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ファンタジーライフ・アフター・デッド  作者: ゼナード
第一章 転生!始まりの町へ
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第四話 行商の町

「おいこらリック!剣折れたぞ!どうなってんだ!?」


あれからすぐに気持ちを入れ替え、俺はそのまま鍛冶屋に殴り込みに来ていた。


「マジか?上手くいったと思ったんだがなぁ」


リックには全く悪びれる様子も反省する様子も無い。


「マジか?じゃねぇよ!もしかして修理できないのか!?」

「いやぁ、実は武器作りって祖父の代で廃業でさ、今は生活用品…主に農具や調理器具の手入れくらしいかしてない訳よ。だから剣の修復なんて初仕事でよー、はっはっはっ!」


こっちは下手したらそれが原因で死ぬかもしれなかったというのに、能天気に笑っているリックを見ると殺意が湧いてくる。


「こいつ、殺していいか?」

「ダメよ。それにリックが武器を直せないなんて、町の皆が知ってるわ。つまりあんたが悪いのよ」


酷い話だ。

この町どころか、この世界すら昨日が初日だというのに、そんなローカルな話題、俺が知るはずが無い。


「しかし参ったぞ、これじゃ神の泉に行けないじゃないか」

「そうね…、このポンコツ鍛冶屋じゃ武器なんて作れないし、行商の武器なんて高くて買えないわ」

「おいこら、誰がポンコツだ」


ミリアの一言にリックが文句を言うがスルー。


「いっその事、神父に武器ねだってみるか?」

「やめなさいよ馬鹿」


適当に茶化しつつ、本気でどうしようか悩んでいた時、鍛冶屋に一人の男がやってきた。


「どうも、先ほどはお世話になりました。私、ラルフと申します」


男はぺこりとお辞儀をし、礼を述べた。

男は上質そうな服を身につけ、身なりだけで裕福な男なのだと理解できた。


「ポンコツ鍛冶屋が人に感謝されるほどの仕事をしたとは驚きだ」


俺は率直な感想をついうっかり漏らしてしまった。

横でミリアが頷いているので、まぁいいかという気にはなったが。


「ポンコツ言うな。それに俺の客が改まって名を名乗るか?」

「それは確かに。って事は俺とミリア?」


ラルフは俺とミリアの方に目線をロックしている。

俺もミリアも思わず顔を見合わせてしまったが、男は気にせずに続けた。


「先程、盗賊に襲われていた所を助けて頂きましたよね?礼を言う間も無く立ち去ってしまったので、ここまで追いかけてきたのです」

「ああー、なんだそれか」

「そういえば、店主は蹲っていたわね」


そう。

店主は頭を抱えて蹲ったまま震えていたので、俺とミリアは顔を見ていなかったのだ。


「んで、わざわざ礼を言いにここまできたのか?」

「いえいえ。護って頂いた物からすればささやかな物ですが、貴方様に装備を御贈りしたいと思いまして。先程私を助けて頂いた際に、得物を喪失してしまった様ですし、少しでも恩返しになればと」


