準備
ブーストのスキルを取った俺は、とにかくこの力に慣れることだけを考えて過ごすようになった。その結果、少しだけ分かったことがある。
分ったことで一番大きいのはブーストに特に使用制限がなさそうな所だ。これがわかった時はかなりホッとした。いや、まだ確定した訳じゃないから直ぐに体が変になるって事がないのが分かっただけだけど。
強いて言うなら使った後でひどい筋肉痛になる事や、腹の減り具合が凄い事になる所がちょっと不安だけど、まぁ問題はないと思う。
一昨日は全力でブーストを使いながら限界まで動いたら、次の日は指一本動かすだけで痛みが走り、ちょっとの振動でも体が悲鳴を上げるので車で移動することも出来ず医者を家に呼ぶ羽目になったけど診断結果はだだの筋肉痛だったし。どうしたらこんなになるまで体を虐める事ができたのか医者が不思議がっていた事は記憶に新しい。
ブーストを使い続けた事で、ぽっちゃりしていた俺の体が急激に引き締まったのは嬉しい誤算だった。まだぽっちゃりはしているが、ムキムキになるのも時間の問題だろう。
ぽっちゃりが少し引き締まった以外にも肉体の変化はある。異常な程に体の回復が早くなったのだ。動けないほど重度の筋肉痛になっても1日寝れば回復するし、多少の切り傷だったら直ぐに治るようになった。
この回復のおかげで昨日の筋肉痛地獄から抜け出せた訳だけど、自分の体が人外になって行っている気がして不安で仕方ない。今のところ害はないので気にしてないけどブーストを使ったせいで体が変化しているんだったらブーストを使うのを少し控えた方がいいのかもしれない。
そういえば全力ブーストで動き回っていた時に木の枝が手の平を貫通した時があったけど、その傷も次の日には治っていた。痛みにも鈍感になった気がする。
異世界にいるモンスターの事を考えるとそれ位じゃないと生き残れないと思うから好都合だけど、スキルを使うのは少し慎重になった方が良いのかもしれない。
まとめるとブーストは自分の身体能力を限界以上に引き出す効果があるスキルで、効果時間は約5分。使用制限は多分ない。5分経ったら一旦効果が切れるけど、直ぐに掛けなおす事ができる。まぁ、効果が続いている間に重ね掛けはできないみたいだけど。効果が切れた時に目に見えて動きが鈍るのと全力で使うと次の日が筋肉痛で動けなくなるので注意は必要だろう。
連続して使うと筋肉がズタズタになりそうで怖いから、そんなに連続で使ってないから知らないだけで使用制限はあるのかもしれないけれど。
ブーストもスキルレベルが上がっていけば効果が上昇するんだろうか? 俺の体はそれに耐えられるのか? ブーストのレベルを上げるのは様子を見たほうがいいかもしれない。ブーストのレベルが上がっていけば俺の体もそれに耐えられるように変化していくのかもしれないけど、これ以上頑丈な体になったら外見から人間じゃなくなってしまいそうで不安だからだ。
ステータスを見てみる。そこには俺の名前とその横にレベル1の数字が表示されていた。レベルはあるけどステータスみたいのは無い。他にはスキルとスキルポイントだけが表示されている。レベルが1上がるとスキルポイントが1追加されて、それを使ってスキルを強化して強くなっていくシステムだ。レベルはモンスターを倒すかクエスト報酬で経験値を得るしかない。レベルを上げるのはかなり難しそうだ。
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俺はブーストを使っての特訓以外に異世界アプリを調べることも並行して行うことにした。考えてみればスキルを1つ取得した以外ではステータスとクエストまでの残り時間しか見ていない気がする。命に関わることだしちゃんと調べておかないといけないだろう。
アプリを弄っていて分かったことだが、アプリには俺の個人情報が書き込まれていた。名前とレベル以外にも、身長や体重、住所に電話番号まで細かく書かれている。あまりに細かくてちょっと怖くなった。
職業欄には旅人と書き込まれていた。もしかして異世界に行く前は学生と書き込まれていたのだろうか?俺は旅人と書かれた職業欄を見て、何となく逃げられない事を理解した。
何だかんだやっていると、あっと言う間に次のクエストの日になる。充実した1週間だったと思う。目的を持って過ごすと、時間ってやつはすぐに過ぎる。
この1週間でブーストには慣れたし、ブーストを使い続けたおかげで体も引き締まった。武道みたいなやつは習えなかったけど、本屋で買った合気道入門は読み込んだ。この前のクエストの時よりはマシにやれるはずだ。
武器も用意した。ホームセンターで買った鉄パイプとサバイバルナイフ、長期戦になるかもしれないので携帯食料や水筒も準備済みだ。
異世界に持っていけるか分からないが鉄パイプ以外をリュックに詰め込んで背負い、鉄パイプは体に括りつけている。
その状態でベットに寝ているのはかなりマヌケっていうか、頭がおかしい人みたいだが、俺は今から危険な異世界に行く。マヌケで頭がおかしい人みたいな格好でも仕方ないだろう。カーテンを閉めて部屋にも鍵をかけているから、この変な姿を誰かに見られるってことはないと思うけど。
さて、もうすぐクエストの時間だ。あと1分もない内に俺は異世界に行く事になるだろう。そういえばどうやって異世界に移動するんだろうか?前回は気づいたら森の中にいたけど、気になるな。
そんな事を考えながら目を閉じた瞬間、浮遊感が俺を襲う。次に目を開けたとき俺は森の中にいた。準備した鉄パイプやリュックも一緒だ。少し安心した。
前回のゴールである魔法陣が少し離れた場所に見える。どうやら予想通り、前回のクリア地点からのスタートみたいだ。今回のクエストを確認するために俺はスマホをポケットから取り出した。
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クエスト 山に登ろう
山の頂上から周辺の様子を調べてみましょう。
★印の山の頂上が今回の目的地です。山には森とは違うモンスターが出現します。山は隠れるところが少なく、森のように逃げる事も難しいかもしれません。山に行く時は戦闘準備をオススメします。
頂上で周辺の様子を見たあと、☆印まで下山してください。
クエスト成功条件 ★印で周辺の確認後●印まで移動
クエスト失敗条件 プレイヤーの死亡
クエスト成功報酬 疾風の靴
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今回の報酬では靴を貰えるらしい。疾風の靴っていうくらいだから履くと風のように素早く動けるようになるんだろうか?
マップを開いてみると近くの場所に★印が表示されている。目的の山はここからでも見える場所にあった。そんなに高い山じゃない。小学校のイベントで行きそうな感じの小さな山。今の俺でも簡単に頂上まで行けそうだ。
あの山にはモンスターが出るらしい。隠れることが出来そうな木も少ない。あの山にはどんなモンスターが出るんだろうか?
あのダンゴムシより弱いモンスターだといいな。そう考えながら俺は足にブーストを使って走り出した。