東の龍ー2
よろしくお願いします。
話が、なかなか進まない…。
「こ、こ、これはいったい…お、お、俺の身に何が起こった」
彼は、そういって、必死に状況を整理しようと考える。
「お、落ち着け、落ち着くんだ!そうだ、こういう時は素数を数るんだ!…2、3、7、13…」
それからかなりの時間すぎた―彼が起きた時には、太陽の位置は、もう少しで天頂付近というところだったのが、だいぶ西に傾き始めたー
「1097…、1099・・・あ、1099は7で割り切れるな…」
そこらへんに落ちていた枝で地面にメモを取り、ときには思いついた数字が本当に素数だったかを筆算して確認しながら、
彼は素数を数えていた。
「あ、何やってるんだ俺は、素数を数えるのが目的じゃなかったはずだ!」
彼は完全に目的を見失っていた。
「いかん、いかん、どうも一つのことに気を取られると他が見えなくなるんだよな…、
しかし、おかげで落ち着きはしたぞ。」
そういって、周囲を見渡し、自分の体を見下ろした。
周囲をぐるりと切り立った山々に囲まれた盆地、その中央付近にある大きな湖。
どう見ても、人間でない体…というか、明らかに龍になっている体。
思い出せない固有名詞…。
「あ~、あれだ…これは、ひょっとして…転生というやつではなかろうか?」
彼にはその答えしか見つけられなかった。
彼はそういった話が好きだったし、ファンタジーというものに強い憧れを抱いていた。
だから、以前からいつかは異世界に転生して…と考えなくもなかったのだが…
「実際転生するとはびっくりだな…」
と言っても、彼には死んだ記憶がないので、転生と言っても実感はなかったのだが…
「とはいえ、自分が龍に変身する能力があったとか、悪の秘密結社に改造されたとかよりは納得できるような気がする?
まぁ、そこは考えても仕方ないことだから…、現状をちょっと整理するか」
そういって、一度深呼吸をする。
「まずは、思い出せることと、思い出せないことを整理するか…」
そして、先ほどまで素数をメモしていた枝で地面に書き出してみる。
「思い出せるないこと、自分の名前…家族・友人の名前…、あと地名もか…」
そして、周りを見渡す。
「湖、山、枝、草原、素数…、固有名詞といっても物の名前とかはわかるんだな…、覚えてないのは人名と地名だけみたいだ…」
先ほどまで自分が書いていた素数と、筆算の後を見る。
「数字と計算ができる…あとメモが取れるってことは知識も忘れていないな…」
ぶつぶつ言いながら、一つ一つメモを書き込んでいく。
そうして、あたりが夕焼けに包まれるほどに時間になり…
「よし!大体わかった!」
あたり一面は、彼が書いたメモだらけになっていた。
「まぁ、結局自分が龍になっていることと、人名・地名が思い出せないこと、それいがの記憶も知識もしっかりあることしかわか
らないんだけどね」
とメモに使っていた枝を放り投げながら立ち上がる。
「そうなると、これからどうするかだよな~、まぁ、転生してしまったものは仕方がないし…、
まずは、ここが本当に異世界かだよな…。」
彼の知識では、故郷のある世界では、龍は架空の生き物だった。
だが、だからと言って本当にここが異世界かというのも早計に判断すべきでないと考えた。
朝起きたらいきなり龍になっていることがあるのだから、自分が知らないだけで、龍がどこかにいるのかもしれない。
そう思いながら空を見上げると…
「あ~、間違いなく異世界だね…」
夕焼け空の反対側、夜のとばりが落ちはじめた空を見上げると、そこには2つの月が上り始めていた…。