ラルフは深々とお辞儀をしながらなんとも魅力的な話をしてくる。


「なにっ!?」

「ラッキーね」


ミリアの言うとおりだ。

今は代わりの剣が喉から手が出るほど欲しかった所だ。


「しかし、良いのか?」

「勿論です。助けて頂かなければ根こそぎ無くなる所か、最悪私の命すら危うかったのです。恩人相手にけちな事は言いませんよ。さあこちらへ」


ラルフに連れられ外に出ると、そこにはいつの間にかラルフのキャラバンが停まっていた。

俺とミリアの姿を見るなり、ラルフの仲間達は嬉しそうな笑顔で出迎えてくれた。


「先ほどはどうも!お陰で商売が続けられます!」

「二人とも、息ぴったりでしたよ!最良のパートナーなんですね!」


投げ掛けられる歓声の一部に、ミリアの眉がピクリと動いた気がするが、流石に悪意が無いのは理解しているようで、特に何もする事は無かった。


「こちらが、現在我がキャラバンで取り扱っている商品です。お好きな装備をお選びください」


ラルフが指差した一台の馬車には所狭しと武器防具が並べられていた。


「おお、凄い数だな」

「ええ、何しろ我々は装備の取引で成り立っていますから。故に無法者に狙われる事も多くて…」

「なのに用心棒も雇ってないの?」


ミリアの指摘は鋭かった。

確かに襲われるのが日常茶飯事なら、用心棒くらい雇いそうなものだが。


「いえ、偶々用心棒が離れていまして…。今は戻ってきているので大丈夫ですが、ほら、彼です」


ラルフが指差した方には、鎧を着込んだ一人の騎士が立っていた。

こちらに気付いた騎士は軽く会釈をすると、すぐに周囲の警戒に戻った。


「ふむ、しかし剣だけでもかなりの数があるな」

「宜しければ手にとってみますか?」

「良いのか?」

「ええ、どちらが気になりますか?」


荷台には沢山の種類の剣が置いてある。

日本に居た頃、ファンタジー物でよく見た形状の武器や、中々ファンタジーでも出て来ない様なマニアックな武器まであった。

俺はその中で、バスタードソードに興味を持った。


「あのバスタードソード、少し気になるんだ」

「こちらですか?バスタードソードがお好みですか」

「ああ、昔使ってた武器に…少し似てて」


バスタードソード。

片手半剣とも言われる、両手と片手両方で使える西洋剣だ。

剣の全長は一般的なロングソードより長く、柄も両手持ちに対応する為に長く、バランスを取るために柄頭には大きめの重りが着いている。

このサイズ感が、何処と無く竹刀に近く感じられ、他の剣より俺の興味を惹いた。


「どうぞ、試しに振ってみてください」


手渡されたそれは、ずしりと重かった。

竹で出来た竹刀等とは比べ物にならない重さ。

幸い今の体は自分の物ではない、試しに片手で振ってみるが、重さに振り回される事は無かった。


「ふむ」


今の一太刀で、何となく武器の特性は理解できた。

次は両手で構え、過去の経験を元に、剣にあわせて体を動かしてみる。


「先程の剣はロングソードだった様に思えますが、中々どうして、上手く扱えていますね」

「俺もびっくりだよ、まさかこんなにしっくり来るなんて」


ただサイズが似ているという理由で手に取った割りに、上手く扱えていたようだ。

重さも材質も全然違うのに、何故かしっくりきたこの武器を、俺はじっくりと眺めてみた。

握りは丁寧に革が巻かれ、鍔には翼を模した彫刻、柄頭には宝石がはめ込まれている。

刀身は細く、樋代わりに神秘的な文様が彫刻されている。


「俺は、この剣にするよ」

「他はご覧にならなくて宜しいのですか?」

「ああ、こいつでいい」


何故だろう、俺はたった今少し振っただけのこの剣をとても気に入っていた。


「ふーん、あんたにしては良い趣味じゃない?」

「あんたにしてはって、お前俺の事そんなに知らないだろ」

「その剣、ポメル(柄頭)に共鳴石をはめられる様になってるわよ」

