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ファンタジーライフ・アフター・デッド  作者: ゼナード
第二章 二人で歩む世界
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第八話 師弟

「はい、13体討伐で一万三千ゴールドになります」


相変わらず動かすとグチャグチャと気味の悪い音を立てる袋を渡し、おもむろに袋をひっくり返してこれまた直視に耐えぬ目玉をテキパキとカウントした受付は、それだけ言うと金貨の入った袋13個を差し出した。


「そしてこちらがサイクロプスの巣を発見した事への追加報酬一万ゴールドです」


更に袋が10個追加され、計23個の袋が前へと並んだ。


「うぉぉ、すげえ…」


一袋を持ち上げ重さにまず驚き、袋の中の現世の頃には見た事もない金色の山にまた感嘆する。

しかし、一袋でもそれなりの重量なのに、これが23袋ともなると大変だ。

金貨一枚のサイズが500円玉サイズなので仮に500円玉と同じく一枚7グラムだとして、それが二万三千枚あれば161キログラムだ。500円玉の素材と金のどちらがどれだけ重いかまでは知らないのであくまで目安だが。


「さっさとしまうわよ」


俺が色々考えてる間にミリアがひょいひょい金貨袋を四次元カバンにしまい込んでいく。

俺も同じカバンを持ってはいるのだが、財布の紐は私が握ると言わんばかりか、俺のカバンには金貨の一枚も入ってない。心外だがこれは完全に尻に敷かれているのではないか。


「しかし、入れた分は重さ関係なくなるのって便利だよな」

「そうね。じゃ無かったらあんたに持たせてるわよ」


このかばんを持ってない人や中世の人間達はどうやってこんな重くてかさばる物を利用しているのかと少し気になった。


「そういや片桐さんは?」

「あっちの受付に居るわよ」


23個の金貨袋を全て収納し終えたミリアが指差した方を見ると、確かに片桐の姿があった。


「多っ!?」


片桐の前にはざっと見積もって20個程度の金貨袋が積まれている。

巣穴発見は俺とミリアの功績なので、当然全て討伐報酬だ。


「ふむ、お前達も報酬の受け取りは済んだみたいだな」


片桐もまた四次元カバンに金貨袋を収納し、こちらにやってきた。

さすが大陸に名を馳せる傭兵だけあって魔法のカバンもしっかり持っているらしい。


「ちなみに、片桐さんは何体討伐したんだ?」

「26だな、あの森には50体前後のサイクロプスが生息していたようだ」


50と言う事は俺達と片桐の討伐数の合計が39なので、残りは11体。

たまたま巣を発見した俺達はともかく、片桐は外のサイクロプスを粗方狩り尽くした事になる。


「私達だけで半分以上倒したのね」

「フッ、そうなるな」


ミリアが多少苦笑しながら口にすると片桐は軽く笑った。


「そりゃ追いはぎ紛いな行為に走る奴も出る訳だ」


参加者の数は物凄い数だったので、報酬を貰い損ねた連中もまた大勢居る事になる。

わざわざこの為にやってきた連中も居ただろうに、荒稼ぎしておいてなんだが同情を禁じえない。


「ま、何はともあれこんだけあれば当分大丈夫だろ」

「そうね」


ミリアも満足げに頷く。


「そういや、お前さんたちは奇怪な事柄に巻き込まれているんだったな」

「ああ、道中話したとおりで、その原因を探る為に神の泉だかに向かうんだ」

「ふむ…、神の泉か」


片桐は顎に手を当てて何かを考え込む。

それを見て、ミリアが一瞬こちらを見てから片桐にある提案をした。


「あの、カタギリ。私達に手を貸してくれないかしら?」

「……ふむ」


ミリアの提案に片桐は顎に手を当てたまま眉間にしわを寄せて更に考え込む。


「…すまないが、それは出来ない」

「そう…」


片桐の結論にミリアが少しだけ肩を落としたように見えた。

俺としても片桐が仲間に加われば心強いとは思っていたので残念ではあるが。


「実はここ数年、妹と共にこの街に移り住んで活動していたんだが、最近になって妹が病床に伏してな、今この街を長期間離れる訳にはいかないんだ」

「妹と二人暮らしなのか?」

「うむ、両親を亡くしているのでな。妹には悪いが私と共に行動してもらっていたんだ」

「そう、無理を言ってごめんなさい」

「気にするな、私の方こそ力になれずすまない」


俺達にとってすれば神の泉へ向かう事は一大事だが、片桐の身からすれば身内の方が大事であるのは当然だ。そういう理由なら諦めざるをえない。


「代わりと言ってはなんだが…、お前さんたちはすぐこの街を発つのか?」

「そのつもりだが、何か?」

「もし発つのを遅らせる事ができるなら、この街を発つまでの間、私が力を貸してやろうと思ってな」

「この街の中で?どういうこと?」


俺より先にミリアが疑問の声をあげる。

確かに先ほど着いてはいけないと言った後で、この街の中で手を貸すと言われても意味がわからない。


「ミリア嬢の方は無理だが、明人の方なら稽古を付けてやれる。得物はバスタードソードの様だが、近接戦のイロハを教えるのにそこまで不都合は無いだろう」

「ふむ」


確かに、今朝もこの剣を効率よく運用する為にどうするか悩んでいた所なので願ったりだが…、予定を遅らせる事をミリアが許すだろうか。

