東の龍-4
よろしくお願いします。
正月休みの間に、できるだけ話を勧めておこうと頑張っています(笑)
お休みが終わったら、不定期更新になります。
ザックザックと小気味良い音が響いている。
龍となった彼が、その鉤爪で洞穴の前の土地を耕しているのだ。
転生して数十日がたっていた。
龍の能力を使えることがわかったその次の日から、まず彼は自分の能力をしっかり使えるように練習を重ねた。
水を操るにしても、炎を吐くにしても、稲妻を落とすにしても、はじめは、大きく深呼吸を行い周囲の”気”を体内に取り込んでからしか行うことができなかった。
また威力の調整にしてもうまくできず、いきなり強力な雷を落とすことがあったり、気が焦げる程度の稲妻が出る程度だったりと、思い通り使うには難がある状態だったのだ。
それ故、はじめの十数日は、ひたすら能力をうまく使うことの練習に費やした。
そのかいあって、今では、予備動作なく使おうと思うだけで、それらの能力を使うことができたし、威力についてもほぼイメージ通りにコントロールできるようになっていた。
また、龍なんだから空を飛べるはずだと思い、空を飛ぶ練習も行った。
空中の”気”を意識しながら、その”気”を水のように考え、”気”の中を泳ぐような感覚で飛び上がれば、すいすいとまるで空中を泳ぐように飛ぶことができた。
そして、更に、水中では水や浮力を操ることにより、急浮上、急潜航、急加速、急停止など、物理法則を無視するような動きができるようになっていた。
水の中では、泳ぐというより、三次元座標上を移動しているというような動きができるようになっていた。
さらに、”泳ぐ”ときは、そのような物理法則を無視した動きができるんだから、空中で”泳ぐ”ときも同じようにできるんじゃ
なかろうと思い、必死で練習したところ、空中でも”泳ぐ”と言うより、3次元座標上を移動してるというような飛び方ができるようになっていた。
そこまで能力が自由に使えるようになってから、彼は、住処としている洞穴の周辺や湖の周辺などを探索し、衣・食・住に関わる幾つかの品物を探しだしたのだった。
「いや~、この体ほんとうに便利だよな~、力も強いし、鉤爪は強力だし~」
そんなことを言いながら、鼻歌交じりに土を耕していた。
実際、力はとんでもなく強かった、自分と同じくらいの大岩を軽々と持ち上げて空に上ることはできるし、木や竹、はたまた石や岩もその鉤爪は安々と切り裂くことができた。
その力によって、今も人間ならば、苦労する硬い地面の開墾作業をまるで、砂浜の砂をかき混ぜるくらいの感覚で行っていた。
「それに、いいもの見つかったし、これでだいぶ豊かに暮らして行けるぞ~」
そう言いつつ、洞穴の方を見やる。
彼が住処としていた洞穴は、入り口の前に竹と蔦植物を使って、藤棚のようなひさしが作り付けられていた。
その藤棚には、蔦植物と裂いた竹で作った葦簀のようなものがかけられ、洞穴と外界を分けていた。
ここからでは見えないが、洞穴の中には、蔦を編んで作った敷物が敷かれ、更にその敷物の下には、竹や笹の葉、落ち葉などが敷き詰められており、ちょうど良いマットレスになっていた。
この蔦植物は彼の住む洞穴の対岸である湖のほとりにあった森に群生していたものだった。
龍である彼の小指の半分くらいの直径をしており、繊維質が豊富で丈夫でまるでロープのように使用できる蔦だった。
更に、洞穴の近くにある竹林では大小様々な竹が生えていた。
糸のような細さから、彼が握るのにちょうどいい太さの竹が大量に群生していたのだ。
この蔦と竹林によって、住の部分はだいぶ充実した。
さらに、洞穴の前には、竹籠が置かれており、その中にはいくつかの植物が入れられていた。
さつまいものような芋、大豆のような豆、かぼちゃのような実がその中に入れられている植物である。
「おいもさん~、だいずさん~、かぼちゃさん~、ふ~んふ~ん」
つまり彼が畑を耕しているのは、その芋と豆とかぼちゃを栽培しようとしているからだった。