「え?マジ?」


言われてみれば、宝石を外せば共鳴石くらいのサイズなら収まりそうな感じだ。

ちらりとラルフを見やると、笑顔で答えてくれた。


「ええ、その通りです。そのガラスを外せばそこに共鳴石を入れることが出来ます」

「ガラス・・・・・・」


ずっと宝石だと思っていたとは口にしなかった。


「ですが、立派なパートーナーがいらっしゃるようですし、必要無い機能かもしれませんね」

「それはどうだろうな」

「あんたそもそも魔法使えないでしょ」


それは確かにそうだった。


「しかし、お嬢さんの方へのお礼ができませんね・・・・・・」

「気にするな、こいつはちょっと魔法を撃っただけだ」

「あんたより倒した盗賊多いんですけど!?」

「そりゃそうだろう、俺は単体制圧、お前は面制圧するのが役目なんだか―イテッ」


殴られた。

本当に凶暴な女だ。


「ああ、お嬢さんにはこちらを差し上げましょう」

「なにこれ?」

「杖だろ?そんなこともわから―イタッ!」


また殴られた。

本当に、絶対にこいつ嫁にいけないわ。

いちいちスルーするラルフも中々だと思うが。


「こちらの杖は、先端に共鳴石をはめる事で、共鳴石の能力を引き出し、魔法を更に強化する事が出来ます。魔法使いのお嬢さんにピッタリな品でしょう」

「それは便利ね。ありがとう」

「しかし、なんか悪いな。結構値の張る品じゃないのか?」

「心配には及びません。貴方達が護ってくれた財産の方がよっぽど高額ですよ。その程度の品で逆に申し訳ないくらいです」


ラルフはこう言うが、実際あのまま旅に出ていたら危なかったのはこっちだ。

その意味では、こちらも助かったと言える。


「では私たちはそろそろ出発します。次に会う事があれば、その時はよろしくお願いします。貴方達なら全品半額で販売しますよ」

「ははっ、そりゃありがたいな。んじゃ気をつけてな」

「さよなら、騎士さんも、キャラバンをあまりほったらかしにしちゃだめよ」


ラルフのキャラバンは、ミリアの言葉に苦笑しながらこの場を去っていった。

そして、俺は今まで存在を忘れていたポンコツ鍛冶師ことリックに向き直った。


「リック、彼らのお陰で助かったな。もし彼らが剣をくれなかったら、お前の店を担保にして剣を買う所だった」

「お、おいおいそれは幾らなんでも・・・・・・」

「私もそれなら許すわ。アルベールが帰ってこないと困るもの」

「勘弁してくれ・・・・・・」


四面楚歌のリックは大きく肩を竦めた。


「さて、ともあれこれで旅の準備は整ったな」

「何言ってるの?食料やその他の物はどうするつもりなのよ」

「おお!すっかり忘れてた!」

「あんた・・・・・・本気で馬鹿なんじゃないの?」


こればかりは言い逃れが出来ない。

確かに旅をするには寝袋だの、鍋だのなんだのと生活用品も必携だった。


「家にあるもの適当に持ってくんじゃ駄目か?」

「日用品はそれでよくても、食料はどうするのよ?」

「それは・・・・・・」


どうしたものか。

ネットで聞きかじった保存食の作り方程度しか知らない。

そもそも材料が無いのでは、料理ができるできない以前の問題だ。


「まぁ、とりあえず教会に顔を出そうぜ。あれから一度も神父に会ってないし」

「それもそうね。きっと心配しているわ」


鍛冶屋を後にするので、リックに挨拶しようかと思ったが、ハブられ過ぎて一人で黙々と鎌を研ぎ始めていたので俺とミリアは黙って鍛冶屋を後にした。




「ふむ、では仲直りをしたと」

「仲直りも何も、ただ適当に話しただけだぞ」


あれから教会に行き、事の経緯を神父に説明すると、神父は嬉しそうに頷いた。


「いや、結構ではないか。アキト君とミリア君の二人は早速協力して盗賊を撃滅したと聞く。これならこの先も心配は要らないだろう」