ふとミリアと目が合ったが、ミリアは何も言わず頷き、次いで片桐に目線を移して告げた。


「良いわ」

「良いのか?」


俺の疑問に当然とばかりな顔を向けるミリア。


「当たり前でしょ?あんたが強くなれば私の危険も負担も減るし、何よりアルの体が傷つく心配も減る。いい事尽くめじゃない」

「確かにそうだが」

「それに神の泉に行くのに期限は無いもの、万全に準備をして確実に辿り着くのが最優先よ」


ミリアの言に片桐は大きく頷く。

俺は片桐の方へ向き直り、手を差し出す。


「明日からよろしく、片桐さん」

「ああ、こちらこそよろしくな、明人」


差し出した手を片桐が握り、しっかりと握手をする。


「それとだ、私の事は片桐でいいぞ。さん付けは中々慣れん」

「了解だ片桐」

「うむ。それでいい」


この日は明日の予定を決めた後、ここで解散する事にした。

俺達は当初一泊して発つつもりだったので、宿を延長するか新たに探す必要があった。

幸い、新たに探す事無く宿を延長する事ができた。しかも明日からは部屋が空くらしく別々の部屋で寝泊りする事ができる。


「たぶん、今日の討伐に参加する為に集まった人たちで混んでたのね」

「なるほどな。タイミングが良かったのか悪かったのかって所だな」


討伐が無ければ昨日のように宿を捜し求めて一悶着する必要も無かったのだが、無ければ無かったで路銀の問題は解決されなかった。

総合的に見れば泊まる事もできたしで運が良かったのだろう。


「ところで、今日まで相部屋なんだが、良いのか?」

「何が?」

「一緒の部屋だぞ」

「一日も二日も大して変わらないわよ。昨日あんたは何も問題起こさなかった…訳では無いけど、とりあえず安心できる事はわかったし」

「信用してもらえたようでなによりで」


ミリアが良くてもこっちが気にするのだが。

性格に難があるとはいえ、ミリアは中々の美人だ。というか美少女と言って過言はあるまい。

明け方も思った事だが、寝てる分には普通に可愛いし、ともすれば年頃の男としては情欲を覚える事も多少はある。

まあ、衝動に負ければ恐らく二度目の死を迎えるであろう事は想像に難くないので、仮にもしも情欲に駆られても鋼の意志で耐えねばならない。

どっちにしろ、同じ部屋ともなるとこちらの気が休まらない。

まあ、考えたところでどうしようもないので、情欲が沸き立つ前にさっさと寝るのが一番だ。


夕食を摂った後、ささっと風呂を済ませて床に就く。戦闘で大分体力を使ったおかげか、目を閉じて数分もしない内に睡魔は訪れ、俺を眠りへと誘った。



「約束の場所はここだな」

「へえ、あんたにしてはしっかり覚えてたのね」

「元々一人で来るつもりだったからな。っていうか何で付いて来たんだお前は」


片桐との約束はあくまで剣の稽古。魔法使いであるミリアにとっては何のメリットも無いし、面白みも無いだろう。

なので好きにしろと言ったのだが、何故か付いてきた。


「あんたが好きにしろって言ったんでしょ?なら付いていくのも自由じゃない。まああんたの許可なんて無くても付いていったけど」

「はあ、まあ良いや」


何をどう言おうとどうせ帰らないのが目に見えているので、もう気にしない事にした。

会話が打ち切られて以降、特に会話も無いまましばらくが過ぎ、いよいよ少し気まずくなってきたあたりでようやく片桐が現れた。


「すまぬ、待たせたな」

「別に気にしなくていいわよ」

「そうだな、それより早く始めよう」

「まあそう急くな。とりあえず場所を移すぞ、付いて来い」


始めようとは今ここでという意味ではなかったのだが、特に突っ込みをいれる事もせずに促されるままに付いて行く。

途中、片桐が俺の隣にやってきて、俺にだけ聞こえるような声量で話しかけてきた。


「お前さんたち、実はあんまり仲が宜しくないのか?」


先ほどの微妙な空気を察したのだろう。他人に気遣われるレベルで気まずく見えていたらしい。


「いや、可もなく不可もなくと言った所じゃないか?俺自身は普通のつもりだけど、あいつツンデレだからなぁ」

「つんでれ?」

「ああ、まあ、素直じゃないっていうか……」


うっかり聞こえていたらまずいと、ちらりとミリアの方を見るが、聞こえては居なかったようだ。

安堵し目線を戻そうとした時についミリアと目が合い、ミリアが突っかかってくる。


「何よ?」

「いや、何でもない」

「ならこっち見ないで」


ふん!とか言い出しそうな勢いで俺から目を逸らす。

それを見て片桐は納得したようでなるほどと唸る。


「まあ、少なくとも険悪ではなさそうだな」

「一応はな、連携できる程度には」

「ふむ、ならこれからはしっかりと褒めてやったらどうだ?」

「は?褒めるって何を?」


片桐の言っている事の意味がわからなかった。

そんな俺にやれやれと首を振りながら片桐は続けた。


「私の見立てでは、ミリア嬢は用心深いのだろう。連携が上手く行った時など積極的に褒めて、信頼を勝ち得れば良い」

「何でそんな事を」

「仮とは言えパートナーなのだろう?であれば当然お互い信頼しあって然るべきだ。相手を信頼し理解すれば戦術の幅も広がるという物だ。ひいてはそれが生き残る事にも繋がる」

