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第2話「新天地で頑張るぞー」★

ちょっとスランプ陥りかけたりしたので文章わかりにくいかも( ;´Д`)

 私は気付くと誰かの腕の中にいた。見たことのない顔に、知らないけれど何故か安心する陽溜まりの香りがした。その「誰か」は泣いている。どうして泣いているのだろう。

 唐突に不思議なことがありすぎて、頭の中が混乱していた。

「……!…………!!」

 うっすらとしか聞こえない声に、私は反応する事もままならない。……私は誰だ。曖昧な記憶が不安を加速させる。

「……ルカ!……セルカ!!」

 声がはっきりと聞こえた。

 ()()()()()声が、心配そうに()の名前を呼んだ。ああ、そうか。

 意識がハッキリとして、視界が明瞭に、聴覚が正常に戻る。ついでに混乱してぐちゃぐちゃになっていた記憶も安定してきた。それは、セルカの生きた十数年間の思い出。私の思い出。

 私は重い瞼を開けて、呼んだ。

「おかあ様……」

 フレイズの言っていた、自我の発現を遅らせるという言葉の意味を漸く呑み込むことができた。そして、発現後に急に性格が変わったりして怪しまれることの無いように、この様な形をとったということも理解できた。

 セルカは……私は暴れ馬に蹴られて重体に陥っている状態だった。




 次に目を覚ましたのは、シンプルで清潔感のある部屋だった。ここが恐らくこの世界の病院……治療院だ。

 治療に使うであろう器具や薬草、乾燥させた臓物が所狭しと並べられた棚に、沢山の治療法が記述されているだろう手記や治療のための回復魔法の魔法書が積まれたデスク。間違えようもなかった。

 そして私が部屋を見回し、セルカの記憶にも無いようなこの場所に興味を示しているうちに、人の話し声が聞こえてきた。おかあ様の声も聞こえる。

「おかあ様!」

 私がおかあ様を呼ぶ声は少し舌ったらずだった。

 なんだか恥ずかしい気持ちになるが、この身体だと仕方がないだろう。

 愛しの我が子の呼び声を聞きつけたおかあ様が走り出したのか、「シルリア様!走られては困ります!」と困ったような初老の男の声が響いた。

 すぐに扉が開く。

 そこには息を切らしたおかあ様の姿。艶やかな青髪を振り乱し、目に涙を溜めて、彼女はそこにいた。なんだか、とっても愛されているように感じて、気恥ずかしく、しかしとても嬉しくむず痒い気持ちになった。

「セルカ!体は痛くないかしら、異常はないかしら?」

 おかあ様は私をギュッと抱き締めて、頭を撫でながら質問責めにしてくる。私は確りと抱き締め返し、平気だと伝える。おかあ様は私の髪に顔をうずめ、安堵の吐息を漏らした。

 その様子を扉の手前から見守っているのは白髪交じりの男性で、おそらく先程の注意するような声の主だろう。彼は目尻に浮かんだ涙を拭い、感無量の表情だ。

「今回は奇跡が起こりました。シルリア様の御息女は一度魂の煌めきが喪われていたのです。それなのに、彼女は驚異的な生命力で再び貴女のもとにかえったのです。天命の神フレイズ様のお導きに感謝を。」

 男性は微笑みながら神に祈りを捧げるように手指を組み、閉眼する。おかあ様はそれに倣って祈りを捧げる。私も二人に続いてお祈りした。

 フレイズはそれだけ善い神様なのだろう。


 お祈りを終えると、私は綿で出来た服を淡い桃色のワンピースに着替えてから、おかあ様に連れられて治療院を発った。

 もう少し治療院のおじさんと話したかったけれど、騎士爵といえど貴族がいる状態では他の患者さんが落ち着かないとおかあ様から説明されて納得した。

 私はおかあ様と一緒に治療院の前に待ち構えていた装飾の乏しい馬車に乗り込んで「お家」に向かった。




 馬車の中、私は自分の手をじっと見つめた。白くやわく、若さを感じさせる幼い手指。これが自分だと思うと改めて不思議に思う。

 今、私の頭の中には()のことが浮かんでいた。

 セルカはグラス・エルヘイム……おとう様を当主とする騎士爵の第二子だった。エルヘイムの一族は当代より始まる、おとう様が武勲を上げて与えられた爵位をもつ新米の低級貴族だった。

