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ファンタジーライフ・アフター・デッド  作者: ゼナード
第二章 二人で歩む世界
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第七話 故郷の影

予想外だ。

目覚めた俺は、五体満足のままソファに居たのだ。

てっきり手足を縛られた上で床に放り捨てられるか、あるいは手足をあれやこれして身動きを封じた上でこれまたやはり放り捨てられるかもしれないと思っていたが。

まぁ、後者は冗談だが、前者くらいは普通にあり得ると心構えしていただけに拍子抜けである。

勿論そんな事になってない今の現状にはとても満足だが。


「ふむ」


ベッドの方を見やると、寝息を立てて眠るミリアの姿があった。

思えばミリアの寝顔を見るのは初めてだ。

というか、今までこいつの近くで寝た例がない。

なぜなら、グリーンフィルに居た頃はそれぞれの家で寝ていたし、旅に出て一日目の一昨日はテントからやや離れた川辺に昏睡状態で放置されたからだ。


「本当に、こうしてみると非の打ち所の無い美人なのになぁ……。結構好みだし」


とは言え凶暴さがその見た目を完全に無にしているが。

残念美人の感傷に浸り掛けた所で、洗面所へ向かう。

あまりこうして見つめているのは危険だ。

うっかり起きたミリアと目が合ったりしたら一大事だ。


昨日は野宿だったので、一日ぶりとなるゆったりとした洗面。

やはり水面に映る自分の顔には慣れない、そもそもこれは自分の顔ではない。

こちらに来て5日ばかりが経っただろうか。

それまで毎日見ていた気がする自分の顔が、自分の記憶の中で曖昧になっていく。

そもそも、普段から自分の顔など真面目に観察したりはしない。

風呂場や洗面台の鏡で見るのも、顔を見るためではない。

いつか本当の自分の顔を完全に思い出せなくなってしまうかもしれない。


「まぁ、どうせ元の体なんてないし、感傷に浸るだけ無駄か」


独り言の後、俺は不安を一緒に拭う様に顔の水滴をタオルで拭き取る。

ミリアがまだ寝ているので、朝食は摂れない。

この世界には個人向けの時計という物が無いので、太陽の位置でおおよその時刻を予想せざるを得ないが、そういった事と無縁な現代人の俺の推測では現在時刻は6時~7時と言った所だ。