「ふむ」


確かに、俺一人の力でここまで進んで来た訳ではない。

そもそも、多少剣術や体術に覚えがあるからといって、一介の学生に過ぎない俺が今日まで生き延びてこられたのはミリアの助けに寄るところが大きいだろう。

初陣の盗賊戦も、サイクロプス戦も、何だかんだでしっかりとあいつは俺の背中を護ってくれている。

今後もこの関係を続けていく為には、日頃の感謝を口にするのは重要だと確かに思える。


「それに、せっかくミリア嬢の様に可愛い女性と組んでいるのだから、仲良くしようとは思わんか?」

「いやそれは…」


確かに外見は可愛いだろう。気性が荒い点で全てが台無しだが。

まあそこにさえ目を瞑れば、パートナーとして優秀なサポートをしてくれるし、家事の面でも文句の付け所が無いレベルで完璧だ。

とはいえ、俺は異世界人の流れ者でいずれ消える定めだし、そもそもミリアにはアルが居る。仮に好きになった所でどうしようもない。


「ま、出過ぎた話だな。すまんな、どうにも節介な性分でな」

「いや」


片桐はこの話題を切り上げたが、俺の中で生じたミリアの事をどう思っているのかという疑問は消えなかった。

反対に、ミリアは俺の事をどう思っているのだろうとも考えて後ろを歩くミリアを見る。

ミリアもこっちを見ていたらしく、振り向いた瞬間にすぐさま目が合った。

またさっきの様に言われては困るので、今度は俺が先手を打つ。


「なんだ?」

「何をコソコソ話してるのか、気になったのよ」


まあ、あれだけコソコソと話していれば聞こえては無くとも気にはなるだろう。

ただ話題が話題だっただけに答えに詰まる。どう答えるか悩んでいると片桐が助け舟を出してくれた。


「いやなに、明人の出身地について色々と話を聞いていたのだ」

「そう」


一応納得したようでミリアはそれ以上追及しなかった。

こっそり感謝の言葉でも述べようかとも思ったが、ここでまたコソコソ話せばまた疑われそうなので感謝は心の中でのみ述べる事にし、片桐の助け舟を最大限生かすべくこのまま話題を変える事にした。


