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第110話「おじさんとオークション」

 ぎこちなさが解消され、平穏に過ぎた夕の刻。

 それぞれ鑑定ができる者に内容の説明を求めたり、実際に着用した状態で反復横跳びをしていたり、プレゼントへ意識を注いでいた。

 一応教会本部の大部屋を借りているのだが、そんなことをすっかり頭の隅に追いやったらしい皆が騒ぐので早々に防音結界を張ることになり、私は一歩引いてその光景を眺めている。

 物を贈るのは前世でも機会がなかったように思うが、これほど気恥ずかしいものだったのか、と頬に熱が集まるのを感じていた。

 そんな中、ひとりプレゼントを箱ごと魔力で絡め取り引きずるようにしてこちらに持ってくる者がいた。

「……あれ、リリア?」

 気付いて直ぐに木箱を持ち上げてやると、サイズ的にも苦しかったのだろうリリアは私の肩に腰を下ろして半透明の羽を弛緩させる。彼女は私が持っている箱を上から見下ろして、幾つかのものを指差して質問を投げかけた。

「たくさん大きな装飾品がありますが、サイズも合わないしペンダントトップなどがないものもあって……それって、どうするべきでしょうか」

 桃色の髪がふわり揺れると、ああ、たしかに、説明が足りなかったのだと思い至った。

 リリアが気にしていた商品の数々は、基本的に土台(ベース)部分に既にサイズ調整と幾つかの付与がされているものばかりだ。勿論リリアに合わせて選んだからなのだが、それは流石に察するとしてもペンダントトップを欠いているのは彼女には不安だっただろう。

 宝石の外れたものを選んだ理由のひとつはペンダントトップなどには私がりぼんおねえさんのお店で伝授された付与方法を使う予定なのでいらないからである。既に付与が完了した宝石にはそれ以上のことはできないし、宝石なら一応異空間収納内に山ほどある。

 ふたつめは、天然の宝石や迷宮産の品も良いかもしれないが、それらよりも圧倒的にリリア……剛竜王の縁者が魔法で生成した宝石の方が絶対に良いとアルステラに推されたためだ。

 これまでほとんど妖精としての司るものを生み出す訓練などをしていないリリアに成形のセンスがなくても、大地神という最高な調整者がいるためどちらにせよ上手くいくはず。

 つまり異空間に納めてある宝石も結局は使わないことになるのだが、まぁ、見た目や色の参考にはなるだろうと思っている。

 そのことを説明すると、リリアは瞳を輝かせて頷いた。「セルカちゃんとの共同作業なんですね!」と羽をばたつかせてのぼせたような表情を浮かべるさまは、夢見る乙女といったところか。

 なんて可愛らしいのだろう、と肩上の彼女に頬を寄せると、細く儚い両腕でホールドされて密着されたので、私はとっても良い気分。

 明日はオークションに出かける予定なので、今晩のうちに付与を終わらせるつもりで取りかかるとしよう。




 翌朝、貴金属類を出しっぱなしにして寝落ちてしまった私とリリアは慌ててそれらを回収すると、早速身につけてもらった。

 元々甘い顔立ちにとろけるような笑顔を浮かべるリリアには、小さめの宝石と繊細な装飾の施された銀細工のアクセサリがぴったりで、桃の髪とアクアマリンの瞳に色を合わせると軽く天井すれすれまで飛び上がって喜んでくれた。

 彼女の創る宝石と私の魔力は相性が良く、水と氷の魔力を込めると石が属性色を鮮やかに映し出し、明るく透明感のある魔宝石が出来上がった。その色が具合良くリリアの瞳と重なったから、こんなに喜んでくれたのだろう。

 互いに着替えや装飾などが終わった頃には他のメンバーは準備運動をしていたり朝食の準備をしてくれていたりと少し出遅れた感じがする。

 今日はオークションを見に行くから、中に入れないようだったら待ってもらうしかないけど気になる人は連れて行くだけ行こう。……オークションは食材限定らしいけど、バウ以外に来るのかな。

 考えているうちに料理が出来上がったようで、トーマが食べたい量の入る皿を持ってくるように声をかけたのでさっと渡す。私の身長では届かない調理台を使うので、他の人はともかく私とリリアは任せるしかなかった。

 そろそろ甘やかされるのも卒業したいなと思いながら受け取った朝食はどこで学んだのかと思うくらいのクオリティで、トーマのこだわりなのか食材の配置にまで気を配っているのだろう、発色の美しい野菜たちがとても美味しそう。