勿論季節によって変わるので100%合ってるとは言えないが。

というかそもそも、この世界に四季という概念は存在するのだろうか。


呆けていてもあれなので、俺は剣を片手に、宿屋を出て素振りを敢行する事にした。

この剣を手に入れてから、まともな戦闘はしていない。

サイクロプス戦では、ひたすらケツを斬り続けるという姑息極まりない戦いをしたので、実際に確かな立ち回りを要求される戦闘において、この剣を使えるかどうかは解らない。

その不安を払拭する為にも、この剣の扱いには万全を期さねばならない。

その為には単純な縦の素振りだけでなく、ボクシングで言う所のシャドウボクシング的なイメージトレーニングが有効だろう。

まずは、軽い準備運動の後に素振り。

体が暖まって来たところで素振りを切り上げ、イメージトレーニングを始める為、敵を仮想する。

敵はもっともこの世界でポピュラーなアウトロー集団であろう盗賊を想定する。

盗賊の手持ち武器は――。


「あんた何してんの?」

「は?」


振り返るとそこにはミリアが居た。


「起きたのか、ミリア」

「起きたらあんたが居ないから探しに来たのよ。そしたら剣握ったまま一歩も動かないし何してるのよ」

「イメージトレーニングだ。まぁ今はそのイメージを練ってた所だが」


ミリアの様子を見るに、あまり理解出来てないようだ。


「まぁ、俺の世界ではメジャーな訓練方法だよ」

「ふぅん。まあいいわ、朝食にしましょう」

「了解」


そんなに時間が経った覚えは無いが、部屋に戻るとしっかり朝食が出来ていた。

ミリア曰く、昨夜の内に下準備を済ませていたらしい。

本当にこいつは女子力が高い。


「うまい」

「そう」


しかも料理は美味い。

本当に、本当に性格が残念だ。

性格がもう少し穏やかであれば、間違いなく男が放っておかないだろう。


「あんた、失礼な事考えてない?」

「美味いなと思う事は失礼か?」


ヒヤッとしたが美味く誤魔化せた様で、ミリアは追求せずに食事に戻った。

実際美味いとは思っていたし、完全に嘘ではない。

というか、美味すぎてもう自分の分が殆ど残っていない。


「もう少し味わって食べなさいよ」

「十分味わってるさ。美味すぎて手が止まらないんだ」

「褒めたって何もでないわよ」


出ないのか。

てっきり御代わりが出るかと思ったが残念だ。

空になった皿を見つめていても虚しいだけなので、俺はさっさと片づけを始める事にした。


「いつも料理してもらってて悪いからな、今日も食器は俺が洗うよ」

「そう、頼むわ」


ミリアはまだ半分食べたくらいだが、先に自分の分だけ洗ってしまう。

自分の分が終わり掛けた所でミリアが食べ終え、皿をこちらに手渡す。


「手伝うわ」


その一言と同時にミリアが俺の横に立つ。

ミリアの優しさを感じる数少ないポイントではあるが、これでは恩返しの意味が無い。


「いいから座ってろ」

「いいわよ、自分のくらい洗うわ」

「それじゃ料理の礼にならないだろ」

「わかったわ。じゃあ私は今日の討伐の準備をするから」

「ああ」


思ったより簡単に引いてくれてよかった。

たかが皿洗い程度なので、数分もあれば終わる事だが、一応感謝を形で表したい。

一番は俺も料理が出来るようになって、交代で飯の用意をする事だが、料理の練習をしている時間が無い以上、中々難しい。

朝錬の時間を削ればできそうではあるが、練習用の食材を用意する財力もまた、今の俺達には存在しない。


「私の準備は終わったわ」

「やけに早くないか?」


準備をすると言ってからまだ少ししか経ってない、時間にして1分あるかないかだ。


「魔法使いの持ち物なんてそう多くないもの。極端な話、何も持たなくても良いレベルよ」

「便利でいいな」


俺の方はというと、簡素な物だが防具を着るし、武器も持たねばならない。

