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第11話「危険が危ない武器屋さん」

 路地裏を真っ直ぐに通り抜けると、そこそこ広い通りに出た。大通りとは違って人通りは少なめで、歩いている者の大半は冒険者だった。通りに面した店は冒険者向けの商品ばかりで納得する。私はキョロキョロと辺りを見渡して、おにい様に問う。

「あの大きな建物?」

 するとおにい様は首を横に振って、それから地面を指さした。意図が分からず首を傾げる私に、おにい様は言った。

「危ないから、地下にあるんだ」

 そう言ったおにい様はすぐそこにある「迷宮何でも屋」という看板が設置された小さな店舗に足を踏み入れた。私もおにい様に続く。中はテニスコートの半面程で、その大半が地下に続く階段となっている。

 いかにも怪しい雰囲気のお店だけど、大丈夫だろうか。裏の世界にはまだ関わりたくないのだが。不安を隠すことなくおにい様を見上げると、彼は困ったように言った。

「王都にはいくつもこういう階段があって、店に繋がっているよ。迷宮産のものは何が起こるかわからない魔道具が多いから、危険。だから地下に堅牢な建造物を設置して買取をしてる。王都の地下の半分くらいが迷宮産専門店だよ」

 その言葉に頷き、奥から足音が聞こえ始めた階段を見た。しばらく無言で見ていると、数人の冒険者がほくほく顔で出てきた。そしてそのうちの気の強そうな女性一人がおにい様を見て顔を綻ばせ、ショートヘアを跳ねさせながら近付いてきた。

「魔剣豪スラント、久しぶりだね!あの時は本当にありがとう。……その子は?」

 手を上げてにかっと笑う彼女はどうやらおにい様に助けてもらったことがあるようだった。私を見て首を傾げる彼女は橙色の髪の毛と明るい雰囲気が相まって太陽みたい。

「魔剣豪とか最近は呼ばれてないけど……久しぶり、サナ。えっと、この子は妹のセルカだよ」

 おにい様は私の頭をポンポンと軽く叩きながら紹介する。私はお辞儀をして笑顔を見せる。第一印象は大事。

 私はサナと呼ばれている女性がおにい様に助けられたときの話が聞きたいなぁと言外に伝え、それに気付いたおにい様が少し恥ずかしそうに言った。

「この女の人はサナっていって、以前迷宮で魔物召集の罠から仲間を逃がして一人奮戦していたときに俺が偶然その道を通ってたから協力したんだよ」

「私何もしてないんだから……あんなの協力じゃないって」

 おにい様の言葉に笑いながら反論するサナさんは、片手剣に簡素な盾をもつ前衛タイプ。周りの仲間はどう見たって魔法使いの人が三人に盾役が一人、身軽そうな斥候が一人なので、少しバランスが悪いように感じる。まぁ、他人のパーティの編成に口出しはしない。

 私は談笑するおにい様たちを横目に考える。ここまでの道も武器屋でも、弓を持つ人は少なかったし弓の品揃えもあまり良くなかった。この迷宮慣れしていそうなパーティの中にも弓士はいないので、弓士系の職業は不遇なのかと疑問に思った。確かに魔法には劣る場面もあるが……。

 気になった私は会話途中のサナさんに近付いて今の会話が終わるのを待つ。すると私に気づいたサナさんが会話が終わってすぐに私を見てにこりと微笑んだ。

「どうしたの?」

 瞬時に優しい声色に切り替わったサナさんは、私が口を開くと真剣に聞いてくれた。

「弓はあまり人気ではないのですか?」

 私は首を傾げた。サナさんは少し悩む仕草をしてから答える。

「えっと、あまり人気ではないね。魔法無効の魔物には有効な遠距離攻撃として成り立つけど、そういう奴らが出てくるのは中層以降だから…必然的に物理防御力も高くなってて普通の弓だとまず牽制程度にしかならないよ」

 丁寧な説明に、私は聞き入る。なるほど納得出来る理由だった。確かにそれなら近接攻撃でゴリ押ししたり盾役に守られながらちまちま削ったりする方が確実だし、早いだろう。

 考え込む私を見て、サナさんは不思議そうな顔をする。おそらく私が弓を扱う職業を選んだことを知らないから、何故そのような質問をしたのかと考えているのだろう。そしてすぐに答えに辿り着いた彼女は慌てて言葉を重ねた。