試しに食べてみたところ前世の記憶にあるのとさほど変わらぬ味であり、
湖の畔で自生していたところから、それほど育てるのも難しくないだろうと栽培することに決めたのだった。
「しかし、俺って結局どういう大きさなんだろうか?龍というからには大きいと思うんだが…?」
ここしばらくの彼の疑問である。
さつまいも(らしいもの)とかぼちゃ(らしいもの)は、それぞれプチトマトと野球ボールくらいの大きさに感じていた。
このことから、やっぱり体は大きいのではないかと思うのだが、大豆は前世で見たものより二回りほど小さい感じはするのだが、かぼちゃと芋からのスケール感としては、違和感を感じた。
さらに、竹の大きさには、彼がつかむのにちょうどいいくらいの太さのものがあるところが疑問を感じた。
かぼちゃが野球ボールくらいに感じていることから、もし前世とかぼちゃの大きさが同じであるとするなら、一番太い竹はかぼちゃ並の直径があることになる。
そんな、お化け竹があるんだろうかと疑問に思う。
なので、かぼちゃが小さいのか、自分が大きいのか、竹が異常に太いのか…疑問は尽きない。
「まぁ、考えても仕方ないよな~、ここは自分が大きいと考えると、外敵に対して有利に感じてしまうので、たいして大きくないと仮定して生活していたほうが安全側の判断になるだろう」
彼の基本はやはり慎重であった。
それから、数日、畑も思うように植え付けが終わり、更に生活を充実させるべく彼は草原の上を低空飛行で飛んでいた。
眼下には青々といて草原が広がり、山羊のような生き物(ただし色は水色)が草を食んでいた。
ーちなみに、その生き物は彼の感覚で言えば中型犬くらいの大きさに感じていた。ー
「のどかだな~、結局、危険な生き物はほとんど見かけないし~、ここにいれば安全ということかなぁ~」
そうのんきなことを言いながらのんびり飛んでいた。
しばらくすると、草原の終わりに差し掛かり、周囲を取り囲む山の麓にたどり着いた。
その山々も緑に覆われていたが、彼がたどり着いた場所の近くは一部岩がむき出しの不毛の岩場となっていた。
「前から気なってたんだよな、ここだけ、木や草花が生えてなんだけど…、なぜか山羊(?)がここに集まってくるんだよな…?」
そう言いながら周囲を見渡す、確かに周り一面彼の感覚では小学校のグランドくらいの大きさの範囲が、白っぽい岩に覆われた岩山になっており、そこにチラホラと山羊が集まり、岩の表面をちろちろとなめていたのだ。
彼は、不思議に思いながらも岩を鉤爪で削り取り、少し舐めてみた。
「しょっぱっ!これっ、岩塩じゃないか!」
そのことに気づいた彼は、思わず小躍りをした。
「やっと、塩があるってことは、ある程度味付けができるぞ!湖に鴨っぽいのがたまに泳いでるから、捕まえれば鳥の塩焼きが食える!これで食も充実するぞ!」
大声をだして、大喜びをする。
そして、背中に背負っていた竹籠に喜々として、岩塩を詰め込み始めた。
鼻歌を歌いながら、岩塩をか籠に詰めていると、ふと、周囲に何者かの気配を複数感じた。
「…?」
少し不思議に思い、顔を上に上げると、そこには彼の全長の半分くらいの大きさの猫科の獣が複数いたのだ。
「な、なななな」
体毛は、くすんだ黄色で、同色の獅子のような鬣をもち、その牙はサーベルタイガーのように口角から飛び出し、地面に届くほど
大きく、そして鋭かった。
その手足の先にある鉤爪も、彼のものほどではなかったが、十分鋭く、脅威を感じた。
「ゆ、油断した!岩塩を見つけてそのことしか考えられなくなってた!」
大慌てで、体勢を立て直し、牙と爪を剥き、角に電気をほとばしらせながら、周囲を威嚇する。
「ぐるるるる」
しかし、獣たちはそれに怯んだ様子もなく、逆に低く唸り声を上げて威嚇してきた。
その獣たちは、合計20頭近くおり、彼をぐるりと包囲するように配置していた。
中には、大きな岩の上に登って、上から彼を押さえ込める位置取りをしているものもいた。
「(こいつら、狩りになれてやがる!)」
彼は、牙を剥き威嚇をしながら、心のなかで悲鳴を上げた。