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第165話「戦後処理的な」

 (ミコト)は、私に余力があるとわかっていながら神力不足で倒れたステラを横目に見て、舌打ちをする。おそらくその音を拾ったのは従魔たちだけだろうが、彼らは聞こえないふりをしていた。

 ステラが無謀な術を選んだのは、現在戦闘中である幼女守護団メンバーの中で最も多彩な攻撃手段をもつリーダーの力を残しておきたかったこともあるだろうが、何よりも彼は疲労の色が濃厚だったアルフレッドを援護して回復の時間を多く設けていたことも関係しているだろう。きっと……ステラは自身が力を出し切れるほどにアルフレッドを信頼していると伝えたかったのだ。

 それにしたって、ヘタクソな伝え方だが。

 それでもアルフレッドにはぎりぎり想いが伝わっていたようで、彼はステラを護りながら闘うようになった。そもそも武器も持たずに単独で暴れ回っていた後衛職がおかしいのだが。

 そして倒れた後でも神力の消費が少ない魔法を選択してアルフレッドの手助けをしていたのは、ただ単に危ういアルフレッド(ガキ)を見かねただけであろうと、アルステラの薄い笑みから読み取れた。

 まぁ、嫌な予感が的中し敵の援軍が現れても、彼のおかげで全員無事であったとも思える。馬鹿な行いは咎めないでおいてやろう……と、上から目線にも程がある感想を抱いたのだった。

「あとは小物が逃げ惑ってるくらいだよ」

 私は従魔たちに後を任せ、真っ先にベルの様子を見に行く。炎魔法の適性ばかり強い彼女は水中戦において消費が激しいだろうから。

 泳いで行けば、彼女は器用に海中に浮かぶ空に頭を突っ込んで魔力回復薬を飲んでいるところだった。水中ではほとんど効果のない炎属性の防壁しか纏っていない彼女が無防備になっている間は、アンネが周囲を警戒しているようだった。

 付近にはリリアもいたが、彼女も魔力の消費が激しいようで必要最低限の防御魔法を行使するにとどめていた。そうして防戦に徹している間に、残党は次々と従魔に葬られ、切り取られた海が取り戻される。

 そして、味方の無事を確認しているうちに、海面を目指している空色の怪物たちはアルフレッドの荒波に呑まれて消えていった。そうしてようやく海は平常時の様を取り戻した。

 しっかりと敵の殲滅を確かめ終えた私たちは、一箇所に集結する。するとどこからか戦況を見守っていたのだろう、眼前に海の神力を多大に含んだ淡く輝く渦が出現し、その渦の中心に大海神ウィーゼルが降臨した。

「第二波がきたときはどうなるかと思ったけど、よくやったね。危なっかしい二人組がいたようだけど」

 ウィーゼルはクツクツと笑いながら、潮の流れに身を任せるように脱力しているアルステラとそれをチラチラと見ているアルフレッドに視線をめぐらせた。

 彼女も二人の遠回りしながら仲を深める様子を呆れ半分で見ていた一人のようだ。残りの半分は微笑ましいという感想だろうが。

「あたいも確認したけど、ちゃーんと取り返せていたよ。アンタらには苦労かけたね」

 彼女が私たちを労うと、神力が周囲に陣を描く。その動きを目で追おうとしたが、私には視界に映したそれらを脳内で処理することができなかった。はやい。でも視覚に頼らなければ追いきれるだろう。

 神に追いつける予感に若干胸を高鳴らせながら、私はウィーゼルの転移魔法によって拠点まで送られた。


 私は神殿外の砂上に転移したようで、さらさらとした砂に足が沈む感覚があった。皆も近い場所に転移してきている。

 ここまで来ると身に慣れた大海神の神力が満ちていて、気が緩む。先程までの海中には、侵攻を食い止めた後でも天空神の神力が薄ぼんやりと漂っていて圧迫感と居心地の悪さがあったから、尚更だ。

 それから一度従魔たちを招集して、新人のスイには特に入念に検査をして、怪我の有無などを確認した。……正直、黒助は触って確かめようにもモフモフの塊というだけで()()が無く、毛をかき分ける感覚しかない。そしてアルトは羊形態だと毛量が多くて確認が難しく、獣人形態になると背中以外はほとんど自分でチェックできる。元々従魔契約の繋がりから大きな怪我はないということがぼんやりと伝わってくるので、観察の目が甘くなっているであろうことは私自身がよくわかっていた。

「スイは結構レベルが上がったんじゃない?契約の主人からは力量がある程度わかるんだけど……だいぶ成長してるように感じるよ」

 私が背中をひと撫でして褒めると、スイは照れたように視線を彷徨わせた。ぷるりと鱗の模様が揺らぐ。

 実際彼は単独行動をせずに先輩二人に手助けされながら……所謂パワーレベリングをしていたわけだが、私と関わった以上、そうでもしないとあっさり死ぬような世界に足を踏み入れている。誰も咎めやしない。

「今日はたくさん神力を取り込んだはずだから、筋肉痛……の概念がトカゲやケセランパサランにあるかはわからないけど、多少の苦痛が待ち受けているかもしれないと覚悟しておいてね」

 従魔たちが頷くのを見届けて、私は笑顔で二度頷いた。私や私の使い魔だったマジムと関わるうちに取り込む神力と、敵対する者を討伐して取り込む神力は勝手が違う。セルカがガイアの神力を受け取ったときも、苦しんだはずだ。彼女は耐え切れずに意識を失ったようだが。

 従魔に忠告し終えた私は満足して自身の訓練や夕食に気が向くが、仲間にこのことを伝え忘れていた。全員集まった食事の際にも思い出すことはなく、今後の天空神の動きによく注意することや緊急時の連絡手段などの再確認をしていた。

 それから各々に与えられた部屋に戻り、基礎鍛錬をする者やそのまま就寝する者がいて……朝になる。




「いっ……たぁい…………」

「……なん、だコレ…………ッ」

「くっ、るし」

 私は身構えていたというか、闇属性の感覚を鈍化させる魔法を使用していたので、中度の全身筋肉痛かと思う程度の痛みを感じているだけだった。従魔達にも寝る前に同様の魔術を施していたため、効果が途切れていなければある程度元気にしているだろう。

 …………が、私は両隣と向かいの部屋から聞こえてきた悲鳴にも似た呻き声で目を覚まし、苦笑いを浮かべていた。

 リリア、ベル、アンネ……特に討伐数の少なかったリリアとベルが苦しんでいる声が聞こえたことで、私はその他の面子に謝りたい気持ちになった。すっかり、忘れていた。

 私は急いで髪をポニーテールに結わえると、簡素なワンピース姿のまま部屋を飛び出した。そしてとりあえず女子メンバーたちの部屋に突撃して彼女らの苦痛を和らげる魔法をかけていく。

「ごっ、ごめんんん!!!」

 女子メンバーの中で最も多量の神力を身に受けていたアンネは、ベッドに横になった体勢のまま身動きがとれずにいた。私は三人に何度も頭を下げる。

 でも、男子のほうが、きっと、ヤバい。

 私は冷や汗が背中を流れるのを感じていた。

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