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ファンタジーライフ・アフター・デッド  作者: ゼナード
第一章 転生!始まりの町へ
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第三話 初めての共同作業

「ふあ……、朝か……」


異世界での初めての夜は、思ったほど苦痛ではなかった。

冷暖房の類は見当たらなかったが、気温は寒くも無く暑くもなかった。

絶賛夏真っ盛りで、連日熱帯夜な日本と比べ、なんと過ごしやすい気候か。

ベッドも木製で、大して日本のものと変わらなかった。

しかし、この快適な目覚めの中で、唯一憂鬱になる要素がある。


「朝飯、何食えばいいんだ……」


俺はこの世界での生活など、微塵も知らない。

自宅であれば、食パンを一~二枚、トースターにぶち込んで済ます話だ。

だが生憎、この家にトースターも食パンもない。

キッチンはあったが、冷蔵庫が無く、食材も無い。


「教会にたかりに行くか…」


不遜な事を呟きながら寝室を出ると、空腹には堪える匂いが鼻を刺激した。


「何罰当たりな事言ってんのよ」

「は?」


突然の横からの声に振り向くと、そこには一人の少女が居た。

綺麗に伸びた透き通るような薄い紫色の髪、そしてアルビノを思わせる様な色白な肌に赤い目。

現世では見た事も無い様な美しい容姿の少女に、俺は思わず見とれ…………ない。


「何してんだ、お前」


昨日、あんまりなファーストコンタクトを取ったミリアである。

形容したとおり、性格を除けば大変見目麗しい。

もっとも、性格が全てを台無しにしていると言っても過言ではないが。


「何それ?あんたを心配して朝食作りに来てあげたのに、何してんだですって?」

「え、朝食!?お前が!?」


こんな粗暴な女に料理が出来るとは意外極まりない。

いや、味の方はまだ解らないが。


「何よ、不服なの?」

「い、いや、丁度何食えば良いのか困ってたんだ」

「さっさと食べなさい、残したりしたら承知しないから」


まるでツンデレ幼馴染だが、俺は黙って食卓へと向かった。


「お、おお…」

「何よ?」


見た事の無い素材が使用されては居るが、そこには大変豪華な朝食があった。

……と、いうのを期待したが、何てことは無い、パンとスクランブルエッグ、その他付け合せというなんとも現代チックな朝食が鎮座していた。


「いや、朝食って、世界共通なんだな……」

「何それ?」

「何でもない、いただきます」


いささか期待とは違ったが、空腹も耐え難くなりつつあるのでありがたく頂戴する事にした。

まず最初にパンを一口齧る。

千切って食べろとミリアがお小言を言うが無視。


「これは……、日本のパンと変わらない!」

「日本?」

「ああ、昨日話した俺の住んでた国だよ。けどこれなら普通に食べれるな」

「あんた、もっと落ち着いて食べなさいよ」


そうは言われても、昨日の夜はあれから何も食べてなかったのだ。

溢れ出る食欲が体を突き動かすのはどうしようもない事だ。


「ふぐっ、水!水くれ!」


が、いささかがっつき過ぎた様だ。

ただでさえ寝起きなのに、水分を奪っていくパンを一気食いすれば喉も詰まるというものだ。


「だから言ったじゃない!ほら、牛乳でも飲みなさい」


手早く牛乳をカップに注いでくれるミリア。

それを受け取り一気に飲み干すと、何とか喉の詰まりは収まった。


「いやぁ、助かった。ありがとよ」

「別にあんたの為じゃないわ、こんなくだらない事で死なれたら私が困るのよ」


ここまで絵に描いたようなツンデレ幼馴染だと、尊敬すら感じえる。

こいつ、実は狙ってやってるんだろうか?


