第二十話 泉の激戦
聖堂を発ってから数日。要石を手に入れ聖堂への帰路についている俺達だが、その日程には遅れが生じていた。洞窟から抜け出した直後に全員で寝落ちしたのがその最たる原因だが、それ以外にも要石から僅かに漏れる力に惹かれてきた魔物との戦闘も多く、思う様に歩が進まなかった。
それでも何とか聖堂の近くまでたどり着くと、ある異変に片桐達が気付いた。
「臭うな」
最初にそれを口にしたのは隆だった。葵は無言で頷き、片桐は言葉で返す。
「これは煙の臭いだな」
煙と言えば、聖堂は前に襲われ燃えた部分も多い。とはいえそれは数日前の事、未だに煙の臭いが漂ってくるなどきな臭い事この上ない。
「まさか、聖堂が襲われてるのか?」
俺の言葉に片桐は否定もせずに答えた。
「可能性は高い。折角結界を無力化したんだ、この機を逃したりはしないだろう」
「馬車を速める、しっかり掴まれよ」
片桐の言葉に押されるように、隆が馬の歩を速めた。慣性の法則にしたがい身体が後ろに引っ張られ、かなり速度を上げた事を体感した。俺には臭いなど全く感じられないが、戦いのプロである片桐達が言うなら間違いはないのだろう。
聖堂に残して来たミリア、そしてレオとイシェネが気になり、気が逸る。だがここでどれだけ気を揉んでも何も解決しないと自分に言い聞かせ、装備の点検など今できる事に集中する。
大丈夫、レオも付いているしイシェネも強い。ミリアだって、弱い訳では無い。きっと大丈夫。
そう言い聞かせながらも手に滲む汗は、俺の不安を映しているかの様だった。
「全員掴まれ!前方に敵集団だ!」
聖堂に続く林道を抜け、聖堂のある丘に差し掛かろうという辺りで隆が叫んだ。俺達が対ショック姿勢を整えるのとほぼ同時に馬車は大きくドリフトして停止した。
吹き飛ばされそうになったが、おかげですぐ前方が確認できる。前方には覆いつくさんばかりの魔物が聖堂に向かって進軍していた。更に奥の聖堂では火の手が上がっており、戦端が開かれている事を明確に示していた。
「やはりか」
片桐は予想の的中を酷く忌々しげな顔で受け止める。
「あれはゴブリンにオーガ、それにオークまで居るのか?一体なんなんだ?」
普段なら敵対している魔物達が結託して攻勢を仕掛けている。一目で異常性に気付いた隆はすぐさま悟った。
「ありゃ敵の第何陣かは知らねぇが、聖堂はだいぶまずい事になってんだろうな」
「だろうな、何者かが奴らを指揮して大軍を構成している。厄介だな」
反目し合う種族を統率するとなれば、それなりの力かカリスマの持ち主でなければそうはなるまい。前者ならば単独でも恐るべき脅威であるし、後者であっても下級の魔物が大半を占める軍でも脅威となりえる。
「急いで突破したい所だが、あいつらを如何にかしないと馬車では抜けられんぞ」
「俺がやろう」
憎々しげに語る隆に、俺は力強く頷いて見せた。
「どうする気だ?明人」
「まあ見てろ」
意図を掴みかねている片桐達を置いて俺は馬車を飛び降り、背中のバスタードソードを抜き放つ。波形の刀身が光を浴びて虹色の輝きを返した。
おれはそっと、その刀身に左手を添えてあるイメージを強く抱く。すると見る見るうちに刀身は黄色く染まり、激しいスパークを生じさせる。
「ほう?雷を纏わせたのか」
片桐の感嘆に答えもせず、俺はその剣を上段に構え、一気に振り下ろす。
「うぉらあああ!!消し飛べ雑魚ども!!」