複雑な表情のままミリアは黙っているので、仕方なく俺が一人で会話を続ける。


「心配ならあるぞ、ここを旅立つ準備がまだ終ってない」

「ふむ?何か足りない物でもあるのか?」

「金と食料が無い」


ミリアが睨み付けて来るが気にしない。

神父の前では殴らない主義らしい。


「神父の手違いで旅に出るんだから、準備くらい支援してくれてもいいだろう?」

「むう、確かにその通りだが・・・・・・。ふぅ、やれやれ、仕方ない」

「神父様、この馬鹿の言う事は無視して良いですよ」

「いや、いいのだミリア君。アキト君の言う事も一理あるからな、旅費は手配しよう」


そう言うと神父は奥へと消えていった。

そして神父の姿が見えなくなったと言う事は・・・・・・、俺は咄嗟に体を屈める。

案の定、頭上をミリアの拳が通り過ぎた。


「何で避けるのよ!」

「どこの世に喜んで殴られる輩が居るんだ?」


意地でも殴ろうとミリアは繰り返し拳を俺に浴びせるが、不意討ちでもない限りミリアの拳は脅威ではない。

全て片腕で制し、体には一発たりとも入れさせない。


「くっ!このっ!」

「やめとけ、お前じゃ俺には一発も入れられない」

「あんた一体何なのよ!」

「ふむ、やはり仲が良いな」


ムキになって叫びながら拳を繰り出すミリアの後ろから、神父が声を掛ける。

ミリアはびくりと肩を震わせ、ゆっくりと後ろを向いた。


「し、神父様これはその!」

「ミリア君の愛情表現の一種なのだろう?」

「違います!」

「愛情表現で殴りかかる生物なんて聞いた事無いぞ、珍獣だな」


見事な裏拳が飛んでくるが、これも上体を反らして避ける。


「また避ける!」

「当たり前だ。それより神父さんは何してきたんだ?」

「もしもの為の貯蓄を取りに行っていたのだ。確かに今回は私の失態であると同時に、聞いた事の無い異変だ。後者は嫌な予感がしてならない」

「それで快く支援してくれると?」

「うむ。君達が神の泉に行けば、この世界で何が起ころうとしているのかが解るだろう。あるいは何も起きていないのかも知れないが、それならそれで良い」


神父の言葉に先程まで暴れていたミリアも納得したようだ。

というか、説明してから席を立って欲しいものだ。


「ありがとうございます、神父様。ではこれで私たちは失礼します」

「うむ。君達の無事を祈ろう」


俺も挨拶しようとした所で、背中をミリアに引っ張られ、教会の外へと追い出されてしまった。


「おい、何するんだ。まだ挨拶してないってのに」

「あんたはすぐ余計な事言うからダメよ」

「やれやれ、俺にも神父と同じとまでは言わないが、それなりの対応をして貰いたいもんだなぁ」

「何か不満でも?」

「いいや、とても満足してるよ」

「よろしい」


嘲笑気味に皮肉で返したが、どうやら通じなかった様だ。

まぁ、通じたら通じたで殴られていた所だろうが。


「さておき、軍資金は得たな」

「そうね。大通りで必要な物を買いに行きましょ。あそこなら遠征用のアイテムも売ってるでしょ」

「小さい町なのに案外色々売ってるんだな」

「行商のおかげよ」


大通りに戻ると、今朝騒ぎがあったと言うのに、何事も無かったかのように露店が並び、多くの人が買い物を楽しんでいた。


「あんな騒ぎがあったのに全く気にしてないんだな」

「そりゃそうよ、盗賊やら山賊やらが襲いに来るなんて、そこまで珍しい事でもないもの」

「おっかねー話だな…」


やれやれと肩を竦めながら辺りを見回し、目当ての物を売っている露店を探す。

しかし、そこである事に気づいてしまった。


「ああ!なんてこった…しくじったな…」

「どうしたのよ突然?」


俺の突然の叫びにミリアが驚きこっちを見る。


「さっきのラルフって商人から買えば良かったってな。半額で売ってくれるって言ってたし、全部買ってもかなり安く済んだだろうなあ。惜しい事をしたぜ…」

