013「現実の世界」
無理矢理、私は「現実」に引き戻された?
何か「吹き矢」の様なものがチクリと首に刺さったのは覚えている、それで「夢」の中で意識が遠くなったかと思ったら此処にいた。 見覚えの無い天井、そう言えば昨日「リョウ」と一緒に都内のホテルに泊まったんだった。 隣のベッドを見ると、「リョウ」の姿が見当たらない。 「夢」の中では彼女も同じように突然意識を失ったから、恐らく同じように現実に引き戻されたのではないかと思われるのだが、
宏治:「どこ行ったんだ?」……私は身体を起こして、…何だか吐きそうに気分が悪い、まるで二日酔いしたみたいだ。 バスルームにも「リョウ」の姿は無かった。 机の上を見ても、なんらか書置きの様なものも見当たらない。 私は昨日教えてもらったLINEにメッセージを送ってみるが、暫く待ってみても「既読」になる様子は無く、思い余って携帯に電話してみても、矢張り応答は無い、延延と呼び出し音が続いた後、留守番電話サービスに繋がれる。 私は念の為E mailに連絡を取りたいとだけ書いて送信する。 まさか全部「リョウ」に騙されていた? 多分そう言う事ではなく、何か緊急事態が起きていると考えるのが妥当だろう。
時計は既に10時を過ぎていた。 この侭では無断欠勤になってしまうので一応会社に連絡を入れる事にする。 昨日は親戚の不幸という理由で早退したから、その流れで今日は休ませてもらう事にしよう、
課長:「町田さん今何処に居るの?」……不思議な事に課長の対応は驚くほど穏やかだった、
宏治:「東京の六本木です、今から一度実家に戻ってから、親と色々相談したい事があるので、スミマセンが今日はお休みを頂きたいのですが、」
課長:「それは構わないけれど、幾つか確認したい事が有るかも知れないから、電話には出れる様にして置いてもらえますか? それで一寸会議室に移動するので、今から言う番号に一度掛け直してもらっても良いですか?」……私は言われた通りに電話を掛けなおして、それから今日中に片付けておく予定だった業務内容を課長に説明する。
課長:「じゃあ、余り気を落とさないように、会社の事は気にしなくてもいいから、何か困ったことがあったら直ぐにこの番号に連絡してください。」
宏治:「ありがとうございます、ご面倒をおかけしてスミマセン、」
それから簡単に身支度を整えてホテルから出ると、エレベータの前で一人の男に呼び止められた。
男:「あんた、名前は?」……見ると全身黒ずくめの太った中年で、サングラスをして、デカい一眼レフを持っている、
宏治:「どちら様ですか?」……いきなり失礼な男だなと思いながら問い返すと、
男:「あんた、海老名萌とどういう関係なの?」……男はスマホの画面を私に見せる、スマホには「海老名萌」が入って行くホテルの部屋に時間差で入って行く私の姿が盗撮されていた。
宏治:「何の事ですか?」……でも、この写真だけでは何も追求出来ない筈だ、一緒に居る所を撮られた訳でもないし、ホテルの部屋に一緒に居たと言う証拠にもならないだろう、
男:「あんた海老名萌と同じ部屋に泊まっただろう、」……しらばっくれようとする私にしつこく男は食い下がる、
宏治:「人違いじゃないですか? 海老名萌ってアイドルの人ですか? 私はそんな有名人とは関係ないですよ、」……私はエレベータを諦めて階段を下りる事にする、
男:「こっちには証拠写真があるんだよ、」
宏治:「……」……私は終始無視を決め込み、
男:「この先どうなってもお前の所為だからな」……男はフロントの前まで着いてきて、そう言い放ってから何処かへと姿をくらませた、
宏治:「何なんだ、一体、」……恐らくゴシップネタを狙うパパラッチかなんかだろう、
それから急いでアパートに帰ると、家の前にパトカー? そして私の部屋から警察官が出て来る、警察が何故? 私は咄嗟に物陰に身を潜めて辺りの様子を伺う、何か事件でも有ったのだろうか? 見ると辺りには十数人の警察官が周囲の状況を監視している? そしてテレビで見た事の有る立ち入り禁止のテープが私の部屋の前に張られていて、 これは出て行くべきなのか?出て行ってはいけないのか? いや、この状況だと当然会社にも警察から連絡が言っている筈だ、それでさっきの課長の対応なのだとすると、なぜ課長は警察の事を伏せていた?