俺の汚い気合の言葉と共に、刀身より放たれた雷はまるでアニメの陽電子砲の様に真っすぐ敵集団に吸い込まれ、大きな穴を穿った。しかもそれだけでなく、直接の被害を免れた敵もまた、雷の側撃を受けて大やけどを負ったり、麻痺して倒れ込んだりしている。
「今だ!行け!」
「おうよ!」
俺の言葉で走り出した馬車の横に飛びつくと、一気に馬車は加速を始めて敵軍に空いた大穴を駆け抜けていく。俺達の進軍に気付く魔物も多いが、伝播した雷の影響で追撃に動ける魔物は殆ど無く、散発的に投槍や矢で攻撃を受ける程度で済む。それも全て片桐が謎の超技術で斬り払ったおかげでダメージは無かった。
「ちっ、もどかしいな」
敵陣を突破して最大速度で駆け抜けているが、如何せん馬車では馬単体よりもかなり遅い。しかも道具だなんだと詰まれているので尚の事だ。こうしている間にも残されたミリア達は戦っているのだろう事は想像に難くない。気持ちと移動速度が釣り合わず、苛立ちだけが募っていく。
「そう急いても仕方ないだろう。これが今のベストだ、着いた時の為に準備を万全にする事こそが大事だ」
「そうだな、さっきの明人の雷みてぇにぶっ飛べるなら話は別だがよ」
片桐に続けた隆の言葉にとある閃きが頭を過った。
「そうか、雷か」
「雷がどうかしたのか?」
不思議そうに尋ねる片桐を他所に、俺の思考はとある一つの仮説に向けて集中していた。
「俺の身体は元はと言えば魔力の塊、魔法とはつまり魔力を変質させる技術…つまり魔法で俺の身体を書き換える事も可能なはず…」
「何?明人、お前さんまさか」
「そのまさかさ!何の確証も無い思い付きだが、魔法はイメージこそ全て。やってみせるさ」
「馬鹿はよせ明人、そう慌てずとも――」
片桐の制止はそこで意識から零れ落ちた。今は俺の身体が雷になるイメージのみに集中する。しかしそれでは多少無理があるので、ゲームに出てくるような雷の精霊をイメージすることにした。身体が青白く薄っすらと発光し、帯電しているのが一目でわかる全身から散発的に発生するスパーク。一筋の雷光を残し、自在に飛び回る雷の精。ファンタジー物ゲームでよく見た精霊の姿を自身に投影し、魔力を解き放つ…のとは少し違ったが、身体を構成する魔力を変質させていく。
「明人…お前さん光って…」
「あ、明人さん?大丈夫なんですか?」
片桐兄妹の心配はもっともだが、俺自身驚くほどに見事な成功だった。身体は見事変質に成功したものの、俺自身には現段階で不具合は無い。
「完璧だ、パーフェクトだ、エクセレントだ!これならいける!一足先にいくぜ!」
俺は言葉も言い切らぬうちに馬車から飛び降り、一筋の光となって戦場を駆けた。いや、突き抜けた。経由した地点では俺が通り過ぎてから雷鳴が鳴り響き、俺自身はすさまじい速さで飛び飛びに目的地へと距離を詰めていく。途中何度か敵集団と遭遇したが、その尽くは俺が通り過ぎるだけで大損害を受けて瓦解する。それでも足りぬ時は手をかざすだけで敵は集団ごと稲妻に焼かれていった。
「待ってろミリア、あと少しだ」
何度目かのジャンプでついに神殿にたどり着く。俺は目的の人物を探すべく、今度は直上に向けてジャンプを繰り返し、辺りを見回した。そして見知った人影を二つ発見し、急いでその場所に向かう。余波に味方を巻き込まぬよう、細心の注意を払って合流するが、目的の人物が一人足りない。
「レオ、イシェネ。ミリアはどうした?」
「む、アキトか?その姿は…と言いたい所だがそれどころでは無いな」
「アキト、落ち着いて聞いて。ミリアは敵に捕まってしまったの」
