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第148話「最高機密の偽造」

 翌朝、再びベルリカ公爵家からの連絡があった。昨日は使者でなく公爵本人が訪れ、要件だけを早急に伝えるようにと大金を寄付してすぐ帰ってしまったようだが、今日はただ書簡を寄越されただけだった。

 それは解決手段かベルを求める期限……ティルベルの余命にもよるという前置きがあり、今から一ヶ月もない日付が明記されていた。

 もっと余裕があれば宝物庫より集めたレシピを元に素材集めから監視員でも同行させて納得の行くような魔法薬を作ることもできたかも知れないのに、と僅かな苛立ちをおぼえるが仕方ない。回復へと向かっていた容態が急変したというのだから。

「どうするかなぁ」

 朝食を既に終えた陽が空の真ん中に届きそうな頃、私は水差しに浮かんだ柑橘系の果実を硝子のマドラーで沈め、呟いた。現在は元客室現自室にてだらだらと過ごしているだけだ。ベッド横のテーブルセットに着席し、足を揺らしていた。

 解決の期限報告があったのは朝食半ばで、貴族社会から遠退いていた私でさえわかる礼儀……早すぎる訪問を控えるという部分を無視したようなものだった。

 馬車も使わず目立たない使者を派遣したため目立ちはしなかっただろうが、ある程度の高位貴族でベルリカに対抗している勢力の者には見つかるリスクがあっただろうから、失態といえばそうだろう。

 食事の後半を重苦しい空気にしたこともそうだが、役者を学院に入学させたり手放したり教会に賄賂もどきの大金を積んだり、公爵閣下は酷い親馬鹿である可能性があった。

 そんな公爵の娘に瓜二つで代役を任せられるようなベルは、たいそう丁寧に扱われてきたことだろう。だから初め、彼女は怪しい薬でも受け取ると思った。

 私はそんな危険な橋は渡りたくなかったので即座に却下し、また報告を受けたベルが取り乱した際にも念を押した。その結果食卓にもったりとした沈黙が降ったのだが、誰からも反論がなかったため考えは同じだったもわかる。

 言われなくてもわかっている……ベルはそう鼻息荒く告げたが、騒動の当事者の焦りようは大抵本人より周囲のほうが理解しているものだ。アンネのゴーサインもあったし、ベルは猪突猛進なところがあるため必要だったとも思う。

 生涯でもう二度と無いのではないかという程に長く大きな溜息が洩れると、マドラーが水差しの底に当たる。押し込んでいたはずの果実は棒の先を滑り、水面へと逃れていた。




「で、ミコトにひとつ提案がある」

 そう言って自室を訪れたのはジンだった。今日に限って無地で地味なワイシャツを身に付けていた彼は、普段のゴテゴテとした装飾衣装が無いせいか懐かしいものに見えた。一番の要因は不老長寿……今は欠片もそんな気持ちはないが、かつて私が欲していたものだった。

「なに」

 素っ気なく返したものの、意識は思い切り引き寄せられる。タイミングからして、ベルリカ公爵家に関する話題だろうから。

「今のミコトはまだ何処にも魔力が割れていない、一応存在していないはずの人物だ」

 今もまだ神力へと変化し続けている魔力は、そもそもどこかのデータベースに登録しようにも数日の間に更新が必要となる。ジンの言葉に間違いが無いと認め、私は頷く。

 すると彼は古めいた箱を異空間収納から取り出すと、鉱石で覆う加工を施された表面を爪先ではじいた。コツンと軽い音がして、しかし響きはしない。それが何かを理解する前に解錠された箱から、溢れんばかりの衣類……それも魔力やら神力やらを豊富に含んだ魔道具の一種が姿を見せる。

 宝物庫から持ってきたのであろうその品々はデザインを手掛けたものが同一人物なのか、神々しさを感じさせる加工や意匠には共通する部分が多く見られた。

 感心しているとそれを見留めたジンは「着てみたい?」と魅惑の提案をしてくる。私はこの体……セルカの可愛らしい容姿を頭に思い浮かべ、透き通るような銀髪を指で梳き、白磁の肌に目を向けた。

 正直これがどう事件の解決に繋がるのか見当もつかないが、それはそれは抗い難い誘惑で……。




 私の全身どころか横に五人並んでもしっかり映るような鏡を前にして、服を着せられた意味を理解し薄い笑みを浮かべていた。楽しむ気持ちはそこそこに、真剣に検討する。

 鏡に映っているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。耳は丸みを帯びており、ふっくらとした頬は幼さを感じさせる。

 年齢こそ変わっていないものの、魔道具の衣を身に着けた私は別人になっていた。それも、かなりの美幼女だった。

「ねぇ、ジン」

 鏡越しに視線を動かした私に、彼は一切の躊躇いなく笑いかける。話の流れからして、彼は……

「私に薬師の現人神、()らせるってこと?」

 問いかけに深く頷いたジンを見て、目眩がするかと思った。まぁ、わかる。薬師特化の現人神なら身を守る能力も無く秘密裏に保護されていたとでもいえば納得させることは可能だ。

 でも、そこじゃない。

 万が一……億が一魔道具を無効化するような固有技能の保持者と接触した場合、セルカという存在が矛盾してしまう。現人神は転移者であり実在する人物の腹から生まれてくることはないのだ。

 もし見破られれば、それこそ前代未聞。セルカが家に帰られなくなってしまう可能性だって、無いわけじゃない。

 馬鹿じゃないの。

 そう片付けるにはジンの瞳に満ちた自信はハッキリとしていて力強く、叱咤しようと吸い込んだ空気と感情が行き場を失う。

 そうして出た溜息を見て私が落ち着いたと判断したのか、彼はこちらが何をしたいのかと訊くまえに答えをくれた。

「大丈夫。()に会うことを許されるのはティルベルと現人神、そして公爵閣下のみ。使用人や暗部の一人でさえ、見ることはかなわない。公爵閣下の技能は把握済みだし問題ない」

 その言葉は暗に『私を現人神以上の存在だという風に偽装する』ことを示していて、安心よりも心配が優る。

 長生きし過ぎて大きな嘘をつくことに慣れ躊躇いが無くなったのか。私にひくついた表情で見詰められたジンの心はすっかり固まっているようだった。ここにも猪突猛進な奴がいたと気付いても時すでに遅し。私の運命は決められていたのだった。

またしばらくゴタゴタしています;

落ち着けば良いのですが……元々移動時間に小説を書く習慣をつけていたので、自粛だと毎度金曜に書いているような状況です。

急いでいるため読み直しもできず誤字脱字が増えているかもしれません。

手を止めることはありませんので、今後ともよろしくお願いいたします。

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