 その盛り付けが気に入っているらしいベルやライライはトーマに全てを任せ、また単純に量を欲するバウはボウルのような器にどっさりと盛っていて、それでも以前より減ったのだと思い出して笑う。

 食べ始めると、会話を交えながら場の雰囲気もあたたかくなってきて、家族みたいだなんて考えてしまった。

 もちろんトーマがお父さんで、私はきっと娘だろう。

 想像して眺めながら食べているとトーマと目が合って思わず笑みが滲み、それを怪訝そうに見ながらも笑い返してくれる辺り、彼のイケメン度は上辺だけじゃない。

 全員が食べ終えたのを確認すると、私はタイミングを見計らって声をかけた。鬼灯の灯る店の店主二人……つまりアルステラと昨日のおねえさんにご馳走するために、高級食材を買いに行かないか、と。

 朝早いので、オークションに参加出来なくとも色んな店をまわって何かしらは見つけることができるだろうしどうだろうか、と聞けば、ほとんど皆首肯した。

 そのまま転移神具で都市にひとっ飛び、親切な食材屋さんと出逢った店舗を訪れると、そこには記憶よりもかなりおめかししたようなオーナーさんがいた。オークションに出るときはこのような服装なのかな。

「おぉ!沢山連れてきたねぇ」

 その場で軽く頭を下げた彼は、全員に参加証のようなものを配り、首から下げるように指示した。かの手にはまだ幾つも証が余っていることから、沢山用意していたことが分かる。

「今日はよろしくお願いします」

 礼には礼を。私は今回参加させていただく側なので、オーナーさんよりも深く頭を下げた。頭を上げると直ぐに要点を伝えながら歩き始めた彼の後ろについて、ぞろぞろ大移動。

 腕輪からウィンドウを表示すると、異空間収納に入っている金額が確認できたので、それを留意しつつ歩みを進めた。

「うーん、平均価格からすると十も買えれば良い方かな」

 これからの生活費を考えると、依頼や魔物討伐で報酬を得ながら行動するにしてもそうなる。ひとつは高額なものを買いたいので、もう少し少なくなる可能性が高い。

 そう思っていると、アルステラが列を離れて行ってしまう。止める間もなく路地に消えた彼を気にしながら歩いていると、大きな頑丈そうな建物にたどり着いた。

 どうやらそこがオークションの会場らしく、併設された巨大倉庫と会場の周辺には厳重な警備が張り巡らされていた。

「おひとり所用でも思い出したのでしょうか、途中で離れたようですね。後からも入ることができるから、連絡手段があれば場所だけでも伝えておいてくれ」

 オーナーさんはそう言うが、彼は恐らく私が居れば影でも通って追いついて来そうだ。そして受付の列に並ぶと、その付近の細い路地から黒いローブが飛び出してきた。それは新調したばかりのローブを着たアルステラで、何かの大袋を抱えて何か慌てた様子でこちらに駆けてくる。

 影に乗ればもっと素早く移動出来るだろうに、彼は人混みをえっちらおっちらと危うい足取りで走り抜けると、重たい袋を押し付けてきた。

 ……触った感じでわかる。中身は硬貨だ。

 まさか全部銅貨や鉄貨じゃないだろうなと彼を見れば、袋を抱えていた腕が、浅黒い肌が、赤く火傷のようになっていた。

「まさか!」

 私は咄嗟に治癒魔法を掛けながら袋の中を覗き込む。銀貨以上の硬貨を嫌がっていた理由は()()()()()ということで既になんとなくわかっていたため、想像にかたくない。

 しかし予想とは少し外れ、その中に入っていたのは銀貨ではなく、金貨金貨金貨金貨!金貨なんて私が渡そうとしたとき凄く嫌がってたのに、誰がこんなに大量の金貨を……まるで嫌がらせのようではないか。

 硬直しているのを不思議に思ったのか、トーマが声をかけてくるが、私は「ちょっと待ってね」と言うと袋ごと収納するとアルステラの袖を引いた。

 すると彼は私の顔を見て面食らったような表情になると、逡巡の後に何か察したように息を吐いた。

「あー、えっとね。傀儡の店での売上金だよ。あんまり考えないで売ってたら、金貨ばかりで」

 苦笑する彼は眉尻をぐーと下げると、私の頭を撫でる。そういうことならいいのだ。

 そのまま列は進み、私たちは何の問題もなく会場に入ることができた。アルステラは周囲の金持ちたちが身につけている装飾品を見て顔を顰めると隅の方に避けてしまったので、結局離れることになった。

 そのまま人の列が消化された後に外に出ると言っていたので、なんとかサプライズが出来そうな予感。

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