「諦めなさいよ。あの時お金持ってなかったでしょ?」

「まぁそうなんだけどさ…。待てよ…今から追っかけたら追いついたりしないか?」

「馬鹿な事言ってないで、さっさと買い物済ませるわよ」

「仕方ない、諦めるか」


俺を見捨ててとっととミリアが歩いて行ってしまったが、さすがここの住人だけあって人混みの中でも臆せず、ひょいひょいと人の間を縫っては露店を巡って行く。

対する俺はと言えば、比較的高身長なこの体のおかげでミリアを見失わないでいるが、ミリアの様には人混みの間を進めず、ミリアとの距離をキープするので手一杯だった。


「まあ、人には得手不得手があるしな。店探しはあいつに任せようか」


一人で勝手に納得しながら俺はひたすらミリアの背中を追う事にし、実際ミリアがいくつかの店舗で足を止める度に俺がそれはどうかと聞くだけ。

先程から保留としか返事が返って来ないが、こいつは店の位置をしっかり覚えているんだろうか。

荷物が増えないのは良い事だが、結局目当ての店が何処だか分からなくなったでは洒落にならない。


「おいミリア、結局何処で買うんだ?もう露店も端っこの方だぞ?」


露店がまばらになり、人混みが薄れて来たところでようやく俺はミリアの横に並ぶ事が出来た。


「焦らなくても大丈夫よ。一通り目を通して、一番安くて良い店で買うのは基本よ?」

「そらそうだが、場所は覚えてるのかよ?」

「ある程度は把握してるわよ。この町に住んでる人間ならそれくらい出来るわよ」

「悪いな、二日ばかししか住んでない俺には全く持って出来ない業だ」


と、あれこれやり取りしている時に、露店の売り子が俺達に話しかけてきた。


「お嬢さん、見た所魔法使いだね?共鳴石は要らないかい?」

「そうね、少し見せて貰おうかしら?」


ミリアが珍しく一瞬悩んだ末、これまた珍しく色よい返事をした。

俺とミリアは売り子に連れられ、露店のひとつに案内された。


「ってあれ、あんた昨日の共鳴石屋か」

「んん?ああ、あん時の魔法が使えないお兄さんか」

「なに?あんたの知り合いなの?」

「昨日たまたま声掛けられただけだ」

「まぁ良いわ。結構色々な石を置いてあるのね」


本当にどうでも良さそうに、ミリアの意識はすぐさま共鳴石の方へと向けられてしまった。

あれこれ良く解らない話を店主とミリアが繰り広げる中、俺は全く理解できないので辺りを適当に見回し、暇を潰す事にした。

相変わらず、大通りの中心は人混みが凄い。

売る人間も買う人間も、活き活きとしていて、一度しか行った事が無いが築地みたいだと思った。

改めて露店を見ると、木箱に色々なガラクタと一緒くたに押し込まれた共鳴石を見つけた。


「おい店主、この共鳴石なんでこんな所にあるんだ?」


木箱から俺はその共鳴石を手に取ったが、それは見る角度によって色が変わる不思議な代物だった。


「ああ、それか。そいつは複合属性の共鳴石で、中でも希少な全属性の複合石なんだよ」

「なんでそんな希少な物がゴミ箱みたいな所に押し込まれてるんだ?」

「そんなレア物を扱える人間が居ないから…でしょ?」


何故か店主ではなく、ミリアが変わりに答えた。疑問系だが。


「お嬢さんの言うとおりさ。希少な石だろうと、買い手が居ないんじゃただの無価値な石ころだ。もしかしたら…と思ったが、やっぱり使える人間なんて居ないみたいでね」

「ふぅん。勿体無い話だな」


全属性複合ともなれば、扱える人間が持てばかなりの力を発揮するに違いない。

それでなくても、様々な色にきらきらと移り変るこの石はとても美しい。


「なんだ?兄さんそれ気になるのか?」

「そうだな…。俺の剣に飾りで付けても良いかな…程度には」

「じゃぁ持ってけ、どの道このまま俺が持っててもゴミと一緒に捨てるだけだからな。本来の用途とは違うが、使ってくれる人間に渡した方が石も喜ぶだろ」

「え?金はいいのか?」

