第10話「可愛いは正義なり!」
ちょっと早めの投稿...(´>ω<`)
水曜日に投稿しようかと思ったのですが、水曜日は忙しくてスマホもパソコンも使えるかどうか不明だったので早めました。
魔力で作ったウサギをふよふよと中に浮かべているうちに、使用人のおじいさんが私を呼びに来た。どうやら魔力を練るのに夢中になりすぎて夕食の時間になっていたようだ。私は急いでダイニングルームに向かう。
ダイニングに入れば、そこにはまだおにい様しか居なくて、何だか閑散とした雰囲気。おにい様と私は席が隣なので寂しくはないが。
「おにい様、今日は何が出るかな?」
わくわくしながら問いかける私に、おにい様は笑顔を返すと頭を撫でる。そのうちにメイドさんが食事を運んできた。いつもなら全員揃ってからなのに、どうしてだろう。
不審に思った私は次にメイドさんが来ておとう様達の料理を運び終えてから聞こうと思い、ソワソワしながら待つ。しかしメイドさんは私とおにい様の夕食を置くと、もう仕事が終わったというようにどこかに歩いていってしまう。これではおとう様達が来ないみたいではないか。
「おにい様……おとう様とおかあ様は?」
不安になって質問すると、おにい様は迷いなく断言した。
「今日は仕事が長引くかもしれないと言っていたから、そうなんだろうね。二人での食事は久しぶりだね、邪魔者はいないし」
不安な私に対して、おにい様は楽しみだというように笑顔を向ける。みんなで食べた方が絶対美味しいに決まっているのに、なんでそんなことを言うのやら。
私はぷくーっと頬を膨らませておにい様から顔を背けた。おにい様が焦る空気が伝わってくるが、ふんだ、もっともーっと困ればいい!
そしてほぼ無言のままに始まった食事。おにい様はたまに不謹慎なことを言う。私になる前のセルカの記憶の中のおにい様も、相当空気の読めない発言をしている。
私は美味しいが肉の入っていないおじい様仕様の食事を淡々と口に運ぶ。美味しい、幸せだ、と思っていることを顔に出したら負けな気がして、仏頂面をつき通した。おにい様はそろそろ空気を読めるようにならないと婚期を逃しそうなので多少キツく当たってでも直さないと……なんて見当違いの使命感に駆られていた。
翌日、私はその空気を読めないおにい様と一緒に王都に来ていた。もちろん、「ぷりてぃ☆りぼん」で装備を受け取るためだ。朝に使用人さんが完成した旨が書かれた手紙を渡してくれたので、すぐに準備して家を出た。無料だが、受け取り後に装備に合う武器を買う予定なので、少し多過ぎやしないかと思われる程の金額を持ってきた。最初の武器以外は自費で買えとのことなので、なるべく上限ギリギリの値段の良質な武器を買おうと思っている。
今回は別の御者を連れることもなく二人だけで来た。あんなことがあったのだから、当然ともいえる。ただ、おにい様は少し寂しそうだった。
私達は王都の朝でも人通りの多い大通りを歩き、目的の装備店を探した。後に知った情報では「ぷりてぃ☆りぼん」は女性に人気の装備店だとか。フリフリやパステルカラーばかりでなくシンプルなデザインのものも販売しているので、お洒落を気にする女性冒険者に愛される店だという。
目立つ色合いの看板が見えて、私は胸が高鳴るのを感じた。あの可愛い装備が手に入ると思うと、もう待ちきれない。私は早足になり、兄を少し置いていく形で店に入った。
「あらぁ、いらっしゃい……受け取りね」
ドアの開く音を聞きつけたりぼんおねえさんが店の奥から出てきて、私に確認を取るとまた奥に引っ込んだ。次に出てきたりぼんおねえさんの手にはハンガーのようなものに掛けられた装備があった。
それはあの絵がそのまま現実世界に飛び出してきたような……私の理想を体現したようなふりふりの装備。りぼんおねえさんは私の反応を見ると嬉しそうに笑みを浮かべ、私に手招きした。
「一度着てみて、違和感がないか確かめてみてねぇ」
「はーい!」
私は元気に返事をして、りぼんおねえさんについて行った。どうやら採寸室の奥に試着室があったようで、彼女は私をそこに入るように促した。
服を受け取って、試着室に入る。そこはいくつもの仕切りがあって、数人同時に着替えることができるようになっていた。窓は無く、天井に照明器具が設置してあって、大きな店でなければ維持だけでも大変だろうと予想できる。
部屋の観察もそこそこに、私は今着ているワンピースとキュロットスカート、そして靴を脱いでたたんだ。それからりぼんおねえさんが作ってくれた装備を着ていく。
革鎧は見た目だけならシックな雰囲気で、とても可愛らしいデザインだ。見た目とは裏腹に鎧としての性能は十分で、伸縮性も備えており、とてもいい仕上がりだと感じた。一応つけてもらった取り外し自由のスリーブは外したままでいい気がする。伸縮性があるから多少のズレは大丈夫なんだろうな。
ホットパンツは革鎧に合わせて作ったので素材も一緒。脚を動かしてみたが動作を阻害される感じは無くて、とても動きやすい……注文通りの品だ。
ブーツもかわいい。左右違うデザインは私の憧れだったから、もう最っ高。ニーハイソックスと手袋はシルクのような材質で、つけていて心地が良い。
そこまで着てから、私は頭装備が無いことに気付く。私はりぼんおねえさんを呼んだ。
「りぼんおねえさーん!頭装備はどうしたのー?」
するとすぐに答えが返ってきた。彼女は楽しそうな声で私に返した。
「魔力付与が終わってからよ~」
