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日常

 

 避難してきてから2日が過ぎた。異世界に行くまでの時間が残り2日しかない。

 準備らしい準備ができていないから不安だけど、この現状じゃ準備しようにもどうしようもないのだ。


 避難所になっている体育館にはすでに収まらない人数の人が来ていて、校舎の方まで生活スペースは広がっている。

 この避難所にこんなに人が集中しているのはモンスターの大量発生が原因らしい。特にゴブリンが多く発生しているようで、自衛隊と警察で広範囲を対処できなくなってきているみたいで、複数の避難所を纏めることにしたようだ。

 今やこの避難所はちょっとした村といっても良い人数が生活している。そうなると当然トラブルも増えてくるわけで。


「なんだ、文句あるのか?金なら渡しただろぉ? 何だ、もっと欲しいのか?」


「私はお金なんか要らないと言っているだろう?早くそれを返してくれ!」


 今も食糧問題で言い争いが起こっている。デブでヤクザっぽい男が老人の配給食を奪ったのだ。デブヤクザが今では使い道のなくなった万札を老人に叩きつけて笑っている。


 警備で残っている警官は見回りに出ていてまだ戻ってきていない。後でこの事を伝えればヤクザに何かしらの罰はあるだろうが、奪われた配給食はもう戻ってこないだろう。それどころかヤクザに脅されて警官にまでこの事実が伝わらない可能性もある。


 ここ以外に安全な場所は限られている。あるにはあるが遠くて辿り着けないだろう。そんな現状であんなヤクザに目を付けられたら待っているのは地獄でしかない。


 結局老人は配給食を奪われてしまった。助ける人間はいない。遠巻きに心配する人はいても近づく人はいなかった。

 

 近寄ったら自分の配給食を老人に分けるハメになりかねない。そんな事は誰もしたくないだろう。配給食だって無限にあるわけじゃない。モンスターが多いから食糧の補充だって一苦労だ。


 満足な備蓄があるわけでもない学校では自然と1回の配給だって少なくなる。みんなお腹を空かせているのだ。


 因みに俺が持ち込んだ食料は体育倉庫の跳び箱に隠してある。毎日深夜に確認してるけど今のところ見つかってないと思う。後2日、俺は異世界に行くまでこの食料を守り抜けられるだろうか。


・・・


 今日の昼配給は乾パンだ。缶詰になっていて中には乾パン以外にも氷砂糖が入っている。災害時の時に良く見るあれだ。


 乾パンは喉が渇くけど学校には非常時用の貯水タンクが多くあるので不満はない。貯水タンクの水は少し鉄の味がする時もあるけど問題はないだろう。

 コップはないので皆最初の配給の時にもらったペットボトルに水を入れて飲んでいる。少し濁った感じの水には不満もあるがこれしかないと考えると不味いとは思わなくなる不思議。


 昼の配給も乾パンだけだと栄養が足りない気もするけど今は非常時だし仕方ない。晩の配給ではスープやお粥みたいのが配られるので食糧はまだ問題ないと思いたいけど、このままだと配給が止まるのも時間の問題な気がする。そうなったら、今以上に世紀末な感じになるんだろうなぁ。


 この周辺でもモンスターの襲撃は多くなっているみたいで、自衛隊や警察が忙しそうに駆け回っている。避難民の中でも男達が集まって自警団なるものを作って警察を手伝っているみたいだ。

 まぁ、自警団とはいってもモンスターとの戦闘だと足でまといになるのでバリケードを作るくらいしかする事はないみたいだけど。


 俺もバリケードの材料集めの手伝いに参加している。本当はスキルを使ってモンスター退治でもしたほうが良いのかもしれないけど、ここら辺に出てくるモンスターはゴブリンが殆どだ。人型のモンスターと戦う度胸はまだ俺にはなかった。正直そういうのは自衛隊や警察の皆さんに任せた方が安全だろう。


 材料集めの手伝いをする理由としてはバリケードの材料は体育倉庫や用具室にある物を使っていくので跳び箱に隠してあるリュックを見つけられないようにするっていう理由もある。見つかったら絶対持ってかれるからな。


(このままゴブリンみたいなモンスターが増えていくとしたら、やっぱり護身用の武器が必要だよな。)


 俺は少し離れた場所に日本刀を扱っている鍛冶屋があった事を思い出した。模造刀とかじゃなくて居合とかで使う真剣を扱っている鍛冶屋で、見本として店頭に何本かの居合刀が飾られていたと思う。


 職人の工房も隣接されていて、かなり有名な刀匠が開いた店だと聞いたことがある。技術もないのに日本刀なんか使っても役に立ちそうもないけど、やっぱり長物の刃物っていうのは心強い。かっこいいし。


 金属バットが悪いとは言わないが、スポーツの道具と人を殺すための道具とでは武器としての性能は比べるまでもないと思う。俺は今日の夜に学校を抜け出して刀を取りに行くことにした。


 鍛冶屋は少し遠いけど学校から2時間くらいで行ける山の麓にあったはずだ。夜はモンスターが活性化するらしいので向かう道のりは厳しいものになるかもしれないが、明るいうちは人の目が合って抜け出せない。親にも心配をかけたくないし、そう考えると出発は夜にするしかないだろう。


 避難所の就寝時間は早い。みんな疲れているからだと思う。それに昨日から電気が来なくなったので、夜は暗くなって暇になってしまっている。疲れていて、しかもやる事も無いのなら自然と寝る時間も早くなる。

 だから大体夜の10時にはみんな寝る。遅くまで起きている人もいるけれど、大体12時を過ぎれば起きている人は警備をしてくれている警察や自衛隊だけになる。だから、学校を抜け出すのは簡単だ。

 問題なのは抜け出した後だろう。警官の話だと、この学校の周辺はゴブリンだけだが、少し離れた場所だとオオカミっぽいモンスターや、3メートルはあるだろう巨大な大猿のモンスターも出てくるらしい。


 厄介なのは大猿で、こいつは丸太を武器に使うらしい。動きは鈍いが力が強く、体を覆う毛皮も固くて刃物を通さないらしい。警官は大猿の事をトロールと呼んでいた。大猿じゃモンスターだと分かりにくいから分かりやすく名前を付けているそうだ。


 このトロールってやつは鍛冶屋の周辺にもいたりするんだろうか? もしもトロールと出会ってしまったとして、今の俺に倒せるだろうか?


 トロールの1撃はコンクリートの柱を破壊し、人の体を簡単に握りつぶす握力を持っていて、単純にゴブリンの10倍は強いらしい。凄いなトロール。10倍ってありえないだろ。


 幸いな事にトロールは動きが鈍いので、見つけたら全力で逃げればいいみたいだけど。


 警官が言うにはトロールは執念深いモンスターらしく、自分に敵対行為を見せたものは何処までも追ってくるそうだ。しかも仲間意識が強くて、遠吠えで仲間を呼んだりするらしい。


(鍛冶屋までの道のりは遠そうだ。しかし、刀の為にはその危険もやむなし。)


 俺は夜に備えて早めに眠ることにした。 


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