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ドリーミン・コクーン(夢みる卵)  作者: ランプライト
第四章「崩壊する現実」
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016「現実の裏側」

僕は、柔らかな女性の膝枕の上で目を覚ます。

一体此処は何処なんだ? 僕は確か「夢」を見ていたんだ、まるでSF映画の様に空を飛んで、月の海に在るドームへと着陸し、急に息苦しくなって倒れて、それで、膝枕?


優しい眼差しで僕の事を見下ろしていたその女性は、


宏治:「鶴巻さん?」……優秀なメイド長が何故? 見ると、あたりは見覚えの無い殺風景な部屋、僕達の他には誰も居ないようだった。

宏治:「此処は一体、」

宏治:「痛っ」……耳の後ろがじんじんと痛い、いや違う、


僕の左耳が切り落とされていた。


恐る恐る触れると、ざっくりと耳のあった部分が抉られていて、ぽっかりと大きな穴が開いている? これは爆発事故によるものなのか? やっぱり「あっち」が「現実」で、だとしたらどうして「此処」に「鶴巻さん」が居るんだ? 僕はすっかり混乱して自分の状態を手探りに確かめる。 両腕は、ある。両足は、ある。 顔は、鼻は、唇は、どうやら無事な様だ、傷を負っているのは左耳だけらしかった。


鶴巻B:「今触ると、傷口が開いてしまいます、」……僕は「鶴巻さん」の膝枕から起き上がり、きょろきょろと挙動不審に辺りの様子を伺う、

宏治:「鶴巻さん、これは一体どういう事? 僕は一体、どうなったんだ?」


鶴巻B:「それについてはご主人様が説明されます、」……「鶴巻さん」はすっくと立ち上がり、

宏治:「ご主人様?」……僕は「鶴巻さん」に手を貸してもらって引き起こされる、


鶴巻B:「こちらへ、ご主人様がお待ちです、」……それから僕は「鶴巻さん」に連れられて部屋のドアを潜る。 古い造りの狭い廊下には心地よい石鹸の匂いが漂っていて、やがて僕達は倉庫になっている小さな部屋へと入る。 部屋中には積み上げられた石鹸の山、雰囲気から察するにどうやら此処は「城壁の街」にある「石鹸屋」らしかった。


鶴巻B:「足元に気を付けて下さい、」……「鶴巻さん」が床の蓋を開けると、其処には地下へと続く梯子が現れた。 見ると地下は真っ暗で、灯りの唯の一つも点いていないらしい。

宏治:「何処へ行くんですか?」……僕は飲み込めない状況に戸惑いながらも、物腰の柔らかな「鶴巻さん」に促されるまま、頼りない梯子を下って、3mほど潜った所でどうやら少し開けた地下の空間に辿り着いた。 足元の感触はあくまでもフラットで、その手触りはまるでプラスチック?


鶴巻B:「こちらです、」……「鶴巻さん」は真っ暗な空間を僕の手を引いてずんずんと進んでいく。 真っ暗闇でどうして方向がわかるんだ?


やがて僕達は10分とも1時間とも思える時間キンキンと耳鳴りのする様な暗闇の中を進んで、それから「鶴巻さん」は行成り立ち止まって、闇の中の裂け目の様なドアを開けた。


それは十畳位のスペースだろうか、壁の彼方此方に埋め込まれたおぼろげな照明が仄かに室内を浮かび上がらせている。 どうやらそれはメーター?計器?の類らしい、そして壁と一体化したテーブルには、まるでマルチトラックレコーダーかシンセサイザーの様なスイッチ群と、いくつものパソコンみたいなキーボード、どうやら何かの操作盤らしいが、


宏治:「此処は一体何なんだ?」

萌:「此処が、現実の世界よ、」……声のする方を振り返ると、部屋の隅に一人の女が座り込んでいた。 壁の計器類の明かりに照らされたその女性は、痩せて、枯れて、疲れきってはいたが、紛れも無く「秦野萌」に間違いなかった。


宏治:「秦野さん」

萌:「できれば、昔みたいに「萌」と呼んでくれると嬉しいのに、」……彼女はそう言って目を伏せて苦笑いする、


宏治:「あの「夢」で言っていた事は、本当なの?」……恐らく彼女が全ての黒幕である事に間違いは無いだろう、

萌:「ええ、これは現実で、これが現実よ、」


宏治:「「みほの」は、無事なの?」

萌:「今のこの状況を正常だと仮定するなら、彼女は今の所眠っているだけだわ、」


宏治:「説明、してくれるかな?」

萌:「勿論よ、私はその為に今迄準備してきたのだから、」……彼女は辛そうな唸り声を漏らしながら立ち上がり、操作盤を操作するとやがて壁に埋め込まれたスクリーンが光を浮かび上がらせた。


宏治:「この部屋は一体何なの?」

萌:「此処は、この「コクーン」を建造する時に使っていた施設のメンテナンスルームの一つよ、」


宏治:「コクーン?」

萌:「あの城壁と天蓋に囲まれた街の事よ、貴方に「夢」で見せた通り、このコクーン・ドームは「月」の表面に在るの、私達はこの「月」の上の施設の中に閉じ込められているのよ、」