所謂革の鎧的な軽鎧タイプのため、着るのはさほど苦労しないが、それでもそれなりに時間が掛かる。

救いはミリアのおかげで救急用品の類は最低限で済む点だろうか。

ヒーラーが居なければ包帯やら消毒液やらで凄い量になりそうだ。


「ふぅ、終わった」

「お疲れ様、さっさと準備しなさいよ」

「ああ、物自体は纏めてあるから数分で終わるさ」


俺は手に残った水分を拭いてから、ソファ脇の荷物の所まで行く。

今着てる服の上から、足、腰、胴、最後に腕に防具を着込んでいく。

安物なので肩当はないし、露出している部分も多い。

と言ってもサイクロプスの膂力相手ではフルプレートですら気休めにしかならないだろう。

防具の留め具がしっかりロックされている事を確認し、剣を背中に背負う。


「準備終わったぞ」

「やっぱり、でかくて不恰好な剣よね」

「失礼な、バスタードソードの魅力が解らないのか」

「解らないわね」


素っ気無さ過ぎる対応に肩を竦めて見せるが、ミリアは構う事無く出口へと向かう。


「さ、行きましょう。ここで稼いで置かないと後が大変よ」

「そうだな」


頷いて俺もミリアと同様出口へ向かう。


「待ち合わせはどこだったっけ?」

「正門でしょ?しっかり覚えときなさいよ馬鹿」


さすがミリアだ。

予想通りしっかり話の内容を覚えていたらしい。


「どうせお前が覚えてるだろ、いちいち俺が覚えなくても問題ない」

「それじゃ、あんたが寝過ごして私が置いていったらどうするつもりだったの?」

「ハハッ」


はっきり言ってその発想は無かった。


「笑って誤魔化せるとでも?次からしっかり覚えておきなさいよ、本気で置いてくから」

「逆に尋ねるが、俺なしでお前は戦う気なのか?後衛なのに前衛なしで?」

「そうね…、言うじゃない」


どうやらミリアもそれはきついと思った様だ。

これなら次回も安心だ。


丁度会話が途切れた所で集合場所が見えてきた。


「おやおや、随分沢山いるんだな」

「お金目当てであちこちから集まったんでしょ?偶然居合わせた私達の方が珍しいわよ」

「なるほど、どこも宿が埋まってる訳だ」


見渡す限り、いかにも傭兵と言った感じの輩がざっと30以上は集まっている。

俺の安っぽい装備を見て何人かはニヤニヤと笑っているが、俺からすればサイクロプス相手に動きが制限される金属鎧を着込んでる奴の方が馬鹿だ。

まぁ、お金が無くて安物なのは事実なんだが。


「おお、二人とも来て頂けたのですね」

「ん?」


声の方向を振り向くと、昨日の警備隊長がこちらに気付き、近寄ってくる所だった。


「ああ、警備隊長さんか」

「突然のご依頼を請けて下さってありがとうございます。あちらの方で物資の支給をしていますので、一度足を運んでください」

「そうか、ありがとう」


俺はミリアと共に警備隊長の言う場所へと向かった。

そこでは各種魔法薬や医療品、さらに食糧の支給をしていた。


「俺は医療品と食糧を貰ってくる」

「私は魔法薬を貰ってくるわ、あれ使えるのに高くて手が出ないのよ」

「そうか、んじゃ後でな」


一旦別れ、俺とミリアはそれぞれの配給所へと向かう。

それぞれの受付に二人分を頼むと、殆ど待たされる事無く支給を受けられた。


「ふむふむ、食糧は干し肉か。いいな」

「水もしっかりあるわね、気が利いてるじゃない」

「ん、ミリアももう貰ったのか?」


後ろを振り向くと、色とりどりの魔法薬を持ったミリアが居た。


「ええ、これだけあれば、全力で魔法を撃っても大丈夫よ」

「ほう、やっぱり魔力って残量みたいなのあるのか?」

「そりゃあるわよ、無制限にパカパカ撃てる物じゃないのよ。中には空間の魔力を利用して魔法を使える人も居るけど、凄腕の魔法使いだけだし、そもそも空間に漂う魔力にも限度があるもの」