「しかし見事な手際の良さだな、ツンデレ幼馴染の鏡だ、誇っていい」

「何かよく解らないけど、それ絶対に褒めてないでしょ」


むう、鋭い。

ツンデレなど通じないとは思っていたが、何となくで褒めてない事を感じ取るとは恐ろしい。


「ふう、食った食った。そういやお前、食わないのか?」

「私は家で食べてきたのよ、何であんたと一緒に食べないといけないの?」


全く、いちいち余計な一言をおまけしてきやがる。

リアルツンデレは需要が無い事を教えてやった方がいいんだろうか。

しかし、こいつの貰い手が居なかろうと知ったことではないので、スルーして話を続ける。


「そうかい。俺はこの後鍛冶屋に寄るけど、お前はどうするんだ?」

「暇だからついて行くわ」

「何も面白い事なんて無いと思うぞ?」


俺は食器を片付けながらミリアとの会話を続ける。

頼んでもいないのに、片付けを手伝いだすミリアに、実は女子力が高いのではと思わずにいられない。

まぁ、性格と言動が見事にゼロを掛けているが。


「自分の家も解らない様な奴、一人で歩かせたらどうなるか解らないでしょ?」

「ほほう?つまり町に慣れてない俺が、迷子にならないよう案内してくれるんだな」

「そんな事一言も言ってないでしょ!?あんた頭おかしいんじゃないの!?」

「照れるな。お前は将来良い(物好きな奴の)お嫁さんになる」

「なっ!?ば、馬鹿じゃないの!!」


うむ、面白い。

だがしかし、からかいすぎて機嫌を損ねては面倒だ。


「片付けありがとな、んじゃ行こうぜ」


適当に労いつつ、話の流れを誤魔化して逃げる。

家を出てもまだブツクサと文句を垂れているが、一切無視。

やるべき事は一つ、剣を鍛冶屋から受け取る事。

神父からパートナーについて聞くつもりだったのだが、昨夜にミリアから粗方聞いたので、その必要は無くなった。


「鍛冶屋に剣を預けてるから、それを取りに行くぞ」

「剣?」

「ああ、アルベールのだが、折れてたから修理を頼んだんだ」

「そう」


興味無さそうに返事をするミリア。

あるいは、何かを考えているのか。

微妙な表情で黙り続けるミリアの横顔をチラチラ見ている内に、市に着いたようだ。

市は町の入り口から広場まで続いている、行商人達の露店だ。

鍛冶屋がこの市を抜けた街の端にある事は、昨日の散策で記憶しておいた。


「そこのお兄さん!武器はどうだい?ほら、この剣なんていかすだろう?」


市を歩いていると色々な行商人に声を掛けられる。

適当に通り過ぎればしつこくは迫ってこないので、特に問題はないが。


「ミリア、ここはいつもこんな感じなのか?」

「そうよ。グリーンフィルは小さな町だけど、行商人達が多く立ち寄る場所なの」

「なんでまた?」

「大陸東部への道で、最後に存在している町がここなの。ここを過ぎればかなりの遠方まで町はどころか、集落すらないわ。だから補給に立ち寄るついでに、ここで商売して行くのよ」

