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第138話「ふたり」

 私……ミコトには、語るのも憚られるような過去がある。それは勿論、現人神として崇められる地位に酔っていた頃とジンとの能力や寿命、老衰速度の差などに焦りを感じて正気を失ってしまっていた頃だ。

 女神に与えられた第二の人生、命にしがみついてアルステラを巻き込み、セルカを巻き込み、ようやく目を覚ました今となっては……ただただ恥ずかしい。そして現人神として各地をまわったとき、そして転生の研究をしていた頃の私は。

『ほぉ、反省。それにしては種族まで変わって……神気の格が上がっているな?』

 目の前にいる鬼……元の名をイスカ・ヴァーサルという彼に、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけに彼の記憶には残っているだろうし心象がいくらか悪いだろうことは察せられる。

 この男がトーマの隣を堂々と慣れたように歩いているのは些か現実味に欠けるが、肌で感じられる圧は彼のもので間違いなかった。

「それは、これは、私の神力じゃないから、です」

 イスカは私の研究内容を知っているためこの言葉が彼を敵に回すきっかけともなりかねないが、隠すほうが(まず)い。そう思って口にした言葉を聞き届けたイスカは、先ず笑った。

『ババア、負けたな?流石に身体の主が()()()()()ことくらいはわかったよ。貸してもらえてよかったなァ』

 私とイスカが知り合っているという事実に驚愕を隠せないトーマを置いてけぼりにして、言葉が続いた。

『……が、私は私で愚図に負けたもので、お互い様さ。少年と組んで、鬼神格を()()()()算段だった』

 笑みに自嘲が混じったことで、何やら予想がついた。私は通路を振り返って憎たらしい鬼神を思い浮かべ、それから眼前に立つ角折れた元鬼神(イスカ)を見上げる。格を奪われて尚、鬼神と同等の神力を纏い操る彼……どう考えても此方の方が相応しいと思えてしまう。

 そして視線の動きから思考を解読したのだろう、イスカは少し目尻を下げて柔らかく笑むと魔剣を床に突き立てた。そのまま利き手を差し出して握手を求めてくるので、応える。

「成程理解しました。……で、イスカ。どうしてトーマと?」

 訊きながら手を離すと、彼は魔剣を引き抜いて私に手渡した。思わず受け取るがそれは覚えのありすぎるものだった。イスカの姿にばかり気を取られていてすっかり意識から外れていたその剣は、まさにトーマの主武器(メインウェポン)である魔剣イヴァそのものだったのだ。

 慌ててトーマの手元を見ればそこには魔剣イヴァと思われるものがおさまっており、不気味な感覚に襲われて見比べるが、比べるほどに同じものだという事実が突きつけられるようで混乱する。

 さて、そこでセルカの記憶を辿った私は魔剣の説明にあった『極黒鬼イヴァ』という言葉に目を向ける。鬼の素材からつくられた魔剣……それなら、鬼神だったイスカの手で複製できたりしても良いのだろうか。

 いやでも、彼は私の質問に答える代わりに魔剣を寄越しただろう。

 ゆっくりとイスカの顔に視線を動かすと、彼は『少年がコレを持っていたから、ということで』と明らかにはぐらかすようなことを言う。自力で答えを見つけなければならないようだ。

 そうひとりごちて剣を返すと、笑みを深めたイスカが私の頭に左手を置いた。すぐに離されたが、特に意味のない行動だったのかそのまま横を通って鬼神のもとへ向かおうとするので、私も踵を返す。

 出遅れたアルト達とトーマは無数の疑問符を浮かべたままその後を追い、しかしイスカが補足説明することはなかった。

「イスカ、って?」

 背後から、トーマの珍しく感情に震える声がかけられるが、それこそ要領を得ない質問だったため「何が」と短く返した。再度問いかけられることはなかった。

 トーマはそれきり考え込むように黙りこくってしまい僅かに歩く速さが落ちていたが、案外気の遣える男であるらしいイスカがさり気なく速度を緩めていて、いよいよ二人の交流がいつからのものなのだろうかと疑念を拭いきれなくなった。

 セルカは気付いていなかった。イスカは言及しないものの、二人の距離感には怪しいものがある。血魔法を発見した頃には関わりがあったとして、それ以前……いつからだ?

 進行速度が落ちたことは、私にとっても好都合だった。じっくりと考えるには調度良い。

 イスカが神を降りた理由が()()()()()()()()()()()()のだ。例えば、そう……決めごとに反して排斥されたなら?邪神に堕ちていたのなら?そしていつからかトーマを唆していたなら?

 私には死んでから転生するまでの知識が欠けている。イスカの交代理由も知らない。現鬼神がいくら気に入らない態度だったとしても、かの鬼が正当な後継者でないという確信も得られていない今、考えることをやめるべきではないのだ。

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