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ファンタジーライフ・アフター・デッド  作者: ゼナード
第三章 過去からの災禍
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第十三話 束の間の休暇

明朝、朝食後に宿の一室で休んでいる俺の元に一人の来訪者が来た。

ドアをノックするその音がやや金属質だった事で、すぐに何者かはわかった。


「開いてるぞ、レオ」

「うむ、失礼する」


仕方ないとはいえ、相変わらず全身鎧のままのレオが扉を開けて入ってくる。

わざわざ一人のタイミングで俺を訪ねてきたと言う事は、ミリアには聞かせられない何かでもあるのだろう。俺は早速本題に入った。


「で?わざわざ俺を訪ねてきた理由は?」

「開口一番にそれか、まあ構わんが」


そこで一旦切ったレオは、ソファにゆっくり腰を掛けた。

全身鎧で壊れないのか心配だったが、思ったより大きく体が沈むこともなく杞憂に終わった。


「貴公、先日の黒鎧の男に覚えがあるのか」

「何故そう思う?」

「あの後の様子から、だな」


なるほど、レオは俺が奴の事で悩んでいるのを見抜いていたらしい。


「残念だが答えはノーだな。覚えはない」

「だが、完全にそうとも言い切れない。違うか?」

「よくわかったな。そこだよ、そこで悩んでたんだ」


俺の感じた違和感、それを全てレオに打ち明ける。

内容的には別にミリアに聞かれても困る話ではないが、わざわざ呼びに行く事もない。後で話せばいいだろう。


「とするとだ、もし貴公の直感が正しければ、奴さんは貴公と同じ世界の出身となる訳か」

「まあそうなるな」

「だが素性は解らん…か」

「ああ…」


黙り込む俺とレオ。

レオの表情は解らないが、俺自身は何とも言えない気分のままだ。

しばらくしてレオが立ち上がり、沈黙を破った。


「まあ、気にする必要もないだろう」

「何でそう思う」


俺の疑問にレオは当たり前だろうと言わんばかりに答えた。


「貴公の世界には魔法が無いと言ったな。であればあの力の出所はこちらの世界だ、貴公の世界では無い。奴さんの正体など、どうでもよい」


レオの言は正しい。

正体など知れた所であの魂狩りの力の謎が解ける訳では無い。確かに考えるだけ無駄だった。


「そうだな、その通りだ。ありがとうレオ、あれこれ考えるのはこれで終わりだ」

「礼には及ばん」


レオはそのまま扉に向かって歩いて行き、ノブに手を掛けた。

その時、些細な疑問が俺の頭を過った。


「あれ?そういえばレオ、馬車の見張りは?」

「ああ、あれな。魔法で施錠してある故、余の監視がなくても何も問題はないぞ」

「んじゃ、何で馬車に残ったんだ?」


馬車が無人で問題ないのなら、レオもこちらで宿に泊まっても良い筈だ。


「何を言う、余に寝具は必要無い。必要無い物に金を掛けるのは無駄であろう」

「そ、そうか」

「ではな、また後で会おう」


それだけ言い残すと、レオは部屋を出て行った。今日は一日この街に滞在して休暇の予定なので、レオはレオでどこかで過ごすのだろう。

しかし、王なのにやけにお金にシビアだ。生前は財政をしっかりコントロールし、浪費などしない素晴らしい王だったのだろう。


「家計簿とか、つけてそうだよなあ…」


独り言を呟いた後、自分で実際想像してしまい思わず噴き出してしまった。

その時突然扉が開き、出て行ったはずのレオが戻って来た。

思わず聞かれていたのかと焦ったが、そうではないようだ。


「言い忘れていたがな、折角それなりの規模の街に着いたのだ。予備の武器…できれば短剣辺りを買っておけ」

「予備?なんでだ?」

「貴公の装備では閉所で戦闘できんだろう。それでなくとも不測の事態の為に得物は複数持っておくべきだ」


