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ドリーミン・コクーン(夢みる卵)  作者: ランプライト
第三章「電脳世界よりの使者」
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010「電脳世界よりの使者」

正月休み明けの出勤は何時にも増して億劫で輪をかけてやる気が出ない、不規則な生活に慣れた体は昼休み前だというのに早くも空腹に唸っているし、いよいよ腹を括って血尿の再検査もしなきゃならない件もチラチラと集中力を削いで行く、何よりも当面の最優先事案は堪ったE-mailよりも「みほの」をどうやって救うかで間違いなかった。


あの日以来 私はネットや「物の本」で「眠り続ける病気」について調べまくっていた。 信じられない事だが「眠り病」というのは実際に存在するらしい、それは「嗜眠性脳炎」と呼ばれるウィルスが原因の感染症で1920年頃に世界的に流行したものらしいが、此の病気は完全に昏睡症状が続くと言う訳ではなく薬の投与によって改善する事もあるらしいから、「みほの」の症状とは一致しない。


「みほの」の場合は身体にこれと言った異常がなく、fMRIによる検査では脳にも異常が認められず、自分で呼吸が出来ていて、時には咳をしたり寝返りをする事も有る、にも関わらず眠りから覚めないと言う状態が15年に渡って続いている。 原因不明の新病で世界中探しても他に例が見られないらしい。 これまでは研究目的で延命医療費を負担してくれる研究機関が幾つか有ったらしいが、10年以上に渡って変化も改善効果も見られない事、他に同様の症例が増えない事から年を追う毎に研究は打ち切られ、それに連れて家族への負担が増して行ったと言うのが現状の様だ。


しかし眠り続ける事の異常さ以上に普通で無いのは「夢の共有」の方だろう。 これ迄の常識では夢は人間の脳の中の出来事であって、他人の夢と自分の夢が繋がるなんて事は現実には起こりえない筈だったのだが、実際に「みほの」を夢の中で見て話をした人間が2人居るのだ。 これは「魂」とか「幽体」とか「精神世界」を肯定せざるを得ない事態であって、現代科学に一石を投じる大事件だと言っても過言でない筈だ、


等と、私が現実逃避な沈思黙考に耽りながらパソコンのキーボードを掃除していると、行成り社内に黄色い嬌声が沸き上がった。


女子社員1:「美味しーい!」

見ると女子社員達が部長が持ってきた海外旅行土産のチョコレートをワザとらしく絶賛しているらしい、当然私には回って来ないのだが、

女子社員2:「いいなぁ、私も連れてって下さいよ、」……部長はもう直ぐ50歳の白髪で下腹の出た禿親父だと言うのに、私なんかとは比べ物にならないくらい女子に人気がある、金の力だろうか?


部長:「そういえば空港で芸能人に会ったぞ、今人気の「秦野萌」! 海外旅番組のロケとか言ってたな、」……部長は目尻を垂らしてスマホに写った写真を女子社員達に見せている。(恐らく「秦野萌」と並んで写った部長の写真)

課長:「おお良いですね、私もファンなんですよ、彼女大学と芸能活動の掛け持ちなんでしょ、あの根性を見習いたいですよね、」

女子社員3:「またぁ、課長の興味は大きな胸の方なんじゃないんですかぁ?」

女子社員4:「美人の若い子は得だよねぇ、私らの方がもっとがんばってると思うんだけどなぁ、」

課長:「皆さんの頑張りはちゃんと評価してるよ、知ってるだろ、」


女子社員5:「町田さん!」

女子社員5:「町田さん! 外線!」

宏治:「はい、すみません、」……まさか女子社員から名前呼ばれるとは思っていなかった、、

女子社員5:「全く、ぼぅっとしないで欲しいわ、正月ボケで弛んでるんじゃないの?」

女子社員3:「どうせ私達の話、盗み聞きしてたんじゃない?」


宏治:「はい、町田です、」……私は自席の電話機を外線電話に繋げる、

女性の声:「突然電話してすみません、蛍田です、」……蛍田? どこの業者だったっけ?