俺に気付きながらも、歴代王達の召喚術を行使し続けるレオに代わって、イシェネが俺の疑問に答えた。しかしその内容は俺の求めていた回答とは真逆だった。
「馬鹿な!?レオやイシェネが居てどうして?ミリアだってそんなへまをするような奴じゃないだろ!?」
「あの黒騎士よ、あいつが現れてミリアを攫って行った。いきなり目の前に現れて、一瞬でミリアを攫ってまた消えたのよ。どうしようもなかった…」
「あいつが…、あの野郎が…」
「アキト、落ち着いて、今は目の前の敵を――」
「こいつら全員皆殺しにして、今すぐミリアを!!」
黒騎士、奴にミリアを攫われたと知った俺は冷静では無かった。だがそれでもいい。立ち尽くすくらいなら走り続ける。今は一刻も早くこいつらを片付けて、あの黒い奴を追いかけてミリアを助け出さねばならない。
「邪魔だ!!!」
ジャンプの余波で敵を消し飛ばし、残りの敵には掌から雷撃を見舞う。怒りのボルテージとは言うが、言い得て妙な事に怒りが俺の電撃の電圧を上げたのか、威力が上がったそれは消し炭すら残さず敵を蒸発させる。昔中学校でやった水の電気分解、それと同じように、俺の電撃は敵を分子レベルまで破壊しているのだろう。
そんな常軌を逸した戦闘に、味方の聖堂騎士団も呆然と立ち尽くし、敵の魔物達もまた戦意を失って散り散りに敗走していく。
戦闘も一区切りが付こうかという状況になり、残存する敵を雷撃で掃討しつつも、頭にはぼんやりと黒騎士…松本の事が浮かんだ。あの男は俺に因縁があると言った。教会の襲撃は俺とは関係無いが、ミリアの誘拐はその因縁が原因だろう。つまりミリアは俺の生きていた頃の事件に巻き込まれた形だ。前に片桐が葵に対して残る様に告げた事があったが、やはり同じ様にミリアとは俺が身体を手に入れた段階で別れておくべきだった。まさか松本が俺ではなくミリアを狙うなど考えもしなかった。少し思いを至らせればすぐわかりそうな事だったのに。
「ああ、畜生!!」
苛立ちを表すように一際強い雷が掌から放たれる。撤退中だった魔物の混成部隊の一つを直撃し、着弾点のみならず纏めて全てを消し去った。
八つ当たりにも近いその一撃を放ち、呆然と自分自身を自嘲する。
「ハハッ、情けねぇ。魔物相手に苛立ちをぶつけて鬱憤晴らしかよ…」
誰に向けるでもない独り言。しかし目の前に起こる新たな異変に気持ちはすぐさま切り替わった。
茫然と光る魔法陣の様な物が複数地面に浮かび上がり、次いで巨大な魔物と魔導士らしきローブの人影、更には黒と紫に彩られた鎧を纏った騎士達が現れたからだ。
「本命のご登場かい」
この登場の仕方を見るに、ミリアも転移魔法か何かで攫われたのだろう。今の俺のスピードでも、適当に追いすがってどうにかる場所には居ないだろう。
「ならよぉ…憂さ晴らしにちょっと付き合ってもらうぜ、クソ野郎ども」
両手に輝く雷球を召喚すると続け様に投げ付ける。巨大な雷のグレネードとも呼べるそれは魔物の巨体に当って盛大に爆ぜた。漫画や一昔前のアニメだったら骨がすけて見える演出が入ったかもしれないが、巨体は一瞬びくりとしただけでゆっくり移動を始めた。
「嘘だろ…」
攻撃が効かない。それだけでは無い、限界が迫っている。以前の洞窟で魔法の使い過ぎて倒れた感覚に近い、魔力の使い過ぎの症状と思しき不調が身体を蝕んできている。
「まずいな、さっさと決めないと」
焦りを何とか振り払い、魔法がダメならと剣を抜く。帯電した手で掴んだそれはすぐさま雷を宿して薄く光り、スパークを放ち始める。
