東の龍―3
同じくらいの文字数で各話を書くのってとても難しいです…
「あ~、よく寝た」
そう、大きく背伸びを言いつつ彼は起き上がった。
あれから、しばらく夜空を見つめ、はじめに見た2つの月以外も月が上り始めたのを目のあたりにし、念のために知っている星座
が一つも見つからないことを確認したのち、他にできることもないため、初めにいた洞穴に戻り、寝てしまったのだった。
「さて、これからどうするかなぁ、不思議と空腹も感じないし…、やっぱり、龍は霞を食って生きていけるんだろうか…、とは言いえ、食べられないわけではない気がするから、とりあえずすべきなのは、衣・食・住の充実だよな」
それが生きていく限りでは、一番必要だと彼は思う。
「あとは、自分能力の把握か…」
そういいながら洞穴をでる。
外には、昨日と変わらぬ美しい景色が広がっている。何気なく湖まで歩いていき、あたりを見回す。
湖のそば、彼のいる位置から少し離れた場所には、竹林が点在していた。
湖をのぞき込むと、フナや鯉といった魚が見て取れた。
「うーん、俺、明らかに東洋龍だよな、それに竹林に鯉か…、やっぱり東洋っぽい世界なのだろうか」
龍なんかがいるなら、ファンタジーな世界なんだろうなと考えながら、独りごちる。
「しかし、地名は全く出てこないのに、東洋と西洋という言葉と、感覚はでてくるから不思議だよな」
それから考える、東洋龍の能力と、その力について。
龍ということは、強力な存在だというのは予想できるが…。
さて、では最強の生き物であるか、所謂チート能力をもった生物であるかといえば…。
「そうとは限らないな…。取り合えず、世界的なバックボーンは東洋世界だとしても、テクノロジーレベルが低いとは限らないよな、竜や妖怪がいるけど科学技術は前世以上で、企業が支配するサイバーパンク世界かもしれないし…」
昔そんなゲームがあった気がする。
「それに、所謂中世的なファンタジー世界だとしても、仙人がいて年若い龍なんかは、仙人の乗り物扱いだったり…、妖怪が自らの寿命を延ばすために龍の肝を食べようとするような世界かもしれない…」
ーこれは慎重になったほうがいいぞー彼はそう考える。
彼の考えは、単なる想像でしかないのだが、せっかく生まれ変わったのだから、無駄死にはしたくないと思い、慎重に生きることに決めた。
バリバリと電気が流れる音とともに、轟音を立て木が倒れた。
「おお、やってみるもんだな!ほんとにできた!」
あれから、とりあえず、自分の能力を理解しようと、いろいろ試してみた。
まず初めに、龍なのだから、当然水には強いだろうと湖に飛び込んでみた。
そうすると、まるで空でも飛んでいるかのように何の抵抗もなく水中で行動できたのだ、さらに水の中で息もできるし、水圧も感じない。
そして、水を思い通り操ることもできるはずだと思った、なので水を操ろうと、頑張ってみたのだ。
しばらくは、彼がうんうん、唸っているだけで、何も起こらなかったのだが、何時間も水を操れるはずだと、念じ続けていた結果、周囲の不思議な力を感じることができた、その力は、空気中・地中に漂っており、周りの木々、湖、岩、そして自分からも立ち上るようにして発生していた。
これは、まさしく”気”の力だと彼は感じ、であるからにはこの力を意識して念じれば、水を操れるはずである、そう思い大きく深呼吸をし、周りに漂っている気を吸い込み、水が思い通りに動くイメージをすると、水を思い通り動かすことができた、湖の中で水流を作ることもできるし、噴水のように吹き上げることもできる。
そして、手をかざし念じると手のひらから勢いよく水がほとばしった。
念じるだけで完全に水を操れるし、無から水を生み出すことができる。
所謂、水神としての龍の力を自然と使えたのだ。
そして、水が操れるなら、当然雷も操れるだろうと考えた。
彼の知識の中では、龍は水神であり、水と雷を操る能力があることになっていた。
同じように、周囲の気を意識し深呼吸し、角の先端から稲妻がほとばしるイメージを念じると、角の先端から稲妻がほとばしり木を倒したのだ。
「おお、すごい、やっぱり水と雷を操れるだな、さすがに龍だ。しかし、龍って水行の存在なのに、なぜ木行である雷も自在に操れるんだろうか…?」
東洋における陰陽五行思想において、天地自然の気は、”木””火””土””金””水”の5つの元素に分かれるといわれている。
その中で、龍は鱗類(鱗のある生き物の総称)の王であり、水行の存在だとされている。
「うーん、でも青龍は木行の象徴であるんだよな~、群青色っぽい黒色の鱗だから、青龍かとも思ったけど…」
五行思想において、五行には、それぞれ象徴的な聖獣がおり、”木=青龍”、”火=朱雀”、”土=麒麟”、”金=白虎”、”水=玄武”とされている。
先述の通り、龍は水行の存在であり、鱗類の王なのだが、聖獣”青龍”は、木行の聖獣なのだ。
「まぁ、文献によっては、麒麟ではなく、黄龍が土行の聖獣になることもあるから、あんまり深く考えたらダメなんだろうな…」
とりあえずできることはありがたいので、細かいことはその件については考えないことにした。
ちなみに、人名・地名を思い出せないくせに、聖獣だの青龍だのは、スラスラ出てくるのには彼も違和感を感じてはいるが、そのことについても今考えてもしようがないと思っている。
「あとは、龍といえばやっぱり火も吐けるんだろうか?」
そう考え彼は、同じように周囲の”気”を取り込みながら、炎をイメージして大きく息を吐いた。
すると、吐いた息は真っ赤な炎の吐息となり、稲妻で倒された木を一瞬にして炭にしてしまった。
「うをぉ、火も吐けるのか!これは、案外これかの生活楽になるかもしれない…」
彼は嬉しそうに声を上げる。
「しかし、これで油断してはだめだな、慎重にいかねば。すごい仙人とか出てきて、龍の肝を仙薬の材料にしようとしたりしないとは限らないからな…。自分の能力をもっと磨くことと、これらの力で衣・食・住を充実させることが、目下の目標だな…。」