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ドリーミン・コクーン(夢みる卵)  作者: ランプライト
第四章「崩壊する現実」
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014「現実の境界」

気が付くと見知らぬ天井、辺りの様子から推察、……首が固定されていて動かない? 何故だ?


確か私は「みほの」達とお茶を飲んでいて、何か吹き矢の様なものが首に、……いや違う、じわじわと海馬から記憶が滲み出してくる。 私は「みほの」の家を訪ねていて、それで行き成り目の前で爆発が起こったんだ。 一体自分がどうなってしまったのか調べようと身体を起こ、……起こせない。 どうやら私は体中にギブスの様な固定具を付けられていて、腕一つ首一つ動かせない。 恐る恐る手足の指を動かしてみて、どうやら手足は無事なようだが、何でこんな風に全身雁字搦めなんだ? 必死に何とか身を捩ってみようと試行錯誤するがどうにもならなくて、恐らく5分もしない内に力尽きて全ての抵抗を諦めて其の侭全身を放り出す、


自分の呼吸の音と、「ピッ、ピッ、ピッ……」と繰り返す電子音がやけに耳につく、


やがて医師と、看護師と、二人の私服警官らしい男たちが部屋に入ってきた。

警官:「県警の橘です、」……私服警官は私に警察手帳を見せて、これまでの状況を説明してくれた。


刑事の説明によれば、私はどうやら前立腺癌が転移した所謂末期状態で余命は半年以内と言う診断だったらしい。 それで世を儚んだ私は中学生の頃に思いを寄せていた「海老名みほの」とアイドルの「秦野萌」を道連れにして自殺を図ったと言うのが警察の見解で、更に「みほの」のアパートを爆破して母親や弟を殺した容疑も掛けられている。 「秦野萌」は依然として行方不明で、私の回復を待って本格的な事情聴取を始める事になっているらしいが私には身に覚えが無い事なのでこちらも心配だ。 唯一不幸中の幸いと言えるのは、建物を半壊する程の大きな爆発を直撃したにも拘らず貴重な容疑者である私が奇跡的に命を取り留めた事くらいだそうだ。


宏治:「私は本当に癌なんですか?」……一週間ほど経って漸く少しはまともに声が出せるようになってから、それでも未だ取調べとは言えない雑談の様なやり取りが始まった。 情けない事に私の身体は依然として包帯とギブスだらけの身動き一つ出来ない状態で、何だかじわじわと身体の彼方此方が痒くなってくるのに掻くことも出来ないもどかしさがいらいらと辛い。


橘:「爆発事故の怪我を治療する過程で医師が確認した、間違いないそうだよ、」……刑事は私の視界の外から話しかけてくる、どうやら部屋の中を歩き回っているらしい。 この刑事は来た時と帰る時にだけちらりと私と目を合わせるが、それ以外はずっとこんな調子で私の見えない所から話しかけてくるから何を考えているのだか得体が知れない。


橘:「お前の供述はまるで三文小説みたいで何の説得力も無いんだよ。 「黒い箱」なんてモノはお前の家にも「蛍田リョウ」の家にも「海老名みほの」の家にも何処にも無かった。 お前が言っていた大学も存在しない。 お前の携帯には「蛍田リョウ」からの返信E-mailも通話履歴も残されていなかった、これは通信会社にも確認したから確かだ。 もっと納得のいく説明と証拠が無ければお前の言い分を信じる事は無理だよ。 その上「夢の中で「海老名みほの」や「蛍田リョウ」と会っていた」なんて供述は、お前が故意に責任能力の喪失を演じていると疑われても仕方が無い位馬鹿げてる。 いい加減本当の事を言ったらどうだ? 嘘を腹に抱えたまま死んで行くのは気持ち良いもんじゃないだろう?」


どうやら私はどうせ死ぬんだから犯人って事にしておけと言うそれ位の扱いになっているらしい、でもそれを言ったら誰だってどうせ何時かは死ぬんだから何も違いは無い筈だろう、


不思議な事に私はあの日以来「明晰夢」を一度も見ていなかった、まるでそんな物は最初から存在しなかった様にだ。 やはり例の「黒い箱」から離れた事で「明晰夢」を見なくなったという事なのだろうか? そう言えば「みほの」はどうしただろうか? もう直ぐ30歳の誕生日の2月3日を迎える筈だが、延命装置はどうなるのだろう? それ以前にあの爆発で「みほの」と弟は無事だったのだろうか。 警察は一切の情報を遮断して何も教えてくれないのだが、まさかあの爆発で命を落としたりしたのだろうか? もしそうだとしたら、あの「夢」の中の「みほの」の魂は一体どうなってしまったのだろう?


