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忌み子の世界救世記外伝  作者: 紅月ぐりん
片目編
5/19

金色の瞳ー5

 それから更に20年が過ぎた。

 金色はメキメキと力を上げていき今や領域の中でも頂点を極める実力者となっていた。長である黒、その側近の風と雷ですら一対一では金色には叶わなくなっていた。銀狼族の成人年齢は80歳。金色はその半分の40歳で銀狼族の頂点に立ってしまったのだ。


 本来ならば長である黒に勝った金色は次の長となり敗れた黒は群れを去るのが銀狼族の決まりだったのだが、金色はまだ成人もしていない僅か40歳の子供である。実力はあってもその他の、群れを纏める長としての知識も常識も何もないのだ。ましてや金色は領域の内に閉じ込められて生きてきたせいで余計に物を知らない。

 なので、金色が成人するまでは引き続き黒が長として群れを纏めその間に金色に長としての振る舞い作法知識常識その他諸々を教え育てるという形になったのだった。



 金色は長の地位には全く興味が無かったが、領域の中で頂点を極めた事によって遂に領域の外に出られた事に歓喜した。生まれて始めて出る領域の外は何もかもが新鮮で面白かった。金色はしばし自らの力で勝ち取った自由を謳歌し楽しんだ。



 しかし、それも長くは続かなかった。

 ただ強さのみを求められまともな銀狼族としての教育を受けてこなかった金色には常識が全く欠如していた為、その振る舞い行動は度々問題になり周囲に煙たがれた。そして常識離れした金色の強さは恐れられるには十分だった。

 金色は周囲から孤立していった。いや、元々孤立していたのだが無知故に何も気にしていなかったものを皮肉な事に時期長としての教育を受けていくうちに少しずつ理解していく事になったのだ。金色に対する群れの仲間の対応は大きく二つに別れた。金色の強さに心酔し(極めて一方的な)期待を寄せる一派と、金色の強さと非常識さを恐れ煙たがる一派。

 長である黒の手腕によりよく纏まっていた銀狼族はこの時から二分され内部分裂する危険を孕む事になったのだ。



「全く、口を開けば作法作法。他に言うことはないのか」

「ふん、実際に品がないのだからしょうがないだろう」

 そういって容赦ない言葉を浴びせかけてくるのは20年前に領域の内へと向かい入れられた三匹のうちの一匹、傲慢な性格の若者だった。だが、本音で接してきて他の者のようにおもりくだねるか腫れ物を扱うかのように距離を取る者達に比べれば全然ましだった。


「強さを誇りとする銀狼族に品などいらんだろうが」

「いやあ、それでも銀狼族なりの筋の通しかた物の見方ってもんがあるからねえ。金色の姉さんはその辺もうちょっと学んだ方がいいでしょ」

 ざっくばらんに話しかけるのは三匹のうちのもう一匹の雄、始めに金色の恐ろしさを見抜いた一匹だった。この若者は三匹の中でも一番の実力者で、かといって強くなる事にそこまで執着があるわけでもなく金色に対する態度も他の同族を相手にする時と全く変わらない。三匹の中で、いや群れの中で金色と一番仲のいい個体だった。


「まあ姉さんは特別製だからね、色んな意味で」

そう言って苦笑するのは三匹の中の最後の一匹、雌の個体である。未だに彼女は領域の中で最弱だったが雌でありながら領域に入る事を許された事実がその実力の高さを物語っており悲嘆にくれるような事は無かった。強い子孫を残すには当然強い個体同士で交わる方が良い。つまり強い雌は雄から引っ張りだこなのだ。何れ群れの実力者の伴侶としての相応の地位が待っていると思えば気にやむ事など全くない。

 彼女は銀狼族の雌の中では珍しく強さよりも地位や立場を重視する雌本来のあり方を全うする個体だった。

「強さよりも地位を気にするお前も十分特別だと思うがな、私は」

「違いないな」

 そういって傲慢な若者が笑った。しかしそれには他者を見下す色味は薄く、相手への信頼と愛情が込もっているような声色だった。言われた雌の方も気分を害する事もなく満更でも無さそうだ。そんな二匹を見て残った最後の一匹が曰くありげな笑みを浮かべた。



 やがて雑談は終わりこの二匹を仲睦まじく去っていった。その後ろ姿を見送りながら金色を溜め息をついて、

「あの二人は最近あれだな。なんといったらいいのか……近いな、距離が」

残った雄はへえ、と驚いた顔をして

「姉さんも成長しましたね。心の機敏ってモンを理解出来るようになった」

 と褒めたのだが、

 金色は「あんだけ分かりやすければ(バカ)にでも分かる」と苦笑したのだった。

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