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第18話「なんだかんだでラッキーガール」

 食事を終えた私達は「ガリガリじゃねーか、いいぜ、無料で食わせてやる」と笑顔で言い放った店主に送り出され、高級装備店ぷりてぃ☆りぼんへ向かった。相変わらずキラキラフリフリの店内で、そんなものとは相容れぬ存在であるトーマは顔を引きつらせていた。

「お前、こんな高い店に行くのかよ」

 あ、そっちか。……何はともあれ店に入らなければ始まらない。私はドアを開けて、大きめな声でりぼんおねえさんに向かって挨拶した。

「こんにちはー!りぼんおねえさん、加工依頼だよー!」

 するとどこからともなく現れる筋肉おネエ。彼女は相変わらずピンク色を身にまとい、はじけるような笑顔で出迎えてくれた。再会の抱擁もほどほどに、私は本題に入ることにする。

「りぼんおねえさん、今回はね、この竜鱗を盾に加工して欲しいの!あまり手を加えたくないって思うから、裏地に持ち手や緩衝材を付け加える程度がいいわ」

 両手に抱えるほどの竜鱗を異空間収納から取り出しながら告げると、りぼんおねえさんはこの竜鱗を知っているのか驚愕の表情で固まり、それから竜鱗を取り上げて持ち上げ、観察する。

 おじい様の言っていた通り、この竜鱗は「生きている」とやらで、普通に手に入れるならどれほどの価格が付加されているかわからないという。りぼんおねえさんも同じことを言って、それから私に訊ねた。

「今日はこれだけかしらぁ?」

「うん!」

 私は質問に元気いっぱいに答えると、踵を返す。サイズも前回の採寸の紙が残っているだろうし、頭金なども要らない店なのでこれ以上居る必要は無い。

 私は名残惜しそうにするりぼんおねえさんに手を振って、店を後にする。トーマの存在感が無かったけれどちゃんと付いてきていたので、やっぱりあの店は男性の居るべき場所ではないのだろうかと思う。あのおにい様でさえ居場所を失うのだから、間違いない。

 静かに戦慄しながら、私達は人混みを歩く。朝市ほどの賑わいは無いが、そこは腐っても王都。エルヘイム領では絶対に見られないような人集りと賑わいだった。

 私は冒険者ギルドに向かって突き進み、だんだんと道を行く人々の見た目が変わっていった。露店も種類が変わり、武器や防具類を携帯した人々が行き交う……気付けばそこは冒険者たちの領域。以前とは違いおにい様でなくひょろっちいトーマを連れているのでまた違って見える。おにい様に向けられるような畏怖や敬意の念が感じられない分、幾らか歩きやすかった。

 ほどなくして冒険者ギルドに辿り着いた。真っ直ぐ進めば着くので迷うことも無かった。中はちらほらと冒険者たちがいるくらいで、前よりすいていた。混雑していなくてよかった、とほっと息をついた。私は迷わずに一つのカウンターに向かい、声を上げる。

「すみません、解体をお願いしたいのですが!」

「はい」

 なんとその受け付けに居たのはクールなポニーテール受付嬢……私を助けてくれたポニテ嬢だった。ポニテ嬢は私を見ると優しげな笑みを浮かべてカウンターから出てくる。どうやら彼女は目線を合わせて話すために出てきたようで、私の前に来ると姿勢を低くした。

「依頼を受ける前に実力を確かめたのですか?貴方ならあまり必要には感じないけれど、慎重なのは良いことですね」

「……そういう訳でもなくて、えっと……じ、実は」

 私は説明しようと口を開いた。しかしポニテ嬢は首を横に振って「詳しい話は解体部屋で聞きます」とだけ言うと、手招きして解体部屋へ向かっていった。私はトーマを引っ張ってポニテ嬢について行った。


 広めの解体部屋に着いたポニテ嬢は、振り返り私と目が合うと少し目を見開いて言った。

「あら、その鬼人族はお連れの方だったのですね。奴隷商館でお買い求めに?」

 私は即座に否定して、ポニテ嬢はそれ以上の追求をやめた。後で赤眼熊の説明とまとめようとしていた部分なので、空気を読んでくれたようだ。

「……では、魔物を見せてください」

 一呼吸おいて発せられた言葉に、私は素直に従って異空間収納から赤眼熊の体を引きずり出した。そこそこの広さの部屋なのに、それを出した途端に急に狭苦しく感じる……それほどの大きさだった。それから頭部を出して「これです」と言う。するとポニテ嬢は震える声で