レオの発言には一理ある。

俺は自分の得物、フランベルジュとして新生したバスタードソードを見る。確かに洞窟等の狭い場所で振るうには大きすぎる。


「そうだな…。折角だし色々見てみるか」

「そうしておけ、では今度こそさらばだ」


再びレオが退出した後、適当に身支度を整えて俺も街へと出た。

そういえば、ミリアは今頃何をしているのだろうか。

何となくだが、街の宿について以降別行動をとっているミリアの事が気になった。




「ぬ、ミリアか」

「あらレオ」


金属音を響かせながら歩く幽霊甲冑、レオと宿の廊下ですれ違った。

聞けばレオはアキトに用があるらしい。


「そう、後でレオに魔法の練習に付き合ってもらおうと思ったのに。残念だわ」

「すまぬな、それはまた今度にしてもらおう」


引き留めても仕方がないのでその場はそのまま別れ、手持無沙汰なまま街へと出る。

こんな大きな街は初めてだった。

故郷の市場も中々の賑わいを見せていたが、これほどの規模ではなかった。


「少し、買い物するのも悪くないわね」


色々あって旅の初めの頃とは違い、今はそれなりに余裕があった。旅立ちの時に買えなかった品物もいくつか、今なら買えるだろう。

さっそく手近な魔法具を取り扱う店から順に市場を見て回った。

高級な杖の店などもあったが、今は新しい杖を所持しているのでそれはパス。次に興味を引かれたのは魔術書の店だ。


「色々あるのね…」


魔術書と一括りに言っても、入門書的な物から応用魔法、果てはレオの操る無詠唱魔法についての風聞を纏めた書まで、実に様々だった。


「お嬢さん、何かお探しかい?」


色々な本に目移りしている所で店員に声を掛けられた。


「特にこれといった物を探してる訳では無いわ。どんな本があるのか気になって」

「ほほう、ならオススメを探してあげよう。お嬢さん、魔法は使えるのかい?」

「勿論、使えるわ。私は魔法使いだし」

「なら、上級者向けの呪文書でもどうかな?」


手渡された魔術書には様々な呪文と効力などが詳しく記載されていた。以前の私なら喜んで購入しただろうが、今の私は無詠唱魔法の習得を目指してるので、呪文書は特に必要に感じ無かった。


「いいえ、要らないわ。私、今は無詠唱魔法を習得しようとしているのよ」

「なんだって?無詠唱か。そうなるとこの辺なんかどうかな?」


次に渡されたのは先程ちらりと見た無詠唱魔法の事を語った本だった。内容としては原理やらトレーニング方法などが書かれていたが、どれもレオから教わったこと以下の内容しか書かれていなかった。


「ダメね。内容が薄すぎるわ」

「手厳しいな、無詠唱は殆ど使い手が居ないせいで中々いい本がないんだよ」

「そう、残念だわ」


本当に残念だ。

できればレオが忙しい時などにも勉強できるように魔術書は欲しかったのだが、有詠唱魔法が広く普及する現代において、行使にすら人を選ぶ無詠唱魔法の知識がこんな所にある筈もなかった。

そう考えればレオの加入を認めたのはやはり良い判断だったのだろう。

失意の中歩み続けると、そんな気持ちも吹き飛ぶような興味深い店を発見した。


「錬金術?面白そうね」


扉をくぐると鳴子が響いて店の奥から店主らしき中々恰幅の良い婦人が現れた。


「あらいらっしゃい、ずいぶん若い錬金術師ね」

「私は錬金術師じゃないわ。というかそもそも錬金術が何かすら知らないもの」

「そうなの、それじゃあ興味があるのね。いいわ、少しどんな物か見せてあげるわ」


そう言って手招きする店主について行くと、小さな釜の前に連れていかれた。


「いい?錬金術というのはいくつかの素材を混ぜて別の物を作ったりする技術なの。そんでこの釜が今回使う道具ね。道具は他にもいくつかあるんだけど、作る物によって使う道具も変わるわ」