私の足は自然と現場から離れて行く、恐らく警察は私の行方を追っているに違いない。 理由は判らないが此の侭素直に出て行って話をするよりは、少し情報を集めて考えを整理したほうが良い。 でも何処へ行けば良い? 実家? 当然実家にも警察が行っている筈だろう。 私はコートで顔を隠しながら深い考えも無しに「海老名みほの」の家へ向っていた。 もしかして例の「黒い箱」が関係しているとのだとすれば、「みほの」の家にも何かが起きている可能性がある。
行きすがら私はスマホで「秦野萌」を検索してみる、彼女が姿を晦ませた事についてなんらかの情報が得られないかと考えたからだ。 案の定ネットでは何やら騒ぎになっているらしい、失踪?行方不明? 彼女は海外ロケから戻った一週間前からずっと連絡が取れない状態になっているらしい、でも何だか変だ? 彼女は昨日私とカラオケボックスに行った時までは、「次の日は仕事」、つまり今日は仕事だと言っていたから事務所の誰かとは連絡を取っていたのではないのか? そこで日付を確認してみる、私が「リョウ」のホテルに行ったのは、1月10日正月休みが明けて直ぐの日だった、そしてスマホの待機画面に映し出された今日の日付は、
宏治:「…1月15日?」……5日間の空白? 一体何がどうなっている? 私は丸4日間もホテルで眠り続けていたと言うのか? 有り得ない、ホテルの従業員だって普通気付くだろう。 仮に「リョウ」が一週間部屋を予約していたとしても、一度も室内清掃が入らないなんて事はありえるのか? ていうか私は丸4日間眠り続けたまま飲まず食わずだったっていう事??
ネットでは、「秦野萌」の失踪は事件と事故の両面で捜査されている事になっていた、そしてストーカー疑惑、「秦野萌」は2ヶ月前からストーカー被害に有っており、警察にも届けでされていたらしい。 そして最期に「秦野萌」が目撃されたのが1月10日、横浜にあるカラオケボックス、一緒に写っていた男の行方を追っている。 これは私の事で間違いないだろう。 そして満を持して公開されるストーカーの写真、都内のホテルから出て来る私の写真、私は「秦野萌」失踪の容疑者にされている?
到着してみると、「海老名みほの」のアパートの辺りには警察の気配は無いようだった、「みほの」と「リョウ」を繋ぐ線は「夢」と「黒い箱」だけだから、警察が「みほの」に目を付ける事が有ったとしてもそれはずっと先の事だろう。 私は「海老名」家のドアの前に立って中の様子を伺いながら呼び鈴を押してみる。
呼び鈴:「ピンポーン!」……返事が無い、が、中から何か変な匂いがする、
宏治:「海老名さん!」……嫌な予感がして、大声で呼びかけると、
物音:「「ゴトン!」」……中から何やら大きな物音、何かが倒れたみたいな、それで耳を済ませると微かに、人間のうめき声?
弟:「…ぅおぐぅ、ぐぇぐぇ、……」
私は思い切ってドアを、蹴破った!
宏治:「海老名さん!」…見ると、弟が手足を縛られた状態で倒れている、さっきの物音はどうやら弟が椅子を倒して救いを求めた音らしい、私は弟の猿轡を外し、
弟:「…練炭、…」……見ると、部屋の彼方此方に、無造作に七輪に載せられて不完全燃焼する練炭が10個余り?
私は弟のロープを解、…けない、…咄嗟に台所の包丁を取ってきてロープを切って、フラフラに弱っていた弟を家の外へと連れ出す。
宏治:「みほのさん!」……それから急いで部屋に戻って、何だかクラクラする、奥の部屋では母親が包丁で自分の胸を刺して、死んでいる?
ベッドの上の「みほの」は、恐らく眠ったままらしい、私は必死に「みほの」を抱きかかえて連れ出そうとするが、現実の私は思いの外、力が無くて、ガリガリにやせ細った筈の「みほの」は想像以上に重くて、容易に持ち上がらない、しかも点滴と排尿用のカテーテルがベッドに引っ掛かって、容易には動かない、
其処へ弟が引き返して来て、力を貸してくれる、
私達は漸くの思いで「みほの」を部屋の外へ連れ出して、
宏治:「もしかして、無理心中?」
弟:「違う!かあさんは殺されたんだ、」
宏治:「殺された?」
弟:「変な連中がやって来て、……」
宏治:「兎に角、警察と救急に連絡して、」……でも、私が警察に電話するのは、、きっと不味い、
宏治:「電話できますか?」
弟:「携帯が中に、」……そう言って弟が一旦家の中へ戻った瞬間、
行成り部屋が爆発した!




