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向こうのセカイを救うだけの、かんたんなお仕事

主人公、田代誠人は、無職の青年である。

無職、とはいっても、ニートではない。一応フリーターのつもりである。

高校卒業後、有名大学への進学が決まっていたのだが、家庭事情で進学できなかった。

それ以降は、郊外のアパートの一室で一人質素に暮らしている。


+++


――今日も、駅の近くのうどん屋でのバイトを終えて帰宅する。

だが、俺の足取りはいつものそれに比べて重々しいものだった。


「あーーーもうなんでこんな時期に!!」


去年からバイトしていたうどん屋が、急に潰れることになった。

なんでも、近くにできた格安チェーンのせいで店の収益がここのところガタ落ちだったのだという。


「たしかにさあ、俺もバイトしてて思ったよ? 最近やけに人すくねぇな―って」

「でもさ、なんで今日いきなり”今までありがとう、今日で店たたむから”なんだよ!」

「せめて前もって言っといてくれればな…… あの店長じゃ何年たってもそんな思考にはならないだろうけど」


店長は、うどんの腕こそ確かなものの、他人に配慮するだとか、そういう一般常識が見事に欠落した人間だった。


「だけどよ、こんな時期に職を失うのはキツいぜ、いくらなんでも」


今は12月中旬。そろそろクリスマス。それが終われば早くも新年だ。

色々とカネも労力もかかる季節。

インフルなんかにかかってバイトを休んだら家賃滞納になるレベルの生活を送る俺には、これは本当に死活問題だった。


「ほんと、どうすりゃいいんだ」


そうやって考えあぐねていると、ふいに後ろから声がかかった。


「おにーさん? 仕事がなくて困ってるんですか?」

「ん? あ、ああ。そうだけど」

「やはりですか。それでは、こんなのはどうでしょう?」

「なになに、えっと……”向こうのセカイを救うお仕事”?」


セカイを救うお仕事ってなんだ?

セカイ? 仕事? そもそも”向こうのセカイ”ってなんだ?

ふむ、でもまあそれもそうだよな。

いきなり現れたどこの誰とも知らない少女に真っ当な仕事を紹介されたら、それこそ驚きってもんだ。


「あの……さ、もう遅い時間だし、お父さんお母さん待ってるだろうから、家に帰ろっか」


そう、今はもう夜11時を回ったところなのだ。

こんな子供が外にいていい時間じゃない。

だが、目の前の少女は、俺が子供扱いしたことが不服だったようだ。


「むぅうーーっ おにーさんひどいよ、子供扱いするなんて」

「だって……なぁ」


もう一度、目の前の少女をきちんと見てみる。

どこから見ても、こど……も?


「あれ、その耳の形……」

「ふふ、気づいちゃった?」

「だってなぁ、それどうみてもエルフ耳にしか……」


さっきまではあたりの暗さもあって分からなかったが、よく見ると少女の耳は尖っていた。

少女は、さっきまでの幼い笑い方をやめ、真面目な態度で話し始める。


「あたし、エルフ族なの」

「いや、でもそう言われてもな」

「この世に存在しないでしょって?」

「ああ、そういうこと。物わかりが早くて助かる」

「”この世”には確かに存在しないわ」

「なるほど――――ってそんなの納得できるかっ!」


おっと、つい突っ込んでしまった。

だけどなあ。あまりにも現実味がないっつーか、信じられない。

まあそれでも目の前の少女の耳は尖っているのだが。


「このセカイには存在しないけど、向こうのセカイには普通にいるわ」


あーやばい、眠くなってきた。ちょっと色々ぶっ飛びすぎてないだろうか。

だが、嘘じゃなさそうなことも目の前の少女の耳を見ればわかる。

こんな奇病があるとは聞いたことがないし、見た感じつけ耳的なインチキではない。


「なるほど、俺は夢を見てるのか」

「……おにーさん、聞いてました?」


ちょっと怒ったような顔をされる。


「でも、信じられないのも仕方がないです。実際に見たら信じてもらえますか?」

「”見れたら”な」

「わかりました、では見せて差し上げます」


そういって、いきなり何かわけの分からない呪文のようなものを唱え始める。


「あっ! おい、ちょっと! ちょっと待った!」


少女には届かない。


「おい、聞いてくれって! え? あれ、なにこれ」


浮遊感。地についていたはずの足に、地面の感覚がなくなる。


「お、おいまじでやばいってこれ!」


「まじかっこれもう向こうのセカイとやらに転送始まってる感じ?」


抗うことも出来ず、結局俺は”向こうのセカイ”に飛ばされたのだ。



――――これから始まるのは、飛ばされた先にあった『”クリスマス”が世界均衡を維持している次元』で、俺が奮闘するだけの物語。



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