「ふーん、マナの概念ってマジ話だったんだな」


案外、ファンタジー作者は異世界に行った事あるんじゃないだろうか。


「マナって何よ?」

「なんていうか、俺らの世界で、空想上においてのみ存在する魔力の呼称だな」


たぶん、嘘は言ってない。


「そう、そういえば魔法がない世界だったわね」

「こっちに来ても結局俺魔法使えないんだけどな」

「それはあんたの努力不足よ。アルも一応、魔法は使えたもの」

「魔法使うのにあの長い詠唱覚えなきゃならんだろ?どうもああいう暗記物って苦手でさ」


いつもミリアはロキなんちゃらとか言ってる気がするが、そもそも英語ですら危うい俺に謎言語が理解できる筈も覚えれる事もない。


「まるでイノシシね」

「心外だな、確かに脳筋かもしれないが、それなりに戦術は立てて行動してる。昨日も、その前も、ちゃんと的確な指示をしていたつもりだぞ」

「そうね…、確かにあんたの指示は的確だったし、昨日は本当に救われたわ」

「だろう?イノシシとは違うだろ」


そうね、とミリアは素っ気無く呟き、そそくさと目を逸らしてしまった。

珍しく認められたと思ったが、素直に認めるのは癪なのだろうか、難儀な性格だ。


「お集まりの皆さん、これよりサイクロプス討伐作戦を開始します。各員、目玉袋は受け取りましたか?」


唐突なアナウンスで、俺は先ほど貰った荷物の中に変な袋があったのを思い出し、手に取ってみた。


「これの事か?」

「そうじゃないの?」

「目玉袋って、目玉持って来いって事なんだろうか?」

「討伐した証に抉って持って来いって事でしょ」

「うへえ、マジか…」

「目玉ならまだマシよ」

「そうなのか…」


常々思うが、ミリアは同世代の女子にしては色々と肝が座りすぎだ。

まあ、この世界ではそうでなければ生き残れないのかもしれないが。


「では、皆さん、現時刻を持って作戦を開始します。御武運を」


アナウンスの合図で周りの連中はどっと出口へと向かっていく。

あれよあれよと周りの人間たちが少なくなっていき、完全に俺とミリアは出遅れた。


「ボーっとしてる場合じゃないな、俺らも行くぞ」


俺とミリアも急いで街の外へ。

昨日通り抜けた森へと再び足を踏み入れる。


「昨日倒した奴の目玉回収したらダメかな?」

「もう片付けられてると思うわよ、昨日報酬も貰ったし」

「く、そうか…」


確かに、昨日サイクロプスを倒したあたりまで進んでも、昨日の死体は存在しなかった。


「さて、どうしようか」

「とりあえず、道から外れて茂みに入るしかないんじゃない?」

「わかった」


がさがさと音を立て、茂みを掻き分けて奥へ。

道なき道を歩き続けるうちに、俺に一つの作戦が浮かんできた。


「なあ、奴らの巨体が通ればそこには獣道が出来ると思うんだ」

「そうね、確かにそうだわ」

「それに足跡も残るだろうし、それらを手がかりに追跡してみよう」

「名案ね、じゃあ任せるわ」


完全に俺に委任されてしまった。

言い出した手前、無理だとは言えない。

一応、漫画やゲームなどでトラッキングの概念そのものは理解しているが、実際にするのとは訳が違う。

俺は何とか手がかりを見つけようと地面に目を凝らす。

そのとき、何かを見つけた。


「あ!」

「な、なによ!?」


きらりと黄金色に光る小さな円盤、これは…。


「ゴールドだ」

「…」

「いや、何だよその目は、良いだろう?困らないだろ別に」

「確かに必要な物だけど、今はそんな物を探してる場合じゃないでしょ?」


俺はジェスチャーで解ったと示し、トラッキングを再開する。

その時、ふと草むらの向こうに道を発見した。

人の手で整備されたにしては木は伐採されておらず、強引に邪魔な枝をへし折っただけの手抜き加減に不自然さが目立つ。


「怪しいな」

「でも足跡なんて無いわよ?」


言われてみれば確かに足跡など無い。

俺は試しにその道に踏み出し、軽くジャンプをしてみた。


「やはりな」


そこに足跡はつかなかった。

土がしっかり踏み固められており、足跡がつくような柔らかさはなかった。


「もしかしたら、当たりかもしれないな。ちょっと先を見に行こう」

「何も無かったら覚悟はできてるわよね?」

「何かあるさ、きっとな」


ミリアは前科があるので、この発言は冗談とは思えない。だが不思議と必ず何かあるという確信が俺の中にはあった。


「ん?あれは?」


少し進んだ所で洞窟があった。

念のため辺りを警戒しつつ洞窟へと近寄る。


「うっ、何だこの臭いは…」

「腐臭ね。どうやらあんたの言うとおり、当たりみたいよ」

「嬉しいような、嬉しくないような、だな」


状況的に見てこの洞窟は巣穴だ。

そしてここに至る道が踏み固められていた事からして、サイクロプスの巣穴で間違い無さそうだ。


「ミリア、いつでも魔法を撃てるように準備してくれ。先行して様子を見てくる」

「わかったわ」


荷物からたいまつを取り出して左手に握り、右手で剣を取る。

背中をミリアに預け、慎重に洞窟の中を進んでいく。

洞窟は長く続いているらしく、一歩進むごとに闇が深まり、腐臭が増していく。

あまりの臭いに吐き気を催してきた所で、光に照らされた巨躯が視界に入った。


「ミリア!!」


反射的に叫び、後ろのミリアに合図を送る。

その直後、雷光が駆け抜け、目の前のサイクロプスに直撃する。

座り込んでいたサイクロプスは突然の雷撃に怯み、その隙に俺は彼我の距離を詰めた。


「せやっ!」


掛け声と共に一閃。

刀身は立ち上がろうとしていたサイクロプスの首に吸い込まれ、深々と食い込んだ。

肉厚な首は流石に両断できなかったが、不意を突かれたサイクロプスは一切反撃する事も無く絶命した。


「ナイスアシストだ、ミリア」

「当然よ」


たいまつの薄明かりではっきりとは見えないが、ミリアのドヤ顔が目に浮かび、肩をすくめようとした所で洞窟内に大きな足音が響いた。


「新手だな!」

「右から来るわ!」


現在地は少し開けた場所で、道が左右に分かれている丁度中間地点だ。

足音はその右側から響いてきており、どんどんと大きくなっている。


「来たぞ!」


たいまつの明かりに巨躯が照らし出されたと同時に棍棒が振り下ろされた。


「アキト!」

「っ!」


間一髪横ロールで回避したが、その際にたいまつを手放してしまった。

だがそれによって左手が自由になったので、俺は両手でしっかり剣を握り、サイクロプスに上段斬りを叩き込む。

不利な体勢からの上段斬りは当りはしたが、手に伝わった感触は深手を与えた時のそれではなかった。


「浅いか!」


その呟きを裏付けるかのように反撃の拳が飛んでくる。

自分のたいまつは落とした時に消えてしまっているので、今この辺りを照らしているのはミリアの持つたいまつだけ。その暗さゆえに反撃をを認識するのが遅れ、回避できるタイミングを逃してしまった。