宏治:「あ、マッチョさん!」……途端に私は小声になる、

蛍田:「え、ああ、はいその蛍田です、」


宏治:「どうして此処の連絡先がわかったんですか?」……確か私が彼女に伝えたのは、家の住所と携帯の電話番号だった筈、……彼女??ちょっと待て、何で彼女?

蛍田:「すみません、失礼かとは思ったのですが、一寸心配だったので町田さんの事を調べさせてもらいました、」……調べたって?どう言う事?


宏治:「あの、すみません、蛍田さんって男の方でしたよね、」

蛍田:「御免なさい、ネットではジェンダー詐称ってました、」……要するにネカマの類か、


宏治:「そうですか、」……私は頭を整理する、蛍田さんが連絡してくれたという事は、「みほの」を助ける方法について相談に乗ってくれる、という事で間違いない筈だ、

蛍田:「私、今日なら時間が取れるんですが、今から会えませんか、」……それにしてもまた急だな、


宏治:「今日ですか、一寸待って下さい、」……私は今日のスケジュールを頭の中でチェックして、

蛍田:「実は、私の方からも相談したい事が有るんですが、どうしても今日しか時間が取れなかったんです、」


宏治:「わかりました、何処に行けばいいですか?」……多分仕事のスケジュールは調整できるだろう、

蛍田:「実は今、町田さんの会社の隣にある喫茶店「カリン」に居ます、目印は白いコートを椅子の背凭れに掛けて、ニット帽を被ってる、」……なんと、用意周到な、


宏治:「わかりました、直ぐに行きます、」……当然未だ就業中なのは分かっているが、私は課長に「親戚が倒れて危ない状態なので、今から早退させて貰いたい、」と嘘の理由をでっち上げて、会社を後にする、


指定された喫茶店はうちの会社が入っているビルの3軒隣にあるのだが、それにしてもどうやって私の会社の場所を調べたんだ?


私は一瞬躊躇しながらも、喫茶店のドアを潜った、


中を見回して、白いコートを椅子の背もたれに掛けていてニット帽を被っている、セーターを着た少しぽっちゃりした女の人を発見する、多分彼女で間違いないだろう。


宏治:「あの、すみません、もしかして蛍田さん、でしょうか?」


女の人は、振り返って怪訝そうな顔で私を睨みつける、横分けに三つ編みの長い髪で大きな眼鏡を掛けている、素朴な感じだが結構美人の若い女の子だった、


宏治:「人違いだったらごめんなさい、」

蛍田:「いえ、合ってます。 町田さんですね、初めまして蛍田です。」……私は彼女の前の席に腰を下ろす、程無くウエイトレスが近づいて来て、私はアメリカンコーヒーを一つ注文した。


蛍田:「写真は事前に見ていたんですが、実物を見るとやっぱり随分印象が違ったので吃驚してしまいました、」……女の子は物珍しそうに私の顔を覗き込む、

宏治:「写真?」


蛍田:「すみません、疑っていた訳じゃないんですが、矢張り一寸怖かったので、事前に興信所で町田さんの事を調べさせて頂きました、」

宏治:「はあ、」……まあ、女の子は其れ位用心深い方が良いのかも知れない。


蛍田:「それで、珈琲注文しちゃったんですけど、此処じゃ話し難いんで場所を変えませんか?」

宏治:「良いですけど、何処へ行くんですか?」……今度はコッチの方が不安になって来る、まさか「美人局」じゃ有るまいな、


私達はその侭直ぐに喫茶店を出て、電車で横浜まで移動、駅から少し歩いた処にあるカラオケボックスに入る。 確かに此処なら周りを気にする事無く二人きりで怪しい話が出来るだろう、けど、女の子と二人きりでカラオケボックスに入るなんて勿論初めての事だから、何だか浮ついて何をどうしたら良いのかが分からない。


真昼間のカラオケボックスは結構空いていて、私達は直ぐに個室へと案内された。 私と「蛍田さん」はテーブルに差し向かいに座って、ウーロン茶とクリームソーダを頼んで、「蛍田さん」が慣れた手つきで曲を入れる。 軽いパニック状態と言うかカルチャーショック状態の私はさっきから一言も話さない侭で、手持ち無沙汰に選曲用の機械を指で弄ってる内に、店員がソフトドリンクを運んできて、「蛍田さん」はクリームソーダを一気に半分くらいストローで飲み干して、