 おとう様は高貴な銀の氏族のエルフと人間のハーフ故に優れた魔法技術を持ち、それだけでなく努力の結晶ともいえる洗練された剣術、乗馬術を持つ、とっても凄い方。

 私はそんな父を持つ為、クオーターエルフなのだが、おとう様よりもエルフとしての特徴が目立っていた。

 先が尖った耳はおとう様よりも短いが、銀の氏族の特徴として有名な銀髪は純粋な銀の氏族のエルフにも見劣りしない美しさ。おとう様は黒い瞳だけれど、私の瞳は焦げ茶色で光に当たればおじい様(純血のエルフ)のように深い赤に輝くのだ。

 私は自分の耳に触れ、透明感のある銀髪を指ですく。髪は絡まることなくサラサラと流れた。おかあ様の髪質に、おじい様の髪色。

 私は自分の外見を改めて確認した。

 一言でいえば、十、十一歳頃の()少女。一見すると銀の氏族のエルフ。服装から貴族とわかる。

「……ふむ」

 確認し終え、視線を足元に落とす。

 それから私は馬車がお家に着くまでの間、自分の知っている知識や記録を思い返していた。




「おかえりなさいませ、シルリア様、セルカお嬢様」

 従者と共に玄関に踏み入れると、帰りを待ち侘びていたようにメイドが礼とともに私たちを迎えた。

 おかあ様はそんなメイドに笑顔を向けつつ、つかつかと階段……二階を目指した。二階にはおとう様の自室があるが、流石にこの時間なら一階執務室にいるのでは……。

 私はすっかり違和感なく馴染んだ「セルカの記憶」から予測して、苦笑いした。しかしおかあ様は何か確信でもしているのか、迷いなくおとう様の部屋に向かった。

「グラス、それにスラントもいるでしょう」

 扉に向かって告げるおかあ様。そして、来ないと思われた返答は、意外にもすぐにきた。

「あぁ、いる」

 同時に開く扉。すると部屋から中学二、三年生に()()()くすんだ銀髪の少年が現れた。彼は返事の声の主である彼は私のおにい様、スラントだ。

 その後ろには目に濃い隈を作った二十歳ほどに()()()、同じくくすんだ銀髪の青年……おとう様が立っていた。そして、すぐにおにい様に抱きしめられた。

「っ……おにい様!」

 私は吃驚して目を丸くするが、すぐに笑顔になる。おにい様とおとう様も、一緒に笑ってくれた。

「無事でよかったよ」

 おにい様は私を床に下ろして穏やかな口調で言った。

 おとう様は手に持った書きかけの書類の束を机に置いて、「心配で仕事も手につきませんでしたよ」と言うが、しゅんとした表情のおかあ様に「一日で三日分の仕事をしたのに、よく言えたわね」と言われ、あたふたしていた。

 仲の良い家族だなぁ。


 生存報告を終えた私は二階の一番奥にある自室に向かった。いくら見た目が九歳かそこらに見えると言ってもこの世界でだけでも十六年生きているので、流石に心配したおにい様が付いてくるなんてこともなく、私は部屋に着く。

 部屋の戸は他と変わらぬシンプルなデザイン、しかし内装は女の子らしく可愛らしい色や物が並んでいる。この身体には少々広すぎるようにみえる。

「こういうの、あまり手に取る機会は無かったけど」

 私は大きくてもふもふしたうさぎのぬいぐるみを引き寄せて呟いた。


挿絵(By みてみん)


 雪音(わたし)は動物も可愛いものも大好きだったけれど、勉強以外にお金を使うこともなくお洒落もせず生きていたな。

 そう思うと、結局親孝行も出来ずに死んで、したいこともほとんどしないで、欲も抑えていた私は本当に悲しくて短い一生を過ごしたものだとため息が出そうになる。

 生きている限り、何が起こるかわからない。

 もっと強ければ殺害されなかった可能性もあるし、もしあの時生きながらえてもある日突然事故死してしまうかも知れない。

 一度経験した「死」の恐怖はまだ色濃く残っているが、今はそれより別の思いがこみ上げる。

「セルカとして、後悔しないように生きる」

 無意識に呟いた私の目標。

 私は二度目の生を与えてくれたフレイズとマジムに感謝して、強く拳を握りしめた。今度はちゃんと親孝行もしつつ自分のしたいことをして、寿命で死ぬ!逆にいえば、寿命がくるまで生き続ける!