それを聞いた私は新しい装備を着た状態で試着室を出た。そしてそのままりぼんおねえさんの近くに歩いていって、装備を披露する。りぼんおねえさんは私を見て満足そうに頷くと、私に頭装備を見せてきた。
「頭装備はこれよ。今から魔力付与を頼んでもいいかしら?」
彼女は私にカチューシャのような……ライトノベルなどで見るメイドの付けているヘッドドレスに似たようなものを見せてくる。柔らかい材質で、両端にリボンとウサギの形の魔石がついているとても可愛いデザインになっていた。革鎧に合わせた色になっていて、散りばめられた魔石や鱗、鉱石類がキラキラ輝いていた。
りぼんおねえさんは机に頭装備を置くと、私に古そうな手記を手渡した。沢山付箋が付いていて、おねえさんに促されるままに開いた最後のページには術式が記されていた。
これは恐らく……店ごとに代々伝わっているという、特別な付与術式だろう。なんだか複雑で、しかし術式の効率化が成されていて少ない魔力でも最大限の効果が現れるようになっていた。魔力の少ないというりぼんおねえさんの付与する装備でも他の装備店に埋もれなかったのは、この術式と素材の良さが関係しているに違いない。
私はこの手記の出処が気になった。この店は一号店、しかもりぼんおねえさんが一代でここまで成長させたという話が広まっているので、この手記はおねえさん以外の誰かが書いたことになるのだから。
でも聞くことなんて出来ない。そんな風に心の中で葛藤していると、りぼんおねえさんが何でもないことのように言った。
「この本はねぇ、あたしのお師匠さんが王都の貴族に目をつけられて店を続けられなくなってたたんだ時に受け取ったのよ」
話によれば師匠さんはもう亡くなっているようで、それでも彼の夢だった大通りでの出店が叶ったことを、りぼんおねえさんは本当に嬉しく思っているそうだ。
私は軽い調子で語られたその言葉をしっかりと聞いて、頷き、確信した。この術式は絶対に価値のあるものだから、問題にならないように秘密にしておこう。
そしてしっかり覚えた術式を、行使した。
一見すると何も起こっていないようだが、魔力を受けた頭装備は先程までとは違う雰囲気を纏っていた。魔石が僅かに光を纏っているようだった。
「あら凄いじゃない!消費魔力量半減だなんて、そうそう見ないわよぉ」
ヘッドドレスに付与された効果を確認したりぼんおねえさんは目を丸くして、小さく拍手した。長く装備店を営み女性からとても良い評判を得るりぼんおねえさんでも「そうそう見ない」なんて言うのだから、とても珍しいのだろう。確かに魔法使いにとっては喉から手が出るほど欲しい効果だ。
元々魔力量の多い私がこれを使えば、どれだけ魔法を使うことが出来るのだろうか……。私は想像して、少し怖くなった。何だかとても恐ろしい装備を作ってしまったように思えたが、これもおにい様以外には秘密にしておこう……。
私はヘッドドレスを身につけて、それでようやく武器以外の装備を揃えたことになる。どれもサイズがぴったりで、りぼんおねえさんの技量が窺える。
私はりぼんおねえさんに礼を言う。感謝してもし切れない思いだ。この装備たちが無料で手に入ったおかげで、高い武器を買える。それだけ私の生存率が上がる!
採寸室から店内に戻ると、おにい様が存在感を極限まで消した状態で待っていた。私もぶつかるまでおにい様の存在に気付かなかった。おにい様と合流した私は、おにい様と手を繋いで「ぷりてぃ☆りぼん」を後にする。そのまま私達はお高い武器の店に向かったのだが……。
「ない!似合う装備がない!」
私は項垂れていた。高級なお店に来たのは良いが、無駄にかっこいい武器か精錬された無駄のない形状の武器しか売っていないのだ。オーダーメイドの武器屋にも行ってみたのだが、鍛冶師さんがみんな可愛い武器に対して否定的過ぎる!
私が頭を抱えていると、おにい様は眉尻を下げて困り顔になる。せめてもう少し優しい雰囲気の弓があればいいのに……いや、これは無茶振りすぎるかな?
私はおにい様に連れられて見落としがないかと高い武器屋をもう一周巡るが、結局良いものは見つからなかった。
どうしようかと悩む私。するとおにい様は少し迷ったような表情を見せながら口を開いた。
「迷宮産の武器を売ってる専門店なら……あるかもな?不思議なデザインの武器が多いらしいし……呪われてることもあるらしい……けどな?」
最後の一言は気になったが、それはとても魅力的な提案だった。この世界に点在する迷宮は、無限に湧くらしき魔物由来の素材や鉱石類、そして宝箱などからのドロップ品の存在から重宝されているというし。もしこれで駄目なら妥協しよう……。
私はおにい様に「見に行こう!!」と催促し、そのお店まで案内を頼んだ。おにい様は仕方ないなぁとでもいうようにクスリと笑ってから、私の手を引いて路地裏に入っていった。大通りの向こう側にあるらしいので。
そういえばここ、魔法に秀でた国家アズマの王都は、王都として珍しく迷宮が無いらしい。王都のすぐ近くに迷宮街、そしてその中心に迷宮を設けているようたった。他の国は迷宮の所有権を明確にするためにだかといって王都城壁内に迷宮を取り込んでいるが……迷宮って魔物が溢れてきたりしないのだろうか?
私は一瞬浮かんだ疑問を思考の海に投げ捨てて、忘れようと首を振る。おにい様にどうかしたかと聞かれたが、気にしないように伝えた。
どんな武器があるか、今から楽しみだ。