「っはぁ!」


防御姿勢を取るもサイクロプスの豪腕を防げる筈も無く、壁まで弾き飛ばされ、強く背中を打ちつけた。

剣を取り落とす事は無かったが、腕が直撃した身体の前面と、岩壁に強打された背中の両方が激しく痛み、立ち上がれない。


ala(アラ) lagoon(ラグーン) eu(エウ) enta(エンテ)naf(ナフ) tau(タウ) us(アス)!(神聖なる太陽の恵みよ、仲間を癒せ)」


ミリアの詠唱が終わったと同時に突如俺の身体が光り、すぐに痛みが引いて立ち上がる事が出来た。

相変わらず詠唱の内容は理解できないが、回復魔法の類である事は察しが付く。


「すまんミリア、助かった」

「礼は後!次来るわよ!」


ミリアの言葉通り、俺に追撃を加えるべくサイクロプスが迫っていた。

構えから見て横振りの攻撃、俺自身もサイクロプスに駆け寄って距離を詰め、サイクロプスの攻撃にあわせて飛び上がる。


「くらえ!!」


懐に飛び込んだ俺はサイクロプスの頭を左手で掴み、右手の剣を喉に突き立てる。

声帯を潰されたサイクロプスは声一つ上げる事無く膝から崩れ落ち、大量の失血でその後間もなく絶命した。


「ふう」

「まったく、気を付けなさいよね!あんた私の言った事忘れたの?」

「覚えてるが仕方ないだろ?」


キーキーと怒り出すミリアを他所に、落としたたいまつを拾い上げて火を灯す。

二体とも完全に死んでいる事を改めて確認し、目玉を抉り出す。


「うえぇ……、気持ち悪い感触だな……」

「あんたいつも剣でぶった切ってるでしょ?」

「抉るのと斬るのは大違いだ」


手に伝わる感触は肉を斬る感触とはまた違う生々しい物だ。

ミリアはよく顔色一つ変えずに目玉を抉るなんて行為が出来たなと思う。

改めて育ちの違いを認識せずには居られない。


「ミリア、これ持っててくれないか?」


抉り取ったばかりの目玉が二つ入った袋をミリアに差し出す。


「何で私が?あんた持ちなさいよ」


当然ミリアは文句を言うが、何も俺が楽をしたいからと言う訳ではない。


「さっきの戦闘見てなかったのか?そんな物俺が持ってたら、いつか潰しちまうぞ」

「……仕方ないわね」


逡巡した結果、一応納得した様で渋々袋を受け取るミリア。


「にしても大当たりだな、この感じじゃこの洞窟はここら一体のサイクロプスの巣だろ?」

「そうみたいね。まだ続きがあるみたいだけど、どうするの?」


ミリアが照らす先には確かに道が続いている。

俺は落としたたいまつを拾い上げ、再び火を灯してから答えた。


「そりゃ当然、前進あるのみだろ」




あれから洞窟をくまなく散策し、討伐総数が13体になった所で行き止まりとなり、俺とミリアは巣穴を後にした。

ずしりと重くなった目玉袋は、巣穴となっていた洞窟を出た所で俺が持つ事になった。

曰く、戦闘はもうないだろうから俺が持っていても問題ないだろうと。


「やっぱ、気持ち悪いなこの袋」


革袋なので血が染みてくる事は無いのだが、それでもぐちゃぐちゃと音を立て、袋越しにも関わらず目玉の感触が伝わってくるのだから気持ちの良い筈がない。


「我慢しなさいよ。13体分の目玉があれば、残りの旅費には苦労しないわ」

「そりゃそうなんだけどよ…」


どう反論するか悩んでいた時、ふと後ろで物音がし、次いで声が聞こえてきた。


「ほう、13体か。それは凄いな」

「たった二人でそこまでやるなんてな」


振り向くと武器を持った男が5人、茂みから現れた。


「なるほど、大体察しは付く。目当てはこの袋か」


俺は左手で持つ目玉袋を掲げてみせる。


「御明察、大人しく渡せば命は取らん」

「こっちは2人とは言え、13体のサイクロプスを倒したのよ?あんた達に後れを取るとでも?」


強気なミリアが食って掛かるが、男達はそれぞれ大声で笑い出した。