「そうなのか、行商も楽じゃないな」


そんなこんなで話している内に市を抜け、そろそろ鍛冶屋が見えてくる場所まで来ていた。


「それにしても、鍛冶屋に剣が直せたなんて、意外だわ」

「は?鍛冶屋なんだから当たり前だろ?」

「そうでもないわよ」


俺にはミリアの言っている事がよく解らなかった。

鍛冶屋が剣を直せない筈が無い。

ミリアは鍛冶というものを知らないのだろうか。


「おう、アルベールにミリアの譲ちゃんか。丁度いいタイミングだな、打ち終わったぜ」


鍛冶屋の近くまで行くと、鍛冶屋の店主が此方に気づき、近寄ってきた。


「いいか?俺はアルベールじゃないとあれほど…」

「そういやそうだったな、しかしお前さんの名前を聞いてないぞ?」


鍛冶屋の言葉で確かにお互い名乗っていなかったことを思い出す。


「ああ、まだ自己紹介してなかったんだったか。俺は明人、風見明人だ」

「そうか、俺はリックだ、改めてよろしくな」

「あんたら、初対面なの?」


今更の自己紹介に、同行していたミリアが肩を竦めた。


「いや、昨日会ってるが、お互いそれどころじゃなかったんだ。なぁリック?」

「ああ、そうだ」

「まぁいいわ。それより剣はどうなったの?」


何故か自分の事ではないのに、ミリアが突然仕切りだし、特に気にせずリックは店舗の奥から剣を取り出してきた。


「良い感じに直ったと思うぜ、ほら」

「ああ、サンキュ…っておい、何でミリアが受け取ってんだ?」


横から割って入ったミリアがリックの手から剣を奪う。

ミリアはその剣を色々な角度から眺めながら意外そうにつぶやいた。


「へぇ。リックが武器を直せるなんてね」


まだそんな事を言っているのか。

だがリックの方も、胸を張りながら「どうよ」などと返すのみで、特に気にしてなどいなかった。

仕方が無いので俺も気にしない事にして、ミリアから剣を引っ手繰って握ってみた。


「ふむ、悪くないな」

「そうだろう?お代はいらないから、しっかりアルベールの事頼んだぜ」


軽く歯を見せながらサムズアップするリック。さわやか系イケメンでも目指してるのだろうか。


「ああ、任せとけ」

「大丈夫よ、私もついていくから」

「ははっ、ミリアが居れば安心だな!それじゃ、二人とも気をつけてな」

「ああ、またな」


俺とミリアは鍛冶屋を後にし、一旦家へと戻ることにした。

適当に色々な事を話しながら歩き続け、再び市に踏み入れてしばらくしてから、事件は起きた。


「と、盗賊だーっ!」

「おい逃げろ!殺されるぞ!!」


市は一瞬で騒然とし、人々が逃げ惑う。


「おいミリア!」

「ええ、行くわよ」


言わずともミリアは理解してくれたようで、俺とミリアは声の方へと、逃げる人々の逆方向へと走っていく。

そこには武器を携えた男が三人居た。

被害にあっているキャラバンの行商達は逃げ惑い、一際身なりの良いキャラバンの主と思しき人物はしゃがみ込んで頭を抱えたまま震えている。


「俺が時間を稼ぐ、お前の魔法で倒してくれ!」

「解ったわ!」


初めての実戦。

昨夜ミリアが話したとおり、俺が前衛を引き受け、ミリアの魔法詠唱終了まで敵を引き付ける。

言葉にすれば簡単だが、初陣で盗賊三人を同時に相手にするのはかなり無茶だと言えよう。


「なんだ小僧?邪魔する気か?」

「かまわねぇ、こいつも殺っちまえ」

「へへへっ、殺した後で身包み剥いでやるよ!」


盗賊三人は此方に気付き、戦闘態勢に入った。

俺もちらりとミリアを確認し、回収したばかりの剣を構える。

ミリアの詠唱は始まっている、俺はそれの完成まで、何としてでもこいつ等を止めなければならない。


「ふーっ。…………行くぞ!」

「舐めるなよ!小僧がっ!!」


盗賊の一人が斧を振り上げて迫ってくる。

後ろの二人は下衆な笑みを浮かべ、様子を見て楽しんでいる。

チャンスだった。

三人が油断している間に、一人を仕留めれば、枚数の不利を和らげる事が出来る。

二人が加勢する前に、何としてでも戦力を削がねば!


「死ねやぁ!」


盗賊の攻撃は直線的。

斧の縦切りを横にかわし、勢い余って体勢を崩した盗賊の眉間に柄頭による打撃を加える。


「ぐぎゃああ!!」


醜い悲鳴と共に武器を取り落とした盗賊に、空かさず俺は追撃を加える。

仰け反る盗賊の胴を、剣で横薙ぎに斬り付ける。

肉を裂く感触に一瞬嫌悪感を覚えるが、それを剣の振りに合わせる様に振り払う。


「あがっ!!」


盗賊は、胴に深々と刻まれた傷口から、大量の血液を噴出して崩れ落ちる。

辺りに鉄の臭いが充満し、思わず鼻を塞ぎたくなった。


「なっ!?て、てめえ!!」

「くそっ!こんな小僧に!!」


残る二人は、一瞬で仲間が殺された事に怒りを顕にし、一斉に襲い掛かってきた。

ちらりとミリアを見やるが、まだ詠唱は終りそうにない。


「ぶっ殺してやる!!」

「ちっ!」


残る二人も大振りな攻撃で、避けるのは容易いが、二人相手だと中々反撃するタイミングが掴めず、防戦一方とならざるを得ない。


「ちょこまかと…!大人しく死にやがれ!」


盗賊の苛立ちはピークに達してきたらしく、元々大降りだった攻撃が、更に致命的なまでの大降りへと変化していく。


「今だ!!」


俺は一瞬の隙を見逃さずに、剣を振り上げた。

だが、振り抜いた腕に伝わったのは、肉を裂くあの感覚ではなく、僅かな衝撃だった。

バキン、という鈍い音が聞こえていなければ、何だったのかが理解できなかっただろう。


「剣が…、折れた…」

「ふははあっ!これでお前も御終いだな、小僧!」

「内臓を抉り出してやるぜ!」

「くっ、無手と侮るなよ…!」


俺にも多少の格闘術の心得はある。

もし得物を失ったら?という自問の声に突き動かされ、軽く護身術を嗜んだのが吉と出たようだ。

改めて思うと厨二病以外の何物でもないが、今は感謝すら覚える。


「うわっ!?」


腕をつかまれ、そのまま投げ飛ばされた盗賊が情けない声を上げる。


「げぺっ」


続いて醜い悲鳴、これは地面に叩きつけられた事による物だろう。

だが、無手では足止めが精一杯。

そんな時に、騒ぎを聞きつけた盗賊がワラワラと集まってきたではないか。

その数、ざっと15人。

残り一人なら、と思わないでもなかったが、無手でこの数は無謀にも程があった。

どうしたものかと悩んでいると、後ろのミリアが動いた。


「アキト!」


詠唱が終ったのだ。

俺は咄嗟に飛び退き、ミリアはそれを確認してすぐに魔法を放つ。


「――loki(ロキ) elm(エルム) baris(バリス) us(アス)!」


詠唱最後の一節をミリアが唱えた瞬間、空から幾筋もの雷が落ち、盗賊たちの身を焼いた。

直撃を受けた盗賊は、全身から煙を噴出する炭へと成り果てた。


「助かったぜ、ミリア」

「だから言ったでしょ?鍛冶屋で武器は直せないって」

「こういう意味だったのか…。まったく…どうすんだよこれ…」


折れた剣の元へと歩み寄り、その残骸を見やる。

本当に、どうするんだろうな、これは。

俺は折れた剣の残骸を拾い上げ、しばし呆然と見つめる事しか出来なかった。

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