表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリーミン・コクーン(夢みる卵)  作者: ランプライト
第三章「電脳世界よりの使者」
9/17

009「電脳世界」

「海老名」家を後にして、私は溝川どぶがわのコンクリートの蓋の上で嘔吐していた。 自分の手の届く先でもう直ぐ人が殺されようとしている、それを只黙って見ているしか他に方法が無いのだ。 こんなにも緊張したのは初めてだ、こんなにも現実が有り得ないと感じたのは初めてだった。


何て言えば良い?「みほの」に其の侭を伝えられる訳が無い。


結局、私は「「みほの」の言っていた住所にちゃんと「海老名」家があった、でも留守で会えなかった」とだけ伝える事にした。 本当の事を伝えるのはもう少し頭の整理が出来てからでも良い筈だろう、


でも家族が延命装置を止めるまで後20日ちょっとしかない。 それまでに何が出来るだろうか? その後はどうなるのだろう?身体が死んだ後「みほの」の魂は一体どうなってしまうのだろうか?


住所に関しても疑問が残っていた。 結局「みほの」は確かに私の同級生だったのだ。 通っていた中学は同じで、その時は家はもっと近かった。「みほの」が眠り病にかかってから彼女の治療にお金が掛かるようになって、家族は住んでいた家を売り払って今の小さなアパートに引っ越したのだと言う。 それなのに何故「みほの」は新しい住所を知っていたのだろうか? もしかして「みほの」は目が覚めないだけで、現実世界で受け取る情報、聞こえてくる音や、肌に感じる温度や、チューブで流し込まれる栄養剤の匂いなんかを敏感に感じ取っているという事なのだろうか? だとしたら、彼女は既に自分が何年も眠りについている事や、そしていつかは延命装置を止められる事も本当は気付いているのではないのか? 一致する事と食い違う事と有り得ない事がごっちゃになっていて、こんなのやっぱり夢の中の出来事としか思えない。


その日僕は東の端の旧総督邸の前で「みほの」と待ち合わせする事にしていた、


蛍田:「やあ、」……いきなり声をかけられて、振り向くと其処に

蛍田:「確か、「町田さん」でしたっけ、」……大きな身体のマッチョな学者が立っていた。


宏治:「こんにちは、」

蛍田:「判りましたよ、「町田さん」が言ってた事、」

宏治:「え?」……確か、壁の外に何が有るか、だっけ?

蛍田:「ほら、現実世界の事ですよ、」


「みほの」が到着して、僕達三人は旧総督邸の傍にあるカフェでお茶を飲む事になった、


蛍田:「改めまして、「蛍田リョウ」です、」……そして何故だか今日はやけに腰が低い?

宏治:「どうも「町田」です、」

みほの:「「海老名」です、」……相変わらず「みほの」は「蛍田さん」が苦手らしい、もしかしてマッチョを意識してるのか?


蛍田:「びっくりです、凄いですよね、こんな事が現実に出来るなんて、技術の進歩侮りがたしです、」

宏治:「えと、イマイチ話の内容がつかめないのですが、確か、妖精の伝承を調べてるんでしたっけ、」

蛍田:「ああ、精霊伝承ですね、はい「職業、学者」です、」


蛍田:「この前までは本当に全然判らなかったんですよ、「試作品」だから仕方ないのかも知れないですけど、まだまだ改良の余地ありですね。」……言いながらマッチョがラージサイズのキャラメル乗せマキアートを口に運ぶ、


蛍田:「でも「町田さん」に壁の向こうの事を聞かれて、自分でも何だか可笑しいなって気付いたんです、それでだんだん記憶って言うか意識っていうか、はっきりしてきて、それで漸くこの世界の事が認識できるようになってきたんですよ、コツが居るんですね、」


宏治:「つまり、現実の記憶を取り戻したっていう事ですか?」

蛍田:「はい、」

宏治:「つまり、この世界は現実ではないと気づいた、」

蛍田:「はい、気づきました。」……僕と「みほの」はどちらからとも無く顔を見合わせる、なんにしてもこれで理解者が一人増えた訳だ、


宏治:「それで「蛍田さん」はどうやってこの世界に入ってるんですか?」

蛍田:「どうって、「MMODM」ですけど、違うんですか? 「町田さん」たちもアルファ版のテスターさんですよね、」


宏治:「MMODM?」

蛍田:「「マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ドリーム・メーカー」、夢の中で世界中の人達とオンラインで繋がる新世代RPGのプラットフォームです。 眠る時に専用のヘッドセット付けますよね、それで運営の作ったこの仮想世界の夢にアクセスしてるんじゃ無いんですか?」