漸く話が始まった、


蛍田:「実はここ数日仕事で海外に行ってたんですが、そこで「あの街」の夢を見たんです、ドリームメーカーの機械も無いのにですよ、ほんの少しの時間だったんですけど、これって私の魂もログアウト不能になりかけていると言う事なんでしょうか?」……分厚い牛乳眼鏡レンズ越しの彼女の目は、潤潤と半泣きになっている、


宏治:「判りません、でも確かにもしかすると、例の機械がなんらか脳に影響して、幽体離脱しやすくなるとか、そういう事は有るかもしれないですね、」……今にも泣き出しそうな女の子に掛けてあげられる精一杯の台詞が、こんな感じとは、我ながら何とも情け無い、


蛍田:「どうすれば良いんでしょう? 私怖くって、でも機械を貸してくれた人に相談してもそんな事は有り得ないって全然信じてくれなくて、」

宏治:「蛍田さんに機械を貸してくれたのは、どんな方なんですか?」

蛍田:「仕事で知り合ったIT会社の社長さんです、」……海外出張したり、IT会社の社長と知り合いだったり、何だか「蛍田さん」はハイソな人らしい、まあ、初対面の男と会うのに興信所で身元調査するくらいだから、きっとセレブなのだろう、


宏治:「兎に角、専門家の力を借りるしかないと思っています。 その為にはあの機械であの不思議な街にアクセスできる事を実際に体験してもらうのが良いんじゃないかと思ってたんですが、」


蛍田:「でも、私に機械を貸してくれた人は、何度やってもそんな街には行けないって言ってました。 あの機械は未だ研究中の試作品で、実際には眠っている間にイヤフォンで催眠術を掛けて運営が意図するイメージの世界に居るような幻覚を見せるものらしいんです。 それでその時の脳波を観測してそれをネットで運営のサーバーに送って、その脳波に応じてルートを切り替えながらストーリーを進めて行くゲームなんですが、運営のプログラムにはあんなドヴロクニクみたいな城壁に囲まれた街の設定は未だ無いんだそうです。」


宏治:「つまり、あの機械を付けたら誰でもあの街に行けるという事ではないと言う事ですか、それでもあの機械がきっかけになっている可能性はありますよね、その催眠術が原因で幽体離脱してしまったと、」


蛍田:「私、眠った侭目覚めなくなるなんて事にだけはなりたくないんです、力を貸してもらえますか?」……彼女の目は真剣で、何故だか縋る様に私の手を握りしめて来る、見つめられる程に気付く、この子凄く可愛い、


宏治:「それは、勿論、此方からもお願いしたい所ですし、」……勿論「みほの」の為だ、


蛍田:「有り難うございます、安心したら汗かいて来ちゃった、すみませんこの部屋結構暑いですね、服を脱いでも良いですか?」……いやいやいや、突然何を言い出す? 確かに彼女は汗びっしょりだったのだが、


宏治:「それは不味いんじゃ、」……やっぱり美人局? そろそろ怖いお兄さん登場??

蛍田:「大丈夫です、全部は脱がないですから、重ね着してる分だけ、」……彼女はそう言うと、ニット帽を外して、長い黒髪を解き、分厚い牛乳眼鏡を取って、セーターの重ね着を次々に脱いでいく、2枚、3枚?4枚??……ん?……え??


着膨れの殻の中から現れたのは、驚いた事にグラビアモデル体形の超美人だった。 いや、すっぴんでイメージは随分変わって見えるのだけれど、


宏治:「……もしかして秦野萌?」……なんで?「秦野萌」?「蛍田さん」が「秦野萌」? いやもしかしてこれは「夢」なのか?


蛍田:「秘密にして下さいね、」……目の前の「秦野萌」は、ちょっと照れた風に頬を染めて私の顔を上目遣いして見つめる、


蛍田:「私、プライベートで外出する時は「架装」してるんです、」……彼女はそう言うと頬を染めてハニカンで、それから片目を閉じて、人差し指を唇の前に立てて「内緒」のポーズ、

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