「あぁでも弓の性能によるからね、えっと迷宮産の弓ならすごい効果のものがあったりするし……弓は人気がないぶんたくさんの在庫がここに残ってるみたいだよ」

 私はその言葉に頷いて、ありがとうと告げた。わざわざ気を遣わなくても良かったのに、サナさんはとてもいい人なんだなぁ。

 その後サナさんのパーティと別れて、私とおにい様は階段を下り始めた。照明が等間隔に設置された階段を進むほど内部の喧騒が大きく聞こえるようになり、どきどきする。階段の先は光に溢れていた。


 光の中に飛び込むと、そこには案内板とその向こう側に広がる店の数々に目を奪われた。案内板によると地下街は四つの区画に分かれていて、それぞれ北に装備品、西に生活用品、南に骨董品、そして東に何かよくわからない不明品が売られているようだ。私たちが下ってきた階段は装備品区画の端の階段で、一番狭い入口らしい。

 並べられた商品を見れば、実用性が低かったり派手すぎるデザインだったりと個性が強いものばかり。たまにシンプルな武器防具があるが、それも売約済が多い。ここで武器を手に入れることが出来るかは運要素が強いだろう。

 私はおにい様に手を引かれながら武器を見てまわり、弓が売っているところで何度か立ち止まって観察した。弓は意外と実用的なものでも売れ残っていて、サナさんの言う通りだと痛感した。

 目に入った中で特に目立っていたのは無限に矢が生成されるが蛍光色で主張の激しい弓だとか、女神を模した矢を放つとハープのような音が出る貫通力特化の弓だとか、魔物を引き寄せそうなものが多くて笑えない。

 私は苦笑いで次の店に足を向ける。なかなか強くて綺麗な弓は見つからなさそうだった。




 朝早く家を出て昼までに帰りたいと思っていたのだが、もうすっかり地下街は活気づいて朝市も終わる時間になった。あと一、二時間で正午になるだろう。

 そんな時間になっても、私は良い弓に出逢えずにいた。一応全部回ったのだが、いいものがない。そして、私はもう半分諦めて不明品区画に足を踏み入れていた。ここにも武器が売っていることもあるそうなので、来たのだが……。

 ……人通りはほとんどなく薄暗い不明品区画は、明らかに人気のない区画だった。まあ、そこら中に焼け焦げた跡やら何やらがあるのだから当然だ。噂に違わずここは危険なのだろう。おにい様とは乾いた笑みを浮かべて「俺は見たいものがあるから……」なんて言っていたので別行動になったが、ここが怖いのだろうか?

 私は臆することなくぐんぐん突き進む。店員もいない店が続き、ろくに管理がされていないので、廃墟のようだった。でも、この先に見える明かりが気になって私は進んでいた。

 人気のない中でぽつんと灯る寂しそうな明かりは、そう遠くなかった。あと数分で着きそうだが……どう見ても怪しいお店な気がする。看板もどことなく胡散臭くて、薄闇に浮かぶ鬼灯のようなランプに照らされたそこは現実味に欠けた空間だった。

 すぐに私はその店らしき場所に着いた。ランプの光を浴びる古びた木の床板を踏みしめると、奥から不審者が現れた。

「えっ、ふしんしゃ……」

 思わず口から漏れたつぶやきに、不審者さんは一瞬の硬直の後にクックックッと不気味な笑い声をあげた。その姿はもはや不審者でしかない。黒いボロボロのローブに身体中に巻かれた薄汚い包帯、目深に被ったフードからは包帯の隙間から覗く赤い目とボサボサの黒い短髪が見え隠れしていた。

 あまりに衝撃的な見た目だったので、私はしばし見つめていた。観察していても相手も動かないし、店員なのか客なのかもわからないので私も動けなかった。

 沈黙が流れ、気まずい空気になった中で不審者さんが唐突に口を開いた。

「いらっしゃぁい、よく来たねぇ。実に三週間ぶりの来客だなぁ」

 その声が予想外に若く「イケボ」に分類されるようなものだったので、驚愕のあまり私は返事をするタイミングを逃す。粘つくような喋り方なのにこの声だと歌っているかのように聴こえるのだから不思議なものだ。私は一呼吸おいてから、この店で最後にしようと決心し不審者さんに言う。