「……これは私一人では時間がかかりますね。手伝いを呼んできます」

 と言うとパタパタと走っていってしまった。恐らくゴブリンやウサギの亜種のような魔物を予想していたのだろう。彼女は五人の助っ人を連れて戻って来て、彼ら彼女らと共に解体しながら、質問を投げかけた。

「どういう経緯で狩ったのですか?」

「それは……」

 私は待っていたぞと、話そうと思ってまとめていた内容をぺらぺらと語り、それは思わず大きな声になっていたので解体師全員に聞こえ、全員が驚愕して手を止めた。

「おつかいとかじゃなくて貴方達が狩ったの……?」

「冒険者の囮……?」

「捨て駒……?」

「そんな経緯で奴隷契約を……?」

「え?」

 連れてこられた五人はそもそも私を冒険者だと思っていなかったような節も見られて、口々に発せられた疑問に私は頷くだけ。ただ一人口を開いていなかったポニテ嬢は、少しだけ眉根をひそめるとそのまま解体作業を再開した。五人もそれに続く。

「……ギルド側としては注意喚起くらいしか出来ませんが……早いうちに冒険者稼業の残酷さを知れたなら」

 意を決したように話し出したポニテ嬢に、私は笑顔を向ける。

「大丈夫です、おかげで仲間も出来て素材も手に入ったから。……あの冒険者たちの身に不幸が起こっても、それは自己責任ですよね?」

「はい」

 私の質問に彼女は頷き、全てを察したように目を細めた。よくあることなのだろう、一部始終を聞いていた解体師たちも特別反応することもなく聞き流していた。それなら私も何も言わぬと口を噤めば、そのまま会話もなくなり着々と解体が進んでいった。

 そういえば、と私は異空間収納からギルド証を取り出した。貰った後もあまり気にしていなかったので見ていなかったが、レベルやらステータスやらというものがある筈なのだ。平均的な十七歳のレベルは調理や勉学により入る僅かな経験値が蓄積してレベル三〜五の間だというが、果たして私は?

 見れば、そこにはレベル九との表記が。ステータスは平均値を知らないのでどう反応すれば良いのかわからないが、取り敢えず運と魔力の数値が突出していた。


 セルカ・エルヘイム

 Lv:9

 ランク:D

 年齢:16歳 (+16)

 種族:クォーターエルフ(銀の氏族)

 職業:魔弓士(主人:トーマ)

 HP:32/40

 MP:9/130

 筋力:10

 魔力:36

 体力:17

 知力:19(+20)

 敏捷力:19

 運:45(+10)


 《技》

 初級魔法(炎:2、水:3、植物:3、風:3、光:3、

 闇:3、無:3)

 中級魔法(水:2、植物:2、風:3、光:3、闇:2、

 無:2)

 上級魔法(地面:10)

 特殊魔法(空間:4)

 弓術(魔弓:6、曲射:1)

 短剣技(護身:4)


 《固有》

 使い魔(知力:+20)

 加護(運:+10)

 親和


 ……ふむ、これは便利だ。

 私はじーっと食い入るようにステータス表記を見つめた。それぞれの魔法や技能のレベルまで細かくあるのか……と顔を顰めた。特に技能はレベル等が無いと思っていたので、なんだかゲンナリした。でも、こう見ると意外とステータスが高いように思えてくる。これで平均以下とかだったら笑えないけど。

 するとトーマが私の後ろからひょいと顔を出してギルド証を見てきた。別に隠すようなものでもないのでそのままにしていると「えげつな」と一言だけコメントされた。

「……何が?」

 私は思わず聞き返し、すると彼は半笑いで言った。

「前の主人らレベル十五と十四だけどさ、魔法使えないから」

 彼の目は初級魔法と中級魔法の欄を食い入るように見つめていた。魔法の適性がないと、魔法は使えない。それに魔法の適性があっても属性が限られていたりすると不便。私は改めて自分の使える魔法の多様性という強みを感じた。ここまでの反応をされるとは思わなかったし。

