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第140.5話「ただ二人は交わす」

 その数時間は、人生で最も多くを失ったように感じられた。


 拾われた先で出会った、発言が嘘とならないように細心の注意を払って女のフリをしていた、狩人。新たなご主人様にとっては体術や短剣術の師匠であり、家族に次いで親しかっただろうと思っている。

 奴が男だと判明してからは距離感は正されたものの、それまでの関係性から大きく崩れることはなく、実力に差が出始めても彼とセルカ様は仲が良かった。

 そんな、自分よりも長くセルカ様と関わっていた存在が本当の仲間ではなかったと知って、まともな言葉を交わす余裕も無いまま彼が姿を消した。

 それも、セルカ様を大層慕っている大地神を目の前で掻っ攫って、消えた。

 大地神は大地神で自分や狩人の知らないセルカ様を知っているらしく、常に顕現していたわけではないものの気心の知れた仲ではあろうと推測された。かの神はセルカ様に保護者としての感情を超えた想いを抱いているようだった。

 彼がセルカ様を見ても大した反応を示さずに消えていったのを見て、彼女はどう感じただろう。


 そして、セルカ様。

 彼女は近しい二人を失って、またそれを責められて世界から離れた。休息だと説明されはしたが、それで納得できるものならしたかった。

 ことの顛末を口頭だけで聞いた者の中には、責任逃れだと感じる者もいるだろう。それでも俺は、彼女はできる限りのことをしていたと思うし、ましてや彼女と同等のはたらきすら出来ない外野が何かを言う資格は無いし、遥かに多くの年数を生きてきた者が彼女の未熟さを責め立てるのは正しいとは思えなかった。

 俺の世界から消えてしまったセルカ様は初めて俺をひとりとして扱ってくれた。守ると誓って守れなかったのは、何よりも自分への失望を感じさせた。


 そんな無力感に苛まれていた頃。

 習慣だからと心ここに在らずといった状態で続けてきた鍛練を、ようやく意志と強さへの渇望を胸にして行うようになった夜だった。久しぶりに酷使された肉体が悲鳴を上げて動けなくなり地面に倒れ込んだ俺は、躊躇うように視界に映り込んできた鑑定結果に似た文字列に目を剥いた。

『少年はうるさい』

 それはただの文句で、しかしどこの誰からのものかがわからない。不気味さよりも苛立ちが沸騰するように溢れてきて、ひり出すような声が出た。

「……なにが」

 剣が空を切る音が煩わしかったか、それとも荒い息遣いが遠くまで響いたか、または無意識に叫んでいたか。何にせよ俺は文字列が気に食わなくて、舌を打つ。

 しかしその心中を察した……というよりは読み取ったように、文字列は数百字どころか千を超える文字を空中に表示して、疑問に勝手に答えだした。

 何がうるさいか、言葉の主は何者か、そして()が何を知っているか。その内容は信じ難かったものの、ここにいる仲間が誰も知らないはずの情報さえ持っていて思考を読んでいると言っても過言でない返答の数々に、俺は屈した。

 声の主は俺の手にある魔剣・イヴァだった。


 彼は鬼神だったのだという。入念に張り巡らされた罠と悪い思いを持った敵対神に不意をつかれてかなり前の時代に死にかけて、剣に隠れたそうだ。

 俺の記憶と感情の大部分を読み解いた彼は、アルステラの店にずうっと眠っていたのを陽のもとに持ち出してくれた恩を返すために、知識をくれた。そして、可能ならば現在の鬼神を打ち倒してくれと懇願してきた。

 報酬は更なる知識と鬼神の協力。それがあればセルカ様が戻ってくる日もうんと近くなるだろうと考えて承諾した。既に与えられた知識でさえ、世界を揺るがすものだったから。


 真意はわからなかった。恩というには軽過ぎて、全てそれの返礼としては明らかに大き過ぎる。それでもセルカ様のために鬼神を殺そうと決めた。

 そのすぐ後に知識が役立つときが来て、それから息をつく暇がほとんどないうちに鬼神が居る神殿への行軍が確定した。

 イヴァは決して多くを語らなかったが、神格を取り戻すことの重要さを何度も説かれた。




 なのに、神格を取り戻したイヴァは…………彼は神格を取り戻しても直ぐに消えてしまうと自ら告白した。

受験が終わりました。

無事、第一志望の大学に合格し、今度は手続きや引越しの準備に追われています。

今回は短くなってしまいましたがそろそろ時間に余裕ができてきたので、次回からは戻せるかと思います。

これからもよろしくお願いします。

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