帰還
小説とかだと話を盛り上げるために武器とかを手に入れた後は強敵みたいのが立ち塞がるのがお約束だと思う。俺は避難所である学校に帰る道のりを走りながらそんな事を考えていた。
だけど、自衛隊や警察の皆さんは思っていた以上に優秀で銃火器は恐ろしく強力だった。何が言いたいかというと強敵っぽいモンスターは俺が行く前に自衛隊とか警察とかの国家権力な皆さんが処理してくれた。そういう訳でお約束的な強敵は現れることはなかったということだ。
鍛冶屋に向かっていた時にオオカミに殺されていた自衛隊さん達の敵討ちなのか、やけに自衛隊の皆さんが鬼気迫る感じでゴブリンやオオカミを殺しまくっている。
連続して聞こえてくる銃声で耳がダメになりそうだ。しかしここまで場が混沌としているならモンスターにも人間にも見つからないように走るのは簡単だ。時々流れ弾がこちらに飛んでくるのが怖くて仕方ないが、ブーストを使って避けながら走る。
これだけ派手に銃撃戦をやっていたら騒音で学校に避難している人たちは起きているに違いない。俺は気付かれないように帰れるだろうか? そう考えると少し気が重くなってくる。この戦場から生還した後もまだまだ気を抜くことができなさそうだ。
学校が見えてきた。門のところには人の気配はない。まぁ、あれだけ銃声が響いてれば怖がって外にはでないよな。何にせよ好都合だ。俺は背を低くして門を潜り、そのまま近くにある清掃用具入れの壁まで走った。大丈夫、まだ誰にも気付かれてはいないはずだ。俺は服の汚れを簡単に払ってそのまま体育館に向かって歩き出した。
「何処に行っていたんだ!」
「ごめんなさい。」
体育館に帰るとまず親に叱られた。突然の銃撃音で起きたら俺がいなくてかなり心配したみたいだ。取りあえず親にはトイレに行った後そのまま散歩してたと言い訳して謝っておく。
外では苦戦しているのかまだ銃声が鳴りやまない。モンスターの数が多いのか、それとも強力なモンスターでも出たのか。前者なら良いんだけど後者なら厄介だ。
結局それから1時間ほど銃声は止まず、終わった時には空が明るくなっていた。戦闘は取りあえず勝利したらしく、満身創痍な自衛隊員が休憩のために学校にやってくる。
俺たちは急いで水や食料を自衛隊員の皆に配っていく。外を見てみると戦闘の激しさが垣間見えた。俺が外に出るまでは綺麗だった建物も世紀末な感じに崩れてたり、ゴブリンたちの死体が所々に転がっている。
風に乗せられてゴブリンの体臭や血の匂いがこっちまで来て吐きそうになる。実際に吐いている人も何人かいるくらいだ。
自衛隊員は少し休憩した後、モンスターの死体の片づけに向かっていった。ご苦労様と言わざるを得ない。
・・・
夜は明けてまだ騒がしくはあるけどある程度落ち着いてきた頃、俺は体育倉庫にやってきていた。明日には異世界に行くことになるので荷物の整理をする為だ。
小太刀という強力な武器を手に入れたけど刀なんか使ったことないし、ダンゴムシや岩を背負ったカニを相手にした場合は刃物では分が悪いだろう。技術がない俺じゃあ刀は重いだけの鉄の棒と言っても良いかもしれない。
だから金属バットはやっぱり欠かせないと思う。少し嵩張るけど持っていかないといけない。
刀、どうしようかな。冷静になって考えたらいらない気がしてきた。一応持って行くだけ持って行こう。刃物である事は間違いないし、邪魔になったら異世界で売って資金にしてもいいし。
体育倉庫に隠してある食料はまだ見つかっていないらしく無事だった。リュックいっぱいに詰め込まれている食料だが、今は食料を手に入れるのも難しいし慎重に使わない直ぐに無くなってしまうだろう。
異世界に物を持っていくには自分の体に接触していないといけないみたいなので、明日は転移時間までにこの食料や金属バット、小太刀を身に付けておかないといけない。
いつも寝ている体育館に食料の詰まったリュックやバットを持って行くことは流石に出来ないので、異世界に転移する前に抜け出す必要があるだろう。
異世界に転移するのは深夜1時頃だから抜け出すのはさほど問題無いが、帰ってきたときの時間帯次第では面倒くさい事になりそうだ。
まぁ、それはその時に考えることにしよう。今回の転移では向うの人間と出会えるだろうか? クエストをクリアしてこっちに帰る前に風呂とかに入って体を綺麗にしたい所だけど……無理かなぁ。
荷物の確認を終えて、リュックを跳び箱の中に隠した後は自警団の手伝いをしようと思っている。今日は火をつけるための落ち葉や薪枯れ木を集める予定のはずだ。
自由に使えるガスが有限になった今では火をつけるために落ち葉や枯れ木を出来るだけ集めて使うようになった。
火は料理をするときに必要不可欠だ。他にも体を温めたり、夜を明るく照らしたりと使用用途は幅広い。その燃料になる落ち葉や枯れ木は幾らあっても足りないくらいだろう。
モンスターが出ても大丈夫なように自衛隊が警戒している範囲でしか集められないが、幸いな事に学校の裏には小さな山があり、燃料になる物には困らない。
今日も10人位が山に入って落ち葉や枯れ木を集めている事になっていたはずだ。たしか自衛隊が数人護衛で付いてきてくれていると言っていた。
学校の裏山でモンスターを見たとかはまだ聞かないけれど、念には念をと自衛隊のリーダーさんが言ってくれたのだ。
実際にモンスターがいたらこの避難所も危ないので速攻で倒さないといけないっていうのもある。自衛隊の皆さんは護衛でもあるけど調査もかねているのだろう。
たしか昼の配給が終わって少ししたら出発だったはず。13時出発だったと思う。それから19時くらいまでは燃やせそうな物を集めるそうだ。
6時間とかなり長時間の作業だが、護衛の自衛隊はともかく俺らみたいな自警団は何時終わってもいいことになっている。燃料はこれからいくらあっても足りなくなるだろうし、それは皆分かっているのである程度は長く作業するだろうけど。
・・・
昼の配給食を食べた後、自警団が手を開けて山に入る人を再募集していたので俺はそっちに向かう。
集まった人たちは大人の男性だけだった。中学生以下は断っていたし、女性も断っていたから当然と言えば当然だろう。
学校の裏山は山といっても本当に小さい山だ。いつもだったらそこまで神経質になる程の危険はない。一応立ち入り禁止にはなっているけれど、悪ガキ達のいい遊び場になっているのはこの学校に通っていた人なら誰でも知っている程だ。
小学生くらいだと少し危険かもしれないけれど、中学生なら危険という危険はない、そんな山だ。
だけど、今はモンスターという危険が何処に潜んでいるか分らない状態だ。本当は自衛隊も一般人に外に出てほしくないはず。何故ならその分の人員をこっちに割かないといけないのだから。物資が入手しにくい今だから俺たちみたいな一般人の行動を容認しているけど、そうじゃなかったら反対されていただろう。
学校付近は警察が常に固めているし、自衛隊も周辺を探索してモンスターを発見次第倒してくれているから学校付近でモンスターを見かけないのも大きいと思う。
まぁ、そんな事はどうでもいいか。とにかく今は落ち葉や枯れ木を拾う事だけ考えよう。