 私はトーマを見上げて、見つめた。彼のステータスはどのくらいなのだろうか、と気になったからだ。気になるものだろう、自らの奴隷のステータスなんて。

 すると私の言いたいことを察したのか、彼は異空間収納からギルド証を出した。やはり異空間収納は使えるのだ。それに加えて鬼人族の剛力があったために、魔法を全く使えない冒険者二人に荷物持ちとして目をつけられたということなのだろう。

 少し気の毒に思いながら、私は彼のステータスを見せてもらう。トーマはカードを私に見やすいように低く持つので、彼は本当は優しい人なんだろうななんて考えた。


 トーマ

 Lv:8

 ランク:D

 年齢:17

 種族:鬼人族(紅蓮)

 職業:なし(奴隷:セルカ)

 HP:13/60

 MP:0/18

 筋力:20(+80)

 魔力:9

 体力:18

 知力:10

 敏捷力:19

 運:7


 《技》

 初級魔法(炎:1、光:4)

 暗殺技(魔刃:3)

 剣技(護身:3、炎刀:1、纏雷:4)

 解体:1


 《固有》

 紅蓮の血(筋力:+Lv×10)

 剣の才


 それを見て一言、私は呟いた。いい前衛になりそうな予感、と。えいちぴー……生命力の残り少なさとえむぴー……魔法力の減りが気になったが、それより種族特性がイカレてる。それに、剣の才!これは職に就いて鍛えれば相当伸びるだろう。

 そんな優秀な前衛の卵をこんな早いうちに手に入れることが出来たことは、幸運以外のなにものでもない。向こうから私の奴隷になることを望んだのだから、有難く使わせてもらうこととしよう。

「これでも平均値を超えているから、セルカ様は化け物だな」

 ケラケラと笑いながら言うトーマに、私は「はいはい」と返す。こんなのと私は一応同い年なのか。

 呆れていると、そのうちに解体が完了していたようで、ポニテ嬢たちが素材の鑑定を始めた。ここで売るとは言っていないが、まぁ売るなら現時点でいちばん信用できるここかぷりてぃ☆りぼんくらいしかないのでいいかなぁ。一部の素材はりぼんおねえさんに安く売ってあげようかな。

 臓器や骨まで鑑定したポニテ嬢は、こちらを振り向いて口を開いた。

「毛皮は穴がたくさん空いていますが、臓器や爪、牙などの素材にはほとんど傷が見られませんでした。……そこで相談なのですが」

「はい?」

 私は頷く。ポニテ嬢が今までにないくらい表情を崩して悪どい笑みを浮かべているが、何か企んでいるのだろうか。少し怖いが私はそのまま話を聞くことにする。

「初心者の生活をより良いものとするために、初回討伐で持ち込まれた魔物素材は高値で買い取るということをギルドでは行っています。赤眼熊は刃の通らぬ毛皮に怪力、鋭い牙や爪から危険度が高めに設定されていて、そのクセに余裕を持って狩れるようになってからだと魔境の他の魔物を狩った方が良いと思う者が多くなり、素材不足に陥っています」

 私はその話を聞いてゴクリと喉を鳴らした。後ろで聞いているトーマも、そろそろ察しただろうか……ポニテ嬢は目配せすると、それぞれの解体師の鑑定結果の書かれた紙を集め、渡してきた。そのあまりにも高い買取価格に、私は戦慄した。

「一体でも沢山の素材がとれるため、今だけの価格です……どうです?」

「……肉と丈夫な骨を五本、そして皮すべては売らないと決めています」

「それでは……この価格になります」

 私は提示された価格を見て売ると決めて、欲しかった素材だけ異空間収納にしまい込むとお金を受け取った。トーマと出会えたことだけでなく、あの死にかけた出来事でさえ「生き残ったから」幸運だと感じられる。

 そうして私は思いもよらぬところで大金を得て、ほくほく顔で奴隷商館へ向かうのだった。

「……あら、赤眼熊の討伐で二人ともランクが上がったことを伝え忘れました」

 ポニテ嬢のそんな呟きは届くこともなく。ギルド証を見ていたのでわかっているだろうと、ポニテ嬢は伝え忘れたことを忘却することにした。

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