「ハッハッハッ!確かにな!だがそんなに相手した後だ、当然疲弊してるだろう?無理は良くないぜ?」


確かに長い戦いでミリアはともかく、俺自身は大分疲労している。

万全の状態なら盗賊くずれなこんな連中は一人でも何とかなるかもしれないが、今の体力で複数人を相手取るのはできれば避けたい。


「ミリア、行けるか?」


俺はそっとミリアに小声で話しかける。


「ギリギリね。魔法薬の残りは無いし、残りの魔力だけだと大技は使えない」


ミリアも同様に小声で返してきたが、俺と同じく厳しい状態なのは変わらないようだ。


「相談は終わったかい?死にたくなかったらさっさと袋を渡すんだな」

「袋は渡さない、貴様ら全員返り討ちにしてやる」

「フン!死に急ぐとはなあ!」

「それはこっちの――な!?」


剣を抜き、敵陣に踏み込もうとした時、俺と男達との間に突如人が降ってきた。

こちらに背を向け、男達を睨んだまま男は声高に語りだした。


「話は聞かせてもらった!疲弊した少数相手に盗賊行為を働く不届き者共よ!尚も彼らに手出しすると言うのであれば、この私、片桐刀真(かたぎりとうま)が相手になろう!」


俺は目の前の片桐と名乗った男に、二つの衝撃を受けた。

一つ、名前が明らかに和名である事。

二つ、男の片手に光る武器が俺の良く知る刀その物である事。

もしかしたら目の前の男も俺と同じ境遇の人間なのかもしれないなどと、状況を忘れそうになったが、すぐに現状を再認識して意識を目の前の男達に戻す。


「カタギリだと!?」

「あの変な剣にカタギリ…、間違いねえ!異郷のカタギリ!!」


目の前の男達に走る同様から見て、片桐はそうとうな実力者で名をはせる人物の様だ。

これらの反応を前に片桐自身は少しうんざりした様な感じを漂わせた。


「その通り名は好きじゃないんだが…。まあいずれにせよ、どうする匹夫共?それでも尚挑むか?」

「くっ!野郎ども、退くぞ!」


片桐は逃げていく男達を追わず、全員が離れたのを確認してから刀を納めた。

振り向いた片桐の容姿は、俺の今の容姿とは異なり、完全に日本人の容姿だ。


「助かった、ありがとう片桐さん」

「まさか、有名なカタギリに助けられるとは思わなかったわ」


ミリアも珍しく普通に礼を述べたが、片桐は俺の方を見て少し訝しげな顔をした。


「お前さんの片桐の発音、ここらの連中と違ってネイティブだな。もしや同郷か?いやしかしその容姿で?」

「それは俺も気になってたんだ。俺の名は風見明人、日本出身だ。まあ中身は、だが」


俺の発言に更に不思議そうな顔をする片桐。


「日本?聞いた事がないな。それに中身はとはどういうことだ?」

「その容姿で日本人じゃないのか?」


と言う事は考えられる事は一つだ。この世界にも日本とよく似た人種と文化が根付く地があると。

異世界でこれほどまでに故郷を思い出させる存在に会うとは思わなかったが、俺は俺の現状などをさらっと説明した。


「なるほど、風見は異世界人か。実に興味深いな、蘇生の失敗といい」

「それは俺もだ。まさかこの世界で刀を見るとは思わなかった」

「ほう、刀を知っていると?やはりそちらの世界でも刀が主流なのだな」

「いや、俺らの時代では刀は殆ど使わない。というか持つ事すら基本は禁止だ」

「それはますます興味深い。是非詳しく話を聞かせてくれないか?」


俺と片桐。2人の話はどんどん過熱していき、蚊帳の外状態だったミリアが流石に怒り出した。


「ちょっと!いい加減にしなさいよ!まずは街に帰るわよ!」

「「あ、はい」」


俺と、何故か片桐も一緒にミリアに謝罪し、三人で街へ帰ることとなった。

片桐の存在による物か、その後はトラブルなど一切なく帰路につく事ができた。

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