第177話「どういうわけか」
状況に適した魔道具を手にした私は、翌日の昼、念の為に護衛としてトーマを連れて外出していた。
その日は珍しく曇りで、昨日決めたばかりの外出予定を撤回しようかと悩むほどに曇り空を不気味に思って見ていたが、害があると決まった訳ではないし、護衛を増やして外に出ることになったのだ。
それにしたって魔法の現人神……正確にはその能力を受け継いだハイエルフと深海神アルステラという組み合わせはただでさえ過剰戦力であるように思えるのに、それに加えて鬼神トーマ、深海神よりも位の高い神を伴わせるとは、余程セルカが大切なようだ。
願わくばその戦力が活かされるような場面が来ないことを。万能でもなんでもない主神に祈りを捧げて、私たちは外に出た。
……わけだが、エルフの集団がいない場所を選んで外出した私たちの目の前には、弓を構えこちらに向けているエルフが二人。外見年齢が三十前後の男女と遭遇していた。
銀の氏族であることは二人のもつ色彩が銀と赤であることから読み取れ、子供と呼べる年齢でもないことは外見から察せられる。そんないい大人が捜索隊を外れてだった二人で行動しているのには、何かしら事情がありそうだが。
「「お前がセルカか!」」
どことなく似た顔立ちをしている二人が声を揃えて告げた言葉に、私たちは警戒を強める他なかった。
神が二人もこちら側にいるというのに、相手はそれに気づく素振りもなく威圧的な態度をとる。私は仲間の中でも特に礼を欠いた態度に対して冷静な二人を連れてきてよかったと内心でほっとしていた。
「「返答を待つ!十秒だ、それ以内に答えなければ、わかっているな!」」
二人は肩口で切り揃えられたウェーブがかった髪を風にたなびかせながら、矢の先を私たちの足元に向けたまま動かさない。威圧的な態度であることには変わりないが、殺意とまではいかない。捕らえる気もなさそうで、私はこのまま黙り通してどう転ぶかを見てみたくなった。
そうして私は少しの悪意を持って、ただ物理障壁で自身の周囲を守るだけだったのをそのままにじぃっと相手を見据えた。もちろん、返答はしないで。
それをどのようにとらえたのかはわからないが、数秒後に放たれたのは矢ではなく言葉だった。
「「……人違い、か?」」
間抜け極まりない言葉である。
「「申し訳ございませんでした!!」」
とりあえず私はミコトと名乗り、トーマたちは素直に本名を名乗った結果、どのような方法で真偽を確かめたかは不明だが、私がセルカでないとわかったかのように「人違い」で武器を向けたことを謝ってきた。
私は顔や耳を隠していたフードを取り払う前に、学院長から受け取っていた前種のカフスを耳に付けてクォーターエルフであるかのように偽装して、本当に幼い子供のように振る舞うことに決めた。
クォーターエルフに対する差別はないようで、私は二人に謝罪されながら「なにもわからない」ような顔をして、私を守るように立つ身体の大きな二人に隠されている。
結果、私が特に指示をすることも無く、トーマが冒険者として依頼を受けることとなった。
「俺はこういう者だ。そちらの男は冒険者ではないが彼女の護衛を任されている従者で……」
ギルドカードをちらりと見せて身分を示し、嘘ではないが真実でもないような言葉を重ねて説明するトーマを信用したのか、エルフ二人はすぐさま依頼をしてきた。
内容は「セルカの捜索」である。理由は未だ口にされていないが、彼らに害意がないことは天候よりも不気味で……私は少し面白く感じ始めていた。