手こずれば命に係わる。考えるよりも早く光りの速さで巨体の懐に潜り込む、振り抜いた剣は確実に片足を吹き飛ばす――筈だった。
「何ッ!?」
いつの間にか間に割って入っていた騎士に剣を弾かれ、巨体にその刃が届く事は無かった。
この騎士はいつ動いた?俺が雷撃となって駆け抜けた瞬間には居なかった筈だ。だがその原因にもすぐ思い至った。
「クソ魔法使い、テメェか」
奥に隠れている魔法使い。こいつが騎士をテレポートさせたのだ。
しかし詠唱は無かった。数少ない無詠唱使いが相手とは中々骨が折れる。そんな事を考えている間に巨体が再び動き出し、その掌を俺目掛けて振り下ろす。何気ない動作ではあるが、巨体から繰り出されるその動きは、常人なら一撃で葬る力がある事は想像に難くない。だが今の俺は常人とはかけ離れている。
「速度域が違い過ぎるんだよ、デカブツが」
言葉の通り、一瞬で俺はポジションを変えて加害範囲から悠々と逃れる。最優先ターゲットを魔法使いに定め、デカブツを無視して魔法使いの眼前に瞬間移動する。
「邪魔だ」
剣を無造作に袈裟斬りにする。だがまたしても騎士にその剣の軌道を押さえられ、ウィザードはその隙に間合いからテレポートで逃げる。
「邪魔するなよこの野郎、順番に相手してやる」
言いつつ振り抜いた剣を騎士は危なげなく潜り抜け、シャープな動きで俺に反撃の突きを繰り出してくる。結果的に言えばその剣は俺の身体を貫いた。だが相手は知らなかったし、俺も知らなかった事実がある。今の俺の身体に物理攻撃は無意味だったのだ。
「ハハッ、雷の身体も悪くは無いな」
雷の集合体ともいえる今の俺の身体は、貫かれた所で血の一滴すら流れてはいない。それどころか、身体に差し込まれたその剣に通電し、松本の黒鎧に似た衣装のその鎧にまで電撃を運ぶ。超人的な動きを見せてきた騎士がびくりと痙攣する。その隙を見逃さずにボディに左拳を打ち付け、同時に纏っている雷を解放する。一際激しく痙攣するその身体から一歩離れて、すぐさまバスタードソードで斬り捨てる。
雷を纏った剣は、アークを発生させ鎧を見事に溶断する。内側にあった肉体はレーザーで斬られたかのように焦げた断面を残して真っ二つに分かたれた。
「次だ」
今度は阻む者はいない、ウィザードの背後に回り、その身体を騎士と同じように斬り捨てる。だがこちらは先程の手応えとは異なり、空を裂いたような感触だった。仕留めそこなったかと咄嗟に確認すると正体がわかった。ローブに包まれたその身は骨だった。いわゆるスケルトンウィザードだ。
地に転がされた骸骨は未だ目に光を灯し、カタカタと骨の音を響かせながら魔力を励起させている。
「させねぇよ」
剣を使うのも億劫で、足でその頭蓋骨を踏み抜いた。わかった事がこれで一つ。物理的干渉は俺の意志であれば現状の姿でも問題なく行える。そんな事を考えながら背後に意識を向け、最後に残ったデカブツの頭上に一気にワープする。
「あばよ」
いつか見た、アニメの様に頭から股下までを一直線に叩き切る。縦に真っ二つにされた巨体が半分に割れて倒れるのは流石にグロかったが、そんな事は気にしていられない。もう時間がない。
そう意識した瞬間限界が訪れた。
「ぐっ……」
雷に変じていた俺の身体は元に戻り、剣に宿っていた雷は霧散する。俺は立って居られず膝を付く。なんとか剣を杖代わりに倒れ伏す事だけは避けたが、一歩も動けない。それどころか意識が重く、沈んでいくような感覚がした。力を込めて立ち上がろうとしたが、その行為は果たされず、俺の意識は途切れた。
