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第179話「どうにも、不毛な」

 現在私はアルステラの腕の中、そして彼が立つのは深い深い森の奥。ここまで真っ直ぐ進んでいたエルフたちは、それを初めから目指していたのだろう……眼前にはどことなく既視感のある石造りの巨大建造物が、木々に蝕まれたように半壊したさまを晒していた。

 何かと聞かれれば、「神殿」としかいえない。むしろ、何故、ミコトを探して神殿にたどり着くのかがわからない。しかもそこにある神殿は既に祀るもの、住まうものが喪われたようで……廃墟だろ、流石に。

「……オバケとか出ない?」

 私がちらりとアルステラの顔を覗き込むが、そういえばそうだった、彼は元種族が悪魔だった。聞く相手を間違えたなぁと心の底で思いつつ、エルフたちの出方を窺う。

 すると、彼らは半壊した神殿を見据え、口を揃えて説明を始めた。

「「天空神に見つからぬ場所がわからなかった。故に賛同者と共にうち捨てられた神殿を捜索しているんだ」」

 要するに超絶運ゲーをしているらしく。




「罠や仕掛けは健在なようで」

 トーマの呟きは確かに私の耳に届いた。彼の鼻先を掠めた金属製の槍は軌道を少しも歪めることなく射出口の反対側の壁に垂直に突き立つ。

 そのまま連続して射出された無数の槍を危なげなく避けたトーマは、突き立った後に壁に吸い込まれるように飲み込まれていった残骸を見て永久に撃ち出されるものと判断し、根源を絶つ。彼はイヴァが纏った血液を鈍器の形に成形して、槍の射出口を潰した。

 まだ神殿に足を踏み入れたばかりであり、初めての罠がコレである。殺意の高いギミックが出迎えてくれたことで、廃墟だからと少し気を緩ませていたエルフ二人はトーマの背に熱い視線を送っていた。

「「なんと心強い……!」」

 エルフたちの装備は中〜遠距離のものばかりなので、このような物理的な罠への対処は筋力が圧倒的に高い前衛職に任せるのが最善。それを抜きにしても、展開されていたはずの物理障壁を貫通した高速の槍を咄嗟に避けられる者なんて、魔法職にはほとんどいないだろう。

 そのうえ永久に射出され続けるであろう魔法貫通の槍を止めた方法も力技だったので魔法に重きを置いた能力値なのであろうエルフたちは、トーマが神であることもその道程で非常に高い能力値を得ていることを知らないので、このとき前衛物理職への憧れを抱いていた。

 トーマはその憧れを多少は感じ取っているようだが、そのような視線は鬼人族の集落で散々受けてきたものだ。気に留めずに先に進んだ。

 先々で待ち受けていたのは、やはり魔法貫通の物理的な仕掛けが多く、たまに織り交ぜるようにして物理防御貫通の魔法罠が仕掛けられていたりして、非常に厄介だった。

 何が嫌って、トーマは魔剣イヴァと血魔法があるためほとんど一人で対処出来てしまうが、本来ならば魔法職と前衛が協力する必要がある。エルフたちは流石にイヴァが強力な魔剣だと理解しているのだろう、むしろ邪魔にならないように距離を置いていた。

 そして流れ弾や不意に発動した罠などから身を守りつつ、アルステラと私を守るように動いているようだ。トーマとエルフの役割がなんだか逆転しているような気がするが……仕方ない。


 何度目かも分からない槍の仕掛けに対処し終えたトーマは、流石と言うべきか、微塵も疲れを感じさせない動きで他方向から飛来してきた風の刃を霧散させる。

 ずっと続く一本道は、神殿の外観よりも長く感じられるので、おそらく惑わされている。それがわかっていても尚見抜けない幻惑の魔法だと思うと、解析して手中に収めたいが……

「「わかった。魔法の看破は任せて」」

 やっと出番だとばかりに中々豊かな魔力を放出し場の魔力の流れを撹乱したエルフ二人の手によって乱された魔法式は、読み取るには乱され過ぎていた。

 とはいえ魔法自体が打ち消されたわけではないので、また今度解析のためだけに訪れることとしよう。


 そして……ひらかれた道の先には、当然神もセルカもいない。


 最終的に辿り着いた広間は、ただただがらんとしていた。宝物も装飾も見当たらない。自然のままの色をもつ石壁、少し崩れた石煉瓦の隙間から射し込む外光だけが神殿の最奥を照らす。……あれ、もしかして外を念入りに見回れば簡単に最奥にたどり着けたのかな?

 私もエルフたちも、勿論他のメンバーもこの場所が最奥だと悟っていて、元より期待値は高くなかったのだろう、落胆している様子はない。しかし、なんとも拍子抜けするというか。

「……んじゃ、帰るか?」

 静寂を打ち破ったトーマの言に、反対する者はいない。

 そうして踵を返した私たちだったが、神殿を出たときには、気を抜いて先頭を歩いていたエルフたちの額に槍が掠めた痕を残してほかに特筆すべき変化は得られず。

「「では、次の目的地まで来てくれるか?」」

 思ったよりも厚かましいエルフ二人に、私は思わず苦笑する。

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