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第114話「現人神と悪魔」

 翌朝、早々に教会本部からノウスの教会へ足を運んだ私たち。熱心な信者たちが礼拝している時間とズラしたのだが、運悪く今日は民間人がいつもより遅く来たようで、まだフレイズ様への祈りを捧げている最中だった。

 ジンを連れているため騒ぎになったら困る、と思い、念の為に彼にフードを深く被っていてもらって正解だったようだ。

 そっとその横を通り過ぎて、狭い道をなんとか進み、幼女守護団は爆乳おねえさんの店までたどり着くことができた。正直幅のない道を通るのは不安だったが、一番身体の大きい者はアルステラ、次いでトーマだったため平気だった。

 中に入れば、事前にアルステラが連絡でもしてくれたのか既に内装は明るく照らされていて、商品と棚は粗方片付けられていて広いスペースがあるのみだった。

 そこに前回と変わらない様子の悪魔のおねえさんが現れると、彼女は直ぐに表情を変えた。

「あらあらあら!これはどんなサプライズかしら?」

 何をしただろうかと顔を見合わせると、背後に顔を青くしたジンがいた。知り合いだったにしても双方の反応が違い過ぎるので、きっとこの雰囲気だと……おねえさん、まさかジンにセクハラまがいなことはしていないよね?

 おねえさんはこちらにゆっくりと近寄ってきているが、その頬にはわずかに朱がさしていた。綺麗だが、美人だが、私はどうすれば良いのだろう。

 事情を聞こうとしてもう一度振り向けば、ジンはその身に余る神力を魔法に変える。

「あっ、ちょ」

 その後ろに立っていたアルステラを案じて声を上げるが、時すでに遅し。ジンが咄嗟に創り出した結界魔法にふんだんに盛り込まれた神力に為す術もなく身を焼かれる。

 軽く炎が上がるが、火の粉はもちろん火炎本体すら私には熱を感じさせず、悪魔を焼くものなのだとわかった。

 とりあえず周囲を満たしているジンの力を私の魔力で追いやると、そのまま押し返される前に実現可能なうち最大精度の障壁を展開し、どうにか私の魔力だけで充ちたセーフゾーンをつくりだす。

 それで炎はおさまったが、火傷は痛々しく残る。

「ジン!周り見なって!」

 私は声を上げて、倒れ込んだアルステラに駆け寄った。その手が届く前にトーマが彼を抱きとめてくれて、そのまま床に優しく下ろされた彼は苦笑いを見せる。

「いやぁ、勘弁……」

「喋って大丈夫なの?」

「まぁ……」

 短い言葉を交わしながら、私は光属性での強化を一切使わないように気を配りながら水の治癒魔法を紡ぐ。威力は光より低いけれど、悪魔に光は良くないので重ねがけをするしかないだろう。

「うわ、何回目……魔力量が底知れないねぇ」

 何度も何度も繰り返し魔法を放っていると、アルステラは起き上がろうとしてくる。止めようとするが、よく見れば彼の傷はほとんど治っていてその必要もなさそうだった。

 そのまま床に胡座をかいた彼は、横で膝立ちになったままの私の頭にその大きな手を置くと、ぐしゃぐしゃに撫で回す。編み込みハーフアップにしてある銀髪が乱れるが、まあそれくらいは良いだろう。

 犬や猫でも撫でるような手つきではあったが、労われているように感じた。

 ジンはというと、こちらに全く注意を払うことなく、むしろ彼が被害者であるかのような状態だった。具体的にいえば、彼は結界の中央部で耳を塞いで蹲り丸くなっていた。

 神気に影響を受けていないかとおねえさんを見るが、彼女は自身の魔力でもって対抗しているようで、かなり魔力量と密度が高いことが窺える。生粋の魔導師タイプなのだろう。

 彼女はジンの結界に触れるほどの距離にいるが、全くダメージを受けていないように見えた。そして、彼女の紅がひかれた唇が妖しく弧を描き、

「『あれ?また僕なにかしちゃいました?まさかこれが……難しいことなんですか?』」

 その口からジンの声が発せられた。

 続いておねえさんの魔力が規則的に動き出せば、今度は見たことのない陣を描く。魔法陣が完成すると仮面をつけて全身白で統一した黒髪の少年の姿が映し出され、その隣にはゴシックロリータ風のワンピースを着た少女が立っていた。

「『敵意をもって僕に近づかない方が良い……この力に拒絶されたくなければ』」

 黒髪の少年は結界魔法を何重にも広げると、二人を囲むようにして立っていた怪しい者共は立ち止まる。立ち上がる神気に敵う相手ではないと理解したのか、かれらは逃げていった。