「そういや、どこに向かってるんだ?」

「それは私も気になるわね」

「少し稽古の前に紹介したい男が居てな」

「傭兵?」

「いやいや、その男は鍛冶師だ。ただし俺と同郷の刀鍛冶師だが」


言い終わると片桐は足を止め、右側へ向き直る。

俺とミリアも倣って右に向きを変えると、そこには小さな、それでいて立派な鍛冶場があった。


「隆!居るか!」


片桐は一人、鍛冶場へと進んでいく。

その隆という人物こそ、俺達に紹介したいと言っていた刀鍛冶師なのだろう。


「おう、来たか」


片桐に呼ばれて出てきたのは、俺の予想より遥かに若い、片桐と同い年くらいの青年だ。

やはり名前から想像できた様に日本人にしか見えないが。


「この二人が昨日話した連中だ」

「なるほど。俺は佐々木隆だ、お前達の事はこいつから聞いた」


佐々木は手短に挨拶を済ますと俺の方へ迷い無く近づいてくる。

何事かと思うといきなり右手を差し出してきた。


「剣を貸せ」

「は?」

「お前のその背中の剣を貸せ」

「あ、ああ」


よくわからないまま、俺は背中の剣を抜いて佐々木へ手渡す。

佐々木は受け取った剣をじっくり観察してなにやら調べている様だ。


「ふむ、安物とは言わんが、業物でもない剣か。この刀身の損耗から見て、確かにお前はコイツを使いこなしてる訳じゃ無さそうだ。とは言え、一応それなりには扱えてる」

「それで?隆。お前の結論は?」

「この小僧は見込み有りだな。一応剣術の心得はある様だし、真剣の取り回しと実戦の勘さえ付ければ伸びそうだ」

「なるほど、私と同意見だな」


俺もミリアも依然として何が起きているのか把握しておらず、ただ呆気にとられている。

すると佐々木は俺の剣を持ったまま鍛冶屋の中へと消えてしまった。


「え、俺の剣は?」

「ああ、隆に頼んで鍛え直して貰う事にしたんだ」

「稽古はどうするんだ?」

「いやそれよりお金よ。昨日の収入があるとはいえ、あんまり使えないわよ」

「案ずるな、今日の稽古は真剣の取り回しだから剣はここのを使えばいいし、鍛え直すのに金は取らん」

「そうか、助かる」


俺とミリアは共に安堵する。

というか、ミリアの心配事は金の事だけか。


「さてと、剣はこれでいいだろう。そいつを持って裏へ回るぞ」

「裏?」


疑問に思いながらついていくと、そこには試し斬り用の的がいくつもあり、また打ち合いに使えそうな広いスペースもある。


「これは…」

「打った刀剣はここで試し斬りするのさ。良い場所だから私はよく鍛錬に借りているんだ」

「なるほどね」


ふとミリアの方を見ると、適当な場所に腰を下ろしてこちらを見ていた。

どう見ても退屈しているのだが、本当に何故付いてきたのだろうか。


「さあ、剣を構えろ。まずはこのカカシに打ち込んでみろ」

「わかった」


短く答えると同時に大きく踏み込み、上段に構えた剣を振り下ろす。

木に打ち付けた鈍い感触が手に伝わり、剣はカカシに食い込んだ状態で静止する。


「ふむ、やはりダメだな。貸してみろ」


片桐は俺の横から手を出し、食い込んだ剣をあっさりと引き抜いて構える。

俺が離れたのを確認し、片桐が同じ動作でカカシに打ち込む。

同じ動作だったにも関わらず、刀身はカカシに食い込む事無く剣は振り抜かれていた。その間に聞こえた音は風を斬る音のみだったので、外したのでは無いかとさえ思えた。

だがその考えは次に起きた現象が否定した。カカシが真っ二つに割れたからだ。


「馬鹿な」