説明しつつ店主は手際よく幾つかの草と粉末を釜の中に投入した。


「今いれたのは強壮効果のある薬草数種類と牛の角の粉末ね。この薬草を普通に薬師に持っていけば強壮の薬にしてくれるけど、釜に入れて混ぜるとどうなるかよく見ててね」

「思ったより臭いとかはしないのね」

「中には酷い臭いのする物もあるけれど店の中だからねぇ。臭いのしない物を作ってるのよ」


見れば釜の中の草はすっかり消え失せ、地味な色の草からは想像できない様な美しい藍色の液体になっていた。


「あれ、これってまさか魔法薬?」

「よくわかったね。あんたひょっとして魔法使いかい?」

「ええ、そうよ」

「なら丁度良かったね」


店主は出来あがった魔法薬を薬瓶に入れて封をするとこちらに手渡した。


「これはあげるよ。魔法使いなら有効に使ってくれるだろうしね」

「ありがとう」

「で、どうだい?錬金術を試してみたいと思わないかい?」


強壮の薬草から魔法薬を作るなど、普通の薬師では無理だ。これが他の薬草でもできればそこらで採集した薬草で魔法薬を自前で用意できるのだから魔法使いの私からすればこの上ない助けになる。


「そうね、他の薬草類でも魔法薬は作れるの?」

「勿論さ。色々な材料から色々な物を作れるよ。まああんたがレシピをマスターすれば、の話だけどね」

「それは面白そうね。是非出来るようになりたいわ」

「素晴らしい、それじゃ駆け出しのあんたに相応しい物を見繕ってあげるよ」


用意されたのは錬金術の手引書と基本の道具セット、そして錬金術の要である媒体。

火熾し器具の類は魔法使いだから要らないと用意してもらわなかったが、中々の量だ。


「ざっと4700ゴールドだね」

「そうね、セットで買うのだから少し安くしてもらえない?」

「それもそうだねぇ…。なら4500で」

「もう少しまけてくれたら、これからこの街に寄った際にはここで必ず材料調達するし、外で錬金術について聞かれたらここで教えてもらった事を広めるわ」

「あんた、若いのに交渉上手だねえ。いいわよ、4000にしてあげる」

「ありがとう」


1000ゴールドの包みを4つ、カバンから取り出して手渡し、代わりに錬金術道具を一式カバンに押し込む。その様子を店主は不思議そうに見ていた。


「ああ、このカバン?」

「そうそう、一体どうなってるの?錬金術より不思議じゃないかしら?」

「魔法でできてるらしいわ。王都で流行りらしいわよ」

「あたしもそれ買おうかしらねえ。連勤道具は重くていけないわ」


確かに、普通のカバンだったら一度にこの量を買うのは躊躇っただろう。

店を出ようとした所で、一つ疑問があったので店主に尋ねてみた。


「錬金術の名前について?」

「そう、金が何か関係あるの?」

「あー元はね。金をどうにか屑鉄やら他の何かから作れないかって始まった物らしいのよ、それで錬金術って名前になったとか」

「なるほどね。ありがとう、また来るわ」

「あいよ、若きタマゴ錬金術師のお嬢さん。頑張りな!」


思いもよらぬ出費だったが、将来的な事を考えれば良い投資だったといえるだろう。

後でいくらか薬でも作ってみてアキトを驚かせてやろう。

ふと思ったのがアキトだったのが自分でも腑に落ちず、慌てて頭を振ってアキトの名前を頭から追い出す。しかしその試みは失敗に終わった。


「はぁ。あいつ、今何してるのかしら」


結局アキトの事が気になって空を見上げて立ち止まる。何となく宿の方へ続く道を見てみるが当然アキトは居ない。


「何やってんだろ、私」


馬鹿らしくなり、視線を前方に戻して歩き出そうとした時、目の前に二人の男が立ちはだかった。

鎧や剣を見るに傭兵の様だが、昨日の事を思うと思わず身構える。


「なあ、お嬢ちゃん魔法使いだろ?」

「は?」


突然の予想外の質問に思わず拍子抜けする。


「いやよ、俺ら傭兵なんだけどどっちも魔法使えねぇんだわ。その杖からしてお嬢ちゃん魔法使いだろ?俺らと組まね?」

「そうそう、それにお嬢ちゃんみたいな美人を是非仲間に入れたいと思ってたんだわ」

「どうよ?しっかり前衛として敵から守ってやるぜ?」


一瞬過ったパターンからすれば幾ばくかマシだが、これはこれでとても鬱陶しい。


「冗談じゃないわ、仲間なら間に合ってるの。優秀な剣士二人がね」


二人の間を割って通り抜けようとしたが、腕を掴まれた。


「ちょっと待てよ!適当言ってんだろ!?仲間なんてどこもいねぇじゃん!」

「別行動中なのよ、わかったらその手を放して」

「ならそいつら見捨てて俺らと来いよ、あんた一人にしてどっか行く様な奴らだろ」


鬱陶しい。引き際を弁えない男はこれだから嫌いだ。

ここ数日練習していた無詠唱魔法を放とうと集中しはじめた所で私の腕を掴んでいた男の腕が何者かに剥がされた。

男の腕を締め上げている腕を追うと、その先には良く知った顔があった。


「アキト…」

「しつこい男は嫌われるぞ。たぶんどの世界でも」


アキトは特に興味もなさそうにいつもの調子で茶化すが、男の腕は掴んだまま離さない。

もう一人の男はあっけに取られていたが、気を取り直すと突然現れたアキトに食ってかかる。


「何だお前は!邪魔すんな!」

「邪魔はお前らだ、そいつは俺の連れだ」

「何気取ってやがんだ!」


食ってかかっていた男がアキトの物言いに激昂して拳を振り上げる。その瞬間アキトは掴んでいた腕を放すと、パンチを上体の運動だけで軽く躱し、いつか見せた様に拳の一撃で男を叩きのめす。