宏治:「月の上? 誰が? 何の為に?」……突拍子も無さ過ぎて、何から突っ込んでいいものやら思いも付かない、

萌:「未だ解らない事だらけよ、でもこの状況が私達「人間」にとって決して幸せでない事は確かだわ、」


宏治:「人間?」

萌:「順を追って説明するわ、そうして思い出してもらう、どうして貴方がこんな事をしたのかを、」


宏治:「僕が?」

萌:「そう、全ては貴方が計画して、私が協力した、」


宏治:「鶴巻さんも、仲間なの?」……僕は、部屋の隅で黙った侭こちらを見ているメイド長にちらりと視線をやった、

萌:「彼女はロボットよ、」


宏治:「ロボット?」

萌:「この街には同じ型のロボットが何体もいるのよ。 彼女は壊れてゴミ捨て場に廃棄されていた奴らのロボットを貴方が私達の手足になるように改造したものよ。」


「鶴巻さん」は自分の服を捲ってその裸の胸を見せる。 透明な人工皮膚の内側に、機械仕掛けの内臓がトクトクと鼓動を刻んでいるのが見えた。


宏治:「ロボット?」……理解不能な状況が次々に積み重なっていく、


萌:「貴方はこの部屋の事を、覚えているかしら?」……「秦野萌」は計器盤を操作して、壁のスクリーンにがらんとした部屋を映し出した。 其処に有るのは小さなテーブルと、積み木と、絵本? まるで幼稚園の教室の様な部屋だ、


宏治:「さあ、何処なんだ?」

萌:「此処は私と貴方が始めて出会った場所、私達は此処で人間としての教育を受けたの、」


宏治:「教育?」……私の記憶によれば、私が生まれたのは神奈川県で、幼稚園も小学校も、中学も地元の公立校だった。

萌:「これは小学校ね、」……画面が切り替わり、今度は大きな黒板のある教室が映し出される、でも並べられた机は12個だけで、やけに殺風景に見える。


萌:「私達はこの施設で、日本で言う中学迄の教育を受けるの、そして検査を受けて篩いに掛けられる、」……次にスクリーンに映し出されていたのはスポーツジムの様な部屋?


萌:「健康状態、知能指数、運動能力、その全てが基準値を上回った者だけが「コクーン」に移される。」


萌:「但し、それ迄の記憶は全て封印されて、奴らにとって都合の良い別の記憶を植えつけられるの、」

宏治:「都合の良い記憶?」……病気がちで、友達も出来ず、学校でも会社でも何の成功体験も無い30歳の男の記憶が、都合の良い記憶だって言うのだろうか?


萌:「奴らは自分たちが支配しやすいように人間を洗脳するの、その為に「夢」を使うのよ、」

宏治:「夢?」


萌:「夢の中で人間の希望と絶望を操作して、こんなペットの様に飼育されている現実から目を背けさせるのよ、」

宏治:「飼育?」


萌:「そうよ、この街はまるで虫篭そのものだと思わない? でもそれでも選ばれなかった者達よりは何千倍もましだけどね、」

宏治:「選ばれなかった者?」……スクリーンが切り替わり、其処には巨大なミキサーの様なものに次々投入されて、抉られて、砕かれて、潰されて、


萌:「選ばれなかった者は殺処分されるの、」……ミンチにされている人間の男女の姿が映し出されていた、


その生きた人間がブロック状の肉骨粉へと加工されていく工程を目の当たりにして、僕は吐き気を通り越した怖気に足を掬われて、その場にしゃがみこんでしまった。


宏治:「まさか、これを食べさせられてるなんて事は無いんだろうな、」……だってそれはまるで人間が家畜にしているのと同じ様に、

萌:「貴方は始めてこの映像を見た時にも今と同じ事を言っていたわ、」


宏治:「一体、誰がこんな酷い事を?」

萌:「子供を育てて、眼鏡に敵った者だけを生かして間引きし、繁殖させる、一種の「ブリーダー」の様な連中ね、」


宏治:「ブリーダー?」

萌:「奴等が人間の尊厳など歯牙にもかけていない事は明らかだわ、」……続いてスクリーンは、手術台の上で解剖された幾つもの人間の標本を映し出す、


萌:「こんな事を、同じ人間がするとは思えない、思いたくないわ、」

宏治:「人間じゃない?」


萌:「2年前に、貴方は奴らの正体を探る為に私に協力を求めたのよ。 まず最初に私の頭に埋め込まれた洗脳機械の登録番号を「蛍田リョウ」に移して、それから私の頭から機械を摘出したの、」……彼女が髪をかき上げて見せると、左耳のあるはずの場所にはぽっかりと穴が開いていた。


萌:「耳の中にアンテナが埋め込まれていたから、耳ごと摘出したのよ、」……つまり私の左耳がなくなっているのも同じ理由という事か、


萌:「頭の中の機械を摘出する事で、奴らの監視装置から感知されなくなるの。 それから私はこの放棄された工事区画に潜んで、奴らの居る場所を探り続けたと言う訳、」

宏治:「でも、どうして「僕」は自分でやらないで君にそんな辛い事を君に任せたりしたんだ?」……女の子の耳を刳り抜くなんて酷い事をどうして?