橘:「そろそろ、本当の事を喋ってくれないかな、」……爆発から一ヶ月ほど経った頃、行き成り刑事の態度が変わり始めた。


橘:「此の侭被疑者死亡でお蔵入りとか洒落にならないんだよ、お前どうせ死ぬんだから全部自分がやりましたって自供してお互いすっきりお別れしようじゃないか。 どうせ「秦野萌」とはよろしくやりまくったんだろう? どうやって後始末したのかは知らないが、死ぬ前にきっちり懺悔しといた方が心残りなくて良いんじゃないのか?」


宏治:「刑事さん、私は誰も傷つけたりしていない、「蛍田リョウ」も「海老名みほの」も私の数少ない友達だ、私が彼女達に酷い事をする訳が無い。 真犯人は他にいるんだ、お願いだから真犯人を捕まえて欲しい、」


橘:「そんなもん居ないんだよ、全部お前の妄想なんだってば、全くしょうがないなぁ、」……そうして刑事は部屋に居た医師に何か合図する、


橘:「「現実」を直視すれば、少しは考えも変わるかも知れんか、」

宏治:「何をするんですか?」


医師達は無言の侭、テキパキと私のベッドを動かして、じょきじょきと切れ味の良い鋏で次々に私のギブスを取り外していく。


橘:「丁度、傷口の消毒と包帯の取替えをする処だったんだ、これまでは痛みを感じない様に麻酔を掛けて処置してたんだが、今回は特別にお前にも見せてやるよ、」


宏治:「痛っ! 痛い!何をしてるんですか?」……医師達が次々に包帯をはがして、そして全身の傷口に当てたガーゼを乱暴に取り除き、固まりきらない瘡蓋がびりびりと電気の様な激痛を走らせて、途端に自由になった首がごろんと転がって、


行き成り信じられないものが私の視界に飛び込んできた。


それは剥がれかけた瘡蓋から滲み出した膿と黒い血液と塗りたくられた薬品に塗れた、削れたり、凹んだり、潰れたり、焦げたり、間に合わせの様な縫合跡だらけの肉の塊、


橘:「鏡でよく見せてやれ、一体自分がどんな姿になっちまったのか、」


鏡に映っていたのは、焼け焦げて赤黒く腫れた顔、半分削り取られた鼻、歪に裂けて引きつった唇、剥き出しの歯茎、髪の毛は所々剃られていて、耳が片方千切れて無くなっている、それに、


その鏡に映った人間には腕が、一本、肘から先は何処へ行ったんだ? そして脚も、片方は膝から下が片方は殆ど足の付け根から下が、何処にも見当たらない、


医師達が無言のまま傷口に薬を塗りたるその痛みだけが、その変わり果てた人間の残骸が「自分」だという「可能性」を突きつける。


こんなのが「現実」な訳が無い、


橘:「いいかこれが今のお前の姿だ、お前は此の侭病院から出られないまま数ヶ月もしない内に癌で死ぬ、今のお前に出来る事はきちんと罪を償う事だけなんだよ、」


刑事が何を言っているのか全然耳に入ってこなかった。 変わり果てた自分の恐ろしい姿が網膜に焼き付いた侭、それなのにこんな姿に成り果てても尚、私はどうして何にしがみついているのだろう?


刑事達が部屋を出て行って、私は再び包帯に包まれた芋虫の様な姿で一人きりでベッドの上に放置されて、それなのに何故私は息をし続けているのだろう?


それでも不思議に悲しい気持ちにはならなかった、「これが死ぬという事なのか」と生から死へと移り行く自分を実感しながら妙に醒めていて、


死んだら、あの街へいけるのだろうか?


結局私にはこの現実に何の未練も残っていないという事なのだろう。 でも、人の「夢」を操る機械で「魂」を捕えて何かを企み、その目的の為に「みほの」の家族を殺し、「リョウ」を何処かに連れ去り、私をこんな姿にした真犯人が実在するとしたら、私は本当に此の侭ソイツらを見逃して赦してしまっても良いのか?


だからと言って、こんな姿になってしまった私に今更何が出来る訳も無くて、燃え尽きた筈の焚き木の芯の奥で熱が未練たらしく燻るみたいにもう一度後悔が揺らいで、


でも、……


ヒールの足音が病院内の廊下に響き渡ってくる。 足音は私の病室の前で立ち止まり、恐らく病室の前で見張っている警官と何か話をしているのだろう、小さな話し声が聞こえて、それから無慈悲にも部屋のドアが開いて、諦めきった部屋の奥にまで冷たい廊下の明かりを招き入れる、


誰かが近づいてきて、私の顔を覗き込んだ、


萌:「やっと、会えたわね、」……其処に立っていたのは「秦野萌」だった。

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