腕を掴まれていたもう一人の男も続くように殴りかかるが、今度は腕をもう一度捕まれ、流れる様な動きで投げ飛ばされた。


「やれやれ、どこの世界でもこんな事ってあるんだな」


特に乱れていないのだが、衣服を直しながら呟くアキト。

足元の男たちは完全に気絶していた。


「で、大丈夫か?」


アキトがまっすぐこちらを見据えて声をかけてきたが、私はすぐには答えられなかった。




「丁度良い所に来たじゃない、でも私一人でも何とかなったわよ」


ミリアの発言は強気だったが、声は上ずっていて強がりなのがすぐにわかった。

ただまあ、いつもの事を思えば、ミリアの言も嘘では無いだろう。


「知ってるよ、お前の雷撃をいつも食らってるんだから」

「そう、それは良かったわ」


強気な姿勢を崩さないミリアだが、よく見れば緊張が解けたせいか少し震えている。

ミリアは死ぬほど嫌がるだろうが、少し可愛く思えてつい頭を撫でてしまった。


「ちょ、あんた何してんのよ!」


当然ながらすぐに手は払いのけられた。


「いやぁ、まあ、ついな」

「ついで人の頭撫でないでくれるかしら?」


滅茶苦茶怒っているミリアだったが、見れば震えは収まった様だ。

まあ、プライドが高いミリアだから、それを指摘したりするとこれまた怒るだろうし、あえて何も触れない事にするが。


「悪い悪い、気を付ける」

「いいわ、許す。それで、あんた何処から現れたのよ?」

「ん、あそこの武器屋。つか気付いてたんじゃないのか、こっちの方見てたろ」


何故か俺の言葉に顔を赤くしだすミリア。顔を背ける様に背を向けて歩き出す。


「別に!何となくどんな店があるか見てただけよ!」

「そ、そうか」


何故か語気を荒げるミリアに気圧されるが、とりあえずミリアの後をついて行く。


「なんでついてくるのよ」

「俺も買い物中なんでね、またさっきみたいのになっても面倒だろ?俺も一緒に行くよ」

「いいわよ、要らないわよ」


まったく、こういう所でも無駄にプライドが高いというか、頼りたがらないのは悪い所だと俺は思うのだが、ミリアが断り難い様に言いなおす。


「言い方が悪かったな、ミリアと一緒に買い物がしたいんだ。折角こうして市場であったしな」

「なっ」


案の定驚いた様子でこちらを見るミリア。扱いに慣れれば中々に御しやすい。次に続く言葉は間違いなく仕方ないという妥協の言葉だろう。

絡まれて震えている様だから、ミリアも内心ついてきて欲しい筈だが、普段の態度的にそうは頼めないのだろう。難儀な事だ。


「仕方ないわね。その代りしっかりついて来なさいよ」

「あいよ」


予想通りで顔がにやけそうになるが、表情筋に集中して何とか堪える。

ツンデレ乙とかチョロインだなとか色々思う所はあるが、これ以上考えると表情が決壊しそうなので話題を変える。


「ミリアは何を買ってたんだ?」

「レオに振られたから適当にうろついてただけよ」

「そうか」