萌:「貴方は余りにも優秀すぎて奴らに目を付けられていたから、貴方が居なくなると奴らに怪しまれるのは明らかだったのよ、それで私が貴方の代わりに地下に潜ったと言う訳、」

宏治:「でもどうして君は、こんな恐ろしい事を、その、手伝ってくれているんだ?」……まだ、そんな事を自分が企てていたと言う事が信じられた訳じゃないが、


萌:「だって、お陰で私はみすみす肉骨粉にならずに済んだのだもの、…それに私達は愛し合っていたから、」……彼女はそう言うと、操作盤の上に腰を掛けて、ほんの少し微笑んで見せた、


宏治:「ごめん、全然覚えていない、」……それ以前に全然本当の事だなんて思えない、

萌:「予想はしていたわ、でも私は貴方の力になる事が出来て嬉しいのよ、」


画面がスクリーンセイバーに切り替わる、


宏治:「それで、これからどうするつもりなの?」

萌:「貴方の指示通りに調査を進めてきて、とうとう全ての情報が集まる場所を突き止めたわ、おそらく其処に奴等が居る。 この旧い整備用通路を使えばその部屋の直ぐ傍まで行ける事も確認済み、後は、」……彼女は掌の上に載せた「灰色の卵」を僕に見せる、


萌:「この「爆弾」で奴らを屈服させるか、コクーン中に仕掛けた装置を使ってこの施設の機能を狂わせて、空気を全部排出して全てを破壊するか、」……彼女はそういうと僕にその「灰色の爆弾」を手渡した、


萌:「私の役目は此処までよ、後は貴方に任せるわ、」

宏治:「それって、」……明らかに狂っているとしか思えなかった、もしも本当にこれを中学生の頃の僕が仕組んだ事なのだとしたらきっと僕が狂っていたのだろう。 どうして、もっと平和的な交渉を選択肢に含めなかったんだ?


此の侭だとどちらに転んでも僕が生き残る事は出来ない訳だ。


ならば、少なくとも「みほの」や他の人間達ごと道連れにする様な最悪の選択は避けねばならない。 でもそれ以前に僕は本当にこの「秦野萌」の言う事を信じてもかまわないのだろうか? 何処にも何の確証も無いというのに。 何が本当は現実で、何が本当は夢なのか、それさえはっきりしないというのに、もしかすれば全ては彼女の狂言かも知れないと言うのに、


萌:「さあ、行きましょう、」……彼女は部屋の隅に転がしてあったナップサックを拾い上げて肩に掛け、暗闇の廊下に続くドアを開ける。


宏治:「一寸待って、もう少し考える時間が欲しい、」……何も納得しないまま死にに行くなんて、幾らなんでも嫌だ、

萌:「駄目よ、貴方の行方がわからなくなってもう半日が経つわ、奴らは既に動き出している筈、一刻の猶予も無いのよ、」


でもこれじゃあ「癌で死ぬ」のと何が違うと言うんだ? 人間どうせ死んでしまうと言うのなら、そんなの夢だろうが現実だろうがどっちでもあんまり関係ないじゃないか、


宏治:「どうしても、やるの?」

萌:「人間がペットでも家畜でも無い事を奴らに教えてやるのよ、さあ行きましょう、」……彼女は僕に向かって手を差し伸べて、


そして次の瞬間、行き成り彼女は足を掬われて倒れたかと思うと、……あっと言う間もなく暗闇の奥へと引き擦り込まれてしまった!


悲鳴すら聞こえなかった、


宏治:「何が、起こったんだ?」……僕は恐る恐る部屋のドアに噛り付いて、彼女が消えて行った真っ暗闇の廊下の先に目を凝らす。 どんなに辺りの気配をうかがってみても何も見えない、誰も居ない、まさか巨大な宇宙蜥蜴の群れが闇に潜んでいるとでも言うのか?


いつの間にか、ロボット「鶴巻さん」の姿も見当たらなかった、僕はこの怪しげな微かな低周波ノイズの籠った十畳余りの空間に只一人取り残されて為す術も無くその場に座り込む。


やがて暗闇の床を這いずるほどの低空に二つの光る瞳が現れて僕を見た。 光る瞳はゆっくりと僕の方へと近づいてきて姿を見せる、それは一匹の猫だった。


宏治:「脅かすなよ、」……僕は無理矢理に唾を飲み込んだ、


猫は僕の直ぐ足元にまで近づいてきて、まるで今にも何か喋りだしそうにじっと僕の顔を見上げる。


そして次の瞬間、真っ暗闇だった廊下に眩いばかりの灯りがともった!


見るといつの間にか部屋の前の通路には何百匹という猫達が集まっていて、その全ての猫達の瞳がじっと僕の事だけを見つめていた、

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