戦闘
既に太陽は沈んで空には星が一面に広がっていた。空には月が2つ浮かんでいて、この世界はまるでゲームの世界のようだ。
そんな美しい星空の下、俺は何をしているかというと草むらに身を隠しながらダンゴムシの様子を観察している。
大体3時間位観察しているだろうか? 長い時間観察していて分かったことだが、ダンゴムシは耳が悪い。
何度か大きな音を出してもダンゴムシが気付いた様子がなかった事から考えるに間違いないと思う。しかし広範囲を確認できる何かを持っているみたいだ。
現に数度、ダンゴムシは他のモンスターの接近をいち早く察知して隠れる行動に移っている。視野が広いのか、それとも熱探知の器官とかが体の何処かにあるのか? 草むらに隠れている俺の事には気付いていないみたいだし良く分らない。
不安要素は沢山あるけれど、ダンゴムシの耳が悪いというのが分かっただけでも幸運だと思おう。警戒を忘れることはできないが、大分奇襲が楽になった。
ダンゴムシの倒す為の作戦は、まず全力ブーストの鉄パイプ攻撃でダメージを与えた後、可能ならすぐに離脱して隠れる。ダンゴムシが俺を見つけられなかったら時間を置いて再度同じように攻撃する。見つかった場合は全力で逃げる。
今の俺なら逃げる事だけを考えれば簡単に逃げられるはずだ。無理をして危険を冒す必要もないだろう。
俺は即興で考えた作戦を頭で反復させながら俺は鉄パイプを握り締めた。
全力のブーストでの鉄パイプ攻撃は俺にとっても負担が大きい攻撃だ。1回でもそれをやると手が痺れてしばらく使い物にならなくなってしまう。
その分威力は強力だ。試しに岩に向かって鉄パイプを降ってみたが、俺の顔より大きな岩が粉々になった。鉄パイプもくの字に曲がったけど。
1度攻撃したらしばらく手が痺れて力が入らなくなるのは若干不安だが、これが今の俺の最大の攻撃方法だといっていいと思う。
この威力だったらもしかしたら一撃で倒せるかもという考えもちょっとある。流石に一撃で倒すのは難しいと思うけど、怯ませることは可能だろう。怯んだ隙に離脱して隠れて、俺の腕が回復したら同じように攻撃を繰り返す。
上手くいけば倒せる、と思う。
目の前のダンゴムシはこれからどうなるかも知らずに地面の草をムシャムシャと食べている。暢気なものだ。
――大丈夫、まだ気づかれてない。
俺はブーストを両腕に使う。
ブーストを使うと高揚感というか、好戦的な気持ちになる。ブーストを使った部分が燃えるように熱くなった。
俺はダンゴムシに向かって駆け出した。そのまま鉄パイプを真上に振り上げて勢いよく振り落とす。鉄パイプはダンゴムシの背中に吸い込まれるように当たる。
グシャリ
鈍い音がした。ダンゴムシから緑色の体液が噴き出して手に嫌な感触が伝わってくる。覚悟はしていたけど、これは吐きそうになるな。何か、混乱する。あれ、次は何するんだっけ?もう一回攻撃だったか?
俺は鉄パイプでもう一度ダンゴムシを殴ろうとして我に返った。急いでダンゴムシから離れて草むらに隠れる。ダンゴムシはピクピクと動いているが、ダメージが大きいみたいでしばらくは動くことができないみたいだ。俺は周囲を確認してからダンゴムシに近づいていく。まだダンゴムシは動かない。
近くで見てみると、そこまでダンゴムシに見えないなと思う。まぁ、そうは言ってもダンゴムシ以外には例えようがないからそのままで行くけれど。
そんなダンゴムシの体からはドロドロと緑色の体液が流れている。
気持ち悪い。
正直言って気持ち悪い。ダンゴムシの死にかけた姿も、それをやった自分自身も全部。吐きそうになりながら鉄パイプを握り締めてバーストを使う。
念のために止めを刺さないと。ここまで苦労して経験値が入らないのは嫌だから。
グシャリ
何度か叩いていたらダンゴムシは完全に動かなくなった。
・・・
ダンゴムシを倒した俺は洞窟に戻ってきていた。すぐに2匹目を倒す気分にはなれなかったからだ。
ここまでやってもレベルは上がっていなかった。どうやら1匹じゃレベルは上がらないみたいだ。
2匹か3匹か……まだまだモンスターを倒さないといけない。そう考えると少しゲンナリした気分になる。
ダンゴムシは俺の全力の1擊が上手く当たれば動けなくなるのが分かったのは嬉しい。これならレベル上げも危険を少なくすませそうだ。殴る時の嫌な感触は避けられないだろうけど、命の危険が少ないと分かっただけでも良かった。
そういえばあのダンゴムシの死骸をそのままにしてきちゃったけど大丈夫だろうか? 埋めてきたほうが良かったかもしれない。いや、そんな時間はなかったか。埋めている間にモンスターに気づかれるのも嫌だし、多分森のモンスターが片付けてくれるだろう。
(よし、もう大丈夫。でも今日はもう休もうかな。)
俺は深呼吸をして立ち上がった。興奮しているのか眠くならない。
少しだけ、筋トレをしよう。ブーストにも慣れておきたいし、体を疲れさせれば眠くもなるだろうから。