と、俺が返した瞬間に何かを思い出したかのようにすごい勢いでこちらを睨みつけるミリア。


「そうよレオよ!あんたレオと何かしてたんじゃないの?」

「え?いや少し話に来たくらいだが」

「何の話よ」


なんでこう突っかかるのかは概ね理解したが、理不尽さを感じつつも良い機会だと思い答える。


「たいした話じゃ無いが、俺と昨日の黒騎士の関係についてだな」

「どういうこと?」

「奴は俺の知り合いかって話をな、レオが。かもしれないと言う話はしたが」

「あんたアイツを知ってるの?」

「個人レベルで知ってるかはわからないな」


俺はレオに話した内容をミリアにも告げる。


「つっかえないわね」


だが反応は実にミリアらしく、レオとは雲泥の差だった。


「敵の素性がわからないのと同じじゃない」

「だからたいした話じゃ無いと言っただろ」

「はあ、そんな話で私の予定は潰れたのね…」

「何の話だよ…」


深く溜息をつくミリアだが、俺にはまるで心辺りが無かった。掘り下げても地雷しか出てこなそうなのでそれ以上は詮索せずに話を変える。


「この後どこか寄るのか?」

「特に用事はないわ、あんたは良いの?」

「ああ、この装備を買っただけだからな」


左腰に刃渡り30cm程の短剣と、右太ももに刃渡り15cm程度のナイフ、更には取り出しやすい位置に複数装備されているそれよりも小型な投げナイフを見せる。


「なんか、無粋ね」

「失礼だな、これでも考えて選んだんだぞ」

「ならそんなに投げナイフが必要な訳?」

「備え有れば憂い無しだ」

「何よそれ」

「ことわざだよ」

「知らないわね」


やはりことわざ等の言い回し等は通じないらしい。まあ会話には困らないが。


「それより、防具は良いの?」

「あー、それなあ」


俺の周りを一周するミリア。その視線を追う様に俺も自分の身体を改めて見てみる。

真新しい武器がそこかしこに装備された体には、それなりにボロボロになった簡単な革鎧があるのみ。正直防御力としては心もとない。


「俺も考えたんだよな…、魔物相手なら膂力の問題でフルプレなんて無為だが、厄介な奴に目を付けられて対人も想定しなきゃならない今、少しでも刀剣類に対する防御は欲しいなと」

「あんた、そういうの語る時って楽しそうよね」

「そうか?んー…そうかもな」


確かに改めて指摘されるとゲームの装備編成みたいで楽しいかもしれない。


「ならこうしたら?ベースは今のまま革で、その下にチェインメイルを着て防御力を上げつつ、腕や足なんかの要所は金属製のプロテクターで保護するの」

「おっ、それ良いな」

「決まりね、なら私も手伝ってあげる。行きましょ」


なんだか突然やる気になったミリアについて行く形で防具屋へ。

ミリアは俺よりノリノリで防具をかき集めて俺にフィッティングしてくる。

チェインメイルは下に着るだけなのであっという間に決まったが、他の鎧のパーツが難航してミリアと二人で次々に新しい防具を試すのだが、あまりの勢いに店員も介入して来ない。


