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第一話



ギフト企画参加作品です。ギフト企画で検索又は、「風海堂ギフト館」で、他の作者さんの素敵な作品を読むことができますので、是非よんでみてください。

 空は、冬らしい灰色の雲に覆われていた。隣にある公園も、休日だというのに子供一人いないせいで、閑散としていて寂れて見えた。


 その中、冬樹は、聖書を読んでいた。

 別にキリスト教だというわけではない。むしろ、神様など信じてはいない。それでも読んでいるのは、あの人に勧められたからだ。


『人間たるもの、人生に一回は聖書を読むべきよ!』


 あの人もキリスト教徒ではなかった。しかし、某小説を読むことで、聖書が愛読書になった。曰く『聖書とは人が今より少し格好良く生きるための参考書』らしい。

 くだらないと思ったが、あの人が言った事だから読むことにした。そして、聖書は冬樹の愛読書ともなった。


「冬樹。いますか?」


 ふと、少女の声が聞こえた。

 名は優希ゆき

 あの人の妹だった。


「冬樹?」

「いるよ」

「ああ、ここにいるということは、聖書を読んでいたんですね」


 そして、優希は盲目だった。詳しくは知らないが、どうやら生まれつきだったらしい。

 十年間住み続けているこの孤児院を、優希は普通に歩く。盲目だなんて嘘のように。実際、今もぶつかることなく扉を開けた。

 だけれども、やはり人がいるかはわからない。気配でなんとなくわかっても、それが誰だかなんて声を聞かなければ分からないのだ。

 こういうときに、実感してしまう。彼女は、本当に光を見ることは一生無いのだと。


「何で……」

「はい?」

「何で、聖書を読んでいたと分かったんだ?」

「冬樹は、聖書を読む目的以外では書架室に入りませんから」


 優希は何でもないことのように言った。それに、冬樹はため息をつく。

 優希は冬樹の行動パターンを知り尽くしている。同じように、冬樹も優希の行動パターンならある程度分かっている。

 お互い、そんなに観察眼が優れているわけではない。ただ一緒にいたからわかるだけだ。この十年間、優希と過ごさなかった時間はないと言ってもいいほど、二人は共にいた。

 

 しかし、付き合っているというわけではない。


 むしろ、付き合うわけが無かった。自分には、ただ一人、あの人しか眼中にない。他の女などどうでもよかった。

 何より、冬樹は優希を憎んでいた。


 最愛の人あのひとを奪った、この少女を――。 



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