宏治:「いえ、違います、僕は唯、自分で勝手に夢を見てるだけで、」

みほの:「私は、幽体離脱して、そのまま、」


宏治:「あ、もしかして黒い、これ位の大きさの四角い箱ですか?」……私は、現実の「みほの」が付けていたどこかの大学が研究中の機械の事を思い出していた、


宏治:「イヤフォンを耳に突っ込んで使う、」

蛍田:「そうですそうです、そんな感じ、もしかして違うメーカーなのかな、何社かが共同で研究してるとか言ってたから、」


蛍田:「それにしても「海老名さん」のアバター可愛いですね、「町田さん」も素敵男子だし、私の使ってる機械だとそんな良いアバターは選べなかったですよ、」……マッチョが、羨ましそうに僕達の体をじろじろと観察する、


つまりこの男は「実はこの世界はオンラインゲームの中」だって言っているのか? いや有り得ない、


確かに現実の「みほの」も何か夢と関係する機械を付けてはいたが、決定的におかしいのは僕はそんなものを使っていないという事だ。 ただ普通に布団に入って眠っているだけ、だとすると考えられるのは「蛍田さん」や「みほの」は、その機械の所為でなんらか脳に刺激を受けて、オンラインゲームではなく魂の世界に入りこんでしまった、と言う事なのではないか?


宏治:「「蛍田さん」、ちょっと確認したいんですが、僕はこの世界に来るのに何の機械も使っていません。 たまたまその研究中の黒い箱の事は知っていましたが、それとは関係ないんです。」

みほの:「僕もそんな機械の事は知りません、」……実際は「みほの」がその機械を装着されて眠っている事は、未だ伏せておいた方が良いだろう、


蛍田:「でも、じゃあ一体どういう事なんですか?」

宏治:「つまり考えられるのは、「蛍田さん」はその機械を装着して眠る副作用か何かで意識と言うか魂みたいなモノを身体から引き剥がされて、その魂がこの世界に引き寄せられたか、迷い込んだんじゃないかという事です、」


蛍田:「なにそれ、怖い、」


みほの:「そうだと思います、僕も幽体離脱してたらこの世界に迷い込んでしまって、それで元の現実世界に戻れなくなっちゃった。」

蛍田:「嘘!それってログアウト不可能っていう奴ですか? やだ、有り得ない、」……何だか喋り方がおネエっぽくなってきたな???


宏治:「直ぐには信じられないと思います。 最初は僕も、全部自分が見てる夢だと思ってましたから、でも実際に彼女に聞いた住所に彼女の家があるのも確認しましたし、今ではこれが只の夢ではなくて多くの人達の意識というか魂みたいなものが集まる場所なんだって理解しています。」


蛍田:「魂とか本当にあるんですね、びっくり、」

宏治:「私達は、何とか彼女を元の現実世界に戻せないか考えているんです、もしかするとその「MMなんとか」って言う機械が役に立つかもしれない、一度現実世界で会って話する事は出来ませんか?」


蛍田:「それは、ちょっと、考えさせてください。」……此処へ来てノリノリそうに見えた「蛍田さん」の口調が渋る、何だか肩も窮屈そうにすぼめて、とうとう恥ずかしそうに俯いてしまった、


蛍田:「ごめんなさい、大変な状況だって言う事はなんとなく判ります、でも頭が整理できてなくて、少し時間もらえないですか?」


これは、もしかすると「みほの」を救うチャンスかも知れない、あの「機械」が仮に精神世界にアクセスできるのだとしたら、それを開発者に理解してもらえたら、これまでオカルトでしかなかった精神世界や幽体離脱がもっと科学的に解明されるきっかけになるかも知れないのだ、そんな凄い研究の為になら貴重なサンプルである「みほの」を生かし続ける為に生命維持の費用を負担すると言ってくれる研究者が出てきたとしても可笑しく無い筈だ、


宏治:「何とか是非、お願いします。 念の為に僕の現実世界の連絡先を伝えておきます。」……ほんの少しでは有るが光明が見えてきた、と言えるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