「問題は刃の使い方だ。力任せに叩き付ければ良い物ではない」

「むう」


言われてみれば俺は真剣を扱った事が無いので、ただ力任せに剣を振っていただけなのも当然だ。

それだけで大概の敵は斬れたので今まで気にもしていなかったが。


「口で説明するのは難しいが、刃が当ったら振り抜くのと同時に剣を引くんだ。ノコギリという工具を使った事は無いか?あれの用に引くイメージで良い」

「ああ、ノコギリか…」


片桐から剣を受け取り、別のカカシ相手に打ち込む。

剣が当った瞬間言われたとおりに剣を引いてみる。


「くっ!」


またも剣はカカシを構成する木の半ばで止まっている。


「上出来だ。見ろ、さっきよりは刀身が進んでいるだろう?」


言われてみれば確かにそうだが、誤差の範囲のようにも思える。


「次だ。次は剣の当てる角度だ。刃が気持ち斜めに入るように心がければ良い」


この後もカカシ相手に剣を打ち込み、それを見ては片桐がアドバイスをするという事が何度とも繰り返されたが、ついにカカシを両断する事は叶わなかった。


「案ずるな、最初よりは大分マシになっている。後は実際に慣れていくしかないだろう」

「そうか…、だと良いけどな」

「それより、見ろ。ミリア嬢はあまりにも暇で寝てしまったようだ」


片桐の指す方を見ると、確かに寝落ちしているミリアの姿があった。


「どうする?休んでいくか?」

「そうだな…」


何時間稽古をしていたのかはわからないが、陽は徐々に傾いていて、空を見上げればぼんやりとだが星が見える気がした。

この分だと完全に日が暮れるまでそう時間は無いだろう。


「いいや、コイツ担いで帰るよ」

「そうか。ああ、その剣は持って帰っていいぞ、お前さんの剣は明日まで預かるからその代わりだ」


そう言って手渡された鞘を受け取り、背中に背負う。

軽く刀身の損耗をチェックしてもらった後、剣を鞘に収める。


「明日もここで?」

「うむ、ここで良い」

「了解、それじゃ明日も頼む」

「ああ。治安は良いとは言え、道中に気をつけて帰れ。まあお前さんの実力なら問題は無いだろうが」

「心得ておくよ」


短く挨拶を返し、左の肩にミリアを担ぐ。

おんぶやお姫様抱っこでは利き腕が制限されるので、荷物の様な持ち方ではあるがミリアには我慢してもらおう。途中で目覚めたら間違いなく文句を言われるだろうが。

しかし、ミリアが道中目覚める事はなく、何事も無いまま宿につき、ミリアをベッドに寝かせた俺も自室で風呂に入った後、急激に襲ってきた睡魔になす術も無く床に就いた。




その後も数日に渡り俺と片桐は稽古を続けた。佐々木に預けた剣はまだ帰って来ない。

当の佐々木は全身全霊を込めて鍛えなおすと息巻いていて、なんでも材料集めやら何やらで日々走り回っているらしい。

ミリアはと言うと、稽古を見に来る時もあれば、俺とは別行動でどっかへ行く事もあった。

俺がここまで必死で剣の鍛錬をする事が疑問で仕方ない様だが、損にはならないと好意的に受け止めているらしい。

肝心の俺の腕前はと言うと、数日前とは大分変わってきたと思う。

基本がしっかりした事で、同じ力で剣を振っても一撃の威力が段違いになった。それはカカシに刻まれた数々の傷が物語っている。

俺はまだ強くなれる。そう考えると、少し気分が高鳴った。

まだ見ぬ俺の愛剣の出来を想像するのも、毎日の楽しみの一つになっていた。

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