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第108話「聞き取り調査」

「アルフレッド、話というのは獣についてだよ」

 そう告げると、アルフレッドは神妙な面持ちで瞳を覗き込んできた。真意を探っているのだろうが、生憎建前でも何でもなくただ単に()の正体が知りたいだけなので、逆にその目を見詰め返した。

「あの言葉が気になって、とりあえず関連のありそうな獣神……ヴァッハの元を訪れたのだけど」

 そうして獣神が敵対性のない優しい方だったことを伝えると、アルフレッドは当然だと言うように大きく首肯した。つまり彼のいう気を付けるべき獣というのは、獣神ではなかったのだ。

 そうなると、やはり獣神と話した際に登場した女神の使い魔であろうか。それでもここまで関わりがないぶん、警告されるのにも違和感がある。

「じゃあ、一体……」

 実は既に使い魔と出逢っているのだろうか、それともこれまでの旅や学院生活の中で危険人物と話したことはあっただろうか、と仲間以外の獣や獣人で誰かいないかと思考するも、中々浮かばない。

 ついに自身で考えるのに限界を感じた私は、本当に警戒すべき()が存在するのか訝しく思いながら、制約の消えて自由になったアルフレッドに答え合わせを頼むのであった。

「いいよ。教えてあげる。……それが最善とは思えないけど」

 意味深げに呟いた一言は流石に静かな密室で聞き漏らすことはなく、その内容に僅かに不安が渦巻き始める。でも、私たちに危害が加わってからでは遅いのだ。

 こくりと生唾を飲み込み、解答を待つ間、心音の騒ぎ具合に自身の緊張を感じ取って意識して深呼吸をする。そんな私を気遣って、落ち着くまで待ってから彼は語った。

「獣は()()フレイズ様の筆頭使い魔。最終経過報告によると……」

 アルフレッドはひと呼吸おいて、はっきりと告げた。

 ソレは、君の仲間にまざっていると。




 後ろ髪引かれる思いで隊長および軍隊員の宿舎を後にした私と左後ろを歩くトーマ、逆側に立つアルステラはひとつも言葉を交わさずにいた。

 神々は力が強大なだけに力に溺れる者が出ないとは限らないため、多少監視し合って互いの規約違反を阻止しているのうなのだが、()()という程度の監視では転生者の仲間として入り込んだ、というところまでしか情報が手に入らなかったのだろう。

 アルフレッドは大体そのような内容を語った後に、念を押すように「くれぐれも気をつけて。使い魔や仲間、従魔のどこから裏切りが起こるかわからないんだということは留意しろ」と、低く細い声で囁いた。

 私が少数精鋭のような編成で行動することはそこそこ珍しく、だからこそこの機会にと伝えてくれたのだろう。

 偶然にも使い魔従魔は契約の繋がりこそあれど盗聴など出来ず、また獣枠に入るバウもいなかったのは、本当に幸運だったのだ。話を聞かなければ、味方だと盲信していただろうから。

 私とトーマはともにバウとの関わりが長いため、どのような顔をすれば良いのかはかりかねて、あてもなく町を彷徨う。

 アルステラが口を閉ざしているのも、今は有難かった。

 何度考えても、誰も敵には思えないし監視されているようにも感じなかったし、不安だけが長く影を伸ばす。

 もやもやした気分のままではあったが、兎に角、アルフレッドから話を聞いたのだから次はジンに用事があるので、私は漸く目的地を定めて歩みを進めた。


 そうしてすぐに教会に着いた私は、信者の出迎えを受けながらトーマとアルステラを伴って奥の転移門の間に入り込み、早々に声を上げた。

「じーーーんーーー!!!」

 外部に音が漏れないことを良いことに、全力で叫ぶ。そうすればどこかの教会にいるジンに声が届くだろうから、私は彼が現れるのを待った。

 すると目の前に光の粒がちらほらと見え始め、そのまますぐに粒子が集束し人の形をとっていく。それはみるみるうちに色付いて、ジンとなった。

「セルカちゃん、呼んだ!?」

 そう言うなり彼は私を軽く持ち上げてくるくる回った。若々しく華奢で高校生くらいの見た目である彼がひょいと持ち上げるのは頼りないように見えるが、なかり能力値が高いようで視界が力強く回転する。

 暫くして降ろされると、私は久しぶりに頼られて嬉しそうなジンに聞いた。

「質問があるの。()()についてなんだけど」

 ジンはそれがあまり良くない話だとわからないようで、機嫌の良い表情で頷く。私はその顔を見て非常に訊きにくいと感じながら、言葉を繋いだ。

「転生……や、転移だっけ。転移したときの話をしてほしいんだよね」


『わたしたちはある日突然この世界に放り出された。全員、神を名乗る美しい()()に導かれ、強大な力を持っていた』

『女神フレイズに導かれてこの地へと降り立った』


 浮かぶのはそれらの言葉。それによると、彼は私と根本的に違う。聞いた当時は深く突っ込むようなことはしなかったが、今は聞くべき刻だ。

 ジンは何か思うところがあるようで、ひとつ首を縦に振ると思案顔になり、黒髪を揺らしながらうんうん唸って転移門の間を歩き回った。それを眺めながら話し始めるのを待っていると、いよいよ彼は口を開いた。

「……うん、転移のときのことだったね。前置きさせてもらうけど、怒らないで聞いて」

 眉尻を下げた彼は、私の後ろに控える二人をちらっと見てから続けた。

「女神フレイズに送り出されたことは覚えているし、使命も自覚している。……けれど、それ以外の記憶がモヤがかって思い出せないんだ」

 ごめんねセルカちゃん、と肩を落とす様子からして、嘘はないと思いたかった。つまり、調査は行き詰まってしまったということか。

 これでは結局疑うべきものを絞り込むこともできないが、万事上手くいくことの方が少ないのだから仕方のないことだ。目に見えて落ち込むジンに気にしないように伝えてから、私はトーマを振り返った。

「ってことだから、今日は帰る?」

 首を傾げて訊ねると渋々といった様子で同意を示され、私は苦笑いをしてまだもう少し此方に滞在しようと決めた。絶対内心は帰りたくない……というより、バウや彼と行動を共にしているだろうマジムとの接触を躊躇っているのだろうから、気を紛らわせる必要性がある。

 何をしようかと考えると、不意に悪魔が目の前に生えてきた。

「セルカお嬢様。お悩みなら、先刻の店を訪ねてみない?」

 何か自信があるのか不敵な笑みを浮かべたアルステラは口元を三日月に歪めて、提案が蹴られるとは微塵も考えていないようだった。

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