「凄まじいな…」
誰に向けた言葉でもなく、一人呟いた。右往左往するだけの残敵は今も召喚した諸王達が殲滅している。常軌を逸している諸王たちの戦いぶりを見た後ですら、アキトの戦いぶりは一つ飛びぬけていた。
「まさか雷になるなんて」
横で戦うイシェネが手を止めて同じくアキトの方を見ていた。戦いはまだ続いているが、自身の召喚したガンダリアの歴代諸王とその勇士たちの働きで敵の戦線は崩壊しつつある。故に自分とイシェネは小休止が出来ている訳である。
「しかし恐ろしい男よ。僅か数日見ぬ間にあれほどの術を使えるようになるとはな」
「異世界人だから…なのかしら?」
「それもあるだろうが」
しかし、アキトの成長は手放しでは喜べない。今のアキトの術は恐らく魔力でできた自身の身体を逆手に取り、術でもって別の物に変化させる物だろう。魔力で出来た身体という潤沢なリソースがあればこその手段ではあるが、その魔力は元々使うための物では無い。言うなればアキトの血肉その物だ。今のアキトはその血肉を切り崩して戦力に換えているのだ。
「理解しているのか、アキトよ。それは禁術とも呼べる代物だぞ…」
「それはどういう事?レオ」
「あれは自らの命を削っているのだ」
「そんな……」
変異だけならまだいい、だが見ればアキトはその身体から次々と雷撃を放っている。高位の術者ならば周囲の魔力をもとに術を行使する事も可能だが、アキトは明らかにそのレベルでは無い。あの放たれている攻撃は全て、自身の魔力で賄われているはずである。
「すぐに死にはせんだろうが、限界はすぐに訪れるだろうな」
「大丈夫なの?援護に行った方が良いのではない?」
「その通りだな」
見ればアキトは巨大な魔物と騎士、魔法使いの三体と交戦している。諸王の部隊にここの守りを任せ、いざイシェネとアキトの加勢に向かう所で一気に状況が動いた。魔法使いを倒し、すぐさま騎士を、次いで大型の魔物を一刀両断し、アキトの戦いが終息したのだ。
「援護の必要は無かった様ね」
イシェネが軽く肩を竦めながら呟く。だがよく見ればアキトの様子はおかしい。
「いや、すぐ合流するべきだろうな」
「どうして?アキトは…あら?膝を付いて――」
イシェネが言い終わる前にアキトはその場に崩れ落ちる。
「やはりか、限界を超えて戦い過ぎたのだ」
「行って!私も向かいながら援護するわ!」
返事を返す間も惜しく、走り出す。イシェネは矢を弓に番え周囲を警戒している。敵はイシェネに任せて一直線にアキトのもとに駆け付ける。見れば敵の増援が再び迫っている。
「しつこい奴らよ!」
今度は魔物の混成部隊ではなく、人の部隊だった。竜教団とやらであろう事は想像に難くないが、倒れたアキトを背負って離脱するのに障害となる。黒騎士に利用されているだけであれ、今は手心を加えている余裕は無かった。
「爆ぜよ!」
先頭の集団を術でもって爆破させる。通常の部隊であればこれで気勢を削ぐ事ができるのだが、相手はカルト集団、勢いは微塵も落ちはしなかった。
「むう、狂信者とはやはり救いがたい!」
「同感だ、レオネス王」
「む?」
聞き覚えのある声に振り向けば、アキトと共に出払っていたカタギリの姿がそこにあった。
「貴公は…そうか、アキトが居るのであれば貴公らが居ても不思議では無いな」
「案の定明人は無茶をしてその様か。王、手間をかけるが隆と葵が居る馬車までアキトを移送してもらえるか?」
