戦い方を学びたかった。


 ……そう考えたのも、俺が自分のなるべき姿を知らなかったからだった。




「師匠、対象は」

「甘い。わたくしが配置した数は八つ、トーマ殿は六体のみの撃破。これでは敵を取り逃してしまいますぞ」

「わかった、殺す」

 ロウェンとの訓練は、俺の中の『執事』の定義が崩れ去る程の過酷なものだった。初めのうちはお茶やら礼やらといった作法、身の回りの世話の練習が中心で「やっぱりか」と落胆したものだった。

 だが、それらに慣れていくうちに『執事』と関係無いように思えるような訓練が度々交えられるようになり、そのまま増え、今ではメインの訓練内容は偵察、密偵、探索、地形記憶、それから戦闘訓練などに変わっていった。ここまでくると意味が分からない。執事って何だよ。

 驚きながらも流されて訓練を続けるうちに得手不得手がハッキリと分かれ始め、沢山の実戦経験も積んだ。訓練もロウェンの仕事に付き添いながらになり、エルヘイム家の使用人制服を着れば執事たちに混ざっても違和感がない程になれた。……流石に肌の色でバレるか?

 今日はロウェンの操る密偵を模した土塊傀儡を相手に訓練をしていた。魔力感知で見分けることを禁止された中で、森の魔物に紛れた傀儡を見つけ出し破壊する……これは殺人のための訓練。

 俺は森の中を駆ける。無音とまではいかないが、殆ど足音や息遣いなどが聞こえないように心掛ける。森の中では俺の赤い肌も制服も目立つが、視界に入らなければ良い。

 俺は視界の端に映った傀儡目掛けて走る。一直線にではなく、もし見つかっていたとしても相手を惑わせるように出鱈目なルートを進む。気付かれず、一撃で屠ることが求められる『執事』。背後をとらねば傀儡は逃げる。

 傀儡の背後にある茂みを飛び越えて、僅かな音を立てて着地する。振り抜かれたダガーは土がこびり付き、刀身は鈍い光を発していた。首に配置された核を壊された傀儡は地面へと還り、俺は最後の対象を探し始める。そんな俺の後頭部に優しめのチョップが当てられた。

「時間切れ」

 同時に聞こえたバリトンボイスに安堵して足を止めると目の前にロウェンが現れた。時間制限があるのなら先に伝えて欲しかったが、実戦を想定したのなら丁度いいか……。

 しかしまぁ、予想はしていたことだが間に合わなかったようだ。まだまだだということなのだろう。俺は肩の力を抜いて腕をぐるぐる回した。疲れた。

 また明日、ロウェンの仕事を見て学ぼう。セルカ様も頑張っているみたいだし、負けないように努力しなければ。負けたくない。特にあんな幼い見た目の女になんて、負けていられない。負けてたまるか。


 ロウェンは魔法国家アズマの元王室執事。歳が歳だからと一定の額の生活費を与えられ解雇されたそうだ。その後全ての所持金を孤児院に寄付し、彼が訪れたのは人が集まりにくいエルヘイム領。

 エルヘイム領は魔境を含み、それ故に強者が集まる領地。ロウェンが自らの後継者を養うにはもってこいの場所だったという。


「良い眼だ」

 ロウェンは呟いた。

 思っていたよりも上達の早い子供だと、祖父のような目線になって感心していた。才気溢れるこの子供は、自分よりも高みを目指す眼をしていた。

 過去の弟子は数年かかって漸く三体を時間内に見つけられる者や、良くても一年で六体を撃破するような成績だった。トーマ殿は子供らしくない、常人離れした筋力を有している。それをどれだけ伸ばせるか、それがわたくしの最期の課題になりましょう。




『善き主人は(しもべ)を案じた。善き(しもべ)は先立つだろう』

 私は一人、思い浮かべていた。契約の際に詠んだ日本語で書かれた言葉を思い出していた。

 奴隷総てに与えられた神の文言は全てこのような言葉なのだろうか。全てが意味のある文章だとは限らないのだろうか。どちらにせよ、私はトーマを最後まで生かすつもりでいた。

 強くなれば死なない。強ければ大切なものを失うこともきっとない。だから私はトーマより強く在りたい。性別だとか関係無く、ただ強く、そして何よりもトーマを屈服させてやる。もう少し上下関係をはっきり明確化しないと。

 私はそこまで考えると休憩を終えて立ち上がる。さぁ、今日も強くなろう!

挿絵(By みてみん)


セルカとトーマです。

活動報告には既に載せたのですが、あまり見ないと思ったのでここに入れました!

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