「いらんいらん。いくら俺でも石ころ押し付けて金を貰おうなんて思わんよ」

「なら有り難く貰うよ」


大抵、こういう場合はレア物である事を良い事に、多少の金銭を要求しそうな物だが。

昨日も共鳴石について教えてくれたし、この店主、微妙に口調は悪いが良い人かもしれない。

俺はそんなチョイ悪店主の厚意に感謝しつつ、バスタードソードにガラス玉と交換する形で共鳴石を嵌め込んだ。


「良いんじゃない?中々似合ってるわよ」

「そうか?」

「……そうか、共鳴石じゃなくて飾りとして売れば良いのか」

「い、今から金を取るとか言わないよな?」

「言わねぇよ!お嬢さんが共鳴石買ってくれたし、俺はそれで満足だよ」

「あれ?お前そう言えば共鳴石持ってないのか?」


魔法使いならてっきり俺は持っている物だと思っていたが。


「持ってるわよ。でも別に一個しか持っちゃいけないなんてルール無いもの」

「え、いくつ持っても良いのか?それなら滅茶苦茶魔法の威力上がらないか?」


俺の言葉に呆れを隠すどころか全身で表すミリア。


「あのね、持つにしたって限度があるでしょ、限度が。それに共鳴石って、石の数が増えれば増えるほど一個辺りの効果が薄くなるのよ」

「はぁ、それじゃ何でもう一個買ったんだ?」

「さっき貰った杖に取り付けるのが欲しかったのよ」


ミリアは杖を取り出し早速共鳴石を取り付ける。それを見た店主は「ほう」と興味を示した。


「二人とも珍しい装備持ってんな。共鳴石のブーストが出来る装備なんて結構レアだぜ?」

「そうなのか。ラルフは良い奴だな」


魔法を使えない俺がそんなレアアイテムを貰ってたと知ると、今更ながらに申し訳なくなってきた。


「ほら、行きましょ。まだ目的を果たしてないわ」

「ああ、そうだったな。んじゃ店主、ありがとな」

「おう。兄さんたちも気をつけてな!子供ができたらまた買いに来てくれよな」


店主の何気ない言葉に焦ってミリアの方を見ると、案の定肩を震わせている。


「やめろ、落ち着けミリア」


詠唱を始めようと完成したばかりのアーティファクト(共鳴石付きの杖)を構えるミリアをすぐさまなだめる。


「悪気がある訳じゃない。いいか?落ち着くんだ」

「…………」


視線で超不満とこちらに訴えてくるが気にしない。気にできない。

こんなやり取りが、この先何件かでも起きたが、俺達は無事に必要な物を全て揃える事ができた。

しかし日も傾きだした事で、出発は明日にして、今日はお互い準備に当てようという話になった。


「んじゃ、また明日な」

「寝坊したら殺すわよ?」

「解った、ちゃんと起きるから……また飯作ってくれ……」

「はぁっ!?」


飯を頼んだだけなのになんでこいつは顔面真っ赤にして杖を構えるのだろうか。


「待て待て待て待て!俺飯作れないんだって!作れるかもしれないけどやった事無い上にこっちの食材とか全然知らないんだよ!」

「はぁ……しょうがないわね。その代わり残したらこの杖の実験台にするから」

「お、おう…。たすかるわー」

「何よ、その棒読み」


どうしよう、俺の嫌いな食べ物とか出てきたら俺死ぬかもしれない。

一つ心配事が減ったと思ったらグレードアップして帰ってきた。

とりあえず、明日を無事に過ごせるかどうかが心配になりつつも、今日はお互い別れて明日に向けて荷物などの準備をする事となった。

元々俺自身、たいした荷物も持ってない(剣と神父からもらった金のみ)上に、買った物の多くはミリアが持っていった(とは言え調理器具などの重い物は俺に押し付けられたが)事で、準備は想像以上に速く終わった。

特にする事もなく、寝坊したら命が危ないので俺はさっさと寝る事にした。

明日からのファンタジーライフに心を躍らせながら。

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