「貴公はどうする?」
問い掛けに対して鯉口を鳴らしながら抜刀し、不敵に笑う片桐。
「移動で疲れてはいるが、戦い続きのレオネス王からすれば疲労など有って無い様な物、ここは任せてもらおう」
「うむ、済まぬが頼むぞ」
「頼まれた!」
そう応えると同時にカタギリは敵の集団に斬りかかる。四倍の集団に囲まれるも一閃で四人を切り捨てる。さすがの敵もその様に尻込みをして突撃の勢いが弱まった。
離脱するなら今が最大の好機だった。カタギリに背は任せ、微動だにしないアキトを抱えて前線から後退する。視界の端ではイシェネもカタギリの援護射撃を始めている。そしてその奥には一台の馬車が止まっていた。
「あれか」
前進に魔力強化を張り巡らせ、一気に加速する。殆ど点だった馬車が物の数秒で目の前に現れた。
「レオネスさんに…明人さん!?大丈夫なんですか!?」
「明人、この馬鹿野郎め。やっぱりこうなったか」
ササキの言い様ではこうなるのを知っている口振りだ。
「アキトがこうなるのは初では無いのか?」
「違うな、前も洞窟で一度こうなったんだ。もっともその時はぶっ倒れてるのを見つけただけだが」
「なるほど。アキトの症状は魔力不足による身体機能の低下だ。アオイよ、何か魔力回復に役立つ薬はないか?」
アオイは慌てて薬入れをひっくり返し、一つの小瓶を掴むとこちらに差し出した。
「魔法薬です。飲めば数分の内に大分魔力は回復する代物ですが…」
「十分だろう、飲ましてやってはくれまいか」
アオイは無言で頷くと馬車に寝かされたアキトの口元に瓶を近づけ、何とか中身を飲み込ませる。それを確認して馬車から降りると、リュウに引き留められた。
「おい、王様。どこに行く」
「カタギリがまだ戦っている。余が休んでいる訳にはいかん」
「平気なのかよ、襲撃からずっと戦ってんだろ?」
「ふっ。余は肉体を持ち合わせておらんからな、疲労とは久しく無縁よ」
「なら任せるぜ。俺はとりあえずこの馬鹿を安全な場所まで引き上げる」
「そちらこそ任せよう。アキトの事頼んだぞ、一応余の恩人故な」
「おうよ」
離れていく馬車を見送り、前線に視線を移す。カタギリとイシェネの働きに加え、諸王の部隊の猛攻に増援も大多数が討ち取られている。聖堂騎士団も善戦はしているが、魔物との戦闘で大きく疲弊している彼らは被害甚大だ。
「もうひと踏ん張り、と言う所だろうな」
独り言ちて、剣を抜く。再び魔力を全身に巡らせ、一気に前線まで駆け上がる。
「我が名はレオネス・デ・ガンダリアなり!括目せよ!我は貴公らの死を体現する物なり!」
適当な口上の後、教団の戦闘員の部隊を丸ごと吹き飛ばす。口上の効果か、先ほどとは違い、一瞬のどよめきの後敵の足が止まった。
「恐れをなした者は逃げるが良い。闘う気概があるものは前に出よ、しかし生きては帰れぬと思え」
ここぞと更に威圧する。何名かが逃げ出し、それを見た狂信者達が恐怖を苛立ちで振り払うかの如く向かってくるが、軽くあしらい切り払う。その様を見て逃げ出すのを躊躇いつつも前には出れなかったどっちつかずな層も大部分が逃げ出し、自身の前の部隊は壊滅した。
「教団とはいえ烏合の衆か」
そこまで傾倒した人間が多くなかったのは救いだった。多くは無理矢理参加させられたり、単に暴れたいだけのならず者なのだろう。見れば各所での戦闘も終息しつつあった。
その後の増援の気配もなく、神殿が再び結界を張った事で戦闘は完全に終結した。実に朝から4時間にも及ぶ戦闘だった。




