第190話「私の胸の内」
その際に、私は神達から女神フレイズに関する内容を……彼らが知る限り語られた。それは作戦には不可欠な情報で、私にとっては少し都合の悪いものだった。
女神フレイズは、主神である男神フレイズの補佐として生み出されたため、異世界との交友権も共有していて……はっきり言うと、やっぱり『ミコト』は女神フレイズに召喚されていて、主神は関わっていない。
となると、私の力をもって対抗するのは困難かもしれない。才能は彼女に与えられ、もしかしたら一部の能力は私のものとならず、貸与状態かもしれない。私が完全にセルカの魂の奥に隠れて力を貸すのが一番効果的、とも言われた。
当然だろう。セルカは主神が自ら転生させた存在で、女神が直接何か能力に干渉できるとは思えない。特に固有技能である天使の声は、私には扱えない。しかしその技能を覗き見た神達は狼狽え、セルカを呼び起こせないものかと思案し始めたのだ。
ほとんどくっついて、融合したといっても過言でない私とセルカ。それでも求められるのは彼女の能力だ。
仕方ない。……が、あまりにも『女神による転移者』への信頼は薄いようだった。
なんでも、女神は主神が眠っている間にしか現人神を創り出さないとか。
「……いつか主神の立場を奪おうと神兵を集めていたのではないか、という意見と、本当にただ主審の代理として動いたという意見があるのに」
私はぐるりと見渡した。ここにいる神達でも、流石に魂に細工されていれば気付くだろうし……何よりセルカを転生させる際に主神が私に気付かない筈がない。
何度も考えた。見逃されたのだと。何故見逃されたのだろうかと。そもそも禁忌の存在じゃないのでは?とも思った。
「もし、すでに力が逆転しているとしたらどうなるの」
私の問いの意味もわかっているのだろう、神達は僅かに迷いを見せるが、それでも女神を止めなければ大地が死ぬのだと項垂れた。
私たちは、味方についた神々の交渉によって、現世に全く影響力のない神域を戦場として与えられた。相手方もやる気に満ちていて、少しでも禍根を残さないために平等な舞台を用意することに協力的だった。
そのうえ、話を聞けば、マジムはその神域にいるらしく。そりゃあ現世に大地神の力が届かずに歪みが生じてしまうだろうなと私は呆れ、そして訝しんだ。そんなこと誰だって理解しているだろうに、わざわざマジムを神域に拘束した理由がわからなかったのだ。
また、神域には、セルカがマジムと出会った……主神の存在空間もある。
疑心暗鬼に陥った味方などは「そのことにも意味があるのではないか」と思考の海に呑まれたが、それが分かるのは結局戦いが終わったあとになるだろう。
向かい合い、構え、中立の神々による号令の後、最終決戦となる予定だ。
……相手方は、私やその他の神格を持たない異分子の命を狙うだろうといわれた。神の同士討ちは不毛だが、戦いは私たちを神に歯向かう愚か者として排除すれば全て終わるのだと……勢力同士の話し合いで尚女神側への転向を勧めた奴らは、なるほど、例外がお嫌いらしい。
ミコト単体では危険だと言われて仕方ないが、セルカを悪とは言わせない。私は密かに心を燃え上がらせるのだった。