「ね?これどう?」

「いや、動きづらいだろ」

「そう?じゃあこれは?」

「何だお前突然、やけに協力的っていうか、なんか怖いぞ」

「怖いって何よ。失礼ね」


普段なら平手打ちの一つでも貰う所だったろうが、一言文句を言うだけですぐさま防具を戻し、ついでに別の防具を漁りに行ってしまうミリア。

本当に正直怖い。何か裏がある気がしてならない。


「さあ次はこれよ!」

「ああ、これは良さそうだな」


ミリアが持って来た革鎧は今まで付けていた簡素な物とは違い、しっかり上半身全体を保護する物だったが、関節部分には刃が通り難い布を用いて動きやすさも兼ねた品だった。

試しに袖を通すが思ったより重くない、と言うより何故か今着けている革鎧よりは断然軽い。


「良いんじゃないか、これにしよう」

「決まりね。ならガントレットはこっちで良いんじゃない?」

「ああ、丁度良いな。重ねても違和感がない」


メインの革鎧が決まった事で他も次々に決まって行った。

下は動きやすさ重視で、大腿部と脛の部分に革が重ねられたズボンに、膝当てを追加する事で決まった。ブーツは所謂安全靴の様に金属のプロテクターが入っている。

全ての装備が決まった所で店員を呼び、金額を計算してもらう。

手渡されたボードに書かれた金額を見て思わずため息が出た。


「はあ、いやあ、結構いい値段するな…」

「いくら?あら、8860ゴールドって結構行ったわね」

「まあ、この間の稼ぎとか色々あるから余裕だけどな」

「ちょっと貸して」


ミリアが俺の手からボードをひったくり、店員と何やら話だした。

何事かと近くで聞き耳を立てるとどうやら値切っているらしい。

よくやるなあ、と感心していると勝ち誇った顔でミリアがこちらに戻って来た。


「6000ゴールドで良いそうよ」

「うわぁ、結構ガッツリやったな…。別に値切らなくても足りるってのに」

「何言ってるのよ、商売なんて値切って当たり前よ。言い値で買うのはただの間抜けよ」

「マジか、大阪みたいだな」

「なによその、オオサカって」

「俺の住んでた国の都市だよ」

「そう、ならそこの人たちは賢いのね」

「変わらねぇよ」


珍しくミリアと軽口を交わしながら代金を支払う。

買った鎧はそのまま身に着け、古い物は引き取ってもらった。どうやら古い装備一式の下取りで6000までまけて貰ったらしい。

旅立ちの日に買った物で、そこまで長く愛用していた訳では無いが、今まで身体を守っていてくれた物との別れは少しだけ後ろ髪を引かれる思いではあったが、持って居ても仕方ないのでここは割り切ろう。


「さてと、買い物も終わったし、飯でも食うか?」

「いいわね、どうせ明日にはまた出発だし、たまには凝った物を食べたいわ」


特に反対もされず、ミリアと二人で飯を食う事になった。

適当に空いている店に入り、席に着く。

そこで店員はとんでもない勘違いをしてくれた。


「カップルの方ですか?現在当店ではカップル限定でお得なセットメニューを――」

「いや、ちがう。断じて違う。カップルなどではない」

「そうね、カップルじゃないわ」


俺とミリアの間髪入れない否定に店員は目を丸くしたが、懲りずに続けた。


「勿体ないですね、とてもお似合いだと思いますよ」


まだ言うか。とも思ったがあえて流す。

が、ミリアはそうしなかった。


「あまり変な事言うと店変えるわよ」


いくらなんでも喧嘩腰すぎると思うのだが…。


「失礼しました、では注文が決まったら呼んでくださいね」


店員が悪びれもせず去って行き、俺はそっとメニューに視線を落として何にするか選んでいると目の前のミリアが小声でブツブツと何かを言っていた。


「…………じゃない…」

「何ブツブツ言ってんだ?」

「何でもないわよ」

「そうか」


なんだかお決まりのパターンのような気もするが、実際間髪入れずに否定されると悲しい物だ。自分も否定した癖に勝手だなとは思うが。


この後、適当に注文した料理を二人で平らげて宿で解散し、特にする事も無く今日一日は終わった。

ちょっとだけ、新しくなった装備を改めて整理しているとワクワクしたというのは内緒にしておこう。まるで子供みたいだし。


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