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第170話「銀と銀」

 進入した教会内にも人気はなく、そのまま常人の目には見えない転移門の間に駆け込むと、何の干渉を受けることもなく転移術が発動する。トーマはその術が完了し、転移先……教会本部に到着し、さらにその見にまとわりついていた魔法の残滓が完全に消え失せるのを確認してから、隠密の技能を解いた。

「……神の干渉も考慮しなければならないだろうからな」

 私が見上げると、トーマは渋い表情でこちらを見つめ返す。彼がそう言うということは、彼自身も転移門に干渉することができるのだろう。それなら大海神や天空神のような支神級の神には造作もないことだ。

 トーマは転移門に視線を向けてから私を下ろすと「一応見張っておくから」と告げて、背中を押してくる。促されるままに部屋を出ると、廊下に出る。

 すると、すぐそこにジンが待ち構えていて、私の姿を捉えた途端に腕を掴んで歩き出した。努めて優雅さを失わないように、現人神の装束を靡かせながら早足で進む彼は、歩きながら事情の説明を始めた。

「あいつがまた来たんだ。……じゃなくて、あなたの兄君が半刻ほど前にいらっしゃいましたので、急いでください」

 周囲の目を気にしてか口調と表情を修正しながら、彼は前回と同様の来客用の部屋に向かっているようだ。私とジンが共に歩いていることは特に珍しくもないので、神官たちは気にも留めない。

 少し歩くと、二人の神官が扉の両脇に控えているのが目に入る。この部屋だ、と思いながら歩みを早めると、ジンは私の手を離して隣に並ぶ。そして私が扉に手を伸ばすと、その気配を察してか先に扉が開かれた。

 そこには相変わらず優しそうな顔をしたスラントと……彼の、そしてセルカの祖父である純血のエルフ、ガロフが待っていた。扉を開けたのはスラントで、ガロフはソファに身を沈めていた。

「ッ…………おじい様まで」

 私はてっきりスラントだけが訪問しているものだと思い込んでいたため、予想外の人物に驚き、それでもセルカらしくすぐに満面の笑みを浮かべた。

「会えると思ってなかったから、嬉しいよ」

 つられたように目じりのシワを深めるガロフは、流石に先程の襲撃と無関係ではないのだろう、彼の隙のない振る舞いからは僅かな緊張が感じ取れた。

 そうなると純血でないスラントは護衛や案内役だったのだろうか。私は許可をとってからガロフの向かいのソファに腰掛けて、彼と視線を絡めた。

「ただ会いに来たというわけではなさそう……だね。何かあったの?」

「……あぁ。実はなぁ、」

 彼は語り始めると、手帳を取り出してテーブルに置いた。手帳には走り書きのように、びっしりと『夜空の言葉』が書き留められていた。出来る限り書き逃さないように急いで書いたことが、字の乱れから窺える。

「丁度、銀の都に戻っていたのだがね、そこで嫌なことを聞いたんじゃ」

 嫌なこととは……まぁ、内容を聞かずとも察していたが、赤子のような歳(エルフ基準)で進化を遂げた少女を氏族に迎えるか金に掠め取られる前に抹殺するかという選択肢が与えられたようだ。氏族に迎えた後は『夜空の神が娘に迎える』らしく、その場合は十中八九殺されて終わりだろう。

 そして、そうやって指示するだけでは私をどうこうできると思わなかったのだろう。ガロフによると、今銀の氏族は都で天啓を受け取りその内容を魔道具を通して実動隊に伝え、私の居場所を定期的に確認しているようなのだ。

 しかしその天空神の位置把握能力も、屋外に居る者にしか効果がなく、教会に逃げ込んだ私たちの選択は正しかった。彼が伝えにきた内容は、要約すると、

「外に出ず、もし外出しなければならない用ができても陽の光を避けて動くように……ってこと?」

 私はそう問いかけて、ガロフが頷くのを確認すると、異空間収納から日傘を出した。

「これは効果ある?」

「少しの間ならば……」

 日傘で少しでも防げるのならどうにか生活できるので、私はほっと胸を撫で下ろす。だが、どれだけ防ぐことができるかはわからないので、しばらくは人の少ない場所を選ぶ必要がありそうだ。

 もし街中でエルフの襲撃が発生してしまえば、折角そこまで偏見がないエルフという種族に対して、凶暴だとか人間を恨んでいるだとか悪い印象を抱かれてしまう。無関係の他人を巻き込むことも避けなければならない。

「おじい様……おにい様も、ありがとう。知るのがもう少し遅かったら、買い物しに出かけていたかもしれないから、本当に助かったよ……」

 へにゃりと笑う。もう既に襲撃を受けたと告げることはない。ただ、また面倒なことになったなと心の中でため息をついた。

ハロウィンですね。

私用が重なって文量が少なくなりました。

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