「弓を探しています。ここは何の店ですか?」

 不審者さんは私の問いに何か思うところがあるのか、僅かに目を細めた。彼は口元の包帯をもそもそと動かしながらしゃがみ込み、私と目線を合わせる。

「ここはなぁ、なぁんでも売っているんだぁ。君の欲しいものも……きっと見つかるさぁ」

 余程来客が嬉しいのか、僅かに声が弾んでいる気がした。とりあえずこの不審者さんは悪い人では無さそうなので、安心した。嬉々として私を迎える彼の所作は妙に様になっていて、何だか高級なお店のように錯覚してしまう。

 商品の置かれた棚には何やら分からないものが沢山陳列され、それぞれ独特で強烈な存在感を放っていた。不明品区画に配置されている店だという理由がわかる。

 そして私は彼に手招きされるままに、迷路の如く入り組んだ店内を進んだ。まるでもぐらの穴のような、店というより研究施設、倉庫、または巣という言葉が似合うであろう。そんな狭く仄暗い道を進んでいくと、彼はふと立ち止まった。そこには刃のない剣やら取手のない盾、それから弦のない飾り弓のようなものが並んでいた。

 なるほどそれらは武器かも不明で飾りとしても魅力に欠け、余程の物好きでなければ見向きもしないだろう。私は眉をひそめながら彼の指さした先にある飾り弓を手に取った。見えないほど細い弦だとかそういう訳でもなく、ただ弦がついていない弓だった。見た事の無いくすんだ青銀の金属に、植物や自然、流水をイメージしたような装飾がされているという点では凄く気に入ったが、使い物にならない。

「これを……どうしろと?」

 無意識に棘のある言い方をしていた私は、しかしそれに気付いても訂正も謝らない。正しくは、謝ることが出来なかったのだ。すぐに語り出したイケボに阻まれたのだ。

「あなたにぴったりだろぉ。不思議な空気を纏っていてなぁ、精霊のように美しいあなたにぴったりだぁ」

 受け答えになっていない、と私は狼狽える。もしかして怒ってしまったのだろうかと不安になり、それが表情に出る。彼はそれを見てとても愛しそうに目を細めたあと詳しく説明をし始めた。

「ここにある武器や防具たちはぁ、迷宮の深層から持ち帰られた逸品でさぁ。そして一見ゴミに思えるそれらは買い叩かれてねぇ、露店で安売りされるんだぁ。そういうものを集めたんだぁ」

 私は返事をせずに続きを待った。

「こいつらはなぁ、使い手を選ぶ装備なんだぁ。一定以上の魔力やら筋力、または知力などを備えた者にしか扱えない……そんな装備たちを使い手に導くのが、この僕の、仕事さぁ」

 彼はおもむろに自身のローブの中から何かの柄を取り出した。本当にそれだけで、武器になりそうもない代物だった。何をするのだろうと注視すれば、彼はとても濃い魔力を柄に込めた。その瞬間その柄に半透明の刃が現れて神秘的な短剣と化す。

 驚愕に目を見開き反応出来ずにいる私に、不審者さんは短剣を見せつけてくる。短剣の刀身に触れた木製の棚には鋭利なものでしかつかないような綺麗な傷が出来ていた。

「僕の使える武器は、これ。あなたはその弓がお似合いで、僕の勘は外れないからきっと使えるさぁ」

 私はふわりと空気に溶けるように消えていく短剣の刃と飾り弓を交互に見た。試しにといくら魔力を込めても弦は現れない。すると彼は私を後ろから抱きしめ……ん?

「わわっ」

「いっ……こほん、使い方を教えるだけだよ。じっとしてなぁ」

 一瞬暴れそうになる私が体を跳ねさせた事で、私を包み込むように抱きしめていた不審者さんの顎に頭突きをしてしまった。頭突きの直撃を受けた不審者さんは気の抜けた声をだす。私は力を抜いて、彼にされるがままに木の矢を手に取り弓を引く。

 弦がない故何の手応えも感じなくて、何をしたいのだろうと不審者さんを見上げると、彼は真剣な表情で「ほら、前を見てろよぉ」と呟いた。相変わらず間の抜ける喋り方だが。

 私は少し腕を動かして標的に合わせる。とりあえず何も無い壁を狙ったが……ここで手を離すのだろうか。指示を仰ぐが何も言われず、私は仕方なく矢を放つ。矢は強靭な弦を持つ弓で射られたかのように空を切り裂き壁に突き立った。

「はれ?」

 私が目を点にして間抜けな声を出すと、私から身体を離した不審者さんはにこりと目を細めて言った。

「ほらぁ、使えたでしょぉ?」

幼女楽しい。新キャラは私の好みです。

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