 私はうさぎのぬいぐるみをベッドに放り投げてから、机に向かう。今の私にできることは、とりあえず勉強しか思い浮かばなかったのだから。




 陽の光が差し込む。小鳥たちのさえずりは聞こえなかったが子供達の笑い声が鼓膜に届く。私はのろのろと起き上がり、窓を少しだけ開いた。朝の空気が部屋を満たした。

 深呼吸をすれば、澄んだ空気が肺いっぱいに流れ込んできて体が目覚める。

「……」

 指輪に込められた時導(ときしるべ)の魔法を起動させれば、それは限りなく黄色に近い黄緑に輝いた。起床は緑の時間、朝食はその後の黄の時間となっている。

 私は朝食の時間に遅れそうだと気付いて急いで着替えると、部屋を飛び出し小走りでダイニングルームに向かった。

 夜遅くまでの勉強は今後控えよう。

「おはようございます、遅れました」

 ダイニングに入室した私はさっと頭を下げる。すでに私以外の全員が席についていて、でも私を待って食事を始めていない……その様子を見て申し訳なくなった。

 急いで椅子に座ると、しょんぼりオーラが出ていたのかおかあ様に慰められた。それでも少し冷めてしまった料理を前に、私はテンションが上がらずに俯いた。初めての異世界料理は温かいものが食べたかったのに!

 すると、おかあ様はクスリと笑って唐突に魔法を唱えた。

「ちょっとだけよ?……美味しくなあれ、一番美味しい瞬間を、食べさせてちょうだい」

 詠唱というよりおまじないのように聞こえるそれは技術があれば誰でも使える魔法だったが、多くの料理が並んでいるためひとつひとつに適切な温度を付与するとなれば消耗が激しいはず。まさかこんな時に使うとは。

「おかあ様」

 私は心配して声を上げる。少しおかあ様の顔色が悪くなっていた。彼女はエルフの血が流れていないこともあり、家族の誰よりも魔力が少ないはずだった。

 しかしおかあ様はにこにこしたまま勝手に「今日(こんにち)も、我々に生きる糧を与えてくださったことに感謝します」とお祈りを始めてしまったので、抗議も出来ずに食事が始まる。

 料理はできたてのように熱々で、とっても美味しい。おかあ様は何事も無かったかのように振る舞っているし、ここで悲しい顔をするのもどうかと思うので、私は素直に食事を楽しむことにした。

 マナーを気にせずに掬いあげた黄金色に輝くオニオンスープは、素材のほどよい甘みが存分に活かされている。ひとつまみほどのコショウが後味をくどくないように調整していた。パンなんかもできたてのようにあたたかく、もちもちふわふわだった。スープに浸せば極上の味だ。ベーコンは肉厚で、とってもジューシー。魔物の肉……お、美味しすぎる。


 私はこれまでにないくらいの量を食べて、満足して、食後のお茶をひとくち口に含んだ。この世界でのコーヒーは高級品なので飲めないのが口惜しいが、これから頑張って、いつか飲むつもりだった。

 周りを見れば、ブラックホールのように朝食を食べる私を見続けて胸焼けしていそうなおとう様とおかあ様。

 私はおかあ様たちに合わせて食後のお祈りをしながら、明日からは自重します、と心の中で謝った。


 食事の後は戦いだ。

 朝の薄橙の時間は「お勉強の時間」。今までの(セルカ)の知識と私の昨日の勉強の成果を見せるときがきたのだ。流石に全ては理解していないが、それでセルカの努力を台無しにしてはならない。前世に無かった魔法や種族、階級のことはしっかり再確認してから挑もう。

挿絵を更新しました。(10/22)

画力の成長を感じています。



更新前↓

挿絵(By みてみん)

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[一言] 挿し絵 あどけなさが妖艶さにかわった感じ。
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