 聞くまでもなく、この黒髪の少年はジンだろう。これは昔の光景を映し出す魔法だろうか……と興味津々に見詰めると、おねえさんは次々と映像を流していく。

 たくさんの、現人神としての活躍。強力無比の防御をもつジンとゴスロリ衣装に身を包んだミコトとの連携で歩く要塞と化した二人は、どこぞの主人公のように悪党共を圧倒していた。

「すごい」

 ジンが現人神であるということを疑う者が完全に消えたのは、彼の肉体的な成長が人間の一生では到底変化を見い出せないほどゆっくりとしたものだったことと、そんな彼が転移門のおかげで神出鬼没となったのが大きな要因だろう。

 まるでアニメや実写映画を観ているような気分でおねえさんの魔法観賞を終えた頃には、暫定魔法職のベル、リリアの二人はジンへ尊敬の眼差しを向けていた。

 ベルはそれを隠しているつもりなのか、口を開けばこう言った。

「ふぅん。詠唱速度、効果、女の方が攻撃魔法は得意なようだが、現人神様もかなり能力が伸びているようだ。セルカが攫われたときには気付きもしなかったが」

 ふいと顔を逸らすが、そもそもジンはこちらに意識が向いていない。流石にこのままだとパーティー自体がおジャンになってしまうので、ここは唯一対抗できそうなマジムに助力を求めることにする。

 いくら守りに長けた現人神であろうとも、本物の神、しかも主要な柱の力には抗えないようで結界は大地神(マジム)の手の平に軽く押されただけでぐにゃりと歪む。そのまま力を加えられると、その部分から崩壊が始まった。

 あっという間に消えた結界は神力となって拡散するが、周囲への影響を最小限に抑えるためにマジムはそれを()()()()()()でその場から完全に消失させた。

 ここぞとばかりにジンに近寄った私は、声をかけた。

「ジン、しっかりして!マジムもいるし嫌なことあるなら帰っていいから!」

 彼は言葉が届いたのか硬直をゆるめ、そのまま弾かれるように体をこちらに向けると、タックル……抱きついてくる。

「ミコト、ミコト……!同罪だからね、ねぇ」

 うわ言のように呟く彼は、マジムに身体を引き剥がされて床に転がった。彼の顔を見て、ゾッとした。赤い血のような魔法陣が浮かんでいたのだ。

「なにこれ」

 固まっていると、おねえさんが彼の頬をつついて説明してくれた。

「これ、恐らくミコトの呪いねぇ。あの子はいくつか()()()()()、遺してるわよ」

 聞けば、魔術を研鑽していく過程で幾つもの禁術にあたる術や呪いを生みだして、老いていく自身の寿命を伸ばすために他人の生命を奪ったり、ミコトを見捨ててジンについた人間を呪ったり、死が確定されるまでに姿を眩ませたまま多くの悪いものを遺していったのだとか。

 ジンは、自身の黒歴史を見聞きすると異常に恐怖心を煽られて最終的にミコトをめちゃくちゃ求める……という馬鹿げた内容の呪いを受けているようだった。

 彼は私にミコトの魂が伴っていることを知っているので突然抱きついてきたというわけだ。

 事情を知ったマジムは殴ろうとして振り上げていた拳を解くと、立ち上がってからもう一度構え、おねえさんに拳骨を落とした。当然、彼女が何もアクションを起こさなければ防げた事態なのでその報復だろう。

 ジンの神力は平気でも神のものは耐えきれないのか、おねえさんはその場に踞ると「禿げたらどうしてくれるのよぉ」と若干色気のある声を出す。それでお仕置きは終わったのか、マジムはおねえさんから視線を外した。

 おねえさんとアルステラのためのパーティーを開きに来たのに、おねえさんは何かやらかすしアルステラは巻き添えで大怪我を負うし、とりあえずこれから行うパーティーの概要はアルステラを労う会で良いだろうか。

 質問を投げかければ、おねえさんとジン以外の肯定が返ってきた。

来週、期末テストがあるので更新できない可能性があります。



追記。

①期末テストはありますが、更新はすることにしました。満足に書ける場所があるうちに書きます。


②勉強と小説などの活動を生活の中心として生き、家のことを疎かにした大学受験生である私は、家を追い出されネット環境のない山中の祖父母宅へ行く可能性が出てきました。

本当にそうなった場合でも、どうにか歩いてでも電波の届く場所を探して投稿は続ける予定ですが、文量が多少減ると思います。


これからも頑張ります。よろしくお願いします。

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