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忌み子の世界救世記外伝  作者: 紅月ぐりん
片目編
1/19

金色の瞳ー1

忌み子の世界救世記の外伝となります。各キャラの秘められた過去の出来事を順に語っていこうと思います。

 銀狼族。

 それは、魔族の上位種である魔貴族の中でも更に上位に位置する強者の種である。

 そんな強者の種である彼等にも叶わない者達がいる。

 魔族の頂点に位置する魔王皇、そして魔王の血に連なる魔皇族である。魔族の強さはほぼ遺伝で決まり成長期を過ぎればそれ以上強くなる事は稀だった。

 しかしそれにも二つの例外がある。



 そのうちの一つは人間との契約である。魔族は人間との絆の証として互いの魂の一部を交換し刻印を己の体に刻む。そうする事によって魔族は成長する余地を手にいれる事が出来るのだ。何故ならば人間という種は脆弱な心と体を持ちながらも自らを成長させる事が出来るからだ。魔族は成長する人間の魂に引かれ、人間は強い体と心を持った魔族に引かれる。そうして互いの欠点を埋め会うのだ。


 そしてもう一つ、魔族を強化させるもの。それは突然変異である。

 長い歴史と血の螺旋の流れの中でごく稀に通常よりも強い力を持って生まれてくる個体がいる。魔族がその強さを遺伝で子孫へと伝えていく以上必然的に起こりうる事だ。尤もその確率は限りなく低いが。



 

               ◆




 銀狼族のその長い歴史の中で始めて『それ』は起こった。それはネバーエンドを生み出したと言われる創世神の思し召しだったのだろうか。それを知る者は誰もいない。ただ一つ言えるのは銀狼族に生まれた「突然変異」、それが並の「突然変異」ではなかったという事だ。


 金色。

 生まれてきた突然変異の子はそう呼ばれた。名付けられた理由は一目瞭然。創世神の寵愛を受けし者に与えられるという黄金の色を瞳に持って生まれてきたからだ。

 そして同時に黄金の瞳は魔王の証でもあった。生まれながらに持つ者も後天的に持つ者もあったが何れにせよ共通していたのはその瞳に黄金の色を持つという事であった。


 銀狼族は沸きに沸いた。強さを誇りとし追い求める彼等からすれば当然の事である。群れの中から魔王が産まれる。それは銀狼族自体が王の血族魔皇族として一段階上の存在に昇格するという可能性を示唆していた。

 そういう事情があり生まれた金色の子は次期魔王、次期長として丁重に厳しく育てられた。(銀狼族にとって丁重に扱うという事は厳しく鍛える事と同義である)



 そうして金色は群れの長重鎮達から幼い頃から徹底的に厳しく育てられた。他の同年代の銀狼族のように遊び回ったり仲の良い者同士で群れる等の自由など全く与えられなかった。銀狼族の栄えある未来の為に、金色当人の意思を置き去りにして、彼等は熱に浮かされ奔走していった。




               ◆




「何処へ行かれるおつもりか」

 厳しく鋭い声が背後からかけられる。金色は内心溜め息を付きながら後ろを振り返る。

「別に何処に行くという事もない」

 と平然と嘘をついた。

「そうですか。それは失礼した。貴方が言い付けを破り外へ出られるのかと思いましたので」

 何処か皮肉げに声の主は言った。金色は改めてその声の主の姿を見る。


 額に傷を負った壮年のその個体は「(いかづち)」と呼ばれていた。対を成すもう一匹の「(かぜ)」と共に長年長の側近として君臨してきた群れの重鎮の一人である。鍛えぬかれ引き締まった体と刺すように鋭い殺気。いざ戦いとなればその名の通り雷のように駆け巡り敵を散らすという。



 金色はそそくさと領域の境界線上から内へと戻った。ここでうろうろしているのを他の個体に見られても面倒臭い。特に雷と並び金色のお目付け役として目を光らせている風に見つかればいつ終わるともしれない長い説教をくらう羽目になってしまう。

 雷は鋭く重い言葉を発するが短い。風は逆に中身は薄く軽いがその分長い。どっちも面倒臭いが一番面倒臭いのは両方が揃った時だった。そうなる前に金色はさっさと退散した。


 金色がいるのは銀狼族の住みかである刃の森、その名の通り鋭く堅い植物が生い茂る魔境である。その環境に適応せぬ種が入り込めばたちまち体を刻まれ躯を晒す事になる。その刃の森の中でも限られた者しか入る事を許されぬ銀狼族の聖地。具体的な名がある訳ではない。ただ「領域」と呼ばれているその地が金色の世界の全てだった。


 領域に子供は金色以外いない。あとは現長である「(こく)」とその側近である風と雷、その他の実力者である銀狼族の大人が何匹かいるのみだ。彼等は金色を育てる為に、そして守る為にここにいる。金色が外に出るにはこれらの者達全てを倒さなければならない。(彼等が金色が外に出る事を許す事はまずあり得ない)




 金色はしばし外の世界を見る。今の自分の力では『まだ』行けない世界。

(待っていろ。いずれ私はそこに行く)

 金色は、胸中でその思いを飲み込んで、やがて中へと去っていった。

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